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一番近くにいるキミは  作者: 陽ノ下 咲


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第二話 高校からの親友の優真くん

 鈴木さんとラーメンを食べに行った次の日の日曜日。

 その日は、高校時代からの親友、佐藤(さとう)優真(ゆうま)くんと出かける約束をしていた。


 平日は仕事で精一杯だから、こうして予定を入れた休日は、それだけで少し心が弾む。



 しかも、相手が優真くんならなおさらだ。



 優真くんとは高校二年生の時に同じクラスになって、校外学習で同じ班になったことがきっかけで仲良くなった。

 誰に対しても優しくて親切で、ほんわかとした空気をまとっている人。

 話していると自然と肩の力が抜けて、気づいたら笑っている。


 高校卒業後の進路先は、学部は違うけれど同じ総合大学を志望していた。三年で進路の話をした時にそのことを知った時はすごく嬉しかった。

 お互い、勉強を頑張るモチベーションにも繋がった。


 どちらも無事に合格して入学してからは、登下校の時間が重なる日は一緒に通った。家から電車通学で通える距離にある大学だったから、最寄り駅まで一緒で、自然と話す時間が増えた。

 学部共通の一般教養の講義が被った時は並んで受けたし、昼休みには、自然と一緒にご飯を食べることも多かった。


 そんなふうに、優真くんはいつの間にか、隣にいる事が当たり前の存在になっていた。



 そして優真くんは、私が高校の頃からずっと付き合っていた彼氏に、大学になってから浮気されて別れた時も、ずっと隣に居てくれた。



 元カレとは大学が別になって少しずつ距離を置かれる様になっていった。そしてそのまま、浮気をされていた。

 しかも、彼の大学近くの一人暮らしのアパートに行った時に浮気現場を目撃してしまうという、最悪の形での別れ方だった。



 あの時は、本当に、本当に辛かった。


 私は大学が離れて疎遠になっていっている時も、変わらず彼のことが好きだった。

 だから浮気されて振られたというのに、忘れようとしても忘れることができなくて、彼のことを思い出しては、涙が溢れてきてしまった。



 そんな私に、優真くんは無理に言葉をかける様なことはしなかった。


 ただ、そっと隣にいて、話したい時は聞いてくれて、黙っていたい時は何も言わずに一緒にいてくれた。



 振り返ってみても、あの時間にどれだけ私の心が救われていたのか計り知れない。



 今はもう、元カレのことは完全に吹っ切れている。

 そう思えるようになったのは、間違いなく優真くんの存在が大きかった。



 社会人になってからも、私たちの関係は変わらない。

 どちらからともなく連絡を取り合って、会ったら、仕事の愚痴とか、社会人になって始めた一人暮らしの大変さとか、最近あったちょっとした出来事なんかの他愛もない話をする。

 


 元カレとの一件があってから、私は恋愛をすること自体が怖くなっていた。


 だからこそ、無理に踏み込みすぎず、安心できる距離で変わらず側にいてくれる優真くんの存在は、私にとってとても特別なものだった。



 本当に大切な親友だと、そう思っている。



ーーー



 優真くんとの待ち合わせ時間の十分前に『着いたよ』と連絡が来て、準備はできていたから『ありがとう。すぐ行くね』と返して外に出た。


 優馬くんはマンションの前に車をつけて運転席に座ったまま、待ってくれていた。

 私に気づくと、窓を少し下ろして、優しい笑顔で軽く手を上げた。

 


「おはよう」

「おはよう。車出してくれてありがとね」

「ううん、全然。じゃあ早速行こうか。どうぞ、乗って」

「うん、お邪魔します」



 そのやり取りだけで、胸の奥がふっと緩む。

 変わらない安心感に、思わずほっとした。


 助手席に乗ってシートベルトを締める。

 車が動き出して、運転席の横顔を見ながら、なんとなく口を開いた。



「やっぱ車いいなぁ。私も買おうかな」

「うん、やっぱ便利だよ。車通勤だと楽だし」

「あ、でもうち、車通勤は認められてないや」

「そうなんだ」

「内緒でパーキング借りてる人もいるって言ってた」

「あはは。まあ、そうなるよね」



 少し考えるようにしてから、優真くんが言う。



「でも、今日みたいにどっか行きたい時とかなら、いつでも車出すから。今後も気にせず呼んでね」

「ふふ、うん、ありがとう。とっても頼りにしてる」

「うん、任せて」



 その一言に、胸がじんわり温かくなる。


 それから世間話の流れで、隣の部屋に住んでる鈴木さんがまさかの同じ会社の同僚で、成り行きで一緒にラーメンを食べに行った話をした。


 ……流石に、浮気されて別れてた現場にたまたま居合わせてしまったとか、そういうデリケートな部分は伏せたけれど。



「……ふーん。そんなことあるんだね」



 相槌を打った優真くんの声が、普段より少し冷めた調子の声で、そのトーンに、え?と少し驚いてしまった。



「彩乃、今度、俺ともそこのラーメン食べに行こうね」

「あ、うん。あそこのチャーシュー麺、美味しかったよ」

「そっか。チャーシュー麺美味しいよね」



 そう言った時にはもう、普段の優真くんで。



 信号待ちのタイミングで、片手をハンドルから外して、いつもの様に優しい手つきでぽんぽんと頭を撫でられた。

 さっきのは私の気のせいかな?と思いつつ、彼の、優しい雰囲気と笑顔に、ほっとした。


ーーー



 ショッピングモールについて、優真くんは自然に私の隣を歩いた。

 いつも一緒に歩く時は、距離が近すぎるわけでも、遠すぎるわけでもない、ちょうどいい距離感で歩いてる。



「これ、仕事用なら良さそうじゃない?」



 優真くんが手に取ったブラウスを、私の肩に当てながら言う。



「これ、絶対似合う」



 断言されて、思わず笑ってしまった。



「じゃあ試着してみようかな」

「うん、そうしな。絶対に似合うよ」


 そう言って微笑む優真くんは、どこまでも優しかった。



 試着したブラウスは結局気に入ったので購入することに決めた。買い物を終えて、昼ご飯を食べて、まだ時間に余裕があったから、併設してる映画館で気になってた映画を観て、その後カフェでさっき見た映画の感想とか、仕事の愚痴とかを言い合った。


 やっぱりすごく心地よくて、ぽんぽん話したいことが出てきて、時間があっという間に過ぎていった。


 帰り道、マンションの前で車を降りる。



「今日はありがとう。すっごく楽しかった」

「うん、俺も。楽しかった」



 少しだけ間が空く。



「彩乃、また、出かけようね」

「うん、もちろん」



 優真くんの言葉に頷く。

 だけど彼の目がどこか真剣で、何かを言いかけているようにも見えた。

 何か言おうとしてるのかな、と思って言葉を待ったけど、結局、言葉は続かなかった。



 車が見えなくなるまで手を振って、部屋に戻る。

 ほっと一息つきながら、改めて、楽しかったなぁ、と思った。



 優真くんと過ごした日は、いつもこうだ。

 本当に楽しくて、気持ちが穏やかになって、明日からまた頑張ろうと思える。



 安心できる親友の存在って、本当に大切だ。



 ーーだからこそ、私は気づいていなかった。


 

 この“安心できる親友”が、心の中でずっと想い続けていたことを。


 そして今日、隣に住んでる鈴木さんの話をした時に、彼が何を思っていたのかも。


 

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