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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
ニ章 水の都
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第34話 王冠の使い方

 


波導術(ウェザリア)にはな、『固定観念の壁』っちゅう概念がある」

「なにそれ?」


 王都からイストミルへと渡る浮遊船の中で、俺たちはクレイルから波導について簡単な講釈を受けた。


「波導においてはこいつが、波導を使える奴とそうでない奴を隔てるもんやと言われとるんや」

「波導の適性とかじゃなくて?」

「それも含めて適性なんや。術士の元に弟子入りした訓練生が最初にやる修行はなんやと思う」

「えーと、基本的な術から……とか」

「いんや。しばらくはな、ただ『視る』んや。センセや先輩の波導を側でひたすら視続ける。

 波導を身近で感じ続けることによって骨の髄までそれがどういうもんかを染み込ませる。

 そうすることで『固定観念の壁』をでっぱり一つ残さず取っ払う——要は術の発動に邪魔な取っ掛かりをなくすんやな。それが最初の修行や」

「へえー」


 当たり前に波導を行使し、コントロールするための下準備といったところなのだろう。


「波導を使えるかそうでないかの人間の違いは、ってのはひとまず置いといてや。

 フウカちゃんが自発的に波導を行使でけへんのには、ほぼ間違いなくこの『壁』が邪魔をしとるわけよ」


 今のフウカは波導というもの自体に馴染みがない。

 出せるけど自由に使えない。使い方がわからない。


 能力は持っていても、イメージできないものは行使することもできない。そんな状態ってわけだ。


「だが安心せえ。訓練生にとっちゃ期間を要する修行になるが、そいつはあくまで素人だった場合。

 フウカちゃんはもう実際に波導使うてるやろ。壁は半分崩れとるも同然や。出せたときの感覚を忠実に思い浮かべてそれを再現し、己が波導を扱えるゆうことを自覚するだけ。

 そうして残りの壁を壊したればええ。簡単やろ?」




 §




 とにかく最初の関門はクリアした。「固定観念の壁」を打ち破った今のフウカなら、いつでも波導を出すことはできるだろう。


 とりあえず、暇のある時に波導を出す練習をやってみてほしいと伝えておく。


 クレイルのメモ書きによれば次の段階に進むのは自然にこれができるようになってから。


 早速フウカは練習を始めた。

 まだ安定はしないようだけど、続ければどんどん上達するだろう。



 さて、次は俺の方だ。正直こっちはほとんどヒントがない。

 ぶっちゃけ、あの白銀の杖が本当に王冠ケテルと伝えられる通りのものなのかすらはっきりしないし。


 まあ憶測に意味はない。はっきりしていることから考えてみよう。


 俺は二回あれをこの手に呼び出した。実際、ゲーティアーの前で王冠が光の中から出現するところをはっきりと見た。呼び出すことは可能であるとみてまず間違いない。



 じゃあ実際にやってみよう。

 フウカの波導と同じで、多分、いや確実にできると考えることが重要だ。


 右手を持ち上げ手のひらを上に、そこにあの杖の形を思い描く。


 大体の大きさ、形、色、触った感触、装飾の形————。



「お……」


 手のひらの上に心で思い描いた通りの場所に、光で象られた輪郭が現れる。


 ちりちりと微細な青の燐光を散らしながら光の輪郭線は寄り合い、紡がれ、やがて実体として顕現する。


 それが終わると、確かな金属のひやりとした感触と重さが手の上にあった。



 ……できた。こんな簡単に。


「わっ、すごいね! どこから出したの?」


 波導の練習に夢中だったフウカが俺の右手に握られた王冠を見ている。


「確かに、どこから来たんだろう……」


 消えてるときはどこにあるのか、何故思い描くだけで出てくるのか、疑問は尽きないけど少なくともいつでも呼び出せるってことはわかった。

 今はそれがわかればいい。



 細部を見る機会もなかったので、改めて王冠(ケテル)を手にとってじっくりと眺めてみる。


 取っ手は手に収まるサイズだけど、どんな素材でできているのか結構な重厚感がある。


 取り付けられた銀色に輝く流麗な装飾には、翼や女性の姿のレリーフが彫られている。

 筒状になった先端部分には孔が穿いていて、ここから衝撃光が出るんだと思う。


 怖いから中を覗くのは止そう。しかし、見た目の印象は上品で高価そうな代物だ。



 試しに消えろと念じてみる。

 杖は青い微光を散らして霧散するように手の上から消える。


「消えた……」


 再び杖の形を思い描くと、さっきのようにまた杖が現れる。出し入れ自由だ。


 一体どうなってるんだ。これが古代の失われた技術ってやつなのか。フウカが不思議そうに王冠を覗き込む。 


「危ないから触らないようにね」

「はーい」


 握りについている引き金を引くと光が出る。人に向けるのは危険だ。扱いには気をつけないと。


 俺は杖を持つ右手を左手でしっかり包むようにして両手で構え、空へと向ける。


 使ってみるか。だけど浮遊船の時のような馬鹿でかい雷光が飛び出たらと思うと怖い。


「フ、フウカ。波導の練習してて。ちょっと離れた場所で試し撃ちしてくるから」

「わかったー」



 いそいそと立ち上がって花畑を歩き、フウカやアリュプ達から距離をとる。

 身近に生き物がいないかしっかり確認し、両手で掲げた王冠を真上へ向ける。


 指の震えを抑えながら、意を決してゆっくり取っ手の引き金を絞る。


 軽い反動と同時に、杖先から細い光の筋が空へと真っ直ぐに放たれた。


「出た……」


 同時に足から力が抜け、よろめいて膝を付いた。


「ナトリー、どうしたのー?」

「なんでもないよ!」


 離れた場所で練習するフウカの声に返事を返す。


 今度は王冠を使っても気を失わずに済んだ。毎回意識を根こそぎ持って行かれてたからな。


 なんとなくこの杖の性質がわかってきた気がする。


 今までに何度かこれを使ってきたけどその威力には毎回ムラがあった。


 もしかしたら込めた気持ちの強さに比例して衝撃波の威力が増しているんじゃないだろうか。


 そして、それに見合うだけの体力なり煉気アニマなりを失っている。


 人間の身体に内在する精神力——「煉気」と言われているけど、おそらく使用者のそれを光の衝撃波へと変換するのがこの王冠の機能なんじゃないか。



 思い返すと、これを使うときはいつだってかなり消耗した状態だった。

 ゲーティアー:ウェパールの時の桁違いな威力の理由はよくわからないけど、ことごとく体内の煉気を使い果たして気絶していたと考えれば納得できる。


 検証のために再び王冠を構える。

 心のざわつきを落ち着かせ、平常心を心がけるともう一度引き金を引く。



 ぱっと光の筋が再び空に細い軌跡を描いて飛んでいく。


 今度はほとんど消耗を感じない。心の傾き、気持ちの均衡と力加減を制御できれば込める煉気量と威力をコントロールできそうだ。


 もっと練習すれば、自由自在に使えるようになるかもしれない。


 一旦フウカの座っているところへ歩いて戻った。



「むー」


 先ほどに比べると、フウカはそれほど難しそうな表情はしていない。波導の壁もさっきより大きく展開できている。


 早速波導の感覚に慣れてきたかな。


「いい感じだね」

「うん、ちょっとだけわかってきた気がする」

「練習すればもっと上手くなるさ」

「ナトリの方は?」

「こっちも感触は掴めたよ。頑張ればものにできそうだ」

「そっか。頑張ろうね」

「さあ、そろそろ休憩は終わりだ。次の牧草地を目指そう」

「残念だなー。もっとここにいたいのに」

「また来れるさ」



 俺たちは休憩を終え、笛でアリュプ達を集めると次の牧草地を目指して斜面を降り始める。


 島にいる間、もう一度くらいはここに来ようと一度だけ花畑を振り返る。



 この王冠を使いこなすことができるようになれば、俺達の身の安全を守るための力になる。


 そう思うと俄然やる気が湧いてくるのだった。





挿絵(By みてみん)

※誤字報告感謝です。

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