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目を開けると、そこは異世界だった。
目の前には鏡があって、僕は自分自身を観察する。
僕は鳥だった。両手は鳥の鉤爪の様になっている。両腕は肩に掛けて翼のように白い羽が広がっている。そして顔の口辺りには鋭いクチバシがあって、額から後頭部に掛けては白い羽毛がトサカのように跳ねている。
自分の姿を確認すると、次第にこの世界の記憶が思い出してくる。
ここは異世界。剣と魔法のファンタジー。人間がいて、モンスターがいて、エルフがいて、獣人がいる。そして、僕たちのような鳥人もいる世界。
僕は今日、鳥人にとっての成人の儀式を行わなければならない。
それは”スターダスト”と呼ばれる、飛行高度を競う競技だ。
「おーい、相模ぃー!」
子供の声が、僕を呼んだ。それはとても懐かしくて、切ない声だった。
僕は自室にいた。そして声は、部屋の外から聞こえた。
僕は木製の壁にあるドアを開ける。すると外の光が部屋に入ってくる。
僕の家はツリーハウスだった。ドアを開けたすぐそこには、僕と同じ鳥人が立っている。
「おはよう、相模」
僕の名を呼ぶ鳥人。彼が誰なのか、僕には分かる。
「おはよう、須和」
僕は返事をした。そう。彼は須和だ。中学の頃、仲が良かった頃の須和だ。彼も、僕と一緒にスターダストに参加する。
「早く行かないと、遅刻しちゃうぜ」
そう言って彼は、ぴょん、と飛んだ。ツリーハウスの足場から、飛び降りたのだ。そして少しだけ落下すると、その白い翼を広げて、ふわりと上昇した。
「あ、待って!」
僕も追いかけようと、足場の先まで走った。しかし、寸前で立ち止ってしまう。
そうだった。僕は、飛べないんだった。飛べない、落ちこぼれの、鳥だった。
足場の階段から、モタモタと僕は降りていく。
「おーい、早くしろよー!」
須和が急かす。僕は焦るように階段を降りる。
ああ、そうだ。あの頃もそうだった。僕たちは仲が良くて、趣味も合っていたけど、全く別な人物だった。
彼は天才で、僕は落ちこぼれ。僕は彼と一緒にいたいけど、でも彼はどんどん先に行ってしまうから、いつも焦っていた。
こんな風に、置いてけぼりにされることが多かった。




