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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
八章 炎龍帝と水の巫女
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第316話 伏襲のリザリース

 

 俺たちが野営のため入った洞窟は一本道だったが、しばらく進むと広い空間に接続しているのがわかった。


 先ほどクレイルが放った炎のせいで、多分モンスターは俺たちに気づいている。出てこないってことは、入ってくるのを待ち構えているのか。

 リィロによれば生体反応は全部で10。うち二体は身体が大きい。


「カビ臭ぇ。それに随分湿ってるんだぜ」

「洞窟内、湿気があって獣人型とくれば……リザル種か」

「トカゲっぽいモンスターだよね?」


 反応のでかい二体は上位種のリザリースだろう。レベル3が二体同時なら油断はできないな。


「ガルム種より敏捷性が高いんだ。上位種は驚く程速いから間合いに入られるなよ、みんな」

「はい」


 洞窟の奥は空気が少し薄いので、クレイルに大火球を撃ち込んで初手で戦力を削ってもらうのは無し。

 軽く打ち合わせた後、俺たちは大胆にも全員で奥の間へと突入する。


 開けた広い空間だ。天井も高く、暗闇で全く見通せない。足首が浸かる程度に水が満ちている。


「慈愛の眼差し、旅人の足を休めよ。『豊穣の乙女(ヴィルゴ)』」


 突入と同時、即座にリッカが黒波導の結界を展開する。風切り音と共に飛来した無数の投擲物は、結界に触れると空中で時間が止まったかのようにピタリと停止する。


「闇を喰らえ、『エルモス』」


 リッカの術と同時にクレイルが打ち上げたエルモスが、空中から広い洞窟内を煌々と照らし出す。

 水の満ちた洞窟内に、俺たちに向けて矢を逝ったり槍を投げつけてきた無数の影が浮かび上がる。


「叛逆の弓、『アンチレイ』」

「唸れ、『黒風刃(フィオス)』!」

「舞って、『泡石ノ剣(クトネシリカ)』」


 俺が天井に張り付いて槍を投げていたリザームを一体、フウカが遠方から弓を射った奴を一体、マリアンヌがストックしていた泡石ノ剣(クトネシリカ)で比較的近距離に潜んでいたリザーム三体を同時に攻撃する。

 天井付近にいた奴はリベリオンの一撃を頭に受け地面に墜落、水柱を立てて動かなくなった。

 フウカのエクセリアルを受けた、岩の上に位置取るリザームは上半身が吹き飛び仰向けに倒れる。

 泡石ノ剣(クトネシリカ)が命中した三体は、泡に纏わり付かれ石像のように動かなくなった。


 待ち伏せに対するカウンターは功を奏し、一気に敵戦力を半分まで削ることに成功した。


 その間にも投擲物は飛来していたが、全て結界に防がれその場で停止する。リッカの結界は一方通行だ。こっちの攻撃は普通に通すが、逆方向からは果てしない距離となる。

 すぐに無駄と悟ったか、リザル達の攻撃は止み一瞬の静寂が訪れた。


 豊穣の乙女(ヴィルゴ)は接近を試みる相手にはほとんど無敵の結界だが、距離を取られれば徒に煉気を消耗するだけで意味はない。

 水の湧く洞窟内は遮蔽物が多く、苔のこびりついた岩などが転がっており見通しが悪い。が、投擲物の方向から大体の居所は掴めている。


 リッカが結界を解除すると同時、地に両手をついたフウカが術を発動させる。


「貫け、『黒乱穿杭(アガンジェラ)』!」


 波導が地中を伝わり、広範囲の地面が破裂するように弾けて地上に存在する物を足元から食い破る。

 エクセリアルを使いこなし、ただでさえ強力な『乱穿杭(アガンジェラ)』を黒属性で放つ事で凶悪な威力を発揮している。

 視線の先には、岩だろうが構わず食い破る黒い杭の針地獄が一瞬のうちに生み出されていた。


 洞窟内にモンスターの断末魔が反響し、その威力のほどを証明してみせる。


 だが、それで簡単にカタがつくほど甘くはなかったらしい。遮蔽物から二つの影が飛び出し、地を這うような姿勢でこちらへと襲いかかってきた。

 詠唱を挟む間もないスピードだ。備えていれば別だが。


 予想通り、大きな二つの反応はリザル系上位種にあたるレベル3のリザリースだった。俺とエルマーは走り寄る影に向かって迷わず突っ込む。


「叛逆の盾、『アブソリュート・イージス』」


 繰り出される、長く伸びた鋭い鉤爪に合わせるように青光の盾を展開する。

 本来俺の動体視力と運動能力じゃ、とてもリザリースの攻撃を捌くことは不可能だ。この絶対防御の盾を使用することができるからこそ、俺は一応前衛をやることもできる。


 カウンターは狙い通りに決まり、速度の乗った敵の攻撃はアブソリュート・イージスに躊躇い無く叩き付けられる。


「グガァッッ?!」


 武器を持たず、展開重視の爪で戦うスタイルが仇になったな。リザリースの右腕はアブソリュート・イージスの光に飲み込まれ、手首ごと鉤爪が消失する。

 エルマーはもう一体を抑えてはいるが、苛烈な連撃によって防戦一方のようだ。


「風の護り、『(シュピテール)』」


 フウカが風を纏い加速して、エルマーに加勢する。二人は交互に攻撃を繰り出し、波導を放つがリザリースはそれを巧みにすり抜ける。


「ナトリさん! 撃ち抜け、『泡石ノ剣(クトネシリカ)』!」


 手首を奪われ激昂したリザリースに向かって二本の泡石ノ剣(クトネシリカ)が放たれる。飛翔中に硬化した泡の剣は、まるで金属のような重たい音を立てて地面へと突き刺さる。が、後退しつつ躱される。厄介な素早さだ。


 地属性の術には敵を拘束するものがあるらしいけど、こう地面が水浸しでは上手く力を発揮できないのだろう。フウカもマリアンヌも拘束術を使用できないでいる。

 水……、そうか。水だったら。


『リベル、あれやってみよう』

『試す価値はある』


 あれから一応練習したんだ。熱を奪い去る氷の力。水だったら一瞬で氷の力は伝わるはず。

 刻印式を応用し、指向性と威力、範囲を即座に指定。あとは煉気を注ぐだけ。もう自分まで凍らせる失敗はしない。


「エレメントブリンガー、——『フロストプリズナー』」


 水の満ちた地面に白く発光する剣先を叩き付けると、扇状に衝撃が駆け抜け、地面が一瞬にして凍り付いた。軽快なステップで悠々とこちらの攻撃を回避していた二体のリザリースは、凍り付いた地面に足を絡めとられて無様に転倒する。


「終わりだ。『アンチレイ』」

「切り裂け、『裂風刃オル・フィオス』」


 光弾に頭を撃ち抜かれ、また風の刃に首を撥ねられ、二体のリザリースは沈黙した。


 俺たちがリザリースを処理している間に、リィロが位置を特定した討ち漏らしのリザームはニムエによって片付けられ、洞窟内に静寂が戻ってきた。


「これで安全は確保できたっすね。ちゃんと寝られそうで安心っすよ」

「いや、まだだ。一応モンスターの繭が転がってないか内部を確認してまわらないと」


 俺たちは、洞窟入り口を封鎖する組と内部の安全を確認する組とに別れ行動を始める。


 水の湧き出る奥部は多少広かったが、特に脅威となるものは存在しなかった。入り口を塞いだフウカ達が戻り合流すると、浸水していない多少開けた場所で野営の準備を始めた。




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