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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
三章 翠樹の迷宮
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第76話 それぞれの目的

 


「蒼き翼の、ストルキオ……」


 族長が突然意見を変えて俺たちに許可を出した理由も気になるが、最後の問い、あれは一体どういう意図から出た言葉なんだろう。

 もしかすると、そもそも族長が俺たちをわざわざここに呼びつけたのはあの問い掛けのためだったのだろうか。



 テントを出ると里の入り口からついて来たストルキオ達が立ち塞がるように待っていた。俺たちの後ろからジエ=シュゴも出てくる。


「俺達にまだ何か用が?」

「先の族長の問い、どういう意味だ。蒼き翼といえば、英雄ガリラスの……」

「んなこと俺が知るかよオッサン」

「……もう勝手にしろ。だが、銀髪の娘よ。そなたは迷宮調査員なのであろう。調査拠点まで案内させる。今部外者に里をうろつかれても迷惑なのでな」

「ご厚意感謝します」



 マリアンヌとはここでお別れのようだ。

 結局彼女のことについてあまり知ることができなかったのは残念だが、少しだけ名残を惜しみながら別れの言葉を交わす。


「短い間だったけど、足を引っ張ったり助けられたり、逆に迷惑をかけちゃったな。迷宮調査の仕事頑張って」

「お前のふてぶてしさがありゃあどこでもやってけるやろ。母ちゃんおらなんでも泣くなよ」


 クレイルは最後まで彼女をからかうので、マリアンヌはすごい目つきで彼を睨んだ。


「本当に迷宮に入るつもりですか」

「もちろんだ。こうなった以上覚悟を決めるしかない」

「あなた死にますよ」


 マリアンヌはボソリと呟く。


「でもフウカを放ってこのまま帰ることはできないんだ」

「どうしてそこまで……。他人なんでしょう」

「もしかして心配してくれるのか?」

「違います」


 ばっさりと否定されるとちょっと悲しいが。


「心配かけて、ひどいことをしてしまった。今こうして、俺が五体満足で生きてられるのもその子のおかげなんだ。あの子がたった一人で危ないところに行こうとしてるってのに、放ってなんておけない」

「ま、ナトリはこういうヤツやし、どうにも一人じゃ頼りねえから俺がついとってやらんとな」


 マリアンヌは顔を俯けて呟く。


「翠樹の迷宮の奥へ踏み込んで、戻って来た人はいないっていうのに」

「そんなの行ってみなきゃわからないさ」

「軽く天辺まで登って土産話でも聞かせたるから楽しみにしとけよ」


 マリアンヌは俯いたままくすりと口だけで笑った。この子が形だけでも笑うところを見るのは初めてだった。最後にいいものが見れたな。


「ノリが軽すぎ……。やっぱり変な人たち」

「なんか言ったかァ?」

「……あれこれ悩むのが馬鹿らしくなっただけです、あなた達のせいで。とにかく、これでお姉さまとの約束は果たしました」

「そうだね。でもまた会えるといいな」

「それじゃ、さようなら」


 俺たちは里の男の後ろについて石階段を降りていくマリアンヌを見送った。


「最後まで愛想のないガキやったなァ」

「確かに、もうちょっと打ち解けたかったよな」

「ところでオッサン。宿はどこや?」

「…………」


 本当はすぐにでもフウカを追いかけたかったけど、今日は随分体力と精神力を消耗した。すぐに迷宮に向かうのはさすがに厳しかった。


 近くで俺たちを睨んでいたジエは、憎々しげに俺たちに部下をつけ里の宿まで案内させた。




 §




「フウカちゃんを追いかけてここまで来たが、まさか迷宮に入ることになるたあな」

「翠樹の迷宮に入って戻って来た者はいない、か……」

「あの子は結構強いし案外平気かもしらん。治癒波導もすげえの使えるからな」

「…………」


 まだ辺りは暗い。時刻は真夜中と朝の間だ。俺たちは早い時刻から宿を出て、歩いて里の反対側の門まで来た。

 オキ族の里には2つの出入り口がある。俺たちが入って来たのと反対側にある門の先は、迷宮へ通じる道だ。


「なぁクレイル。今更だけどさ、なんで一緒に行ってくれるんだよ。俺はフウカを連れ戻すって目的があるけど、クレイルは」

「そらフウカちゃんのためやがな」

「ほんとに?」


 もちろん、クレイルだってフウカとは知り合いだ。そう思っても何もおかしくない。でも、こいつにとってフウカというのはそこまでして助けたいと思える人物なんだろうか。


「ま、……実際はそれだけやないな。俺には、やらなアカンことがある」

「やらなきゃいけないこと?」

「せや。だがそれを成し遂げるにはまだ力が足りん。だからこいつは武者修行や。迷宮で野垂れ死ぬようなら、俺はそこまでの男やったっちゅうこっちゃ」


 クレイルには何か目標があるのか。いつも自信満々のこいつが力不足を自覚しているなんて少し意外な気がした。


「せやから、俺は迷宮で己を試す。日常生活では波導の力を強化するんにも限界がある。死と隣り合わせ、やるかやられるかの極限状態に身を置くことで己を鍛え直したいんや。そうでもせんと、今の俺では目標は達成でけへんからな」


 それがこいつなりの覚悟ってやつなのか。その目標とやらは気になったけど、聞いても教えてくれないような気がする。

 だから、彼自身の口から聞けるまで俺は何も聞かずにおこうと思った。



 門の側にある詰所の中にいた里の者に声をかけると、黙って門を開いてくれた。


 かなり迷惑そうに、あからさまに邪険な態度だったが話はちゃんと通っているらしい。



 俺とクレイルはまだ暗い森の道をエルモスの明かりを頼りに迷宮の根元へと向かった。


 眼前に聳える巨大な迷宮。フウカはもうあの中だという。

 俺は遠い夜明けへの暗い道をひた走った。彼女のことを思いながら。







「見えてきたで、入り口」


 暗い森を駆け抜けると、両脇に夜光灯の並ぶ長い階段が見えてきた。


階段を登りきると、そこは翠の明かりを灯した石柱が立ち並ぶ遺跡広場になっていた。広場の先には迷宮の入り口がぽっかりと口を開けている。


夜光灯の列柱の間を通り、そのまま入り口を目指す。



 広場の中程まで来た時、突如として旋風が巻き起こった。

咄嗟に腕で体の前面を守るがあまりの風圧に俺は後方に吹き飛ばされた。


「ぐあっ!」


 地面を転がり、すぐに身を起こす。腕には細かな切り傷がいくつも刻まれていた。血が滲み始めている。今の風で切ったのか。


「待ちたまえ」


 旋風が収まると、鮮やかな木の葉色のマントを纏ったストルキオが上からゆっくりと降りて来て、俺たちの目の前に立ちふさがった。




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