3合自業(山号寺号)
最近はコロナやら不景気やら、
お酒を飲む機会はめっきり減っているようで、
アルハラなんて言葉もすっかり使われるようになりました。
嫌な思いをするのが減るというのは良いことではあります。
お酒を飲むということ自体が減っているのは私のような、酒飲みにとっては寂しいことにございます。
平成の時分は不景気だなんだと言いつけては おりましたが、何かにつけて、上司と部下。
同僚なんかで、飲みに行っていたものでございます。
これはそんな一昔前の居酒屋でのお話でございます。
おい部下よ、今日も服が売れたなぁ。
ほれ、飲め飲め。お手当もついていい感じだ。
流行りの服は黙っていても売れるなぁ!
おい、部下よ!
売れない服は?
…………ぽかんとしてんじゃねぇよ。
ほれ、売れない服は。続きを言いなさいよ。続きを。
来る途中喋ってただろ。
あー、そう、そこの角で言ってた。
部下:売れない服は……無料回収いたします!
違う!それ走ってたトラックに書いてあるやつ。
話ししてたろ!
そうだ。思い出したな。
部下:売れない服は……べシャリで売る!
そうそう、覚えてんじゃあねぇか。
それじゃよ。ちょっと今日の俺の真似してみなよ。
部下:へい、店長。わかりました。
あー、(うっとり)お客様とてもお似合いですよ。良い素材良い仕立て、作った人の腕が良い。
その服、あなたのために作られたと言っても
…言い過ぎました。
そうじゃあねぇんだ。
部下:へい、店長。すみません。酔っちまうと思ってもねぇことは言いづらいもんで。
商品に誇りを持つのは結構だが買う気にさせるトーク
をしなきゃなんねぇ。
もう一回行くぞ。
部下:お客様、とてもよくお似合いで!
既製品がぴったり!
ちょっと待ちなよ。
既製品はそうなんだけどよ、特別感がなくなっちまうと
わざわざ服を買いに来たって気持ちがしぼんじまう。
そうすっと買ってくんなくなるな。
部下:へぇ、店長。すみません。どうにも思ったことがぱっと口ついて出てきやがります。
お前さんはまずはぱっと言ったときに、
いい感じで答えられるように瞬発力ってのをつけなきゃいけないなぁ。
部下:瞬発力ですか。
そうだよ。
昔の落語に山号寺号ってのがあって、
まぁ目についたものになんとか山なんとか寺って
答えながら客のご機嫌取りするやつがある。
こいつを居酒屋のメニューでやってみようや。できたらそのメニューをおごってやる。
面白いだろ。
部下:うーん、うーん。思いつきました。
お、中々早いねぇ言ってみ。
「おまめさん、袋とじ」
お、枝豆見て思いついたのかい面白いねぇ。
他にはどうだ?
部下:「おねぎさん、卵とじ」
美味そうだねぇ。
部下:「国産、アジ」
アジだと刺身だな。
部下:「国産、ムロアジ」「国産、あきあじ」「国産、シマアジ」
今日は何かい鰺フェアでもやってんのかい。そんなにおんなじようなのじゃあだめだ。
部下:「たくさん、ソーセージ」
山盛りソーセージってやつだな。ケチャップ多めで頼みたい。
部下:「炭酸、甘い味」
またアジ縛りかい。飲みもんだから1回はセーフだ。
俺も酒がなくなったから最後に頼むか。
部下:「日本酒3合、二日酔いにて自業自得」
歯切れ悪いな、もう一回。
部下:「これにて解散、いい感じ」