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隣国の話2

夜は、とても静かだった。

けれどその静けさは、彼女にとって癒やしではない。

音が消えるほどに、思考が鮮明になる。

そして、願ってはいけないことを考え始めてしまう。


――どうして私は、ここにいるのだろう。


考えた瞬間、胸の奥で何かが鈍く鳴った。

痛みとも違う、体の奥から立ち上るような熱。

すぐに刻印が反応し、光が一瞬だけ脈打った。


「……また、だ。」


呟いた声も、もう掠れていた。

疲れ切った喉では、誰に届くこともない。


机の上の白紙の本に、ひとりでに薄い文字が浮かぶ。

エンカはそれを見て息を止めた。

指先も触れていないのに、ページがめくれる。


『ねがい』


刻まれた一文字に、彼女は目を見開く。

その言葉は、存在してはいけない。

彼女の身体は“願い”を起点に魔力を発動する構造にある。

だからこそ、父は「願い」という概念そのものを封じたはずだった。


なのに、ページは勝手に進む。

次の文字が、滲むように浮かび上がる。


『にげたい』


それが現れた瞬間、全身の刻印が一斉に光った。

痛みではなく――拒絶だった。


椅子ごと後ろに倒れ、視界が白く染まる。

呼吸が追いつかない。

光が皮膚の下を走り、骨の奥で何かが裂ける音がする。


「いや……いやだ……」


否定の言葉が、祈りのように漏れた。

それでも止まらない。

魔力は勝手に流れ、本の中へと吸い込まれていく。


ページの端から、淡い蒼の炎が立ち上る。

燃やすつもりなんてなかった。

ただ、逃げたいと願っただけだったのに。


炎は書を焼き、部屋の空気を震わせ、

エンカの髪をふわりと持ち上げた。

その瞳の奥には、まだ何の意志も宿っていない。


ただ――心が初めて、痛み以外の感情を覚えた。


それが何かは、彼女自身も知らない。

けれど、その瞬間から、刻印の一部が微かに欠けた。


強い無力感に襲われ、エンカは意識を落とす。



「ああ、最近は我が国も昔のように景気を取り戻した。」


金の杯に注がれた果実酒を見つめ、感慨深げに王は呟く

言葉の先にはクレノア国、最高戦力の男ヴァルドが立っている。


「エンカの転写魔法か…。あれはかつてないほどの力だ。御しているうちは国に大きく貢献するが、下手したら国の脅威にもなりかねん。」


ヴァルドは険しい顔をする。


「やめてくれ、興が削がれる。そこまで心配しなくともヴァルドはエンカを討ち取れと言われたらできるのだろう?」


「私の魔力を打ち消す剣技であれば、一撃で倒せるだろう……があの本人も把握できてないほどの大量の紋章が暴走したとき、間合いまで私が生きている保証もない。」


「そうか…やつの転写魔法で作られたエンチャントブックで隣国を叩き、捕縛し隣国で才能とやらと呼ばれる魔法を我らの子孫の遺伝子に組み込むことができればエンカになど頼らずともこの国は未来永劫安泰だろ?」


かつて弱小国であった我が国の王も力を持ち贅沢をしればこうも醜悪に染まるのだな。ヴァルドは王の軽率な考えに異は唱えないがそれでも、この国をこの剣で守り抜いたものとして国の舵取りをこの王に任せることに不安を覚える。

王の気分を害さぬ程度にそれとなく事実を陳列し、考えの修正を試みる。


「しかし王よ、隣国とやらは何年の間も他国との交流をしていない。敵対し、敗北した暁には我が国が相手の属国となってもおかしくない。しばし、好機を待ってみてはいかがだろうか。」


「まぁ、そうだな。そういう考えもあるか。いいだろう、しかし何もしないのでは意味がない。貴様の部下に襲撃を行わせ、国の戦闘力を見定めようではないか。別に侵略しろという話ではない、ちょっとばかりちょっかいかけてくればいいだけだ。」


また突拍子もないことをいう。


「わかりました。エンカと調整し準備が整い次第、向かわせる。」

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