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気が付けば、身体が倒れていた。そのまま崖から転落し、落下していく。
うつ伏せの態勢で落下しながら、僕は首を捻って上を見上げる。
空の先の星に、渇望する。
ふわりと、僕は飛び始めた。両手を強く仰ぐと、ブワンっと重い風の音が鳴りながら、凄まじい速度で上昇した。
その上昇量は凄まじいものだった。一回両手を仰いだだけで、飛び降りた崖よりも高い位置まで上昇した。
すると、世界がパッと広がった。草花が生い茂った草原。遠くには街があって、さらに遠くには山が見える。
初めて飛行した僕にとって、こんなにも世界が見えるのは、とてつもない衝撃だった。
「凄い。世界って、こんなに広いんだ!」
僕は感激した。
僕は再度、両手を仰いだ。ブワンっと重い風の音が鳴る。凄まじい速度で上昇する。すると見える景色が、さらに広がる。
そして一人、鳥人を追い抜いた。彼は必至に両手を羽ばたかせ、高度を上げている。とても辛そうだ。
僕は、再度空を見上げる。空に浮かぶ太陽が見える。高度が上がれば上がるほど、日差しの暑さは強くなる。
僕はそれから何度か翼を羽ばたかせ、何人かを追い抜いた。
「はあ、はあ」
気が付けば、僕も他の鳥人同様に息を切らせていた。過酷なのは日差しの暑さだけではない。高度が高いと、空気も薄い。体力を急速に奪っていく。
また一人、落ちていった。
誰しもが、空の先にある星に憧れて進んでいく。しかし、そう簡単に星になれるわけでもなく、その道の過酷さに脱落していく人たちも沢山いる。
この空はそれだ。夢見る若者たちを、次々と蹴落としていく。まるで自分が認めた者しか、寄せ付けないと言わんばかりに。
なんて情熱的で、排他的な空だろう。
でも。だからこそ、行き着く先に価値があるのだ。
「ああああああああああ!」
僕は声を張り上げる。そして両手を仰いだ。
ブワンっと重い風の音。凄まじい速度で上昇。見える景色の拡大。
そして急上昇していく体温。極僅かな空気。
「行けぇえええええええ!」
そう叫んだ時、すれ違うように誰かが落下していった。
「須和っ!」
僕は落下していった須和を目で追った。すると久しぶりに、空と反対側の、つまりは地上の方を見た。
そこには、僕が追い抜いていった参加者たちが、僕を見上げていた。
誰しもが僕を羨望の目で見つめ、そして称賛してくれている。
「相模ぃ!」
僕を呼ぶ須和をもう一度見る。彼は僕に指を指していた。
「待っていろよ! いつか追いついて、そして追い抜いてやるからな!」
須和は僕に叫んだ。
そして僕は、ハッとした。
僕はただ、必死に前に進んでいただけなのに。
いつの間にか、僕は色んな人にとっての星となっていたのだ。
必死で飛んでいたから、自分が今どこにいるのか、気が付かなかった。振り返って、僕を追いかけている人達と、僕が元々居た位置を見比べることによって、ようやく自分の位置を確認できたのだ。