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やがて、スターダストの舞台に辿り着いた。そこは高さ数百メートルある断崖絶壁の天辺。
僕たちはここから飛び降りて、そして上昇し、その高度を競う。空に浮かぶ星となるために。
僕と須和以外にも、参加者は沢山いた。皆、成人となるために参加している。
それだけではない。スターダストで一番高く飛ぶことは、鳥人にとってとても名誉なことだ。
「それでは、これよりスターダストを開始する! よーい、始め!」
大人の鳥人が合図した。ドン、と太鼓が鳴って、参加者が次々と飛び降り、そして上昇し始めた。
そして、僕と須和だけが残された。
僕は飛べない。怖くて、飛べない。崖から飛び降りてしまえば、きっと飛べないまま、落下して、そして死んでしまうだろう。
それに、こんなことをする意味なんて無い。成人と認められないから、何だというのか。そんなことのために、命を危険にさらすなんて、馬鹿らしい。
――タンッ!
その時、そんな音が響いたかと思えば、軽い衝撃が背中を駆け巡った。
僕はすぐに、須和が僕の背中を叩いたのだと気づいた。
「相模は、あれこれ考えすぎなんだよ!」
須和はそう言って、崖の端のギリギリの所で立った。
「なあ相模。忘れたのか。勇気を出す秘訣」
須和の言葉に、僕は何だか、妙な感覚に陥った。
「簡単だよ。頭を空っぽにしてから、本当にしたいことだけを思い浮かべるんだ」
須和はそう言うと、膝を折って屈むように踏ん張り始める。
「そうすれば、自然と身体が勝手に動くのさ!」
そう言い終えると同時に、須和は飛んだ。勢いは凄まじく、他の参加者を次々と追い越していく。
「本当にしたいこと」
小さくなっていく須和を見つめながら、僕は彼の言葉を反芻した。
僕のしたいことって、何だ。僕はどうなりたいんだろう。
いつの間にか、須和は点にしか見えないほど天高く飛んでいた。何だかそれを見ていると、頭がぼーっとしてくる。怖いことも不安なことも、何もかもがどうでも良くなってくる。
そして何故か、僕は空に手を伸ばした。
点となった須和に手を伸ばしている。僕は何がしたいのだろう。空に手を伸ばして、どうしたいのだろう。
空に浮かぶ点。それはまるで、星のようだ。そう、それがスターダストと呼ばれる所以だ。
空には宇宙があって、そして星がある。
僕は須和に憧れていたのか。いや、違う。僕は、星になりたかったのかも知れない。
僕は誰かを羨んでばかりだった。だから、誰からも羨まれる存在になりたかった。
でも、星は遠い。手を伸ばしても、届きそうにない。この数百メートルはある断崖絶壁の天辺からでも、届かない。
飛ぶしかない。