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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
八章 炎龍帝と水の巫女
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第335話 機巧星骸

 

 三度目の遠征を終えてエグレッタの街に帰還した俺たちは、その足でバベル支部へ寄った。


 受付のリゼットにモンスター素材の解体と買い取りを依頼する。

 素材の査定には日数がかかるため、なるべくなら帰還後すぐにバベルには顔を出しておきたい。


 解体場へ移動し、リッカがため込んだモンスターの死骸を解放していく。


「中層の攻略もかなり進んでいるようですね。驚異的な速度です」

「俺たちの主目的は登頂することですから」


 戦闘訓練や戦力拡充も目的の一つではあるが、本来の目的は迷宮攻略だ。


「だとしてもです。並のユニットではただ進むだけでもそれなりの期間がかかります」

「きっと優秀な仲間たちのおかげですよ」

「そうなのでしょうね」


 死骸にかかった星空の乙女(アストラ・イア)を解除するリッカについて回る解体職員は、感嘆の声を漏らしている。


「相変わらず、あんたらはすげーなぁ。持ち込むのはレベル3の、有用な素材ばっかりだしな。お、ガル・イーガルの翼か、最近供給が少なかったから助かるぜ。な……、こ、こっちはもしやピーコックか?! おい! 来てくれや! レベル4だぞ!」


 レベル4が討伐されたと聞いた解体員達がわらわらと集まって来た。


「今回の遠征でもレベル4を討伐されたのですね」

「はい。突然襲われましたがなんとか」


 リゼットに、ピーコック襲来の際三人の狩人が犠牲になったことも伝えておく。


「粉々で遺品すら残ってはいないんですけど……」

「そうですか。残念ですが、狩人を続ける以上は覚悟しなければならないことです。彼らも本望でしょう」


 あんまりそんな感じはしなかったけど、多分そうなんだろう。


「お聞きした特徴から推察するに、その御三方はおそらく『征鬼魔痛』(ロストワールド)というユニットの構成員でしょう。報告感謝いたします」

「いえ」



 その後ピーコックを除く素材売却の意思をリゼットに伝え、怪鳥の解体を最優先で頼んだ。明日には星骸素材を引き取れるようだ。


 ピーコックのその他の部位の特徴も聞いたのだが、今の俺たちの中にそこから作製可能な武器や防具を必要とする者はいなかったので、結局星骸素材以外は売却することにした。


「へへっ、今回もレベル4ぶっ倒したからな。相当いい額になんじゃねーか?」

「おうよ、ピーコックの皮や羽根はな、防音性が高くて結構貴重なんだよ。売却額には色つけてやるから期待してな」

「やったぁ!」

「ところでピーコックの星骸素材には、どういった性質が備わっているのでしょうか?」


 リッカの質問は非常に気になっていたことだ。俺たちにとって有用な星骸(スターアーク)が作れればいいが……。


「あんたらは直接戦ったからわかると思うが、ピーコックは響属性のモンスターだ。当然素材も響の属性(エモ)を強く帯び、適性を持っている。星骸素材とされる部位である『ピーコックの鳴き袋』には、響属性を増幅させる性質が備わってんだ」

「響属性を増幅か……」

「それならもう決まりですね」

「だねー」


 俺たち全員の視線がリィロに集中する。


「え、私?!」

「お前以外、俺らの中で響属性使える奴おらんやろ」

「この上なく適任だと思うよ、リィロさん」

「でも、いいの? ロクに戦えない私に星骸(スターアーク)なんて」

「なに言ってんだぜ。おめぇさんが鳥公にとどめ刺したんじゃねぇか」

「そうっす。リィロさんがいなけりゃ全滅してたかもしれないんだ。リィロさんのものになるのはある意味自然っすよ」


 俺たちの顔を見回した後、リィロは頷いた。


「わかった、ありがとうねみんな。じゃあ私が使わせてもらうわよ」

「そうと決まれば明日早速ユルゲンさんの工房だね」

「だな!」


 素材の始末と星骸素材の使い道も決まったところで、俺たちはようやくバベル支部を出て食堂へ向かった。




 §




「やらん」


 翌日、俺たちはクレイルとエルマーを除いたメンバーでユルゲンの工房を訪れていた。


 床で寝ていた彼をたたき起こした後の第一声がこれだ。


「ユルゲンさんに星骸(スターアーク)の作製をお願いしたいんです」


 彼は起き上がり、椅子の上にちょこんと腰かけると眠たげな瞳でじっとリィロを見上げていた。


「ピーコックの星骸素材を加工してほしいんです」

「…………やらん」

「そんな……」


 前回ガクルクスの素材を見せた時は了承してくれたんだけど、どうやらピーコックはユルゲンの興味を引かなかったらしい。


 ユルゲン製作の杖、『煌零杖ナプルクル』の強力さを、俺たちは今回の遠征で目の当たりにすることになった。

 リィロの星骸も、是非ユルゲンに作ってもらいたいのだが……。


 色々と説得を試みたが、彼は首を縦に振ることはなかった。


 なんでもかんでも作ってくれるわけではないと聞いてはいたけど、今回はユルゲンの基準をパスできる依頼ではなかったようだ。


「帰れ。ワシは寝る」


 そう言って再び彼は床に転がり、背を向けた。


「迷惑をお掛けしてすみませんでした……。他を当たってみます」

「――ユルゲンさん。ただの星骸だったら興味持てないかもしれないっすけど、もし”機巧星骸”を作りたいって言ったらどうすか?」

「……なんだと?」


 アルベールの言葉にユルゲンの耳がぴくりと反応する。


「ピーコックの星骸素材を手に入れてから、ずっと考えてたんすよ。刻印回路を組み込んだら、もっと面白い武器になるんじゃないか、って」


 ユルゲンはのそりと身を起こし、こちらを向くと地面に胡坐をかいて座りなおした。


「その構想、聞いてやる。はなせ」



 アルベールは自分の考える刻印武器の構想を一通り語った。


「面白い」

「じゃ、じゃあ……!」

「ワシには作れん」

「そんなぁ……」

「だが、作れそうな奴を知っている」

「本当っすか?!」


 ユルゲンによれば、機巧星骸を作るならより適任なマクシムという男がこの街にいるそうだ。

 彼の勤めるリカルド工房に行けばおそらくは作れるだろうとユルゲンは言う。


「ありがとね、アルベール君。星骸の作製、手伝ってもらってもいいかしら?」

「星骸作製に携われる機会なんてそうないっすからね。こっちからお願いしたいくらいっすよリィロさん」

「ニムエもお手伝いいたします」

「二人とも……、恩に着るわ。よろしくお願いします」


 店主であるものぐさラクーンに礼を言い、俺たちは機巧武器が作れるという人物の元へ向かった。




 §




 マクシムという男のいるリカルド工房は、鍛冶街の比較的目立つ場所にあった。店内には客も多く、数人の鍛冶士の姿が見える。


 とりあえず作製された武具を壁に陳列していたネコの鍛冶士に声を掛けてみた。


「すみません」

「何か用かい?」

「マクシムさんという方はいらっしゃいますか?」

「マクシムに客とは珍しいな。奥にいるはずだ。ついてきな」


 鍛冶士について店の奥へ入り廊下を進む。奥の開けた部屋の中では、何人もの鍛冶士たちが赤熱した炎を吹く窯を前に、一心不乱に金槌を振るっていた。


 さすがにエグレッタでも大きめの工房なだけあって、ユルゲンの工房とは活気が違う。


 俺たちを案内する職人は部屋の隅までやってきた。窓際に机が置かれ、そこで一人の青年が机に向かって何か書き物をしていた。


「マクシム、お前に客だ」


 青年は机から顔を上げ、俺たちを見る。そのほっそりとした男は、アルベールと同じ種族のコッペリアだった。西部ロスメルタではたくさんみかけたが、南部にはほとんどいないので珍しい。


「僕に、お客さんですか?」


 マクシムは少し驚いたように職人の後ろに立つ俺たちを見回した。



 §



「え、ユルゲンさんが僕のことを?!」

「そうです」


 リィロが鍛冶士ユルゲンに紹介されてマクシムを訪ねたことを告げると、彼は目を丸くした。


「ユルゲンさんとは知り合いじゃないんですか?」

「ほとんど交流はありませんね。以前街でお会いした時少しだけ言葉を交わしたくらいです」


 マクシムがいうには、ユルゲンはエグレッタの鍛冶士では知らない者がいないほど有名な人物らしい。


 変わり者であることもそうだが、作製する武具はそのどれもが一級品であり、若手には彼に憧れを抱く職人も多いのだとか。


「ユルゲンさん、やっぱりすごい人なんですね」

「それは本当に! あの人の作る武具は性能だけでなく、見た目もまるで芸術品かのような美しさですからね!」


 マクシムもユルゲンに心酔する一人なのかもしれない。彼の口調には妙な熱がこもっていた。


「あ、その杖まさかユルゲンさんが作ったものですか?!」

「そ、そうですけど」


 マクシムはマリアンヌが抱えていた杖に目をつけ、杖袋で覆われた状態であるにもかかわらずユルゲン作であることを見破ってみせた。


「み、見たい……。いや、今そのことは……。でも、あの人が僕を認めて紹介してくれたなんて。やりますよ、エンヴィアさん、あなたの星骸(スターアーク)製作を僕に任せてもらえませんか?!」

「は、はい。ぜひお願いします」


 大人しい人かと思ったら、意外に熱いタイプなのかもしれない。前のめりに語る彼に、リィロが若干押されている。


「それで、機巧星骸を作製したいとのことでしたね」

「ええ。マクシムさんは機巧武具を作ることができるの?」

「むしろ専門です。まあ……、機巧武具に傾倒しすぎて、工房ではこの通り閑職ですが」

「なるほどね……」


 エグレッタの狩人達は、ざっとみたところ力押しで戦うタイプが多そうだしな。刻印武器の扱いとか苦手そうだ。ここではあまり需要がないのかもしれない。


「エグレッタの狩人は機巧武器の良さを全くわかってないっすよ」

「はい。補助燃料は必要ですが、自分の力以上の威力を出せるのに」

「武具に属性機構を載せれば随分戦いやすくなると思うんすけどね」

「本当にその通りです! あなた、なかなか話のわかる人ですね」


 マクシムとアルベールが依頼そっちのけで機巧武具について語り始めている。長くならないといいな……。


「――ん?」


 急にマクシムはアルベールの背後に立つニムエを見つめ始めた。彼女の顔を凝視し、全身を下から上まで眺め回す。


「ま、さか……、刻印機械……なのですか?」

「ニムエはアル=ジャザリ様により作製されたオートマターです」

「は……、えッ……?!?!」


 マクシムはガタンと椅子を倒して立ち上がり、呆然とした様子でニムエを見つめた。


 ニムエは普段金属のボディを覆い隠すため常に使用人服を着用しているが、案外人でないことはバレないものだ。

 他種族からはコッペリアなんてこんなもんだろうと思われてるのかもしれない。


「す、すごいっ……! オートマターだって……?! コレは夢なのか……?」


 マクシムは夢と現実の狭間を彷徨いながらニムエの周囲を回り始め、観察を始めようとする。


「み、みたいっ! 隅から隅まで、全部……!」

「ニムエのカラダは隅から隅までご主人様のモノですので」


 マリアンヌの冷たい視線がアルベールに突き刺さる。


「不潔です」

「誤解を生むようなコトいうなっての……。悪いけど、ニムエの内部機構は企業機密ってことで」


 企業機密ってなんだよ……。オートマターを量産販売する会社でも作る気か。


 というか全然話が前に進まないな。


「あのぅ」

「はっ! す、すみません。伝説上の刻印機械を目にしてしまい、つい……」


 マクシムは作製する装備の打ち合わせのため、席に戻った。それでもちらちらとニムエに視線を向けているあたり、かなり気になっているようだ。



「……とまあ、こういう武器を作りたいんすよ」

「とてもよい発想ですね! そうか、ピーコックの鳴き袋を……なるほど」


 マクシムにアルベールの考案する武器の構想を語り、本格的な打ち合わせが始まった。


「長くなりそうだし、俺たちは先に帰ろうか」

「だね。リィロの星骸楽しみだな~」

「リィロさん、お先に失礼します」


 工房にリィロとアルベールとニムエを残し、俺たちは先に宿へ引き上げることにした。


 星骸議論に白熱するアルベールとマクシムに挟まれ、困惑顔で俺たちを見るリィロを置いてリカルド工房を出た。


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