【第15話】禁足地デート
原宿は平日だというのに人でごった返していた。
部屋にこもってプラモデルをストイックに作っていたい俺のような人種には、正直近寄りがたい街である。
なんかすごくキラキラしたやつらがキラキラしたことを話しながらキラキラ歩いている。
舞奈や斑鳩なら、まあ、こういう場所も楽しめるのだろうが、俺にとっては嫌忌の呪文が施されている禁足地みたいなものだ。
「ここからは足を踏みいけちゃならねぇ」とか言っているお婆さんが竹下通りに入るところにいたのが、斑鳩には見えなかったのだろうか。
いやでも、異世界にもこういう場所に似たメチャクチャ栄えた市場とかあった。
キラキラではなく、雑多な活気にあふれた場所であったが、働いている人は別にして、遊んでいる人間は、こことそんなに変わらなかったかなぁ。
ウェーイって感じだった気もする……。
斑鳩は竹下通りから少し脇道に入ったところにあるクレープ屋につくと、そこそこ長い列の最後尾につく。
俺は列に並ぶのは苦ではないが、ここの列に加わるのはなんか違う気がして、スッと列を外れて、少し離れたところで待つことにする。
斑鳩はこっちに来て一緒に並べと激しく手まねくが、俺は動じない。
列を外れるわけにもいかなず、大きな声を出すわけにもいかない斑鳩はなんやらよくわからないジェスチャーで怒りと苛立ちを表しているが、奇異の目で見られていることに気付くと、スンとなっておとなしくしていた。
列はあっという間に消化され、斑鳩がクレープを手に持ってやってくる。
「どう? 映えるっしょ」
「よくわからないが食べにくそうだな」
俺の知ってるクレープと違って、クレープ生地を使っていないような、パンかカステラのようなものに包まれた妙な形の食べ物だった。
「わかってないなー。てか君は買わないの?」
「その形にちょっと興味は持ったが、並んでまで食いたくない」
「だから一緒に並べばよかったのに」
「なんでそうなる?」
「ただ並ぶより、二人で並んだほうが楽しくない? つまんないから並びたくないんでしょ?」
いや、俺は並ぶことそのものに楽しみを感じることはできないぞ。
ただ斑鳩のポジティブさというか、別次元の考えかたには感心した。
「食べきれなかったら、余ったぶんをくれ。俺はそれでいいよ」
そうなんだーとか適当に相槌を打ちながらクレープらしきものを食べる斑鳩。
当初「あげねーよ」という顔だった斑鳩だったが、やはり見た目だけを気にしていたために量が多かったのか、三分の二くらい食べたところで、明らかに食べる速度が落ちてくる。
俺が心の中で「食べかたが小動物みたいだな」と笑いながら見ていると、そんなに欲しいなら食べていいよと、へたりかけているクレープをよこす。
「トッピングの盛りすぎだと思ってたけどね」
と、ちょっとしたマウントを取ってから食べようとすると、それをじっと見ている斑鳩に気付いた。
「え、ちょっと待って。そこ食べるの? マジ?」
どうやら俺が食べかけを食べようとしているのを気にしているようだった。
途端に顔を赤らめる斑鳩。
じゃあどこを食べろというんだ。
べつに俺だって積極的に食べかけを食べたいわけじゃないが、前世の記憶からなるべく食べ物は無駄にしたくない気持ちなんだ。
「やっぱナシ! よく考えたらおかしい。君が食べるの禁止!」
言ってクレープを奪い返すと、再び食べ始めた。
お腹がいっぱいらしく、だいぶ時間はかかったが完食。
なにをそんなに無理をしたのか、よくわからない。
続いて足を踏み入れたのは、プリクラの店。
俺的にいえば、プリクラだけが入っているゲーセンなんだが、正確な表現が分からない。
俺は斑鳩に言われるままにプリクラを撮ることになり、プリクラの機械に言われるままにさまざまな難題をクリアする。
新しいプリクラは、ポーズを指定してくるのだとは知らなかった。
「変顔だって。君得意そう」
「失礼な。俺は変な顔なんてしたことないぞ」
「いつもしてない?」
いつも変な顔だったら、そういう人なんだよ。
まったくもってルッキズム反対だよ。
というか、変顔が得意ってなんなんだよ。あれに上手下手とか得手不得手ってあるの?
それから、片手で作る変なハートマークをやる。
親指と人差し指を交差させるやつで、両手を使ってハートを形作るやつじゃないやつ。
「ちょっと指の位置が違うと思う」
とかいって、手首を強引にひねられたりもした。
あんな不意打ちを受けたのは魔術の修業の時、師匠に腕の動かしかたが違うと肩を外されたとき以来かもしれない。
そのあと背中合わせだの、変なピースだのをやって、最後の指示は二人で抱き合うというものだった。
どうやらカップル前提のモードで撮ってしまったから、そんな指示がでたようだ。
途端におどおどし始める斑鳩。
「どうしよ。でも指示だし。プリクラの命令は将軍の命令のようなものだって聞いたし」
「誰から聞いたんだ、それ」
変なところで真面目なのかもしれないな、こいつは。
「まあ将軍が相手じゃ従うしかないだろ」
「マジで……?」
なんで変なテンションになってんだよ。
「恋人がどうとか言ってたとき、腕に巻きついてきただろ。あれと変わんないんだからいいだろ。早くしないと将軍から処されるぞ」
たぶん将軍の命令という言葉の重さは、俺と斑鳩では天と地くらい差がある。
将軍はえらい。無能だと百人単位で人が死ぬ。
「うわっ。思い出したら恥ずかしくなってきた」
「無意識だったんかい」
結局、斑鳩は将軍の命に背き、ちょっとこちらの袖を掴むだけだった。
なんなのだろういったい。
斑鳩ならこんなのいつもやっていることだろうに。
そんなわけで斑鳩とのよくわからない疑似デートは終わった。
俺は大変疲弊したが、一番お疲れ様を言いたい相手はずっと尾行していた陣内だろう。




