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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
ニ章 水の都
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第54話 順風

 


 俺たち三人は街から少し離れたロアル窟と呼ばれる河底洞窟を訪れていた。


 レベル2の水棲モンスターが中心に生息している場所で、狩人(ニムロド)の間では人気のある狩り場となっている。

 その理由は、今日の俺たちの目的でもあるレアモンスター、ルビーウルルンだ。


 ウルルンはレベル1でも最弱とも言われ、ほとんど素材の採れない微妙なモンスターだ。しかし紫水晶(スタークリスタル)だけは他のレベル1モンスターよりも若干大きい。


 しかし稀に生まれる輝くような赤色をした変異種のウルルンからは、レベル3相当の大きさでしかも赤く染まった紫水晶が採れる。


 この赤い紫水晶にかなりの値がつくらしい。たった一つでドーラ金貨3枚は下らないというから驚きだ。形がよければさらに高値となる。

 バベルの先輩狩人からは、もし見つけたら絶対に逃すなと言われた。



 このルビーウルルンを目当てにやってきたのだが、今俺たちの前に立ちはだかるのは別のモンスターだった。


「!」


 モンスターが跳躍する。それなりの距離をひとっ飛びに、砲弾のように俺の頭上へと降ってきた。

 空中で体を回転させ、長い足を使った踵落としを繰り出す。なんて速さだ————。


 金属を打ち鳴らす大きな音が、水のフィル鉱石によって蒼く照らされる洞窟内に反響する。


 俺の目の前に飛び上がったエルマーが、モンスターの蹴りを両手を頭上で組み合わせて受け止めていた。


「エルマー!」

「このでかいのは俺っちが引き受けるぜ」

「ナトリ、ゾル・シーラスはひとまずエルマーに任せて僕たちは他を片付けるぞ!」

「ああ、わかった!」


 俺とクロウニーは二手に別れて走り出す。


 洞窟を進んでいた俺たちはモンスターの群れに遭遇した。レベル3の大物、ゾル・シーラスを頭としたシーラやシーラスの集団だ。

 乱戦に於いて最優先すべきことは、敵の数を削ることだ。ボスをエルマーが足止めしている間に、俺たちは他のモンスターを倒してまわる。


 洞窟内を駆けながらシーラの大きな頭部に狙いを定め、杖から光を放つ。シーラスの吐き出す水流の刃を岩を盾にして躱す。

 岩陰から残るシーラの頭部を全て撃ち抜き、無力化した。


 クロウニ−の加勢に向かうと、彼もシーラスの頭部に矢を撃ち込み、二体目を河底洞窟の水たまりに沈めたところだった。

 すぐに二人でエルマーの援護に加わる。


 エルマーと激しく位置を入れ替えながら戦闘するゾル・シーラスは動きが素早く、遠方から狙うのは難しい。こいつはモンスターのくせにエリアルアーツじみた格闘術を使うようだ。


 エルマーも動きは速いが、なかなかモンスターを捉えきれない。


「ギギギィィッ!」

「ぐ、おっ……」


 ゾル・シーラスの痛烈な回し蹴りがエルマーの脇腹にヒットする。鎧越しでもかなりの打撃力。エルマーの顔が苦悶に歪む。


「捕まえた……ぜ」


 しかし彼は、受けた足を脇に挟み込むとがっちりと固定した。負傷覚悟で動きを止めるつもりだ。


「やれえっ、ナトリーっ!!」

「おおっ!!」


 これ以上エルマーを傷つけさせるわけにはいかない。体の前で構えた王冠ケテルに意識を集中し、指で引き金を押さえ込む。思い描くイメージは、クレイルが浮遊船で使っていた炎の剣。


 杖の先端から激しい青光が溢れ出す。

 猛烈な勢いで吹き出す炎のように、光を迸らせる王冠を手に疾駆する。エルマーが組みつき動きを封じたゾル・シーラスへ向かって。


 憎悪を滾らせた鋭い眼光が俺を射抜くがここで引く訳にはいかない。


「喰らえッ!」


 もがき、エルマーを振り払おうとする全身に硬い鱗を纏った魚人の胴体目掛けてすれ違いざまに杖を振り抜いた。


 確かな手応えを感じ振り返る。胴体からきれいに半分に分かたれたゾル・シーラスの上半身がどさりと地面に落ちて転がった。息を荒げて王冠を消し、地面に膝をつく。


「やったじゃねぇかこのヤロー!」


 エルマーにどんと背中を叩かれ、俺は濡れた岩場に手をついた。


「ちょ、危ないって! 今、力、入らないんだよ……」

「おつかれナトリ。解体は僕らでやるから少し休んでなよ」

「頼む」


 岩場に腰掛けて、二人が体格の大きなモンスターを解体するのを眺める。


 激しい戦いにもようやく決着がついた。多分これまで三人で戦った中でも一番の強敵だった。同じレベルなら一週間前に倒したマグガメルも強かったが、動きが早い分明らかにこいつの方が格上だった。


 戦いの決め手となった王冠の力がなければ負傷は免れなかったろう。



 王冠ケテル。この杖に眠る力は未だに謎の部分が多い。さっきのように剣のような使い方の可能性に初めて思い至ったのは、クレッカでグレートアルプスと戦った時だった。


 杖の握り、丁度人差し指を掛ける位置についている引き金を引くことで光の衝撃波が射出されるのはわかっているけど、これを押さえ続けることで光も放射しっぱなしにできることをモンスター討伐の合間の訓練で確かめた。


 光を出しっぱなしにすれば、剣のように振り回すような使い方も可能だ。これによって、苦手意識のあった接近戦も多少カバーすることができるようになった。


 とはいっても、引き金を引いている間は光を垂れ流すことになるので俺自身の煉気はガンガン減っていく。

 うまく力をコントロールできれば違うのかもしれないけど、今はものの数秒間使っただけでごっそり力が抜ける。使い所を選ぶ攻撃方法だ。


 それでも、俺は徐々に王冠に眠る力を引き出すことができていると思う。この力があれば、レベル3のモンスターだって怖くはない。



 二人のおかげで素材回収が済むと、俺たちは洞窟を出口に向かって引き返す。今日は朝早くに街を出て、舟で遠出してここまでやってきた。


 ゾル・シーラスの他にも結構な水棲モンスターを仕留めることができたし、本日も大漁御礼となった。





 §




 トレト運河の水平線近くにオレンジ色の陽が浮かんでいる。茜色に染まる空と鮮やかな紫紺の川の流れの中を舟は軽快に進んでいく。バベルで借りた小舟を押して河を泳ぐのは鎧を脱ぎ捨てたエルマーだ。


「なぁ、エルマーはどうしてプリヴェーラに来たんだ?」

「俺っちの村には嫁さんをもらうために外へ修行に出る風習があんだよ」

「狩人になって武者修行ってわけか」

「おうよ。この街でたんまり稼いでよぉ、いつかレベル4の大物を土産に村へ帰んのさ。へっへっへ」


 エルマーほどの力があれば、いつかそれも可能かもしれない。この前マグガメルの素材で製作した新しいガントレットも調子が良さそうだし、ユニットになくてはならない頼れる前衛だ。


「ていうか、その歳でもう嫁さんをもらうのかい?」


 エルマーはまだ15歳だった。


「本当は風習なんてどうだっていいんだぜ。この両腕でどこまでやれるのか……。自分の力でどこまでいけるのか。そいつを試してみてぇんだ」


 ……エルマーは怖くないんだろうか。モンスターとの戦いには常に危険が付きまとう。俺は……できることなら戦わないで済ませたいと思う。


「街が見えて来た。もうひと頑張りお願いするよエルマー」

「ちゃんと後でグランエッソの丸焼き奢れよぉ」

「またあのグロくてデカい魚食べるのか……」


 近づいて来るプリヴェーラの明かりを遠目に、ほどよく疲れた体を舟の座席に凭せ掛けて川を渡ってくる風を受ける。



 アルテミス結成から一週間。俺たちは徐々に危険度の高いモンスターが多くなる場所へ討伐に向かい、着実に成果を上げていた。互いの連携もよくなって、それぞれが己の役割を自覚してモンスターを討伐するという一つの目的のために立ち回った。俺たちは日に日に力をつけつつあった。


 もちろん日々の稼ぎもよくなった。三人で集めた素材がエイン銀貨三枚を超えることもある。今日は運良くレベル3のモンスターを討伐できたので、稼ぎは5エインを超えるかもしれない。もちろん帰ったら酒盛りだ。


 プリヴェーラへ来てよかったと思う。稼ぎも増えたし、これでフウカの家も見つかれば言うことなしだ。明日は休息日の予定なので、中央区役所へ行ってフウカの家についての調査結果を聞こうと思っている。


 そういえばもうすぐ街の収穫祭らしい。トレト運河の漁獲を祝い街のエルヒムに感謝を捧げる年に一度の祭り、ラ・プリヴェーラ。


 祭りの間街はきらびやかに飾り付けられ、多くの出店が開かれて市民は飲んで騒いでのお祭り騒ぎをする楽しげな催しだそうだ。


 ラ・プリヴェーラはイストミルでも有名な祭りで、各地から多くの客が訪れる。期間中街は一層賑わいを見せることだろう。



 俺たち三人の気分は高揚し、前途は明るく思えた。来たる収穫祭やいつか手に入れたい憧れの星骸スターアークについて熱く語り合いながら暮れなずむプリヴェーラの岸辺へと舟は進んでいった。





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