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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
八章 炎龍帝と水の巫女
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第329話 仇敵

 

 一緒に飯を食っていたコルベットの連中は、唐突な宣戦布告をして去っていった――。

 俺達は迷宮に入りたいだけで、邪魔なだけの炎帝龍の討伐功績が欲しいわけじゃないんだけどなぁ。



「ウォルトさん、そういえば『血染めのリゼット』って何?」


 食後のひととき、リィロが何気なく同席していたウォルトに尋ねた。


「ああ、リゼットはお前らの担当職員だったな。この街で活動してりゃ、そりゃ耳にもするか。あいつは今でこそバベルで働いちゃいるが、元狩人(ニムロド)なんだよ」

「そうだったの」


 モンスターに対抗する組織の職員だし、元狩人がいてもおかしくはない。


「奴も以前はここ火龍山脈で活動する狩人だった。それも凄腕のな。自慢の金棒を振り回し、腕力だけでモンスターを原型を留めないほどにぶちのめす怪力女。返り血を浴び、笑いながら戦う様から付いた二つ名が、『血染めのリゼット』ってわけよ」

「うわぁ」


 本当にうわぁだよ。ここの人ら、エピソードを掘り返す度にそんな話ばっかり出てくるな。狩人の聖地はバベル職員まで戦闘狂かよ。


「でも、二つ名が付く程凄い人が、なぜバベルの職員なんてしているんでしょうか」

「そこまではわからん。奴はある日突然狩人を止めてバベルに転職したからな。ローズなら知ってんじゃねえか?」

「あの二人、犬猿の仲って風に見えたっすけど」

「リゼットは元々"青い薔薇(コルベット)"に所属していた。ま、一悶着あったんだろうよ」


 そんなことはこの界隈じゃ珍しくもねえだろう、とでも言いたげな顔でウォルトは爪楊枝を口に突っ込んでいた。

 受付の方を見ると、リゼットはカウンターの向こうに座って狩人の対応をしている。普通にしていると結構なクール系美女なのに、人は見かけによらない。


 飯も食い終わったことだし、遠征で手に入れた素材を換金せねばならない。俺達は改めて受付に向かおうと席を立った。


「あ、そうだウォルトさん」

「なんだ?」

「今日山脈から帰って来る時に、リビア湖の途中で遠くに落雷を見たんですよ」

「ほう」

「しかも連続でバチバチ鳴ってて。あれ天然の雷じゃないですよね」


 ウォルトは顎をさすりながら答える。


「そりゃ、『遠雷』だな」

「遠雷?」

「おい、まさかあの『遠雷』か?」

「んだな。あの『遠雷』だ」


 クレイルはウォルトの言った『遠雷』を知っているらしい。


「ああ、『遠雷』っつーのはな……。南部で並ぶもの無しと言われる程の戦闘能力を持った、波導使いのことや」

「めちゃくちゃ強いってこと?」

「おう。『遠雷のクルーガー』の名は、術士界隈じゃ有名や」

「そうだぜ。そんでもってクルーガーは”リビア湖の守護者”でもあるからな」

「守護者、ですか」


 広大なリビア湖にはいくつもの村や集落が点在している。

 だが、火龍山脈のある土地柄、この辺りには素行の悪い連中が多く集まる。しかもタチの悪いことに手練揃いだ。


 クルーガーはそういった連中から湖に暮らす民のことを守っているらしい。いつしか彼は敬意を持って、”リビア湖の守護者”と呼ばれるようになったとか。


 実際にクルーガーの存在は、目に見えてリビア湖の民に対する犯罪行為への抑止力となっているらしい。


「いい機会だ。今回の助言をくれてやろう」

「またかよ」

「先輩の言葉は聞いとくもんだぜ?」


 実際ウォルトの言葉で損はしなかったので、今回も大人しく耳を傾けておく。


「リビア湖で遠雷を見たらすぐに逃げろ」

「はあ……」

「んじゃ、山脈の攻略頑張れよー」


 それだけ言い残すとウォルトはぶらりと支部を出て行った。


 彼を見送ると俺たちは受付へ向かい、リゼットに素材の解体と換金を頼んだ。


 リッカが許容限度近くまで圧縮していた素材なので、解体場で元に戻すとかなりの分量になった。

 半分以上はレベル3の大型モンスターだ。


「今回もすさまじい量ですね。ワイバニアがいるという事は、もう第一中継地点まで到達されたんですか」

「はい。なんとか」

「まさに破竹の勢いですね。みなさんには期待しています」


 残念ながら今回レベル4のモンスターには遭遇できなかった。早々楽にはお目にかかれないってことだな。

 確認を終え、リゼットに後日売却金を受け取りにくる事を伝える。


 俺たちはようやく疲労を溜め込んだ身体を引き摺り宿へと向かった。



 §



 第二次遠征からエグレッタに帰還して三日経った。

 討伐したモンスターは数が多く、解体も込み合っているらしく、売却金を受け取れるのは明後日だと言われている。


 俺達は再び、露出の多い水用装備を着用してリビア湖の浜辺に集合していた。


 きっかけはエルマーだ。解体が終わるのを待っているのが暇だから狩りに行きたいと言い出した。

 男連中はそれに賛同し、こうして装備を整え朝から集まっている。


 一方女子勢は揃って難色を示した。一週間以上かけた遠征が終わったばかりで疲労も残っているし、いまだに水用装備を着用するのが恥ずかしいそうだ。


 俺達は二日も休めば十分だと思ったんだけど、狩りに行こうと誘ったら噓だろみたいな顔をされた。


 それにも関わらずちゃんと付き合ってくれるのはありがたいが、何度見ても刺激的な恰好だな……。

 ちなみにニムエはいつもの戦闘(メイド)服である。


 相変わらず女性陣には、舟を準備中の他の狩人達から無遠慮な視線が大量に向けられていた。


「さてと、準備できたし行こうか」

「今日もミノール水域?」

「だな。山の方は熱くって敵わねえし、パームネックレスはいくつあってもいいくらいなんだぜ」


 火龍山脈は上層にいくほど、つまり火口へ近づくほど気温が高まる。中層入り口ですら暑さがきつくなってきているというのに、これから先到底耐熱装備一つで耐えられると思えない。

 あくまで水龍の素材が届くまでのつなぎだが、増やせるならそれに超したことはない。


 俺達は借りた舟に乗り込むと、いつもと同じくリベリオンで水流を起こし軽快にエグレッタの浜を離れた。



 風を受けて舟を走らせること一刻ほど。ミノール水域まで半分というところまで来た時、前方で青白い閃光が瞬いた。


「……!」

「アニキ、もしかしてあれ、ウォルトさんの言ってた『遠雷』じゃないすか?」


 稲光のような閃光は断続的に湖面に落ち、音と光は段々と強くなってくる。


「おい、こっちに来るんだぜ?!」

「なんて、速い――!」


 進行方向から迫る雷鳴は俺達に近づいているようだ。それはあまりに早く、回避行動を取ろうとした時にはもう目前まで迫っていた。


「ぐっ!」


 舟を転覆させない程度に方向転換させる。舟が大きく傾き、船縁から盛大に白波が上がった。


 突如、舟のすぐ至近に黒い穴が開く。直接空間に穿たれたような漆黒の穴から、二人の人影が飛び出してきた。

 白髪の女性と、その背におぶさった金髪の少女。


 二人が湖面に着地したその瞬間、雷鳴と共に湖が弾けた。


「うおおぁっ!!」


 青白い閃光と衝撃に襲われ、一瞬操舵不能に陥った舟が跳ねる。

 必死で縁にしがみつき、衝撃が収まると、被った水を吐き出しながら周囲を確認する。


「みんな……、無事かっ?!」

「びっくりしたぁ……何事?」

「ぺっぺっ……! 一体、な、なんなんすかっ?!」


「アイツは……!」


 今尚揺れが収まらない舟の上で、クレイルが中腰になり過ぎ去った雷鳴の方角を睨んでいた。


「ナトリ! さっきの奴ら追ってくれや!」

「クレイル?」


 クレイルの表情は真剣だった。決して単なる思い付きで言っているわけじゃない事は察せられた。


「……分かった! みんな、飛ばすぞ。掴まれ!」


 舟を旋回させ、方向転換させるとリベリオンの出力を一気に解放する。


「エレメントブリンガー、『アクアクリミナル』!」


 俺たちを乗せた小舟は、船首を軽く浮かせながら湖面を爆走し始める。


「クレイルさん、今のってウォルトさんの言っていた『遠雷のクルーガー』ですよね? どうして……?」

「リッカ、クルーガーと一緒におった奴らを見たか」

「はい。戦闘中だったみたいですけど」

「あの金髪巻紙女……、俺はアイツを知っとる」

「さっきの女の子?」


 クレイルの赤い瞳に怒りが滲む。


「誰なんですか?」

「……忘れもしねえ。奴の名は『ジョーイ』。俺の故郷、ククルを焼き払った張本人や。会いたかったぜ、クソ女」


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