第十七話「終わる青春」
17話 ※イメージソング
HATENA
https://youtu.be/hk3A_O6YbJA?si=LqOKStzCvou4NfSN
PENGUIN RESEARCH「Fire and Fear」Music Video(TVアニメ『杖と剣のウィストリア』オープニング主題歌)
https://youtu.be/-ly2itFTLfQ?si=lfQ9oN5C-yP_FK0V
【LIVE映像】結束バンド「星座になれたら」LIVE at 秀華祭/ 「ぼっち・ざ・ろっく!」劇中曲
https://youtu.be/fJh5UeiULZs?si=jebV0dIrhoeKxzNM
星座になれたら ろめじゅりcover ✦アンジュ・カトリーナ✦壱百満天原サロメ
https://youtu.be/NYcKkFtMNFI?si=vkqHiFHIeh1sM3eT
UD1988年それは犠牲亡き戦争と呼ばれたL4宙域からやや離れた場所に浮かぶ、小惑星で行われたエーリヴァーガル戦役が終結して
8年後...
舞台はL4宙域の一都市群に属するコロニーヴァルハルの一角にある。
学術都市に移る。
物憂げな表情のまま、教壇の上で担当教官であるバンキッド=アルマニャックは、電子黒板に次々と、教本に描かれている項目についての
独自解釈と、そして付随する私見をここが試験に出るぞと、板書しその姿を眺め、
その光景に辟易する。
白く雪の様に染まった髪に一部赤みがかったメッシュのその御髪は、その名を表す様に春の日に残る雪景色の如く、後で聞くことになるが、産まれ付き親から与えられた者で、
本人曰く、雪兎見たく、余り好きでなかったが...
今はもう親から受け継いだ数少ない贈り物の一つとして、気に入っている。
かつての少年はいつの間にかやや幼さが残るものの精悍な表情を秘める、色白な愁いを帯びた青年へと変わっていた。
「まったく、どいつもこいつも噓吐きだ。」
そう吐き捨てるように、窓の開いた景色を眺め、嘆息する。
「かつて起きたクピドレスとの争いについては、みんなも知っている通り、エーリヴァーガル戦役で活躍した。ソォンナ=コッタネー首席と我らが誇る
英雄、アハト=佐伯、ハルズ=アルマインら両雄が、犠牲を出さずに、その争いに終止符を打った事は知っているな?」
「だが、今でこそ、標準的な技術として知られている神経接続である義手や、数々のパテント技術を保有し夢の動力炉機構として現在の機体に採用されている
《Fictumフィクトゥムドライヴ》の開発にも貢献した。縁の下でその基盤を支えたコーディー=スルー技術長官の存在も忘れてはならない。」
「まずは、そうだな、長官が発見したと言われている。夢の蓄熱衝撃吸収素材と呼ばれるオービットマイン。主に衝撃や熱を吸収するその新素材については、その構造体は、発泡性の空洞を内包した、その独特の素材構成は、空洞状の素材により衝撃を吸収し、内部の空洞に生じた熱を留保し、高い耐久性と耐熱仕様を誇っている。その活用は、今では、耐火用として建材や作業用、戦闘用の機体の運用に切っても切れないものとなっている。」
「各自、教本を読み解き、今後の技術発展においてどのような転用する事が望まれるかのレポートを出すように。期限は一週間。出し忘れた者に、単位はあげられんぞ。留意する様に。」
そして、と言葉を区切りながら
「そこで突如現れ、戦争を仕掛けてきた。クピドレスの市民構成について、講義する。」
「えーだって先生、たった一年も戦線を維持できなかった奴らの事を学んでも意味ないのでは?それよりもハルズ=アルマイン准将が、また撃墜スコア更新したらしいですよ。」
「そっちの話しましょうよ。」
ごっほん。
「まぁ、私も戦場となったこの宙域に赴任してくるのは、戦争のあった後からなので、戦争を直に体験した訳ではありませんが...。」
「だが、あまり知られてはいないことですが愚かなこの争いによって、戦闘とは関係ない誤射。フレンドリーファイアーによって、多くの人民の命が失われたという話もあります。」
「その哀しい事故についても、君たちも知っておくべきことでしょう。」
「その愚か者の名は...」
…
…
…
話が脱線しましたが、クピドレスの市民構成は、大まかに四つに大別されます。
特級の《慈聖体》と呼ばれる存在に、《聖痕》持ちと呼ばれる特殊技能を持った人々が含まれる一級市民、さらには三級市民と分かれています。
それぞれ、遺伝子マーカーと言って、自らの遺伝子情報を保存して、その情報があれば、同位体を生成できるという、凡そ人とは呼べない存在です。
ただ、それが出来るのは特級と一級までの市民で、他の市民は使い捨ての存在だったと言われています。
確か?どこかでもう一種類存在したと過去の教本には記載されていましたが、現在ではそれは誤報だったとされていますね。
「現在の研究では、クピドレスが何故戦争を行っていたのか?戦時中、捕らわれていた人は、何もされないままコロニー内で放任されていた人々の数も多い関係もあって、
月都市での大事故によって亡くなり、行方不明になった人の数はいまだ把握されていません。」
「週末に、ウェンディゴ部隊の演習をシャトルを使って見学にいきますので、各自、準備を怠らない様に。希望者が居れば、入隊希望の申請書を描くように。
シュミレーターの結果が良いモノは、優先されますよ。春幸君...先生は君を推薦しておきました。それではレポートの提出期日は規定通りに。」
残りの話は、何の他愛もない。会話と何のためにもならない、話に終始して授業は終わる。
…
…
…
「えっブラッドワーカ?ってブラットワーカ...春幸君と何か関係あるのかな?」
「たまたまじゃない?ブラッドとブラットだし...」
授業でひそひそ話が、まことしやかに広まっていく...
…
…
…
なにが犠牲のない戦争だ。犠牲は確かにあった。母さんは戻ってこないし、今も尚、傷に苦しむ人も居る。
親父は、あれから、誰も近づけず、こぶつきの所為か、一人でいる。そろそろ昔に分かれたという彼女の事を諦めて他の誰かと結婚すれば良いのに、
それでも...今でもあれから8年、独りでいる。
きっとあの時俺が言ったアンタは人殺しだって罵倒を気にしている事は分かるが...
あの後、一緒に暮らすようになってから、それとなく青葉さんに月での事を聞いた。
その事実に震え。今でも夢を見る覚めない悪夢を見る。
あの時、親父が、引鉄を引いた理由は...
だが、ずっとあの時の事を謝れずにいる。
家に帰ると、仕事を終えた親父が一足先に、コーヒー牛乳を片手に古いレコーダーを肴にくだ を 巻く
酒も飲まずに良く、酔えるよな。なんでコーヒー牛乳で酔っ払ってんだよ。
でも時々、今も泣いている姿を見る。青葉姉さんも、気づきながらも見ないふりをしている。
隣の家のアンザスさんは、引き取ったおじいちゃんをお嫁さんと一緒に介護しながら、暮らしていて、
何でも戦闘での負傷と低酸素症に苛まれて酷く痴呆が進んでしまっていて、よく遊ぶ。ハンザス君と一緒に四苦八苦してるらしい。
なんでも晩御飯を食べてないって、ドーナッツを三食分食べてさらにご飯をお代わりするぐらい元気らしい。
まぁ、元気ならいいか?
と、次の日も、いつもながらの勤務に出る親父と一緒に、家を出ると、いつもの通り迎えに来たユズリハとユミナリアと、一緒に学校へと向かう。
外崎と領五とは、途中で合流し、いつもながらの面子である五人で、学校へととぼとぼと歩み。他愛もない話をする。
俺達が通うグリームニル学園は、中等部と高等部、更に高専や大学に当たる。専門分野に進む、専攻科が存在する。
俺ももうすぐ卒業する時期が近い。
今後の進路は、先生の勧め通り、かつてのCarpe Diemカルペ・ディエム「今を生きよ」と呼ばれた組織名から、その名を変えた
クラース・テー・イプスム・マレディクトゥス(Crās tē ipsum maledictus)「「明日、お前自身が呪われるだろう」の一文から取った。マレディクトの一部隊である。
ウィンディゴ部隊への編入試験を受けて軍人になるか、親父みたいな現場の作業技術者になるか?それとも専攻科へ進み、将来の為に母さんと同じ、研鑽を積むべきか?
今後の進路に悩むものの、今だ答えは出て居ない。
「ねぇ、春幸君?」
ん?上の空の表情のまま、その声に答える。
「どうしたユズリハ?」
「今週のレポートどうしよっか?」
ん?なんで学年の違うユズリハ達にも同じ、レポートの提出が求められてるのか?とも思ったが、話を聞くところによると、
なんでも特異技術者の育成に関する募集に必須らしい。
ユズリハとユミナリアは、その募集要項のレポートに四苦八苦しているようだ。それはそうだよな、今も使われ続けるその素材が何で出来ているのか?
僕らは知っているから。
親父にも、青葉ねぇちゃんからも軍への編入の相談をしたら、それだけは辞めて置けと釘を刺されている。
はぁ...将来の事を考えると、気が滅入る。
街中では、人々を護る為に君もウェンディゴ部隊に入ろう!!!と、アルカイックスマイルをする頑強な男性の電子ポスターの映像と音声が流れている。
いずれ僕らも、それぞれの道を行き、ばらばらの進路を取る事になるが、あーあいっそうの事、アンザスさんところのドーナッツ屋さんに就職しようかな?
あの忌まわしき戦争から、数年後、時代は移り変わり、かつて轡を並べて行動していた部隊は風の噂で、バラバラに解体され、あるものは組織の中核に組み込まれ
あるものは退役しドーナッツ屋を営んだり、そのまま軍属としての活動を続ける者が居る。
今でも定期的に連絡を取り続けている。リン=山崎さんは、4度目の結婚と出産をして、また旦那さんを変えたらしい。送られてきた絵葉書には、幸せそうな人の家族写真が踊り、
定期的に、夢破れた男たちの愚痴と嘆きの相談メッセージが届いてくる。
まだ結婚も恋人の居ない僕に、相談されてもなぁ。子供目線の返答しかできないや。
「まぁ、事実を隠して、出来るだけ使わないでも済む案を考えて提案するしかないな。出来ればあの素材は、使われない方が良い。」
「そおっかぁーりょーかい。」
で、と僕は息を飲みつつその話を切り出す。
「ユズリハ...あの返答は...」ドギマギしつつその言葉を待つ
「春幸兄ちゃん嫌いッ」とプイッとそっぽ向く
だが、しょんなぁ~と、意気消沈する僕の姿を、見守るもう一人の存在を失念していた。
...
あっ「エクィタス君...」
同級生の陽光に照らし出され七色の光を纏い輝く白銀の艶やかな髪と、整った眉と目鼻立ち、そして薄い唇。その容姿のすべてが、堀の深いギリシャ彫刻の如き神に作られし美しさを誇る
その姿を映す鏡は、我先にその姿を映そうとその、鏡面を向ける。その光景は、且つて謳われた。水鏡に沈んだその美を誇る青年の如し、
静謐を破る水面に残響するその姿は、見たものを羨望のまなこに孕み。歩く道先で、次々とその容姿に撃ち抜かれて、振り返る男女の残滓が映る。
四十の絡みのおじさんが、腹と尻を抑えて腹を抑えて座り込むと、一言呟く。「やだ...トゥクトゥク...ウッ孕む...洩れそう。」と、
そんな衝突事故を巻き起こす同輩へと視線を移し、何の感慨もなく、おはようと朝の挨拶済ませて、通学路を行く。
エクィタス=ユースティティア...学業成績、シュミレーターのスコア共に優秀とみられるその青年は、嫌味や外連味を漂白したかのように、
公明正大。直立不動で、常にその天秤を赦さぬ公平さで、あらゆる揉め事の仲裁に入り解決していく。
付いたあだ名は、人呼んで、良天秤その彼が、加わり僕らの歩みは続く
「なぁ、春幸ぃ~レポート写させてくれよぉー」
毎度のことながら外崎が春幸に助け船を求めてくる。
「もぉ~そういうのは、自力で遣らないと逝けないんだよ?」とユミナリアが苦言を呈する。
ふむと、思案して、
「要点だけ掻い摘んで、参考にするぐらいなら良いよ。ただ丸ごとの写しだと、俺も赤点くらうからな。」
「本当か?やったー」
でも...小さな声で、兄ちゃんまた怪我してる...
心配そうなその声は、二人の少女の中で、消えては浮かび言葉が途切れる。
喧嘩している理由は知ってる。またお父さんの悪口を言われたんだろう...春幸君は、何よりも育ての親を自分以外の他者に罵倒される事を嫌う。
あの事の顛末は、父さん母さんたちから聞いてる。月都市にはあの時点で、生存者は存在していなかった。
だから、恐らくその事実に、おじさんは...。おじさんも、大切な誰かを探していたのだから、でも、それを隠して、その引鉄を引いた。
恐らく助からなかった人たちの事を明確に伝える事を良しとしなかったのだろう。
その事は僕たち以外誰も知らない。何かを察して退役したアンザスさんたちは、ひょっとしたら気付いてはいるかもしれないけど、
あーあー全く普通に暮らしにくい世の中になっちゃったな。
道々と行き、下駄箱が揃う玄関口を抜けて、じゃぁなと挨拶をして、互いのクラスへと向かい分かれていく。
其の春幸の後姿をユズリハは、何かを言おうとして、そして断念し、どうしたの?というユミナリアの声に
短く「なんでもない」と言葉を切って別の学年の自らのクラスの教室へと向かう。
同道する。春幸とエクィタス=ユースティティア、領五は同じ教室に向かい自らの席へと着席する。
今日の授業は...
物理機械工学の続き、広く一般化された《Fictumフィクトゥムドライヴ》についての講義...
「炉の重要素材とされる《黒曜鉄鋼》(ブラックライト)が不可欠であるが、その鉱床自体は、地球の一部地域のみに確認されるも
その数の絶対数は少なく、足りない箇所は、類似素材...つまりは。且つて地球と呼ばれる星に落ちた隕石群からの由来である《星屑鉄鋼》(スターダストダイト)との
混合により、炉心を形成することが初めて出来る様になっている。」
「その仕組みを生み出したコーディー=スルー技術長官は、こうおっしゃっている。」
「弛まぬ努力と、全ては、1%の一瞬のインスピレーションによる。」
ただ、私見として、気になる事が個人的にはある。と、話を区切ると
「さらに重要な点として最新鋭機で使用されている思考誘導基の一部にも、《黒曜鉄鋼》(ブラックライト)と《星屑鉄鋼》(スターダストダイト)の素材が混合して使用されている...」
「個人的に年代物のクピドレスが保有していた機体を解体する現場に立ち会った時に、私はそれらの素材が使用されていた事実を確認している。」
「その事から、どういう経緯かは分からぬがクピドレスもいち早く《黒曜鉄鋼》(ブラックライト)と《星屑鉄鋼》(スターダストダイト)の鉱床を保有していたのであろうことが類推できる。」
「故に、あの戦争に勝利できた所以は、コーディー=スルー技術長官のご慧眼による事が大きく占められていると思われる。ここは重要なので試験に出すぞ?」
なんだよ。それ、そんな訳あるか...あの戦争は、メンテナンススタッフまでも含めたみんなの協力があってこそだろ。と毒吐くもののその声は、外には洩れず。
授業は粛々と進んでいく。
鉱床は...ギアナ高地周辺に集中し...発見者である...が...
幾つかの授業を受け
春幸の得意な機体の操作シュミレーター試験へと雪崩れ込んでくる。操作する順番を待っている最中に
クラスメイトの《ピチャチュ=レーベン》が、ちょっかいを仕掛けてくる。
「おい、春幸=ブラットワーカー。お前の親は、血染めの一族じゃないのか?名前が似ているってどころじゃねぇーぞ。俺の親戚には、月で暮らしてた人たちも居たんだぞ。」
「きっとお前の親が、殺したんだ?違うのか?おぃ、本当の事を言ってみろよ。」と、詰めかかり、
その声を実に鬱陶しげに振り払うと、
「俺の親はそんな事してねぇよ。」と、ばかりに牽制の左ジャブをその面に叩き込むと、鼻血がつつーと流れ、激高してきた《ピチャチュ=レーベン》に対して
続く左右左の拳の応酬を繰り返し、ひるんだすきに背後に回ると、送り襟締めの要領で、襟元を掴んで交差するようにその息の根を止めるかのような無駄ない
動きが決まる。息が詰まり、其のまま意識を失うかと思った瞬間、
暴れまわる肘鉄が、入りその束縛の手が離れる。
ゲホゲホと肺に入り込む空気を吸い込み、涙目の表情のまま、こちらを睨みつけてくる。
そのひと悶着に気付いたバンキッド=アルマニャックは、
「君たちは何をしているんだ?喧嘩の理由は?」と詰め寄るが互いに沈黙を守る。
その姿をみて了解した。と、
「良いでしょう。喧嘩の理由は分かりませんが、決着は、戦闘シュミレーターの結果で決めなさい。」
「そりゃぁ良い。だったらお前はいつも一緒にいるあの女達を賭けろ。全て頂いてやる。」
ピキッ
剛性のある何かが軋む音がする。
背後で(ノ∀`)アチャーとなった領五とエクィタス=ユースティティアは、宙に十字を描き、祈る。
「(*´Д`)はぁ~あいつらは俺の持ち物でもなんでもねぇよー。」
「俺は嫌いなんだよな。人を物みたいに賭ける奴が。誰のどんな権利で言ってやがるのか?」
「おい、おい、もう一度言ってみやがれ。」
ぐるりと次の瞬間、目の前の男の視界が揺らぎ、そして誰かが倒れ伏す音がする。
領五は、天を仰ぎ、エクィタスは、全く救えませんな。と、つんつんと倒れた青年の傅いた体躯をつつき、気絶する姿を確認すると、
その眼に移る一瞬の光景を思い出す。
突如春幸は、全力の前傾姿勢から側転するかのように放たれた足撃の一撃を以て下顎を撃ち抜くと
賭けを持ちだし吠えた男の顎を蹴り抜くと、
何事もなく、元の位置へと着地し、唖然とする先生を他所に、シュミレーターへと進み試験の合図を待つ...
が...
突如の暴力行為により、試験は中止され、倒れた《ピチャチュ=レーベン》を急ぎ保健室に運び込む様に指示をだすと、
事情を聴きとるべく別室へとバンキッド=アルマニャックは、春幸を相談室へ連れ込み、事情を聴き始めるが...
「先生、はじめに言っておくが、殴った俺も悪いのは分かるが、そもそも人を物の様に扱って、賭けを持ち込み自分の者にしようとする奴の方が絶対的に悪い。」
「そんな権利は誰にもないはずだ。それなのに先生は止めなかった。あんたも同罪だ。」
突如始まった逆説教に辟易するモノの続く言葉の高射砲に晒されて、二の句も告げずに、答えに詰まる
「確か先生、結婚してるだろ。もしも自分の奥さんを明日質に入れて賭けろ。自分の娘の息子の命を賭け事の代価として支払う様に望む事を求められた場合、あんたはどうするつもりだ。」
「勝てばいいというかもしれんがこれはそもそもそういう話じゃない。問題なのは、大切な家族を物の様に扱うその行動規範に異議を物申している。」
「仮にあんたが勝手に家族にその命を身体を賭けの対象として賭けられて、喜ぶ奴が、何処にいる。そんな自分を大切にしてくれない人をどうやって愛するつもりなんだよ。」
「俺の身体は俺のものだし、誰かの身体はその人のモノであり、そしてその権利は本人にしかない。」
「そもそも本人だって賭けちゃいけない事なんだよ。」
部屋に入っていった二人の様子を心配しに、ドアの隙間から中の様子を見る領五たちは、(ノ∀`)アチャーと、
何時もの爆発がでちゃった。
何も言い返せないバンキッド=アルマニャックは、「だが君は試験を妨害して、他の人たちの試験を受ける権利を侵害した。この試験の単位は上げられないよ...」
「嗚呼それで良い。だが、俺はこの考えを曲げない。話はそれだけか?失礼...。」
ドアを開けて退室しようとドアを開けると、
様子を伺っていた二人が雪崩れ込んで、倒れ込む。
ん?なにしてんだ?
至極まっとうな感想を述べ、見下ろす春幸に対して、
悠々と埃を払って彼の誇りを護らんとするその行動に撃たれて、天秤のバランスを公平に持ち直すべく声を上げる。
「先生、まだ話に続きはありますよね?元はと言えば、事の事態には、先生に原因と責任があります。此のことを...」
...
暫しの沈黙のあと、言葉を引き継ぎ、答える
「話は凡そわかりました...試験は後日。追試という形で、行います。君たちも受けるように。」
苦虫を嚙み潰した表情のまま、退出を促し、その日の授業は、各自の自習のまま終わる。
週末に開催すると予告されていた。この宙域へと部隊の展開を行うウィンディゴ部隊の演習見学へと雪崩れ込む。
コロニー内部のシャトル係留されているドックへと、クラスの面々や他の学年の学生が勢ぞろいする。各々が各々の割り振られた席へと乗り込み。
一路、部隊が演習を行うと通達されていたL4宙域の外れにある。かつての古戦場跡である小惑星帯へと次々と出立していく。
「あーあめんどくさいよ。演習なんて見て何が面白いんだよ。」と外崎は、両手に満載したポップコーン抱え、何処で売られていたのか分からぬ。
お土産を満載してぶつくさ文句を言っている。
相変わらず、分かりにくい性格してるなと、苦笑しながら自らも飲み物片手にポップコーンを頬張る。
こんなことが出来るのも、数年前から一般に技術転用され始めた重力制御技術の賜物ではある。
完全な地球上の重力迄の再現は無理だとしても、月の重力以上の効果は発揮されている故に、宇宙でもこのような芸当が出来る。
恐らくどこかで入手した技術を転用しているのだろう。と、感慨深く瞑目して、目標地である。
宙域に隣接された。宇宙基地へと、次々とコロニーから離岸した艦船が目標地へと到着していく。居並ぶ軍船の数々に、かつての思い出の船の姿を見るが、
それらは且つて目撃した艦影が違う最新鋭の船舶の数々、上下二対のカタパルト備えた巡洋艦。巨大な片刃の穂先にも似た大型のカタパルトデッキを備えた空母。
見るからに物々しいその光景に、戦場跡に近づくほど、感じるその悪寒を抑え。
安全を担保された係留地において演習の観戦が始まる
担当であるバンキッド=アルマニャックは、各自に感想レポートの提出を促し
遠く離れたその光景は、基地に備えられた強化プラスチックで覆わられたラウンジで、各々の席で座ったまま、
拡大された映像と目視できる光の瞬きを見逃さない様に、見守る。
まずは、小惑星帯の岩石や且つての戦闘で廃棄された廃船を目標と見立てた艦砲射撃による、一斉射が始まる。
大口径の榴弾と粒子砲の一種である主砲の連続射撃に、戦場を知らぬ。生徒たちは歓声を上げるが、
何度か戦場に立ったこともある春幸には少し物足りない感触を受ける。が、自分たちが、戦場に居た事は、秘密だ。
別に知られたとしても個人的に困る事はないが、親父が、引鉄を引いた本人であることが知られれば非難の矛先が親父に向かう。
何よりも争いを嫌い。戦場から離れて久しい、親父に迷惑はかけられない。
物憂げに、視線を外して、星空を眺めて居ると、何かの違和感を感じる...
あれは、艦船らしき機影が?遠く離れた場所で何かが撃墜された光を感じ取る。だが、その光景に気付いたのはどうやら自分だけの様だ。
左右の領五とエクィタスに対して「ちょっとトイレ行ってくる」と断りを入れて、搬入口を辿って、何かないか?とあたりを見回す。
緊急用に設置されていたボックスからノーマルスーツを取り出して着込み、フルフェイスのヘルメットをスモークモードにして顔を隠す。
そして、何かの搬入作業に勤しむ作業員の横をすり抜け、メンテナンスドック内部に入り込むと、燃料注入中の小型艇を見つけ、
周囲に人が居ない事を確認しつつ、乗り込むと...
操縦席のレイアウトを一瞥して、このタイプなら、親父の仕事の合間に使わせて貰った事がある。免許はまだ仮免だが...動かすこと自体は出来る。
自分でも何故その行動をしたのかは、後になっても理由は分からないがその時には、ただそうすべきだと自分が思っただけだった。
係留ロープと燃料ホースをを引きちぎり、管制官の制止を振り切ると、出航した小型艇は、一路、戦闘演習地域から離れた宙域へとスラスターを全開にして、浮遊する小惑星群を
左右に船体を傾け、器用に避けながら進む。
入れ替わる様にすれ違った機体は...マレディクトが誇る。ウィンディゴ部隊が駆る。四機編隊の《ブレイズ=ガルヴ・ディム》の機影
その配色はやや暗闇の海でも視認しやすい。橙色と白磁の線が入った独特の機体色を見せ。
撃墜した敵機の残骸に近づくその艦影に、違和感を感じ、敵味方識別コードを確認するが、友軍機を指し示すそのサインに、
「全く上層部は動きが速いな。残骸の回収班を既に手回してくるとは、手間が省けて好都合だな。」と、その姿を悠々見送る。
操縦桿を握り、今気づかれなかったよな...と無策で飛び出した自分の愚かさを恨みつつ、何の見咎めもされなかった事に安堵し、
そして、確かに感じる感覚を頼りに、生存者の姿を探す。
撃墜された残骸が、船のシールドに耳朶を叩く振動を船体に響かせる。
「生きている人は居ないのか?」そう思った瞬間、ノーマルスーツに包まれた人影を発見する。
徐に、船外活動用のアームを展開し、掴んで収容しようと試みるが...。船体の操縦との並行作業は、成れずアームの動作が滑る。
あまり時間を掛けて居ると、不信がった奴らが、また戻ってくるかもしれないと、
意を決して、船外活動用のエアロックを開閉し、密閉したことを確認すると、減圧し、船外活動用のドアを開くと
器用にその身に備えた。作業用の推進器を背負い。宙を漂う人影に向かって近づいていく。
するりと進む暗闇の中で、こちらの人影を視認したであろう。人物は手足をばたつかせながら、逃れようとジタバタ抵抗を見せるも、
ヾ(:3ノシヾ)ノシ
近距離での通信を試み、会話で一先ず落ち着かせようと、声を掛けた瞬間。乗ってきた小型艇へと光の閃光が奔り、
高出力の粒子に炙られた船体の装甲を融解させながらそのひと柱が、小惑星の一部を焼ながら直進する。
内蔵しているジェネレーター毎、爆散。その衝撃で吹き飛ばされクルクルと、もがく人影を抱きしめると、推進器で器用に衝撃を逃がしつつ
叩き付けられようとした小惑星帯へ靴底の底面で勢いを殺しながら、着地。
そのノーマルスーツの服越しに感じられる。その肉体の形から抱えた人物が女性であることが薄っすら感じ取られ、咄嗟に庇い息が詰まる。
(ここまでの足を喪った...作業用の推進器で...。どこまで戻れるのか?エアーは足りるのか?推進剤は?この人は生きているのか?)
脳内で様々な懸念点は浮かんでは消え、そして、ヘルメット越しにその表情を確認する。
目の前には、美麗な目鼻立ち、そして緋色の髪、そしてエメラルド色の宝石の様にキラキラと光る眼。その姿に一瞬瞠目するも、
今はそれよりも大事なことがある。
「君を救けに来たよ。」
そう言葉短く切ったその言葉に、
「タスケ?に?キタノ、ナンデ?」きょとんとその輝く眼でこちらを眺めてくる。
「勝手に身体が動いた。俺の名前は春幸=ブラットワーカー君の名は?」
「ワタシノナマエハ、アイ、アイ=フライヤー」
そうか話は通じるみたいだなと、安堵し現在の懸念点を上げる
「生憎乗ってきた船は撃墜されたけど、推進器で行けるとこまで行ってみる。着いてきてくれるかい?」
コクリと、頷く彼女の華奢な身体を抱え、目標へと推進器を吹かせようと試みるが...《ブレイズ=ガルヴ・ディム》が接近してくる。
このままだと拿捕されるか?握り潰され、死ぬしかない!?!
何か?何かないか?父さんは言っていた、絶望の淵で有っても、其処を一度乗り越えれば、奇跡が起きる事もある。
諦めるのは冗談を言い合うネタが完全に尽きた後でも遅くない。
絶望の淵でも、笑いながらタップダンスを踊れ。
まったくもって意味不明な教えだが、周囲を見回すと、脳内に何かが走る。
暗闇が支配する宇宙空間でその時、何かを見つける。
それは、小惑星体の陰に隠れた。投棄されたであろう見た事もない似姿の機体の姿、其のところ何処に何かの繭らしき、残存物がこびり付き
その機体色は、赤黒いフレームの構造体に、頭部には黒い王冠を戴き、同様の装飾品らしき基部が前腕脚部共に並び、
特徴的な外観を描くは、左右非対称性のツインアイと、片方は鋭角、そして反対は、湾曲するブレードアンテナ
同じく腕脚部肩部が非対称性の機体を目撃する。これは...かつてどこかで見たような...
近付くと、勝手にコックピットが開き、暗闇に一筋の光が泳ぐ。
急いで近づき乗り込むと。そこには、デジャブが走る。
持ち主の手の形に自動でフィットする様に自動調整される操縦桿を握り、同じくフィットするように変形したフットペダルを器用に踏みながら、
全展望を誇るコックピット内部にかつての何かの光景が重なる。
音声認識による識別による、使用者権限の登録を求む。我が名はセカンドアーヴル、汝の名を刻め。
こういう時は...
「音声登録を受諾しろ。キーワードは...エンコード、《ライズ・イズ・ホワイト》始まりの詩を歌え《セカンドアーヴル》...我が名は、春幸=ブラットワーカー。使用者権限の登録と保護を求む。」
ブゥンッ!!!その炉の火に、再び火が灯る。
漆黒の闇の中で蒼く光る左目に赤く光るその相貌が、浮かび上がる。機体の各部に纏わりつく繭を引きはがし、
その機体の全容が明らかになる。その純白の昇る明星は、周囲に浮かぶ陣容を照らし出し、隠された事実を顕わにする。
この機体が何故こんな場所にあるのか?どうして僕に反応したのか、そしてこのコックピットが、まるで僕の手に合わせて作られたかのように
フィットするその理由は今は良い。腕の中で震える彼女を救ける事さえ出来ればそれで良い。
武器は、武器は何かないのか?
操縦桿を握り、まるで覚えたての子犬の様に浮かび上がるコンソール上に、浮かぶ文字列へ目を通す。
当初は、ラテン語や英語らしきアルファベットで記載されていたその文字列が書き換わり、
突撃螺旋戦葬... 一基
位相空間固定アンカー 八基
結晶自在剣 二基
龍牙連爪 一基
...
...
...
etc
多数の仕様目的と方法が不明な武装が踊る。今は、戦える事実さえわかれば良い。
画面上では、モード選択を知らせる文字列が流れる...一先ず一番無難そうな、スタンダードモードを選択。
フットペダルを踏み込むと、且つて経験したその加速と共に、急加速に比例して掛かるはずのGが一切感じられず。
その加速度は、《ディエム》や《カルペ・ディエム》とも違う速さを春幸へと提供し、
向かってくる《ブレイズ=ガルヴ・ディム》の機影を擦れ違いざまに一気に振り切ると、その機体追従性能は、敵機が次のアクションを動かす間の
ほんの僅かな間に、背面スラスターユニットと、前腕、脚部にそれぞれ備わった位相空間固定アンカーが射出され、
何もない虚空の闇にその穂先を波紋を波立てつつ、係留すると、大きくスイングバイによる急加速と方向転換を実行。
不意を突かれた《ブレイズ=ガルヴ・ディム》の一機に対して、円軌道の終端に、目標の姿を固定。
右腕に装着された、突撃螺旋戦葬...その姿を画面内に見ると、且つての何かとその姿が重なるも、構わずその銃身の引き金を引き絞る。
回転する戦槍の根本に備え付けられた多数の砲身がその穂先と別れ根本の基部のみが回転。
その銃口から粒子状の光の弾丸の雨を放射。
連続射出されるガトリングの砲火が、偏差射撃の要領で敵機の回避する方向へと銃撃の雨をその軌道と重なる様に、叩き込み続ける。
二足歩行の狼と且つて今を生きよと、明日を夢見た人の姿を模したであろう機体に似たその機体背面部と脚部から、球体と光の環の波動を足場にし、急制動を掛けつつ空を渡り、星々の煌めきを纏い、
機体を制御しながら視界の範囲より離脱する様に、危機を感じて回避行動の一手を着る。
それでも間に合わず、咄嗟に展開された。ビームシールドの覇光が、その連撃を防ぐ傘として機能するかに見えた瞬間、その銃撃は
光の楯の側面に着弾すると同時に結晶化。その基部を穿ち、そして一体化された結晶の銃弾へと降り注ぐ光の乱打が、繋がると共に、大きく形成するとその基部を丸ごと消失し、消え去る。
多段ヒットし続けるその攻撃により、《ブレイズ=ガルヴ・ディム》の装甲に次々と穴を穿ち、何の感慨も、活躍も見せずに、爆散させる。
「アーズベルトッ!!!!!」
「ハインツ、ディバイン、同時攻撃を仕掛けるぞ、着いてこい。奴の男尻を突いて殺れッ!!!」
吠える獣たちの宴は、三機編隊による変則軌道を描き、スイングバイの終点に至る《セカンドアーヴル》を目標として、その手に装備された、銃口を向け、
光の一射を繰り返し、絶妙の時間差による偏差射撃で、こちらの動きを予測し、射かけてくるも、
二基目の位相空間固定アンカーを射出その動きを大きくその軌道を変え、円周軌道を描きながら回避、敵の背面へと躍り出ると、アンカーの接続を遮断、
巻き取りながら、その終点で、スラスターの加速を実行、敵機の背面に向かって一直線、銃弾の雨を降らせるも、次の一射を加えるべく散開しつつ回避を選択
その背後を攻める為。敵の隊長機らしきその姿を追う。
尻を振りながら、左右、上下に、乱れ飛ぶその背面をカバーするかのように、《セカンドアーヴル》の背面を執るべく二機の《ブレイズ=ガルヴ・ディム》が迫る
「こいつの扱い方が、段々分かってきたぞ...」
操縦桿を握り込み、一気に加速すると後続の機体引き離し、前を行く《ブレイズ=ガルヴ・ディム》へと追い抜きざまに、左腕の袖口から延びる発振機構を掴み取ると、震える程の振動とその刀身の伸縮と収縮を繰り返す確変する刃先を振るう。
相対するは、突如の接近に、慄く隊長機...ドゥバインは、応戦するべく、自らも発振器の刃を取り出し、振るい対抗する。
その独特のやや大き目が揃う、二対のメインカメラに、涙目の跡の様な発光する筋を残し、V8気筒の頭部に剥き出しのロックボルト機構により固定されたバイザーが、
その刃劫に影が尾を引き、その姿の輪郭を暗闇に照らし出す。
交錯する光の刃は、互いに喰いあうも、徐々にその刃が伸縮と収縮を繰り返す刃の勢いに押され、マニュピレーターの動作に異常をきたすも
火花を散らしながら、異音を立てる前腕部を庇いつつ、至近距離から、ビームライフルを連射モードのフルオートで、連続発射。
その光撃が瞬く、光を目視した瞬間に、既に回避行動は終わっていた。
(・д・)チッ
「亜光速の弾幕を至近で避けるのかよッ!!!」
機体に搭載されているAIに、対象機体を登録しているデーターベース状の機体と照合するも、同一機体は、確認できず。
NotFound...該当なし...ただし、類似機体あり...のメッセージを確認する間もなく、
宙域の虚空にアンカーを打ち込みワイヤーを巻き込みながらも、襲い来るその機体の対処に、一切の躊躇なく、急制動を掛けつつ
天を渡り、変則軌道の終端で、目標を照準の中央に捉えて、その引鉄を引くと、電磁加速により撃ちだされたその穂先が、超高速の弾体として、繰り出され、
展開されたビームシールドの防壁を容易く引き裂く。
その一撃がジェネレーターへと直撃、特大の光の華を虚空に描き、衝撃が奔る。
「隊長ッ!!!おのれ!!!」
単銃身の機関銃型のビームライフルに大型のエネルギーパックを備え、二機の《ブレイズ=ガルヴ・ディム》は、戦法を制圧射撃による弾幕を張り、
迫る《セカンドアーヴル》に浴びせかけ、射出した穂先を回収し、再度の高速機動に入ったその機体を狙い撃つも、
僅かに視認できる機影が宙に描く残像すら捉えられずに、無為にその銃撃の残弾数が消費されていく。
その姿に、慄きながら、二つの華が、その命の雫を花弁に滴らせながら、弾け昇天する。
...
...
...
「《ヴォルク・チェロヴェク》大佐...追撃を終えたドゥバイン隊からの信号が途絶しました。准将達への報告はまだですが、捜索隊を出しますか?」
「正確には、ヴォールク・チラヴィクだ...まぁ、細かい発音の事は良い。《ヴォルク・チェロヴェク》で統一して貰っても構わん。が...」
「その件については、いや、良い。准将の手を煩わせる必要もないだろう。俺が出よう。随伴機には、A型装備、B型装備、C型装備を付けさせろ。」
「俺はアイン・アングリフで出る。准将への報告は、目標の撃墜だけ知らせて置け。」
眼前のメンテナンスドックに、その異形の表情を見せる。一つ目のその瞳へと注がれる視線は、何を思うのか...
「どうにも嫌な予感を感じるな。この感覚は...数年ぶりに感じる。しかしなんだこの違和感は?」
怒膨する。身体の一部を感じながら、随伴機に乗り込む部下たちの一人が、夜食のバナナの皮を剥き何かを暗示させる。
口いっぱいに頬張るそれを投棄すると、ふわふわと、バナナの皮が、ぺちんと、整備兵の顔に被さる。
「お”い”誰だ。戦闘配備中にバナナ喰ってる奴は?」
「えッ?大佐も食べたいんですか?もー仕方ないなぁ。」
払いのけたバナナの皮が突起する体の一部に引っかかり左右に振りながら、二本目のバナナを取り出した部下に対して、
注意する。
「戦闘配備中に経口摂取が許可されているのは、戦闘糧食のみだぞ。バナナは喰うなッ!!!」
「ふぁぃ!」
あれ、あたし、嫌いなんだよなぁ、機雷掃討作戦と同じぐらいにね。転職失敗したかなぁ。この隊のみんな、表情が怖いんだもん。
おねぇちゃんにもウェンディゴ部隊には絶対入るなって言われてたし...でもお給料良いんだよなぁ。食事も支給されるし、
でも不味いから吐いちゃった。
この部隊に入ってからの初陣に、緊張を紛らわせる為に持ち込んだ、噂の歌姫の音源を引っ張りだして、その歌声に魅入られつつ聴き惚れる。
それはいつの頃から始まった。海賊放送によって世に広まった。唄声...その製作者と歌姫の姿もそして名前すら知られぬまま、
広がり、其の音源の入手方法は、定期的に流れてくる海賊放送を受信する以外、入手する方法が無い。故に、高額で取引される。
これは偶々姉が回収して、コピーしてもらった。時系列は不明だが未発表の新曲だ。
その詩は拙い物の心に訴え掛ける様なそのフレーズに、心が惹かれる。
「山崎大尉、機体をA型装備に換装した。状況は不明だが、最後の通信から戦闘状態に入っている事が分かっている。A型装備の使い方は知っているな、僚機をフォローして逝け!?」
あんまり逝きたくないんだけどなぁー逝くより逝かせる方が得意だし、と、心の中で悪態をつきながらも、バナナを頬ばるハルナ=山崎は、手早く手引書を読み込み。凡その操作を把握。
一応。習熟訓練は経ているし。まぁ大丈夫でしょう。
「ふぁい。」
と、返事をして、コックピットのハッチを閉めると同時に、メカニックの同僚は、バナナの皮に滑って転倒し、その意識を刈り取る一打となると、
刻が、バナナが視える...意識を失い、浮遊する男は、幸せな夢を見て、沈黙すると
仄かに低重力を感じる空間に鮮血が舞う。
「ヴォルク・チェロヴェク...アイン・アングリフで出るぞッ。随伴機は、逐次出撃遅れるなッ!!!!」
カタパルトデッキから、射出されゆく四機の新たなる機影を確認し、春幸は、どうしたものかと思い悩む...
このままみんなが居る宇宙基地へと戻っても...大騒ぎになる。
不在時の問題は、あいつらがきっと誤魔化してくれるだろう...。と淡い希望を抱きつつ、後でレポートを写させて貰わないとな...
まぁ成るようになるさと、
元居たコロニーへと進路を転進次第に、演習宙域から離れて行く。
(・д・)チッ
「目標の船足が、思っていたよりも早いな...。このままでは取り逃してしまう。」
「アングリフより各機へ、これより直列接続による加速に入る、接続後、高速機動に入る。軸足を揃えて、逝くぞ。」
「「了解」」
「むほぉー!!!」
ん?まだバナナ喰ってるのか?やれやれ...
えっと機体の軸足を合わせて...接続コネクタを繋げて、ジェネレーターを直列励起させれば...。四機の《Fictumフィクトゥムドライヴ》が接続され、
励起された粒子放出量により、加速軌道に入る。と、
各機のジェネレーター出力を最後尾へと繋がる、A型装備に換装された《ブレイズ=ガルヴ・ディム》のアタッチメント機構へと注がれる。
膨大な光子出力に支えられた。展開翼に、キラキラと光る。粒子結晶を弾かせながら、繋がる4機の姿を霧に包ませ、その機体色の姿を、無明の闇へと偽装する。
その接近に気付かぬまま、スロットルを徐々に緩めつつ、転進する《セカンドアーヴル》の背後から迫る。
「各自、敵性機体との接触迄...180秒。警戒と連携を密に。」
《ヴォルク・チェロヴェク》の指示が飛び、加速軌道に入る各機の動きが密集形態から散開状態へと変わっていく。
ふと、背筋に嫌な感覚を覚える。この感覚がある時には、何か嫌な状況が迫ってくる時だ...未だにこの感覚に馴れない...
機体に搭載されているセンサーを起動。
コンソール上では、重力感覚器官《Sensorium Gravitatis》(センソリウム グラウィタティス)の文字が躍る。
ん?この機能どこかで見た気がするな???
周囲に展開したその感覚器を頼りに接近する機影を確認。
背後の無音の闇からの急襲をいち早く察知し、再びの高速機動に入る。追従してくる機影は...四機、其の内三機はさっき見たものと同型機だと思われるが
隊長機と思しき一機は...見たことがない...
ウィンディゴ部隊の装備と機体は凡そのスペックは知られてはいるが実物を見るのは初めてだ...シュミレーターの設定と、何処まで同じで違うのか?
スラスターと姿勢制御用のバーニアを点火させ、逆進を掛けつつ、宙に位相空間固定アンカーを射出。
狙い澄ませた一打が向かい来る機影の脇を掠め。虚空に着弾する。
波立たせる波紋と共に、宙域に浮かぶデブリの素体を引き付け、空間の固定化を解除し、その物体を利用しての機体を中心にした振り回しを敢行
実体剣を構えた《ブレイズ=ガルヴ・ディム》C型の物理シールドとビームシールドの側面に着弾する。
機体の残骸が、その勢いのまま命中にするのに任せるも。
「その程度の攻撃では《ブレイズ=ガルヴ・ディム》は墜とせないぞ?!」と、ウィンディゴ部隊で《ヴォルク・チェロヴェク》の随伴機要員として参戦した
フルーツ=ポンチは、機体の制御を駆けて、接近戦を仕掛けるべく
邁進するも、機体に何かの違和感を感じる。敵機との光り輝く輝線のラインが...いつの間にか成立し、《セカンドアーブル》のアンカーが機体へと接地し、繋がれる。
強烈なGを受けながら巻き取られるワイヤーが機体の制御を奪いつつ、一気にその機動力を殺し、バーニアによる逆進で、軌道の修正を試みるが...
機体出力の差により、その行動も無為に終わる。
突然の事に狼狽える僚機を他所に、ハルナ=山崎は鼻歌交じりにバナナをたぶる。ひと齧り、ふた齧りする間もなく
B型装備を備えた《ブレイズ=ガルヴ・ディム》が、その加水分解を促す爪牙をワイヤー射出。バリスティッククローの一打を以て、援護に入る。
「どうしたハルナ大尉。援護はどうしたッ!!!」叱咤する声が響き渡り、
迫るバリスティッククローを春幸は、右腕マニュピレーターに搭載された戦場槌たるその基部より回転し射出するガトリング砲の乱れ撃ちを繰り出し
偏差射撃で、一基、また一基と、その基部の刃を撃ち落としていく。
空中で弾き飛んだバリスティッククローはその狙いを逸らされ宙で、自らが放った牙同士が絡み合うように衝突、次々と《セカンドアーヴル》の回避運動と交えて
その狙いが悉く外れる。
外装部から弾け飛ぶように、斉射される実体弾の雨が、大きく雨空に映える虹の輝線の様に大きく半円状に飛来してくるも、
その実体弾の雨を突撃螺旋戦葬の基部に備え付けられたガトリング砲の斉射で迎え撃ち、。
なだらかな曲線を描き降り注ぐその攻撃に対し、連射する咆哮の方向を器用に微調整し、迫るバリスティッククローの刃を逸らし回避行動に伴った旋回を繰り返しながら迎撃に勤しむ。
機体の左右から次々とアンカーの射出と巻き取りを繰り返し左右に、移動する振り子のように振り仰ぎながら迫る。
その手慣れた機動戦闘に、且つての何かとの戦闘が脳裏に過る。
《ヴォルク・チェロヴェク》は、ハルナ=山崎へと《ニヴルヘイム(霧の国)》の発動を促し、自らもその機体に備わった武装の展開に入る。
虚空に突如として現れた、氷壁の流氷が現出。
その霧氷の壁が背後から、迫る中。
その手元に巻き取るアンカーの終点の先でもがく機影に対して、相対距離を合わせ迎撃の為に抜き放たれた煌めきを放つ実体剣の刃を回避。
延びる膝蹴りが、《ブレイズ=ガルヴ・ディム》の胴体部分に着弾すると共に何かが撃発し破砕する振動がコックピット内部に響き渡る。
重要な機関部を貫かれ、返す蹴り脚で、吹き飛ばされた機体が、無重力の慣性運動のまま僚機の射線へと割り込んでくる。
さなか咄嗟に銃撃の手を休めるも。
結晶の弾丸が乱れ飛び。浮遊するその弾体に向かい、追撃の銃火の光を放つ、
銃身から乱れ飛ぶ光の弾丸は、宙域にバラまかれた結晶体に命中すると、幾何学模様の射線の光を放ち、乱反射を繰り返し、
迫る三機の機影に降り注ぐ。
即席のオールレンジ攻撃に晒される中、反瞬遅れて展開される《ニヴルヘイム(霧の国)》と退路を塞ぐように展開された氷壁を生み出した謎の攻撃に、
春幸はその手にフィットする操縦桿を掴み、迎撃を選択。
マニュピレーターを操作、左腕の発振器を取り出すと伸縮と収縮を繰り返す確変する刃先を振るい。その刃を以て
迫る氷壁にその刃を突き立てる。
その膨大な熱量に晒され氷壁は、融解し、辛くも崩れ逝くが、更に背後を振り向き、がら空きとなった背面へと更に氷塊の一撃が迫る。
背後を見ないままのその攻撃を察知し、反転軌道を描くと同時に上へとアンカーを打ち込み、高速巻き取りを実行。
突如巻き上がる様な輝線を描く変則機動に入り、直前で回避。
急激な稼働を繰り返すもコックピット内部の制動は、設置されている重力制御機構により相殺されるも、迫る敵影の姿におびえた少女が抱き着いてくる。
咄嗟に、操縦桿が離れ、続く連撃の砲撃を防ぐ術を喪うも
脳内で描く、その軌道を以て回避を選択...バレルロールを繰り返し、敵の砲撃を縫って制動を駆ける、
急いで操縦桿を掴み、更なる回避軌道へと移るなか...
今、思考しただけで機体が動いた...。これは...おじさんの...動きと同じだッ?!となれば、この機体にはアレが搭載されているはずだ?
だが、発動するキーがイマイチ分からない。
試しに、覚えているワードを唱え、音声認識による発動を試みる。
「一葉灼伏…15%」「その想い。二度と亡くさない様に、啼け《アースガルズ》(神々の庭)!!!!」
いつの間にか上下と四方を結晶体の氷壁に囲まれる中、その声は虚空に響き、コンソール上にERROR表記が踊る。
「音声キーワードが違います。正しい、起動ワードを入力してください。」
なッ違うだと???じゃだだったら何が正しいんだ。
迫る氷壁に対して、銃撃と刃を突き立て時間を稼ぐ。
...
...
...
バナナを頬張り、うーんなんかあたし、何もしてないけど、隊長の攻撃でケリが付きそうだな...フルーツ=ポンチさん、生きてるかなぁ?
まぁあの位置だとコックピットは無事だし、まぁ大丈夫でしょう?などと呑気な思考をしながら、、自らは霧による敵センサーの惑乱及び妨害に終始し、
申し訳程度で、機関砲型のビームライフルでAI操作でのランダム回避運動により、銃撃に専念して、壁を壊して囲い込みから逃げようとするその機影に対して、弾幕を張り続ける。
B型装備を駆る。ヴィクトム=フォルストは、中距離射撃戦での不利を、弾幕を打つことにより敵の動きを隊長の攻撃から逃がさぬ様に、逃げ道を塞ぐことに専念する。
放ったバリステッククローを巻き戻し、斉射による攻撃に、舵を切り直す。
砕ける氷壁の隙間から離脱しようとする機影に対して、制圧射撃を繰り返し、向こうも複雑な機動を描き離脱を妨害する。
その間に破壊された氷壁から新しい氷壁が産まれ。その行動を阻害していく。
…
…
…
なにか、何か?何かないのか?この状況を打開する方法は?操縦桿を操作し、次々と現れては消える武装とモード選択の画面で、
はたりと気付く...最初に選択したモード以外にも、いくつかの他のモードがあったはず...
ガチャガチャと操作しその選択を選ぶ。
それが吉と出るのか凶とでるのか...
壁を打ち砕かんと刃を振るうその機体の下半身部位が180度回転。脚部を接近戦用の形態から、高速機動戦闘用へと変更。
前後に開閉するスラスターの基部が覗く。
逃げ場のないその牢獄から、脱出を試みる。切り払う刃が氷壁の一部を切り崩しながらも、コンソール上に展開される説明文に目を通して、
本当に可能なの?かと?違和感を感じるモノのその光景に似た現象は且つて見たことがある...
意を決して、背面と脚部のスラスターを噴き上げ、その推力に厭かせて。その氷壁に向かい突撃する。
結晶体の牢獄が完成し、閉じ込めたと確信を感じるものの機体センサーに異常を検知。
透過する実体を持たぬ存在でも熱量を持った粒子でもなく、その姿が、0と1との間の無限に存在する実数の間にある原子の隙間に機体を滑り込ませると、
真空の宇宙空間において、物体の形状を保ったまま何の抵抗も受けずに、慣性加速の軛の限界を超える。
直進するまま敵機の脇を通り抜け、背後に突如回り込む軌道を描き、
操縦桿のスロットルでは、既にクイックモードへと選択がなされていた。コンソール上の文字列には、推力を示すインジケーターが、測定不能を指し占めす。
突如背後に現れた機影に、自機の360度四方へと氷壁を生み出し、再び氷結の牢獄へと送り込むが、
実体を伴った機体が、するりと氷壁の0と1の間に滑り込むと突き出した。伸縮と収縮を繰り返す確変する刃先を振るい突き出した刃が、
安全圏から一方的に攻撃してくるアイン・アングリフの白き機体の装甲を軽くあぶり、肉薄する。
灰燼に化すために振るわれた腕部の銃身と刀身が一体化された刃で切り払うが、気づいた瞬間には、背後に回られ、
その足撃が速度を伴い叩き込まれる。
前傾姿勢でバランスを崩し、眼前の氷壁へと激突。、火花を散らし、衝突に耐え、コックピット内部でエアバックが展開されその衝撃減衰させるものの
眼がくらみ、ノーマルスーツのヘルメット内部で、目からチカチカとチカチカと光が見える。
「クソ、何だ一体?!動きが見えない?!」
同時にその姿に翻弄されるまま、目標を見失い
突如現れた姿に、照準を合わせて撃ちあうが、その射撃線が、次々と《セカンドアーヴル》目掛けて飛来するが、
何もない宙域で繰り広げられる。ワイヤー軌道と、一瞬で奇跡の様な軌跡を描き、距離を詰めそして離れてはの一撃離脱の繰り返しに翻弄される。
その動きに応ずる為にビームサーベルでのカウンターを狙うが、振りかぶった次の瞬間には別の方向へ進展し、他の追従が追い付かない程の高速移動で、残像すら残さず、
肉薄し、《ブレイズ=ガルヴ・ディム》の脚部を溶断、離脱、回避、接近、そして腕部を解体し、返す刀で目標を二機目の機体へと移し、
メインカメラを備えた頭部を切り落とす。
「えッなんで《ニヴルヘイム(霧の国)》で位置を妨害してるのに何で?」
「そんなの出たらめに銃撃してたら銃撃の光で、居場所なんて丸わかりだろ。」
「あっそうか?わざわざありがとう。ん?バナナ食べる?あれ?でもこれあたし死なないかな?」
「そうだね。」と言葉を紡ぎ、止めの一撃を加えようとした瞬間、通信越しに詩が聞こえる。懐かしくも聞いたことのない言い回しのフレーズが響く。
「この詩は母さんの?!なんで?」
Σ(・ω・ノ)ノ!
「????」
咄嗟に振るう刃が鈍り、斬りつけるか、逡巡したものの達磨にしたその機体に蹴りを叩き込み。蠢動し、一撃離脱。
随伴機が次々と墜とされ、戦闘不能に追い込まれ、残るは。自らが駆るアイン・アングリフは、機体各部に備え付けられた。
実体兵装と共に象眼が施された咆哮が開き、一斉に粒子の一射を、鋭角の角度を付けて飛来する光の投射攻撃と、
放物線を描く実体兵装の光のコントラストを描き、炸裂する。
飛来してくる斉射に対して、ジグザグの軌跡を描き、右往左往する春幸は、脳髄に奔る直観を頼りに、
戦槍に備わったガトリング砲による精密射撃で対抗する。時間差で到達する光と実体兵装の雨を、
初撃の連弾を引きながら、通信先から流れ出る詩を胸に、その行為に勤しむ。
一分間に一万2000発を超える。濃厚な銃撃の嵐を戦場へと巻き起こす。
初手で繰り出した砲哮は、狙い違わず。飛来する実体兵装を撃ち抜き、爆散。
更には多数展開する放射攻撃に対しても出たらめに狙いを付けて撃っている様に見えるが、一発、一発が、高速で回転される銃身と連動するかのように、
乱れ飛び敵機のその攻撃全てを宙空で撃ち落とし、互いの射程の中央地点で、光の粒子がはじけ飛ぶ光景が散見される。
と、同時に展開されるアンカーを虚空に打ち込み半円機動で敵機の側面に回ると、
自らの攻撃全てが撃ち落とされる異常事態にも、冷静に対処しようと、目で追う《ヴォルク・チェロヴェク》は、完全に目視する対象をカメラの視界外へと消えゆく輝線の後を追従する様に操作を行うが、左右へと撃ち込まれるアンカーによる急速方向展開に、カメラの視界からその目標を完全に見失う。
「その軌道は、こちらの十八番だぞ?!何故逆に翻弄される?!」
はっとなり気付くと、いつの間にか機体の背後を取られ、ガトリング砲の一斉掃射をその身、一身に、喰らい続ける。
咄嗟に展開された。象眼から延びる突起を中心に機体の全身を覆う劫波の楯と何重にも折り重なった装甲に、何度も何度も振り続ける滂沱の涙の如き雨量に
その防御が次第に剥がれ落ちていく。
連なる音階が、通信から漏れる詩と重なるように、リズムを刻み連弾す。
コックピット内部で乱れ撃つ雨音に晒されながら、《ヴォルク・チェロヴェク》は反撃の糸口を見つけるべく思考する。
弾け飛ぶ防御の合間をぬってアイン・アングリフの各部に備わった象眼機構を解放。
目にも留まらぬ速さで、何周も繰り返さされる同心円状の高速機動を展開、銃撃の連弾が着弾する間もなく、その位置と、方角を切り替え飛び跳ねるも、
光の銃弾が霧散し、消え失せる。
(これは...親父の拡張武装に似てる?!?!何故そんな事が可能なのか??もしかしたら過去の戦役後のどさくさに紛れて回収して流用したな?)
(となれば...その内、かつてのあの機体と同じ、機能を有した機体が既に存在するかもしれない。)
思考は、最悪の状況を思い浮かべつつ、打開策を練る。
ビーム系の粒子兵器類は、防がれるとみて良い。となれば、実体兵装が必要だ。
手元にあるのは...脳内に最適解の武装選択内容が次々と浮かんでくる。
その様子を察知し、恐らく打開策の一つとして選択するであろう。その槍の穂先での接近戦を警戒、
囲いを抜ける為に、一気にスラスターを点火、アイン・アングリフは、下方へ一気に加速し、下へ下へと下りながらも
各部に搭載された象眼から、放射状の射撃戦を展開。
その狙いは、高速移動し、位置を変える《セカンドアーヴル》へと注がれる。
既に脚部を180度回転させ、裏側に回った撃発機構が仕込まれた膝の射出口から放出される粒子によって、更なる加速運動を開始
敵機から砲撃を、瞬き視認した瞬間に、悠々とした左右の旋回軌道による回避を繰り返し、接近する。
その光景におろおろするハルナ=山崎は、メインカメラを全損したまま、映り行く戦場へ赴く。
繰り出す銃撃を防がれるのであれば、粒子を射出後、すぐ様、固形化し、物理的な弾体として打ち込む。
回避運動に入ったアイン・アングリフの機動力を削ぐために、上手の一を確保しつつ、続ける連弾の一撃が、
その脚部へと浅く命中し、バランスを崩して、失速する。そこに急加速した《セカンドアーヴル》は、そのワイヤー軌道により
最小限の旋回軌道と、原則的な減速を行わずに肉薄する。
(・д・)チッ
《ヴォルク・チェロヴェク》は逃げられないと見て、その方針を転換。再びの全身防御形態に入りつつ、その象眼から実体弾への防御能力を載せた。
メンブラーナ・ニグラ《黒膜》を放出し、こちらに向かってくる随伴機との合流...という名の、肉の楯を得るための動きを見せる。
その動きと、意図に一瞬で察知し、そうはさせるものかと、追撃に入り、銃撃を擦れ違いざまに加えるがメンブラーナ・ニグラ《黒膜》の防御により、防がれる。
突如隊長機がこちらに向かってくる光景に、あわあわしながら、バナナの房を捥ぐ。
そして気付いた瞬間、バナナを頬張るのと同時に、その左右非対称のその機体が目の前にあらわれ、慄くも、
何故か、一向にこちらを攻撃してこない???はてなマークを浮かべつつもとりあえずバナナを食べる事を優先する。
モグモグ
必死の形相で叫ぶ、《ヴォルク・チェロヴェク》機は、何を思ったのか、その射撃兵装の狙いを、ハルナ=山崎機へと付けると放射攻撃を展開
へっ?
呆けた様に呟く声と共に、
敵機への巻き添えを狙ったその一打は、《セカンドアーヴル》の左腕に搭載された蛇腹状に展開するその腕部より吐き出される。
熱分解の炎を一射し、コックピット内部のコンソール上に「Pyrolysis Breath」の文字が浮かぶと共にその蒼白い炎で焼き尽くし
伸びる左腕が、向かってくるアイン・アングリフの機体を捉えると、彼我の距離を詰めるべく戦槍の穂先に狙いを付けてその一撃で打倒するべく迫る。
撃発される穂先が、敵機に向かい奔り、一部の象眼から展開された光の装甲が、光を放ちながら一時的な楯として機能、突き刺さる威力をメンブラーナ・ニグラ《黒膜》と共に
減衰させるが、その衝撃で大きく進路がブレ、その推力が減衰、回避運動が止まりバランスを崩すと、
その状況で、一体何が起きているのか分からぬまま、ハルナ=山崎は、フットペダルを踏み込み、スラスターを吹かせるとその軌道へと割り込む。
「逝っちゃらめー!!!!」
穂先を巻き戻し、止めとばかりに構えられた槍の穂先が僅かにそれてアイン・アングリフの上腕に叩きこまれる。稼働する穂先が抉り取るように通り過ぎる。
衝撃でコックピット内でパイロットシートに固定された《ヴォルク・チェロヴェク》の身体が浮き上がり、勢いを殺すようにエアバックが起動。
ふり乱れる視界の中で、ヘルメット内に舞う鮮血が視界の一部が覆うが、吸引機構が即座に作動。だが連撃は止まらない。
その戦力を削りながら、伸縮を戻した左腕に構えた、発振器より発する伸縮と収縮を繰り返す確変する刃先を振るい、
楯となる様に間に入るハルナ機を器用に避け、
残るアイン・アングリフの右腕と脚部を狙い。一振り、苦し紛れにだされた反撃の剣の刃を回避しながら叩き込み部位を飛散させる。
半瞬後には、機体上空へと射出したアンカーを巻き取り、
急制動を駆けつつスラスターを吹かせ、宙返りと同時にスラスターを点火、逆落とし状に二振り目を斬り込み、対象を溶断する刃が、目まぐるしく変わる。
止めとばかりに視界の中で、目標の背後へと移動すると無防備な敵機の背に蹴りを叩き込み飛散する装甲と共に蹴り飛ばし、戦闘不能へと追い込む。と、
その結果に満足し、その矛先を収め、その数秒にも満たない刹那の間の間に、起きた数合の打ち合いが追われる事もなく終わる。
(・д・)チッ
母さんの詩は殺せない...。それと同時に浮遊感を感じながらも
心配そうにこちらの様子を伺う手の中の少女を胸に、これ以上の戦闘に意味がない事を知る。
脳内に響き渡る。その選択肢に頷き、
モード選択を変更。高速フライトモードへの変形を選択。
背面部のユニットカバーが機首となって頭部を覆うと、腕部と脚部を折りたたみ、戦槍を機首下部へと収めると、腰部を回転させて、
背面のブースターと同一化されたフライトユニットが展開し翼となると、一撃離脱を旨とするその機体は、戦闘機形態へと変形すると、接敵した敵の追撃を完全に振り切りながら、去っていく
「あれ?なんであたし生きてるんだろう??」
まぁ良いかとバナナをパクつきながら、身動きの取れなくなった僚機の回収と、救援要請を試みる。
...
...
...
去り行く、戦場を後にして、これからの事を思案する。小型艇を盗んで戦闘行為をしていた事が判明すると...聊か困った事になる。
まぁ、成るようになるさ、その時は宙へと飛び出せば良い。
だが、其の杞憂は、友人の機転により回避される。
...
...
...
一先ず、住まいのあるコロニーへと外部隔壁を順番に手動で開閉を繰り返し、内部へと侵入し、
この機体をどこかに隠さないと...と、家の裏手にある丘陵地近くの森林地帯にとりあえず隠すことにする。
「しかし、親父にどうやってこの娘の事説明すればいいんだろう?案外あんたの隠し子だって言えばすんなり受け入れそうな気もするけど...。」
「まぁ、成るようになるしかない。」
コロニー内部に移り、携帯端末の使用が可能になると、領五からの鬼電が、ひっきりなしに届いていることに気付く。やばっ抜け出したのが、バレたかな?
とも思うが、そんなこともなく。
事の経緯を聞き取ると、何かを察した領五とエクィタスが、突如の急病の申し出と火災報知器の誤作動により、混乱する宇宙基地内から、
実家から呼び出した。船での帰宅を促し、一緒に帰った事にしたらしい。
些か、怪しい動きではあるが、そう言えば、エクィタスは実家が軍事産業の会社だったよな。普段は使わぬ強権を発動して、有耶無耶にしたらしい。
「やれやれ、二人には話て置くか...状況的には、友人たちには話しておいた方が何かと都合が良いしな。」
...
...
...
「(*´Д`)はぁ?春幸?!正気かよ。一体何考えてるんだよ。そんなことで、将来を棒に振るつもりだったのか?」
「まぁまぁ、領五君、結局何事もなかったし、人助けも出来た事だし、それくらいいいでしょう。」
「問題はこれからの話ですよね。どこにその娘を匿いますか?」
そうだよなぁ、と頭を捻りながら、どうにか親父の隠し子にできないかな?と、無理やり捻じ込もうとするも、
「いや、流石に無理があるでしょう。なんなら僕の家で匿いましょう。」
いやいや、お前が匿う方が無理があるだろ。
「大丈夫ですよ。うちの親は数年家に帰ってませんし、子供の一人や二人が増えたとしても気付きませんよ。」
「それよりこの子、アイ=フライヤーって言ったけ、風体がどこかの誰かに似ている様な気がするんだけど?誰だったかな?」
そこに、一仕事を終えた、アイジェスが戻ってくる。
やべぇとなって隠そうとするも、
「ん?」スンスンと、部屋に充満するその匂いを嗅いで、どこかで感じた様なその匂いに、アイジェスはその感想を漏らす。
「なんだ。その娘は?もしかして俺の隠し子か??がッはッは。娘を作った覚えはないが、まぁいいだろ。春幸、友達と一緒に飯を食って行って貰え。」
「その内、青葉も帰ってくるだろ。」
...
...
...
「相変わらず、お前のおじさんの思考は、読めねぇ。何喰ってたらあの結論になるんだよ。なんでだよ自分から隠し子って、あの人結婚した経験もないだろ?」
...
...
...
「とりあえず、この件は俺達だけの秘密な。お人好しな親父には明かした方が俺には、都合が良いが、問題が複雑化する恐れがある。」と、春幸は言い指して、
アイジェスの調理の手伝いへと、小走りで向かう。
その間、不思議な表情を浮かべる少女を相手に二人の友人たちが、相手取り、晩餐を終えて、それぞれの家路に帰る。
...
...
...
月日は移り変わり、何事もなく時間は経過する。
彼女を保護したあと、結局、その娘は、ウチで引き取る事になった。
まぁ、家に居る間の面倒は、青葉姉ちゃんが引き受けてくれた。其の内、学校にも通わせるみたいな事を言っていたが、
目下の問題点は、戸籍がこのコロニーに無い為、難民申請でもしないと居住権が獲得できない事に頭を悩ませるが、
親父は俺の隠し子って事で良いだろで、押し切ろうとする匂いがほんのりする。
まぁ冗談でもなくおじさんなら、そうしそうではあるな。
そんな状況下でも事態は、水面下で動き続けている。
「あー最近は、ユズリハの奴が冷たいんだよなぁー...。昔は母さんの詩が好きだって、至る所で、一緒に詩について話し合ってたのに、最近そういうのが無い。」
「ハハッそうだね。」
(知らぬが仏ともいえるからね。)とかつての光景をエクィタス=ユースティティアは思い出す。
なるほど、二人とも、彼以外の男性とは付き合いたくないと...
でも今まで邪険にしていたから、距離を置かれてしまった。その事は彼も知っているのでは?
はぁ?人づてに伝えたけど、あまり本気にしていないと?
まぁ普段の君の態度を見ればそれは無理からぬ事、蛇蝎の様に嫌っていたからね。
そうか。君は彼の事が好きなんだね。でもね。それは恐らく彼も同じではあるとは思うが、彼への想い人は他にも居る。
僕が間に入ってあげよう。
だけど、君は、その態度を変えては行けないよ。今までの邪険にしていた態度が、偽りだったとしても、いつも通り拒絶し、小悪魔的に、振る舞い。君はその態度を変えては行けない。
今まで通り他に想い人が居るようにふるまわなければいけず、距離感を保ちながら、自ら声を掛ける事も逢うこともできず。もしも喧嘩して別れの時が訪れたとしても、それを受け入れ、
彼の判断を待たなければならない。
それでも良いのであれば、彼の想いを確かめるチャンスを提供しよう。誰もがこの試練を経なければならない。これは約束ではないかもしれないでも...だよ。
全ては、その青春の終わりを確かめるために。
これは君を試す問題ではない。全ては彼の真なる想い人を探し当てる。試練だ。
何故ならば、彼にも想い人が誰なのか知らないのだから。
唯一つ、君は詩を謡う事を赦された。その想いの丈を唄い上げると良い。
それは、もう一人の彼女に対しても、同じ条件で、唄を歌って貰おう。それを手紙に添えて、
どちらを選ぶかを、彼に選ばせるのだ。
果たして彼は、君に酷く邪険に晒さても君を選ぶかな?
...
その答えはもう既に出ている。これは、事情の知らない誰かに対して示す既に通り過ぎた標の
断面だよ。
僕の事は、そうだね...
...
と、呼んでくれ。
...
でも、あの娘は、お唄を歌うのが得意なのよ?
そうかいそうだね何事も公平にしよう。君は、他の詩の得意な人の協力を受けると良い。さぁ、想いの丈を唄うがいい。
それで、それぞれの詩を応援してくれる人達と合わせて、手紙を送り逢おう。
彼がどちらを選ぶのか、長い長い、旅をしよう。
その先で誰が誰を選ぶか?分らないけれど、これは、約束だ。
君もそれでいいね?
はぃ。
良い返事だ。
それでは、みんなでその青春の終わりを見に行こう。
...
日々は過ぎ、在りし日の思慮と想いを繋ぎ、
そっと詩と想いを込めたその手紙を...。机に忍ばせる。
さっと、過ぎ去ったその人影を見ていた何者かは、
こそこそと、其の宛名と手紙の内容に手を加える。
ん?なんだろう春幸は、その手紙を一読して、その詩を聴くと、ぽろぽろと涙を流して、
かつての母の詩を思い出す。
宛名のその名前を読んで、差出人に声を掛ける。ユミナリアは、何も答えないままでも、
その宛名を指し示すように書き添えられた。文面にはその詩を誰が贈ったかの署名が記せられていた。
…
…
…
その名を呼ばれて嬉しそうにしている。その二人の姿を、
少し離れた場所で...誰かが、哀しそうに見ている...私の詩なのに...
...
...
なぁ、ユズリハ、どうして怒ってるんだ?昔みたいに、また、話せないかな?
ぷぃッと、そっぽを向いて、不機嫌そうなその態度に困惑する。
それに反してユミナリアは、嬉しそうに話しかけてくる。
周りの友人たちに促される様に、ユズリハとの距離が次第に離れて行く。
いつもの様にユミナリアと一緒に下校して、他愛もない会話をしながら、
二人は行く。
なんで、俺なんかの事が好きなんだ?と、唐突に問いかける。
にぃにぃ好き...
そっかー。その間にも耳に残る詩を聴きながら、その詩がどうにも心に突き刺さる。
泣き出しそうな空とコロニー内で管理された、雨が降るであろう時間が迫るなか、
どこかで雨宿りをしようか?
...
...
...
絶対上手く行くよ。だって、相手は、話しかけられないし、詩の宛名をこっそり変えれば...
絶対に勝てる。
でも...そんなことしても、
大丈夫、私が上手くやるから。貴女はいつも通りして居れば良いよ。貴女は何もしらない。
どうせ結婚した後にわかってもどうにもならないし、きっと彼は気付かない。
友人の一人はそう請け負い。その手紙から名前を消し、そして詩の持ち主の名を書き換えた。
だが、直接話すことを禁じられた誰かは、抗議の声すら上げず時は過ぎ去っていく。
いつの頃から、その隣に立つのは、一人だけに。
…
…
…
なんで、ユズリハは、話を聞いてくれないんだ。
ぷいっとそっぽを向いて
にぃにぃ嫌い。近づかないで、話しかけてこないで、私好きな人が出来たの。会話も忙しいから答えられない。一か月に一回ぐらいなら話しても良い...
そんな邪険にされても、声を掛けるが、
次第にその会話は悲しいものとなって、その別れの時が訪れる。
なんでだよッ!!!なんでまた、好きな相手を諦めちゃうんだ。俺は君が誰かを好きなら、それでも応援したい。
〇〇〇から!!!!なのになんでそんな簡単にッ!!!
もういい!!!
其の口論は、終わることなく、その去り行く後ろ姿を眺めて居た、彼女の想いは、傷は、いかばかりなのか?
…
…
…
そして何も言わずに彼女は、去っていき、その行方が様と知れず。
其の後には。残された詩と共に、別の誰かが座り込む
本当にそれでいいのかな?
その青春の終わりに、二人は寄り添い、二人は離れた。
物語は、何事もなく進み、
そして続く。
〆
毎月、月末最終日に2話更新予定。
誤字脱字、誤りがあったら修正するので、教えてください。




