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パラノイズ〜人生の選択〜  作者: ムーンキャット


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23/38

第23話 違和感の正体

「……翔?」

クローゼットの奥から離れた瞬間、

部屋は何事もなかったかのように静まり返っていた。

装置の光も、

あの耳鳴りも、

最初から存在しなかったかのように。

「どうしたの? 今、誰かと話してた?」

綾華は首をかしげ、翔の顔を覗き込む。

その距離が、やけに近く感じた。

「……いや、独り言」

そう答えた瞬間、

自分でも分かるほど声が不自然に乾いていた。

「独り言、にしては……」

言いかけて、綾華は言葉を飲み込む。

代わりに、翔の額に手を伸ばした。

「……熱、ない?」

「大丈夫だって」

そう言いながら、

胸の奥がじわりと焼けるように痛む。

大丈夫じゃない。

自分が一番、分かっている。

最近、少し動くだけで息が上がる。

朝起きると、体が鉛みたいに重い。

それでも――

(まだ言えない)

綾華の顔を見るたび、

言葉が喉で凍りつく。

「……翔さ」

綾華は一瞬だけ迷うように視線を落とし、

それから静かに言った。

「最近、ちょっと変だよ」

翔の指先が、わずかに震えた。

「ぼーっとしてるし、

 夜中に起きてるし、

 たまに……誰かに呼ばれたみたいな顔する」

図星だった。

「心配、しすぎだって」

無理に笑うと、

綾華はそれ以上踏み込まなかった。

「……そうならいいけど」

その言葉が、妙に胸に残った。

その夜。

ベッドに入っても、翔は眠れなかった。

天井を見つめながら、

あの言葉が頭の中で反芻される。

――差し出せばいい。

――命の代わりになるものを。

「……ふざけんな」

誰に向けた言葉かも分からないまま、

小さく呟いた。

その瞬間だった。

――ザザ……ッ

耳の奥で、微かなノイズ。

(来るな……)

そう願ったはずなのに、

心のどこかで“待っている自分”がいるのが分かった。

視界の端が、白く歪む。

『……理解が、早くなったな』

声は、前より近い。

「……お前、見てるだろ」

『当然だ。

 お前の“選択”は、観測対象だ』

布団の中で、翔は歯を食いしばる。

「……綾華には関係ない」

『本当に、そうか?』

その一言で、胸が強く脈打った。

『いずれ気づく。

 隠し続けることはできない』

ノイズが徐々に強くなる。

『時間は、もう多くない』

「……待て」

『次は、具体的な話をしよう』

そう告げると同時に、

通信は唐突に途切れた。

静寂。

だが今度は、

その静けさが異様に重く感じられた。

翔は天井を見つめたまま、

ゆっくりと息を吐いた。

(逃げ道は……本当に、あるのか)

その答えは、

次に“差し出すもの”を選ぶ時にしか、分からない。


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