表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

3

 やがて、スターダストの舞台に辿り着いた。そこは高さ数百メートルある断崖絶壁の天辺。


 僕たちはここから飛び降りて、そして上昇し、その高度を競う。空に浮かぶ星となるために。


 僕と須和以外にも、参加者は沢山いた。皆、成人となるために参加している。


 それだけではない。スターダストで一番高く飛ぶことは、鳥人にとってとても名誉なことだ。


「それでは、これよりスターダストを開始する! よーい、始め!」


 大人の鳥人が合図した。ドン、と太鼓が鳴って、参加者が次々と飛び降り、そして上昇し始めた。


 そして、僕と須和だけが残された。


 僕は飛べない。怖くて、飛べない。崖から飛び降りてしまえば、きっと飛べないまま、落下して、そして死んでしまうだろう。


 それに、こんなことをする意味なんて無い。成人と認められないから、何だというのか。そんなことのために、命を危険にさらすなんて、馬鹿らしい。


――タンッ!


 その時、そんな音が響いたかと思えば、軽い衝撃が背中を駆け巡った。


 僕はすぐに、須和が僕の背中を叩いたのだと気づいた。


「相模は、あれこれ考えすぎなんだよ!」


 須和はそう言って、崖の端のギリギリの所で立った。


「なあ相模。忘れたのか。勇気を出す秘訣」


 須和の言葉に、僕は何だか、妙な感覚に陥った。


「簡単だよ。頭を空っぽにしてから、本当にしたいことだけを思い浮かべるんだ」


 須和はそう言うと、膝を折って屈むように踏ん張り始める。


「そうすれば、自然と身体が勝手に動くのさ!」


 そう言い終えると同時に、須和は飛んだ。勢いは凄まじく、他の参加者を次々と追い越していく。


「本当にしたいこと」


 小さくなっていく須和を見つめながら、僕は彼の言葉を反芻した。


 僕のしたいことって、何だ。僕はどうなりたいんだろう。


 いつの間にか、須和は点にしか見えないほど天高く飛んでいた。何だかそれを見ていると、頭がぼーっとしてくる。怖いことも不安なことも、何もかもがどうでも良くなってくる。


 そして何故か、僕は空に手を伸ばした。


 点となった須和に手を伸ばしている。僕は何がしたいのだろう。空に手を伸ばして、どうしたいのだろう。


 空に浮かぶ点。それはまるで、星のようだ。そう、それがスターダストと呼ばれる所以だ。


 空には宇宙があって、そして星がある。


 僕は須和に憧れていたのか。いや、違う。僕は、星になりたかったのかも知れない。


 僕は誰かを羨んでばかりだった。だから、誰からも羨まれる存在になりたかった。


 でも、星は遠い。手を伸ばしても、届きそうにない。この数百メートルはある断崖絶壁の天辺からでも、届かない。


 飛ぶしかない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ