隣国の話1
はぁ…
そこには重いためいきをつく少女がいた。
連日、大勢の人が訪ねてきてその対応に追われ一睡もしていない少女は目の下にクマができ、その蒼白な顔からはひどい疲労感が滲んでいた。
また人が門をたたき、慌てて入ってきては用件を話す。
エンカ、前頼んでたやつできたか!?
息を切らし汗を流すその訪問者の男は、エンカが座っているすぐ近くまで身を乗り出して話しかけている。
エンカはその距離に居心地の悪さを覚えたが、仕草にすら出すことせず問いに応じる。
今できます。そういうとエンカの体が光る。それは全身が、というよりも体に光る刻印が
浮かび上がる。
エンカが文字が書かれていない本に手を掲げると、その本には魔力の文字が刻まれていく。
1Pからパラパラと自動的に捲れていきそれが最後のページに刻まれたことを確認してエンカは
相手に本を渡す。
約束の通り、対魔獣の魔法。私は昨日から寝ていない、疲れたから今日はもう本を焼かないよ。
それは困るぜ、外の状況を考えたら休む暇ないってことはわかるだろ?
外は魔獣だらけ、かつては他の国が手を出せないほどの強さを誇った。隣国は、2つの母体からなる複製ってのがよくねぇから代々弱くなっている。
俺らの国がいつかここら一体を束ねる未来だってそう遠くないはずだぜ?
エンカがこれからも俺らにエンチャントブックを提供してくれたらだ。
男の目には、醜い欲と闘志が宿る。
この男が言っている魔獣があふれているという事実、ここら一帯は苦しんでいる。
魔核を落とす魔獣を大量に狩っていた隣国は弱体化の傾向にあり、魔獣の増殖が
始まったんだ。
かつて平凡だった私が手に入れた魔力を模写し人に付与する本は弱小だったこの国に
革命をもたらした。
言ってることはわかる。それでも私に施された不自由が私を縛っている。
自由になりたい、逃げだしたいと思うだけでこの体は強い倦怠感に自由を奪われる。
私の父親が私の体中に施した紋章の数々が私に苦痛を与え、意図していなかった副産物が私に力を与えた。
その力は本に私が使える魔法を転写する。
これによって魔法の適正がない人にも本を持つだけで、私が刻印した本の文字が焼き切れるその瞬間まで使用することができる。
この力は父から実験道具として扱われていた私の待遇を大きく変えることになった。
父は人体実験の罪で処刑され、私はこの何も書かれていない本に転写をし続ける生活が始まった。
私は、この消えない紋章の力で自由に生きることができない。
私の能力でこの国は力をつけている。
この革命はいづれ隣国との戦争を招くことになる。
私がその片棒を担いでいる事実に憂う。