第11話 描き続ける代償
それからの翔の生活は、単純だった。
バイト。
帰宅。
描く。
それだけ。
コンビニのレジに立ちながらも、
頭の中では構図を考えている。
夜の街灯の光の当たり方。
影の伸び方。
人の距離感。
「ありがとうございましたー」
釣り銭を渡しながら、
ふと、軽いめまいを感じた。
「……?」
一瞬、視界が暗くなる。
だが、すぐに戻った。
寝不足だろ。
翔はそう結論づけた。
家に帰ると、すぐにペンを取る。
完成させた絵を並べ、
どれが一番マシかを考える。
「……悪くない」
少なくとも、
昔よりは確実に描けている。
だが——。
描いている最中、
妙な違和感が増えていった。
集中しているはずなのに、
急に手が止まる。
「あれ……何描こうとしてたっけ」
数秒前に考えていた構図が、
ふっと抜け落ちる。
疲れているだけ。
そう思い、首を振る。
ある夜、
ペンを置いた瞬間、
胸の奥が、ずきりと痛んだ。
「……っ」
一瞬だけ。
だが、確実に。
深呼吸をして、やり過ごす。
痛みは、すぐに消えた。
それでも、
胸に残る不安は消えない。
——寿命を削る。
宇宙人の言葉が、
嫌でも頭をよぎる。
「……使わなきゃ、何も起きねぇだろ」
机の引き出しを見ないようにして、
翔はスケッチブックに視線を戻した。
描く。
今は、それだけでいい。
だが数日後、
異変ははっきりした形で現れた。
朝、目覚ましより先に目が覚める。
体が、異様に重い。
「……寝たよな?」
時計を見る。
確かに、六時間は寝ている。
それなのに、
まるで徹夜明けのようだった。
コンビニへの道。
ふと、前を歩くカップルが目に入る。
——あの二人だ。
ベンチのカップル。
今日は、歩いている。
一瞬、
「昨日も見たっけ?」
そんな考えが浮かんで、
翔は眉をひそめた。
「……いや、違う」
違和感だけが残る。
その夜、
翔は装置を引き出しから取り出していた。
触らないと決めていたはずなのに。
「……少しだけだ」
言い訳は、
もう自然に出てきた。
「確認するだけ」
調整ダイヤルに指をかける。
過去か。
未来か。
迷いが、指を止める。
その時、
装置が——勝手に、微かに振動した。
「……え?」
翔は、息を呑んだ。
低いノイズ音。
ほんの一瞬、
視界の端が、ざらついた。
装置は、
確かに“起動しようとしていた”。
「……おい」
誰も触っていない。
なのに。
翔は装置を握りしめ、
喉を鳴らした。
——逃げられない。
理由は分からない。
だが、
そんな感覚だけが、はっきりとあった。




