鷹にたかる(初天神)
祭りの音楽が聞こえてくるぞ、今日は河原でお祭りだ。
ナチュラルフェスティバルだとかで、屋台や、ヒーローショーやらも出るんだと、ウチの坊ちゃんは音楽に反応してきゃっきゃきゃっきゃと、騒いでる。
「ねぇパパ、何かいつもと違う音が聞こえてくるよ。何々?」
好奇心旺盛な坊は最近「何々?」にはまっていて、何でもかんでも聞いてくる。
パパは分かる範囲で応えようと頑張る。
「ありゃナチュラルフェスティバルって河原のお祭りだ。河原で屋台やらヒーローショーやら、出し物がある」
「ヒーローショー? ツヨレンジャーくる?」
ツヨレンジャーは今流行ってるヒーローテレビだ。
坊のお気に入りで、毎週日曜日、一緒に見ようと起こされる。
「ツヨレンジャーはわからんが、自然を守るナチュレンジャーは来るぞ」
「ナチュレンジャー見たい!ねぇねぇねぇ連れて行ってよ。ナチュレンジャーみたいよぉ」
坊は俺を必死に揺さぶる。
「ナチュレンジャーだけならいいが、坊は絶対屋台で何か買いたがるだろ。ツヨレンジャーの綿あめなんか、あっても買わないぞ」
坊はすごく悩みます。
「うーん、言わない。絶対何か買ったって言わないからナチュレンジャー見せてよ」
そこへママがやってきて、パパに聞きます。
「ナチュレンジャーくらい見せに行ってあげなよ。すぐそこじゃない。あんたの馴染みの居酒屋よりも近いじゃない?近くの祭りは子供を連れてかないのに居酒屋行くなんてそんなことはしないわね」
ママにそう言われちゃ仕方がない。
パパはグッと黙って決心します。
「わかった。絶対何か買ってとごねないなら、今からナチュレンジャーを見に行こう」
坊は世界が始まるが如く、嬉しそうにはしゃぎます。
「ナチュレンジャー、ナチュレンジャー。絶対凄いナチュレンジャー!ナチュレンジャー見たいから絶対買いたいなんて言わない」
「そしたら坊よ、日差しが強いから帽子を被っておいで、パパもカメラを用意したらすぐ行くから」
「わかった。パパこそカメラでナチュレンジャー取りすぎないでよ」
「わかった。わかった。ママにナチュレンジャーの写真見せたいだけだからちょっとしか撮らないよ」
そんなこんなで準備を済ませて二人はお祭りに出発します。
外に出ると、一際大きく、楽しげな音楽が聞こえてきます。
楽しげな音楽に坊は大はしゃぎ
「凄い凄い、音楽しい!」
坊が嬉しそうなのにパパも嬉しそうにします。
そいでカメラをパシャリと取ります。
何回か撮って、あっという間に河原に着きます。
「あ、ナチュレンジャーの綿あめがある」
「買わないぞ。約束したろ」
「だって、ナチュレンジャーだよ。欲しい欲しい、買って買って買ってー」
坊は約束を忘れたように駄々をこねます。
「だめだ買わない」
「買って買ってー」
何度もそういうやり取りをしてパパは根負けしてしまいます。
「しょうがないな。坊を連れてくるんじゃなかったな」
パパはしがない自分のお小遣いから綿あめ代を出して、坊に買い与えました。
坊はニコニコ、パパはニガニガ。
その後、坊はナチュレンジャーを見ながら綿あめを舐めて終始ごきげんでした。
「ナチュレンジャーすごい! オンダンカーをやっつけて地球の平和を守ってた!」
「ああ凄い。そのナチュレンジャーが写真撮ってくれるみたいだから一緒に撮ろう」
「撮る!」
坊はナチュレンジャーにすっかり興奮して、ご機嫌でした。
パパは坊がわーとかきゃーとかはしゃぐもんだからすっかり疲れてしまいました。
そこに、司会の声が響きます。
「続いて、鷹匠による。鷹の魚捕りです。河原に放った魚を、鷹が捕まえる瞬間を是非ご覧ください」
「何、鷹だと!」
実はこのパパ、動くものを撮るのが大好き。
鷹が魚を取るなんて、滅多に見られない光景に、ワクワクが止まりません。
「パパ、ナチュレンジャーは終わったから帰ろうよ。ママが待ってるよ」
ママにはナチュレンジャーが終わったら帰ると言っているので、子供はむずむずしてしまいます。
「ちょっとだけ、1枚撮ったら帰るから」
「わかった。1枚だけだよ」
坊はパパの言葉に仕方なく同意します。
「さぁ、今魚を投げます……鷹はこれを捕まえられるでしょうか鷹匠さんお願いします!」
鷹匠が鷹に何か呟くと鷹は川辺に向かいます。
シュッと一瞬水面に顔をつけると、一匹の魚を加えていました。
司会は大げさに言います。
「皆さん、鷹が素晴らしい角度で魚を捕まえました!いや、この角度素晴らしい」
パパも大興奮
「坊、見たか? 鷹が魚をこう、がしっと捕まえて川から引っ張るところ、この爪の動きが良い」
父ちゃんはカメラを構えながら大はしゃぎ。
坊はというとそこまででもありません。
「ねーもう疲れたよぉ。鷹も速すぎるし、川の中なんて遠くて全然見えないよぉ」
カメラでズームしてるパパや、捕まえるのを珍しがる大人ならともかく、遠くで鳥がぱっと動いているのを見ても坊は楽しくありません。
「まーまて坊。いい写真撮ったら見せてやるから」
パパはカメラを構えたまま坊をなだめてみます。
司会はさらに続けます。
「さーてお次は少し近くでご覧ください。このアシスタントが投げた小さな輪。ソーセージで出来てます。これを鷹がキャッチします。これなら皆さんも近くで見られるでしょう。どうぞ、お子さん方前へ」
「パパー。前なら見れるって!」
「ん。だが、設定が近すぎて難しい。パパはここから撮るから坊だけ行っておいで」
「だめだよパパ。ママがパパと一緒にいないとダメだって、ちゃんと見張ってろって言ってたんだから」
「それはママが、パパに坊を見張ってろって言ったんだよ。大丈夫だから行っておいで」
パパはベスポジキープに忙しくて、坊を適当に促します。
坊はママに言われたことを気にして、しょうがなくパパのそばにいます。
司会が話始めました。
「さぁあ、行きますよ。3,2,1! ほいっ!」
アシスタントがソーセージを空中に投げた途端、鷹は鷹匠の腕からピュッと飛んで、ソーセージをキャッチします。
「おぉーやばいすごい! 今の見たか? ソーセージがグワッと掴まれてたのが撮れた。すごい迫力だぞ」
パパは興奮しながら坊に写真を見せます。
坊も少し期待しながらカメラを覗き込むとそこには鷹がグワッと・・・・
グワッとした爪とソーセージのドアップが映っていました。
足と肉見て何が楽しいんだか?
がっかりした坊はぼそっとつぶやきます。
「あーあ、パパなんか連れてくるんじゃなかった」