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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
八章 炎龍帝と水の巫女
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第317話 洞窟の野営地

 

 非常に高温となる火龍山脈の気候であるが、野営に選んだ洞窟内は水気が多いせいか熱気が抑えられている気がする。


「湿っぽいけど、熱いのと比べたら結構快適だよね」

「そうだねフウカちゃん。モンスターが入ってくる心配もないから、しっかり眠れそうで嬉しいな」

「入り口付近は泡の壁を三重にしてありますから心配はいりませんよ、何か引っかかればすぐわかりますし」

「ありがとう、マリアンヌちゃん」


 リッカが持って来てくれていた、女性陣作の食事を囲んで口に運ぶ。


「いやー、ありがたいっす。こんな場所でも手料理が食えるなんて」

「ご主人様、ニムエが拵えたサンドイッチです。どうぞ召し上がれ」


 ニムエがまるで使用人のようにアルベールに食べ物を差し出す。実際使用人の服を装着しているし、アルベールはルーナリア皇族の一員だからあまり間違ってもいないのだが。


「お、サンキューニムエ。……むぐ、あ、がッ?」


 アルベールはサンドイッチを咽せながら吐き出すと、涙目になって抗議する。


「な、なんだよコレッ?! 固すぎて歯欠けたぞ?!」

「お口に合いませんでしたか」

「そういう問題じゃねーっ!」


 痛みと怒りで目を白黒させるアルベールにマリアンヌが冷ややかな視線を向ける。


「慌てて食べるからです。それにそんな言い方、折角作ってくれたニムエさんが可哀想でしょう」


 お馴染みとなりつつある二人の不毛な言い合いを傍らに、クレイルとエルマーが不安げな顔でサンドイッチを咀嚼する。


「こっちのは大丈夫なんやろな……」

「硬気功なら噛み砕けっか……?」


 固いのはともかく、野営でこんな普通に食事ができるのは本当にありがたい。リッカ様様だ。


「すげーうまいよ。この塩味が効いた味、疲れた身体に染み渡る感じがする」


 ちぎって隣に漂っていたフラーに渡すと、ムシャムシャと美味そうに頬張る。


「リッカさんに教えてもらいながらみんなで作ったんですよ」

「オリヴィアが料理好きだったので、私もその影響で」

「リッカさん、今度他の料理も教えてもらえませんか?」

「うん、いいよ。またみんなで作ろうね」

「私も教わりた~い」


 女子組が料理の話で盛り上がる中、リィロだけは考え事でもしているのか黙ってゆっくりと周囲を見回していた。


 彼女は一度に大量の煉気を消耗するようなことは少ないが、探知の術は始終発動させているので、それなりに負担を感じていてもおかしくはない。ここは火龍山脈なので、集中を切らすのが命取りとなることもあるはずだ。


「リィロさん、今日は結構疲れたよね。頼りきりで申し訳ない」

「ああうん、ちょっとね。でも私は大丈夫だから」

「無理しないでください。私もリィロさんに頼ってばかりじゃ悪いかもと思っていたところです」

「心配してくれてありがとうね、マリアンヌちゃん。ちょっと気になることがあっただけだから」

「リィロ、気になることって何?」


 リィロは眼鏡を少し押し上げてから話し始める。


「この洞窟、随分涼しいわよね」

「確かにな。ここは耐熱装備なしでも平気な気温や」

「洞窟だからじゃないの?」

「少し地中に下ったからといって、そこまで急激に熱が緩和されるとは思えないわ」

「確かにそうですね……、何か、他の要因があるってことなんですか?」

「それにこの湧き水。もしかしたら水の結晶鉱脈でもあるのかも」


 純度の高い水のフィル結晶が近くに存在するなら確かにこの湿っぽさは説明がつく。


「でも、ここってわりと火龍山脈の低地だし、こんだけ涼しけりゃ他の狩人もかなり野営地に使ってるんじゃないすか?」

「だなぁ。めぼしいものは何も残ってなさそうだけど」


 一応見回ったが、人が訪れぬ間にモンスターが住み着いているが野営に適した洞窟、という感じだった。


「一応、調査してみようかな」

「響術士の性ってヤツかァ?」

「まあね。地質調査は私の専門分野なの」


 リィロによれば響波導の術には表面をなぞるだけでなく、物体の内部まで感知できる術もあるらしい。


「とりあえずは湧き水の出所からね」



 §



 ニムエの装甲を取り外し、補修作業を行うアルベールを横目に、膝下まで水に浸かりながら杖を動かすリィロを眺めていた。


 彼女が調査を始めて二刻ほど経っている。他のメンバーは就寝までの間、思い思いの時を過ごしている。


「リィロ、そろそろ休んだ方がいいんじゃない?」


 フウカが彼女の身を案じて声をかける。


「ありがとねフウカちゃん。でもようやく見つけたわ」

「見つけたって、水の湧く場所のこと?」

「そ。水の通り道さえ見つかれば、流れを辿ることができる」


 彼女はあるポイントにズブリと杖を突き立てると、集中を始めた。そのまま暫く時が流れた。


「やっぱりね。水の気配に満ちた空間がある」

「湧水の元なら当たり前なんじゃないの?」

「この感覚はただの地下水じゃないわ。おそらくは多量の結晶が露出する地下空間」

「すごい、そんなことまでわかるんだ……」


 リィロは水たまりを抜け出すと、少し離れた場所まで歩き何もない場所で止まった。


「位置的に、この辺りに……、共鳴のさざめき、塵芥の波間、周く探れ。『貫響波(オル・ソナートス)』」



「うん……、うん。そんなに離れてない」


 リィロは目を開け、フウカを見て地面を指差す。


「ね、フウカちゃん。穴を掘るのは得意? 地下3メイルちょっとなんだけど」

「やったことないけど、見たことはあるから多分大丈夫」

「それ、普通は大丈夫じゃないと思うんだけど……」


 リィロのぼやきをよそにフウカは彼女が示したポイントに両手を突く。

 俺もその掘削作業を見守ることにした。


「えーっと……、細かく、滑らかに……。『砂化(セケル)』」

「あぁ、ルクスフェルトが厄災の背中でやってた術か」


 見ているとフウカの前で地面がゆっくりと渦巻くように揺れ動き、少しずつ砂っぽくなっていく。地面は回転しながら、徐々に沈下していった。


「……これだと夜が明けちゃいそうね。さすがに掘り進むのは大変かぁ」

「私だとあんなに速く掘り進めないや。あ、そうだ! 黒属性を混ぜてっと……」


 ゆっくり回転していた砂が黒一色に染まったかと思うと、突然回転速度を上げてギャリギャリと下降していく。


「……めちゃくちゃ速くなったな」

「お弁当に具材追加しよ、みたいな感覚で属性置換術式(エクセリアル)をやってのけちゃうのね……」


 フウカはこの短い期間でエクセリアルをほぼモノにしていた。元々彼女のスタイルに合ってたんだろうか。



 地面に空いた縦穴は、すぐに下まで抜け切った。

 穴の底からほんのり青白い光と、しっとりと湿った気配が漂う。


「お、本当に地下空間があるみたいだ」

「すごいよリィロ、言ってた通り」

「フウカちゃんの方が私の10倍くらいすごいと思うけどなぁ……」


「お前ら何しとるんや?」

「アニキ、なんすかその穴?」


 集まってきたみんなにリィロが地下に繋がる空間を発見した事を説明する。


「リィロさんすげーっ! 入ってみましょうよ。ここじゃ水の結晶なんてめちゃくちゃ貴重なんすから!」

「アルベール、行くにしても今日はもう無理です。どれくらい続いてるのか、どんな敵がいるかも知れないんです。みんな疲れてるんですから」

「あ、ああ、そうだよな……さすがに」

「地下洞窟か。おもろそうやんけ。熱さには辟易しとったとこやし、まだ誰も見つけとらん場所なら調べる価値あんな」

「そうだぜ。いい素材持ったモンスターがいるかもしんねえぞ」


 思いがけず見つけた隠れた地下洞窟の存在に、みんな興奮気味だ。俺たちは一晩休み、明日は地底探索に乗り出す方針を固めた。


 マリアンヌに泡で地下へ通じる穴を一旦塞いでもらい、明日に備えて交代で見張を立てて眠ることとした。




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