第十七話 夕暮れの告白
主な登場人物紹介
田中彩乃
二十四歳。主人公。庶務部。優しくてお人好し。過去のトラウマから恋愛には奥手。
鈴木颯太
二十四歳。彩乃の同期で営業部所属。仕事の出来るイケメン。彩乃の隣の部屋に住んでいる。彼女の浮気が原因で別れているところを彩乃に目撃される。
佐藤優真
二十四歳。綾乃の高校からの親友。なんでも話せて、頼りにしている存在。穏やかで誰に対しても優しい。職場は別。
山本莉子
二十ニ歳。イケメン好きな彩乃の後輩社員。庶務部。小柄で美人。
仕事中、廊下ですれ違う時。
同じフロアで、少し離れた場所から声が聞こえた時。
たったそれだけのことで、心臓が跳ねて、意識がそっちに引っ張られてしまう様な感覚になる。
鈴木さんが、好き。
自分のその気持ちに気づいてからというもの、静かに、けれど確実に、胸の中で好きという感情が大きくなっていっているのが自分でも分かった。何故これまで気づかなかったのか不思議なほどに。
昼休みが終わる少し前、私はスマホを握りしめて、深呼吸をする。
『今日、仕事終わりに少しお時間もらえませんか?』
送信ボタンを押した瞬間、指先がじんと痺れた。
しばらくして、画面が光った。
『もちろん。嬉しいです。どこに行きますか?』
鈴木さんから返ってきたその一文だけで、胸がいっぱいになる。
『じゃあ、マンションの近くの大きな公園で。静かに話せるところがいいので。』
『分かりました。仕事が終わったらすぐに向かいますね。』
私から誘ったのに、どうしてこんなに緊張してるんだろう。
そんなことを思いながら、午後の仕事をなんとか定時で終えることが出来た。
*
公園に着くと、すでに鈴木さんが待っていた。
「お疲れさまです、田中さん」
「鈴木さん、お疲れさまです。……急に誘ってすみません」
「ううん。誘ってもらえて嬉しかったですよ」
そう言って、彼は穏やかに笑った。
夕暮れの空は、淡いオレンジ色で、風が少しだけ涼しい。
「あの……鈴木さん」
「はい」
まっすぐに向けられる視線に、胸がきゅっとなる。
「私……ずっと、考えてたんです」
言葉を選びながら、続ける。
「鈴木さんに告白されてから。
嬉しかったのに、怖くて……踏み出せなくて」
過去の記憶が、胸をかすめる。
「でも、それでも。鈴木さんが他の人と話してるのを見て、嫌だって思って。失う想像をしたら、苦しくなって」
震える声を、必死で抑える。
「山本さんにも助言してもらって、……それで、やっと自分の気持ちにはっきりと気付けました」
一度言葉を止めて、しっかりと彼を見る。
「私……鈴木さんのことが、好きです」
一瞬、風の音だけが耳に入った。
鈴木さんは、目を見開いたあと、ゆっくりと表情を崩した。
「……本当に?」
「はい」
逃げないように、視線を逸らさずに答える。
「恋愛が怖い気持ちが消えたわけじゃないです。でも、それ以上に……鈴木さんを失いたくないって思いました」
鈴木さんは、小さく息を吐いて、私の前に一歩近づいた。
「……俺も」
低く、でもはっきりとした声。
「田中さんのことが、好きです。前よりも、ずっと」
そう言うと、鈴木さんはそっと私を抱きしめた。
彼の胸に顔を埋めると、鈴木さんの心臓の音が、伝わってくる。
……ああ、同じだ。
そっと顔を上げると、視線が絡んだ。
鈴木さんが、私の頬にそっと手を伸ばす。
「……キス、してもいい?」
静かなその問いかけが、嬉しくて。
「……はい」
小さく頷くと、唇に柔らかい感触が重なった。
そのどこまでも優しい口付けに、心がほんのりとあたたかくなった。
唇が離れたあと、鈴木さんが、少し照れたように笑った。
「……大切にするからね」
優しい声でそう言ってくれる彼の瞳をじっと見つめ返す。
「……私も。大切にするね」
「ふふ、うん。よろしくね」
そう言って笑って、差し出してくれた手を、私はそっと握り返した。
「じゃあ、帰ろうか」
「……うん」
夕暮れの公園で、二人の影が並んで伸びていた。
ようやく、同じ気持ちで、同じ方向を向けた気がした。
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陽ノ下 咲




