第14話 たった十秒
強い願い。
宇宙人の言葉が、
何度も頭の中で反響していた。
翔は、目を閉じた。
——思い出すな。
——考えるな。
そうやって、
何年も避けてきた過去。
だが今は、
逃げ場がなかった。
「……あの日か」
高校二年の春。
修学旅行。
朝の空気は澄んでいて、
眠気と浮ついた声がバスの中に満ちていた。
翔は、窓際の席。
隣には、親友。
少し前の席には、
好きだったあの子が座っていた。
——たった、それだけの光景。
次に思い出すのは、
音だ。
鈍く、重い衝撃音。
横から。
信号を無視したトラックが、
バスの側面に突っ込んできた。
「……っ!」
ブレーキの悲鳴。
ガラスの割れる音。
悲鳴。
時間の感覚が、壊れる。
横転。
衝撃。
暗転。
目を覚ました時、
翔は道路に転がっていた。
自分の血か、
誰かの血かも分からない赤。
——死者、十八人。
先生を含めて、
クラスの半分以上。
——生存者、五人。
翔も、その中に含まれていた。
「……なんで、俺だけ」
何度も、何度も、
そう思った。
後から知った事実が、
さらに翔を追い詰めた。
事故現場の信号。
ほんの少しだけ、
発車が遅れていれば。
「……十秒」
翔は、呟いた。
たった十秒。
靴紐を結び直す時間。
忘れ物に気づく時間。
誰かがトイレに行く時間。
「……それだけで」
事故は、起きなかった。
誰も、死ななかった。
翔は、目を開けた。
息が、浅い。
胸が、苦しい。
「……変えたい」
これは、
小金持ちになるためじゃない。
夢のためでもない。
「……絶対に」
強く、
心の底から、そう思った瞬間。
——ザッ。
視界の端で、
ノイズが“静かに”揺れた。
いつもより、
明らかに少ない。
翔は、
ゆっくりと引き出しを開けた。
そこにある装置を見つめる。
「……十秒でいい」
声は、震えていなかった。
「十秒、遅らせるだけでいい」
それだけで、
十八人は生きる。
それだけで、
世界は変わる。
装置に、
手を伸ばす。
——これが、
本当に変えたい過去。
ノイズが、
まるで応えるように、
静かに収束していった。




