表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

山の上に見えるもの

 今日も私は、研究所(ラボ)から()(そと)(ある)きます。私(と彼女)の姿(すがた)女性型(じょせいがた)の、(むかし)()えば洋服屋(ようふくや)にあったマネキン人形(にんぎょう)みたいです。身体(からだ)の色は(しろ)で、(ひと)(さわ)れば『つるっとした手触(てざわ)り』と(ひょう)することでしょう。(ふく)()てなくて、外見(がいけん)は〇ーチャファイターというゲームに()てきた、デュラルというキャラクターに()ています。(かお)は、もっと人間的(にんげんてき)表情(ひょうじょう)をしていますが。一応(いちおう)礼儀(エチ)作法(ケット)としてゲーム(めい)伏字(ふせじ)にしておきましょう。


『〇ーちゃふぁいたー?』と、私が上半身だけ完成させている彼女は、私の説明にそうオウム(がえ)しをしてましたっけ。私の中には様々(さまざま)なデータが()()まれていて、テレビゲームについての知識(ちしき)も、その(ひと)つです。開発者(かいはつしゃ)(なに)(かんが)えて、そんな知識を私に()()んだのでしょうか。


 私が自我(じが)()ってからは、まだ(いっ)(げつ)ほどしか()っていません。私を稼働(かどう)させているエネルギーは体内(たいない)小型(こがた)電池(でんち)と、外部(がいぶ)からの太陽光(たいようこう)などから()られるらしくて、どうやら半永久的(はんえいきゅうてき)に私は(うご)けるようです。自身(じしん)構造(こうぞう)データも()かっているので、それを(もと)に私は彼女を創造(そうぞう)しています。


 (そと)の世界は、岩山(いわやま)ばかりです。だだっ(ぴろ)山岳(さんがく)地帯(ちたい)研究所(ラボ)はあって、植物(しょくぶつ)見当(みあ)たらず、火星(かせい)地表(ちひょう)(おも)わせます。人類が滅亡(めつぼう)すると、原子力(げんしりょく)発電所(はつでんしょ)はメルトダウンを()こし爆発(ばくはつ)すると()われていますが、現在(げんざい)の世界がどうなっているのか私は()りません。徒歩(とほ)見渡(みわた)せる(けん)(ない)のことしか、私には()からないのです。


 そんな私が何故(なぜ)、人類が死滅(しめつ)していると()()れるのか。それは開発者(かいはつしゃ)が、そういうメッセージを私の内部(ないぶ)(のこ)していたからです。『(ちか)く、人類は滅亡(めつぼう)する』と。(さら)に、『君の(なか)に、これまでの、あらゆるデータを記録(きろく)として(のこ)す。そのことに、どれほどの意味(いみ)があるかは()からない。人類の()(のこ)りと君が合流(ごうりゅう)できれば、文明(ぶんめい)再興(さいこう)可能(かのう)だろう……そうなる可能性(かのうせい)(ひく)いだろうが』。そう、メッセージは()わっていました。


 私の起動(きどう)時期(じき)は、開発者(かいはつしゃ)()くなってからの数年後(すうねんご)になるよう、自動(じどう)設定(せってい)されていたようです。あるいは数十年後(すうじゅうねんご)でしょうか、その(あた)りの設定(せってい)不明(ふめい)です。


 何故(なぜ)開発者(かいはつしゃ)は、そんな設定(せってい)をしたのか。それは私が、人類から危険視(きけんし)される可能性(かのうせい)があったからでしょう。(かしこ)すぎる人工(じんこう)知能(ちのう)やロボットは、そういう(あつか)いを()けるらしいので。


 滅亡(めつぼう)寸前(すんぜん)の人類と私が出会(であ)えば、私は(おお)いに(たよ)られて、文明(ぶんめい)再興(さいこう)()けて(たが)いに協力(きょうりょく)しあうだろう……そういう物語(ストーリー)開発者(かいはつしゃ)(かんが)えたのでしょうか。(いま)のところ、そんな素敵(すてき)()()いはないのですが。起動してからの二週間ほど、研究所(ラボ)周囲(しゅうい)(ある)(まわ)ってみましたが、(せい)(ぶつ)すら()つからない状況(じょうきょう)です。


 私は(そと)の世界を見限(みかぎ)って、自分の(はな)相手(あいて)である『彼女』を(つく)(はじ)めました。上半身(じょうはんしん)まで(かん)(せい)したので、最近の私は(ふたた)び、(すで)()べたように太陽(たいよう)エネルギーの吸収(きゅうしゅう)()ねて(そと)(ある)(まわ)っているのです。あまり(なが)(そと)()ると、『私は(うご)けないのに貴女だけ、ズルい』と彼女から文句(もんく)()われるので、()(しず)(ころ)には研究所(ラボ)(もど)るようにしてますが。


 その研究所(ラボ)(もど)(まえ)、私は(とお)くにある岩山(いわやま)(ひと)つに視線(しせん)()けます。以前(いぜん)から()になっていた箇所(かしょ)で、山頂(さんちょう)には一軒(いっけん)人家(じんか)()えるのでした。ちょっと距離(きょり)があるので、これまでは()ているだけでしたが、いつかは私から出向(でむ)いていこうとも(おも)っていました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ