表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
八章 炎龍帝と水の巫女
340/352

第331話 遠雷のクルーガー

 

 荒々しげに船縁に腰掛け、考えに沈むクレイルを見る。


 結局ジョーイは取り逃がしてしまった。

 水中に瞬間移動した奴らはエルマーの追撃を躱し、空間移動の波導を駆使して完全に姿を眩ませてしまった。


「敵に使われると本当に厄介だ、黒波導っていうのは」

黒門(クロウス)をあそこまで使いこなせているということは、私よりも数段は黒波導に熟達しているように思いますね」

「ふざけた様子だったけど、やっぱりエンゲルスの人達、甘くないね」

「クレイルさん……」


 マリアンヌが心配そうにクレイルの様子を窺う。



「お前達、あのガキに色々と因縁がありそうだな」


 今、舟にはクルーガーも乗船している。戦闘に至った経緯を聞くために声をかけた。


「クルーガーさん、どうしてこんな場所で奴らと戦闘を?」

「ジョーイっつうんだな、あのガキは。エンゲルス……、噂くらいは耳にした事がある」


 クルーガーは毛むくじゃらの手で顎を掻いた。


「ここんところな、リビア湖の集落が襲撃を受けてんだよ」

「そういえば、そんな話を聞いたわね……」

「……で、俺は村々の様子を見回ってたんだがな。今日は偶然現場に遭遇したのよ。奴を仕留めようと、ここまで追って来たってわけだ」

「そうだったんだ」


 集落襲撃の話は聞いていたが、クルーガーはそれを防ごうと活動しているらしい。


 リビア湖は広い。いくら神速のクルーガーだとしても、神出鬼没のエンゲルスから全ての村を守るのは不可能だ。

 今日ジョーイと接敵したのもたまたまだと言う。


「襲撃を受けてた村の奴らが心配だ。俺はもういくぜ」

「俺達も一緒に行っていいですか?」

「お前らもだと? 何故だ」


 クルーガーからはもっと事情を聞いておきたいし、村が襲撃を受けたなら怪我人を治療できるかもしれない。

 そのことを提案すると、悪いが頼むと彼の了承を得られた。


 俺たちはクルーガーの指し示す村のある方角に向けて舟を走らせた。



 §



 ジョーイの襲撃を受けた集落のある島はそう遠くなかった。

 岸に到達すると、流されないよう舟を浜辺に押し上げ、木々の生い茂る森の中へクルーガーを先頭に入っていく。


 歩いていると、木々の間から空へ立ち上る煙が見え始めた。何かが燃えているのだろう。


 やがて森を抜けると、クルーガーの言う通り集落が見えてきた。藁で葺いた屋根に木を組んで作られた質素な住居が主だ。


 点在する住居は壁が破壊されたり、火の手が上がっているものもある。


「派手にやられてるわね」

「これを、あの人達がやったんですね……」


 エンゲルスはスカイフォール各地でこのような暴虐を働いてきた。

 マグノリア公国で遭遇したアガニィも殺戮の限りを尽くしていたな。


 村民の救助や消火に走り回る住民の姿が見える。俺たちも村の中心へと急いだ。


 村の中央にはちょっとした広場があり、屋根付きの集会場のようなものが建っていた。そしてそこにはおそらく怪我人であろう村人達が並べて寝かされていた。


「ひでぇな……」


「あ……、クルーガーさんっ!」

「クルーガー!」


 数人がクルーガーの姿を見つけて駆け寄ってくる。


「被害は?」

「死んだのは一人だ。怪我は軽いのから重いのまで10人ほどだにゃ」

「そうか……、すまねえな」

「あんたが謝ることは何もない。ところでそちらの方々は?」

「こいつらは」


 俺たちを示そうとしたクルーガーの前にフウカが出る。


「怪我している人を診せてくれる? 私ができる限り治すから」

「はっ、もしや治癒術士の方ですかにゃ? お、お願い申すっ! 重傷者をお救いください、何卒、何卒!」


 年配のネコについてフウカが怪我人の治療に向かう。俺たちも消火活動や怪我人の介抱に協力することにした。



 §



「誠に、誠にありがとうございましたですじゃ」

「助けられてよかった。というか頭を上げて。まだ安静にしてなきゃだめ」


 揃って頭を下げる村のお偉いさんと思しき人物と、怪我人達にフウカが答える。


 治療が間に合い、死者以外の怪我人の命は救うことができた。

 火の手もマリアンヌと二ムエの活躍であらかた消し止められた。


「まさか、俺が村を離れた隙を狙われるとはよ……、畜生が」

「よかったやないか、クルーガー」

「なんだと?」


 クレイルの一言にクルーガーが牙を剥き、怒気を放つ。

 全身の毛が逆立ち、鋭い眼光がクレイルを射止めた。


「奴に狙われた村は、運が悪けりゃ全滅や。……この程度、大した痛手やない」

「貴様……」

「クレイルさん! 死者が、いるんですよ……っ」


 大柄なネコはしばらくクレイルを睨みつけていたが、ぶっきらぼうに視線を外した。


「……ちっ。お前らには助けられた。感謝はしている」

「ここっておっさんの村なのかよ?」

「そうだ。俺の故郷だ」


 リビア湖のただ中に浮かぶこの島はクルーガーの生まれ故郷だったようだ。


「じゃあ、ジョーイはクルーガーさんの村を狙ってきたのか?」

「いや……、奴は最近無差別にリビア湖一帯の集落を襲っていやがる。多分偶然だ」

「うーん、一体何が目的なんすかね?」

「奴らの目的は一つしかあらへん」

「盟約の印か……」


 クルーガーが俺達をじっと見つめてくる。


「あのガキは、その刻印を持つヤツを狙って近隣の村を襲撃してるっつうのか」

「? ……はい、そう思います」


 ジョーイの目的は十中八九盟約の印だと思うが、それはつまり、このグランディス大陸に印の継承者が存在すると目星をつけてるってことにもなるよな。

 それで、しらみつぶしに村を襲っている?


「ジョーイの口ぶりでは、クルーガーさんとクレイルさんも狙っていそうな感じでしたが」

「奴は俺の印を認識しとった。また来るやろ。次は確実に殺してやる……」

「…………」


 確かに所在のわからない印より、所持者の割れたクレイルの印の方が標的としては理想的だろう。


「やべーのに目ぇつけられたっすね……」

「ビビんなアルベール。望むところだ」


 クレイルの瞳は炎を宿したように燃えている。


「クルーガーさん、村のことは常に気に掛けておいた方がいいと思う。ジョーイはまた必ずクレイルかクルーガーさんのどちらかを狙ってくる。そんな気がするんだ」

「気をつけろよクルーガー。奴らは漏れなく全員アイン・ソピアル持ち。楽に倒せる相手やない」

「だとしても小娘如きに遅れは取らん。俺にも『神雷(ケラウノス)』がある」


 やっぱりあの体から放出される雷はクルーガーのアイン・ソピ(神の叡智)アルによる特別な力らしい。


 神雷(ケラウノス)は体内に雷を貯める事ができ、その電気エネルギーを使って様々な事が出来るそうだ。


 以前クレイルが王都で戦ったエンゲルスにも雷使いがいたらしいが、クルーガーの力はそれよりも強力なものなんだろう。


 ”遠雷”の二つ名も納得だ。遠くに落ちる雷を見たと思ったら、次の瞬間には光の速度でもってクルーガーは既に目の前に存在している。


「おっさんとんでもねぇ速さだったしな。破壊力だって相当なもんだぜありゃあ。早々やられたりしねぇだろ」


 逆に言えば、そのクルーガーをして仕留め損なう強さとも言えるか。

 ジョーイか。厄介な奴が現れたな。



 その後俺たちは村への救援と怪我人の治療の礼として、村人達が獲ったというリビア湖に住む美味と評判の巨大魚をいただいた。


 もっと礼をさせてくれと言われたが、襲撃を受けて村自体が非常時の今、無理はさせられないので辞退した。


 食料ならこれから向かう遠征のためにいくらあっても困らないし、大切な村の食糧の提供には彼らの感謝の気持ちが伺えた。大事に食わせてもらおう。


 その後、クルーガーや村人達に別れを告げて島を後にした。



「クレイルさん、もう独断先行はなしですよ。相手は普通じゃないんですから」

「マリアンヌの言う通りだよ。クレイルの敵なら私たちにとっても無関係じゃないでしょ?」


 やっぱりクレイルはことエンゲルスに関することとなると見境がなくなる節がある。

 そんなクレイルのことを、みんなそれなりに心配しているのだ。


「次は、気をつける」


 出だしから色々なことが起きたが、当初の予定通り火龍山脈を目指し、俺たちは再度広大なリビア湖の水平線に向かって舟を飛ばした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ