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パラノイズ〜人生の選択〜  作者: ムーンキャット


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第20話 知ってしまった時間

その朝、翔は目を覚ました瞬間に分かった。

――これは、昨日までとは違う。

身体が、鉛のように重い。

起き上がろうとしても、腹の奥が軋む。

「……っ」

喉に込み上げるものを抑えきれず、

翔は慌てて洗面所へ駆け込んだ。

次の瞬間。

白い陶器に、

鮮やかな赤が広がった。

「……」

一度では終わらなかった。

二度、三度。

手が震える。

(……ダメだ)

鏡に映った自分の顔は、

明らかに血の気が引いていた。

その日、翔は綾華に嘘をついた。

「編集と打ち合わせ、昼からな」

「体調、大丈夫?」

「平気平気。すぐ戻るよ」

そう言って、家を出た。

――一人で、病院へ向かった。

待合室は、やけに静かだった。

番号を呼ばれ、

検査を受け、

さらに検査を重ねる。

医師の表情が、

少しずつ変わっていくのを、

翔は見逃さなかった。

「……少し、お時間いいですか」

診察室のドアが閉まる。

机を挟んで座った医師は、

カルテを見つめたまま、しばらく黙っていた。

「病名は……あります」

その一言で、

胸が締め付けられる。

「ただ――」

医師は言葉を選ぶように、続けた。

「進行が、異常に早い」

「通常なら、ここまで来るのに

 数年はかかります」

翔の耳鳴りが強くなる。

「……どれくらい、なんですか」

自分の声が、他人のものみたいだった。

医師は、ゆっくりと顔を上げる。

「……一年」

一瞬、意味が分からなかった。

「治療をしても、ですか」

「……厳しいです」

診察室の空気が、重く沈んだ。

「どうして……こんなに」

医師は、首を横に振った。

「分かりません」

「原因も、進行の理由も」

「正直に言って、説明がつかない」

その言葉が、

胸に深く突き刺さる。

(……説明が、つかない)

病院を出た時、

空はやけに青かった。

人は歩き、

車は走り、

世界は何一つ変わっていない。

(……俺だけだ)

スマホが震える。

〈綾華〉

「打ち合わせどう?」

翔は、しばらく画面を見つめてから、

短く返信した。

「順調」

その文字を打ち終えた瞬間、

足から力が抜けた。

(……一年)

(俺は、あと一年)

頭の奥で、

ノイズのような音が、微かに鳴り始めていた。

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