二十話 一番近くにいるキミと②
主な登場人物紹介
田中彩乃
二十四歳。主人公。庶務部。優しくてお人好し。過去のトラウマから恋愛には奥手。
鈴木颯太
二十四歳。彩乃の同期で営業部所属。仕事の出来るイケメン。彩乃の隣の部屋に住んでいる。彼女の浮気が原因で別れているところを彩乃に目撃される。
佐藤優真
二十四歳。綾乃の高校からの親友。なんでも話せて、頼りにしている存在。穏やかで誰に対しても優しい。職場は別。
山本莉子
二十ニ歳。イケメン好きな彩乃の後輩社員。庶務部。小柄で美人。
午後は、ソファで二人並んで、気になっていた映画を見ることにした。
私が何気なくソファに置かれていたクッションを抱えていると、颯太が少しだけ拗ねた様な表情でこちらを見ているのに気がついた。
隣からの視線が凄くて、映画の内容よりも隣の存在が気になって仕方なくなってしまって聡太の方を見た。
「颯太、えっと……、どうしたの?」
「……そのクッション役さ、俺じゃだめ?」
ちょっとむすっとした感じで颯太がそんなことを言ってくる。
「……だ、だめじゃないよ」
破壊力抜群の言葉と態度に、たじたじになりつつも、なんとかそう返した。
今日は朝から、彼の知らなかった一面にキュンキュンさせられっぱなしだ。
颯太が可愛すぎてどうしよう……、と思っていたら、気づいた時には引き寄せられていた。
「彩乃」
「うん」
名前を呼ばれて、顔を上げた瞬間、颯太の手が、私の頬に伸びてきた。
指先が、恐る恐る触れて、逃げ場を探す暇もなく、視線が絡む。
「……可愛い」
甘く囁くような低い声。
恥ずかしくて、何も言えずにいると、颯太は小さく息を吐いて、私の身体をさらに引き寄せた。
包むみたいに、優しく抱きしめられる。
胸に顔を埋めると、颯太の鼓動が伝わってきて安心してしまう自分がいた。
そっと、私の頬に颯太の手が触れて、顔を上に向けられる。
心臓の音がさっきよりもずっと激しい。
熱を帯びた颯太の瞳と視線がかち合って、そのまま、唇が触れた。
優しいキスに、胸がじんわりと熱くなる。
「……彩乃、好きだよ」
「……私も、好き」
そう返すと同時に、ちゅ、ちゅ、と啄む様なキスが降ってくる。
唇が触れあうたびに、緊張よりも気持ち良さが強くなっていって、なんだか脳がくらくらしてきた。
すると、私の身体を支えるように颯太の手が私の背中へまわってきて、私もそっと彼の背中に腕を回した。
ぎゅう、と抱きしめあうと、優しく幸せな心地に、身体全体が包まれた。
颯太の胸の鼓動と、私の心臓の音が耳の中に響いて、どっちのものなのか分からなくなる。
映画の音だけが場違いみたいに流れていて、それが少し可笑しくて、私は、そっと顔を上げた。
「……もう映画、見てないよね」
「うん、そうだね」
視線が合って、どちらからともなく、くすっと笑う。
「……映画、今度にしよっか」
そう言って、私はリモコンに手を伸ばした。
カチ、と小さな音を立てて、画面が暗くなる。
すると、一気に、静寂が訪れた。
「……颯太」
「……ん?」
私は自分から颯太の服の裾を掴んだ。
「……続き、ベッド行こ?」
「……え、」
颯太は目を見開いて、驚いた顔をした。
「……いいの?」
「うん。颯太となら、先に進みたいって思ったから……」
そう言ったと同時に、幸せそうに微笑む颯太に横抱きにされていた。
そして、そのまま寝室へ運ばれた。
ベッドの縁に腰を下ろして、見つめ合う。
今度は私の方から腕を伸ばして、ぎゅっと抱きついた。颯太が抱きしめ返してくれる。
「幸せだなぁ……」
「俺も、幸せ」
そのまま、ベッドに倒れ込む。
体が重なって、温度が混ざって、もう、恥ずかしさよりも、嬉しさの方が大きかった。
……ああ、私、本当に幸せだ。
そう思いながら、もう一度、颯太の背中を抱きしめた。
*
ふと、目を覚ました時には外はもう暗くなっていた。
どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
部屋は暗くて、静かで、そして隣には、同じく寝息を立てている颯太がいた。
それを見た瞬間、胸がいっぱいになった。
小さく身動ぎすると、颯太もゆっくりも目を開けた。
「……ん?」
「あ、ごめんなさい、起こしちゃった?」
「ううん。俺もちょうど目、覚めたところだよ」
そう言われて、ほっとした瞬間、私のお腹が、くぅと小さく鳴った。
恥ずかしくて真っ赤に頬を染めると、颯太にくすくすと笑われた。
「恥ずかしいから笑わないで……」
そう言うと、彼は優しく微笑みながら私の頬に触れて言った。
「ごめんごめん。彩乃が可愛くて、つい。……お腹空いたよね。何か食べよっか」
「もう……」
だけどなんだか私も笑えてきてしまって。
「……何、食べる?」
少し考えて、思いついたものは。
「「味玉チャーシュー麺」」
二人同時にそう言って、一瞬の沈黙のあと、顔を見合わせてクスッと笑った。
*
並んで向かった夜中のラーメン屋。
カウンターに二人並んで、席に着いて、頼んだメニューは、もちろんあの日と同じもの。
「あの日、彩乃が誘ってくれたから今があるんだよな。……本当にありがとうね」
「ううん、こちらこそ、ありがとう。あの時勇気を出して誘って、本当に良かった」
そう言いながらラーメンを啜る。穏やかで、とても幸せな時間。
一番近くにいるキミと、同じものを食べて、同じことを思って笑える今が、何より大切だと思った。
これからもずっと、こうして二人で過ごしていけたらいいなって、それを叶えていきたいなって、心からそう思った。




