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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
七章 刻印都市と金色の迷宮
304/351

第296話 豊穣の砂漠

 

 厄災マモンのコアを消し去り砂漠に静寂が訪れた——。


 アルベールの足下に唐突な閃光を見たのと、ニムエが動き出したのはほぼ同時だった。


 直後、砂の地面から目にも留まらぬ速さで黒い棘のようなものが突き出す。


「————!」


 それに反応できたのはニムエだけで、彼女はアルベールを突き飛ばした代わりに棘の刺突を受け、脇腹を大きく貫かれる。

 内部の機構がやられたのか、彼女はバランスを崩し地面へ膝を突いた。


「ニムエっ!」

「——っとに邪魔な人形だ」


 黒い棘の生えた場所の砂が盛り上がり、何者かの形を成す。最初に姿を現したときの厄災だった。


「……マモン」


 俺たちは散開し、武器を取りマモンを取り囲むように構える。


「お前のせいで僕は随分時間を無駄にしたんだ。ぶっ壊さないと気が済まない」


 マモンは膝を突くニムエの腹部に蹴りを見舞った。彼女はそれを腕で受け止めながら、砂の上を転がる。


「貴様! ――『ソード・オブ・リベリオン』!」


 マモンを横一閃に切り裂くが、すぐに断面は砂と化し何事も無く上下が結びつき痕も残らない。


「無駄だってわかんないか……」

「どうして……?! コアはさっき破壊したはずなのに……」


 無傷で首をコキコキと鳴らす茶髪の青年。その姿を見たリッカが絞り出すような声をあげる。


「クハッ。僕はクロエ様の忠実なる僕、”七耀”の一人だぞ。この程度で終わるわけないだろぉ?」

「しぶてェにも程があんゼ……」


 厄災は不気味に微笑むと、クレイルを見る。


「蒼い炎か……。見た事無いし、()()()()()()()()()もいない。なぁ、それくれよ」

「炎刀、『鬼断』」


 クレイルが炎刀を発現させ、問答無用と厄災へ斬り掛かる。それを身軽に跳んで回避しながら、マモンは尚も笑う。


「火……ってことは、当然水に弱いんだろ? これなんかどうだ——、妖刀『水禍』」


 クレイルの剣に対し、マモンは大振りな水の剣を波導によって作り出す。

 そして奴は作り出した刀でクレイルの蒼炎の剣を受け止めた。激しく蒸気を上げながらも、鬼断はマモンの水の大剣を打ち破れない。


「……オラァ!!」


 クレイルはあらゆる角度から怒濤の勢いで斬撃を放つが、厄災はそれら全てを避け、防ぎ、受け流してみせる。

 素人の動きではない。剣の扱いに慣れた、確かな技量を持つ達人のそれだった。


 マモンは魔法、『簒奪者』によって力を奪った人間の経験や技量すらも獲得している。


「停滞せよ、『馬上の射手(サジタリウス)』」

「『裂風刃オル・フィオス』!」 

「うおおおっ!」


 クレイルの猛攻に合わせ、俺たちも一斉に追撃するが、全ていなされ全く当たらない。


「クハハ! 遅い遅い遅い遅いな……」

「なんでお前達はスカイフォールを破壊する! お前達は一体何がしたい?!」


 前方のクレイルと入れ替わるように前へ出て突きを放つが、マモンはリベリオンの刃を首を反らせてスレスレで躱し、さらに連続でバク転しながら降り注ぐフウカの裂風刃も同時に躱していく。


「あのさぁ、お前達の世界がどうなろうと……知ったこっちゃないんだよ」

「お前らのせいで……どれだけの人間がっ! 『ドレッドストーム』!」


 後方に下げたリベリオンに一瞬だけエレメントブリンガーを発動させ、風圧による爆発的な加速を得る。


 後退していたマモンに一瞬で肉薄、袈裟斬りを放ち、奴が手にしていた水波導の剣を砕き、消滅させる。


「……へえ」


 剣を失ったマモンは宙で身体を回転させながら跳躍する。


「そうだな、スカイフォールを破壊する前に、王ってのになってみるのもいいなァ」

「何を……言ってるの?!」


 ニヤニヤと醜悪な笑みを浮かべながら、厄災マモンはその理想を語る。


「これだよ」


 奴の手のひらから黄色い泡が噴き出し、剣の形を形成する。


「マリアンヌの、『泡石ノ剣(クトネシリカ)』……」

「過去に僕が奪ってきた数々の力の中でもこいつは別格だ。同等の力は他に数える程しか持ってない。お前達の言葉じゃ”アイン・ソピアル”とかいうんだっけ」


 マモンは泡石ノ剣(クトネシリカ)を弄ぶように伸び縮みさせたり回転させたりしている。


「神の叡智と呼ばれる“ラジエルの詩篇”か。性質こそ違えど、根は僕らの魔法と同じセフィラ由来の力ってわけだ。こういうトクベツな力が、お前達の世界にはゴロゴロしてるんだろう?」

「…………?」

「迷宮から出てたら……、ルーナリアっていうのか、とりあえずそこの王になる。ニンゲンを力で支配し、ラジエルの詩篇を持つ者を集めさせ、蒐集しよう」

「は?」

「いいねぇ。国、ゆくゆくは世界が僕のモノになる。ただ壊すだけじゃつまらないものな。……クハハッ」

「そんなことができると思ってるのかよ」

「できるさ。僕は強欲の厄災なんだろ? この世界は丸ごと僕が奪ってやろう」


 そんなことさせてたまるか。


「お前達には僕の強欲の支配(アヴァリティア)の効きが悪いようだが、この力なんかは僕の魔法と相性がいい。アイン・ソピアル――、『豊穣(ディメーテル)』」


 マモンの足下に草木が生えそれが増殖を始める。砂漠のど真ん中に似つかわしくない光景だが、これも奴が奪って来たアイン・ソピアルの一つか。


「気をつけろ、みんな――」


 緑化した砂漠から飛び出した太い木の根が、しなるようにして振り下ろされる。咄嗟に横に飛んで木の根の鞭打からは逃れたが、マモンを中心としてあらゆる植物が急激な成長を始め、俺たちへと襲いかかる。


「ナトリ!」


 フウカの手を取り上空へと逃れる。太い樹木が驚く程の速度で成長を始め、俺たちを追うように伸びてくる。枝に乗ったマモンも植物の成長と同時に移動し、俺達を追う。


「この豊穣(ディメーテル)は、本来植物を産み育てる、戦いとは無関係の能力さ。だが、植物の生育も欲求に変わりない。僕の強欲の支配(アヴァリティア)でそれを操作してやれば、この通り」


 伸びた巨木の枝が別れ、それが一斉に俺たちに向けて伸びる。

 枝をまとめて切り落とし、巨木を足場にしながら回避行動を取る。植物は既に成長を遂げ、さっきまで砂漠だった一帯は巨木の森と化していた。


「邪魔くせえ! 蒼き禍津火、『熾槍穹アグネ・アストラ』!」


 クレイルの杖から蒼光の熱線が迸り、周囲を薙ぎ払う。蒼炎版の紅炎プロメテウスだ。


 クレイルの波導は、上空までにょきにょきと成長した大木をまとめて貫通しながら焼き切り、辺りを炎で包み視界を確保する。


 しかし、空いた隙間を埋めるように恐るべき速度で新たな大木が伸びていき、行く手を塞ぐ。


「いくら撃とうが無駄だっての」


 鋭く尖ったツタや根の攻撃を炎刀で切り飛ばしながら、俺とリッカも同様に四方八方から繰り出される植物の猛攻に耐える。


「『旋風刃ミリオール』! 『旋風刃ミリオールっ! ――ナトリ! アルベールが見当たらないよ!」


 周囲に風の刃を放ち、迫りくる植物を撥ね退けながらフウカが叫ぶ。


「……あそこだ!」


 地面に近い場所に、不意打ちを受けて動けないニムエの元に駆け寄るアルベールの姿が見えた。


「やばい! 飲み込まれる!」


 アルベールは、太い根に絡み付かれたニムエと共にいる。


「アニキ! フウカさんっ――!」

「待ってろアル! 叛逆の鉄槌、『リベリオン・オーバーリミット』ッ!」


 フウカの腕を離し、手近な木の根を蹴り付けてアルベールの元へ飛ぶ。


「ニムエ、お前だけでも……ッ! 『高度錬成陣アルケミシア・エングレイヴ』」



 アルベールが俺に向かって伸ばした手、その手を取る前に、彼の腕に植物が絡み付く。


「ううっ、ぐ、ああぁ……」

「アル!!」

「アニ、キ。後は……頼ん————……」

「くそ! おいアル! しっかりしろ!」


 アルベールの身体に巻き付いた根を力任せに引き剥がし、周囲の植物を拳で粉砕する。


「アル! アルベール!!」

「…………」


 彼は俺に抱えられたままぐったりと身体を預け、その瞳は虚ろに空を見上げていた。


 植物に絡み付かれたせいで強欲の支配(アヴァリティア)の影響を受けてしまった。

 マリアンヌと似た状態だ。盟約の印に守られていても、植物に絡めとられると一切の気力を奪われてしまうのか。


 奥歯を噛み締め、アルベールの体を安全な場所へ移動させるため周囲を見回す。


 だが、マモンが俺たちをただ傍観しているわけはなく、すでに周囲を植物が壁のようにとりまき俺たちに迫りつつあった。


「『裂風刃オル・フィオス』! 『風刃旋空咲』(オル・ミリオーラ)! ナトリ! アルベールッ!」


 植物の向こう側からフウカの必死な声が届く。次から次へと生えてくる植物の壁を前に、フウカの風波導は効果が薄いようだった。


「こんなもんで俺たちを捕まえられると思うなよ!!」 


 拳に周囲のフィルを収束させる。イモータル・テンペストで薙ぎ払い、脱出してやる。


「私に……お任せを」

「ニムエ?!」


 先ほどまで損傷を受けて蹲り、停止していたニムエが俺達の傍らに立ち構えをとっていた。


「ご主人様は、私とナトリ様に後を託されました」


 ……そうか。アルベールは厄災に捕まるのを覚悟でニムエの修理を。


「アルベールの意志、無駄してたまるか」

「……同意します。『波導砲(ブラスター)』発射」


 ニムエから放たれるビームが植物の壁を穿つ。アルベールを抱えた俺とニムエはそこから素早く包囲を脱する。


「しぶといなぁ。まだ動くのかソイツは」


 高い枝に立ち、俺たちを見下ろすマモンが嘲るように口の端を歪める。


「動くさ。お前をぶっ倒すまで。……フウカ、アルベールを頼む」

……うん。リィロのところに連れていく。すぐに戻るから——」


 体の自由を奪われたアルベールをフウカに預け、ニムエと二人でマモンと相対する。

 マリアンヌに続いて、アルベールまでもが犠牲に。これ以上仲間を失うわけにはいかない。


「……そろそろ飽きたな。終わりにするか」

「俺も同じ気持ちだよ。強欲クソ野郎。いい加減にくたばりやがれ」


 ニムエと二手に別れ、巨木を伝ってマモンへ向かって駆け出す。


「おおおおおおおおっ!!」

最先いやさきの彗星、『馬上の射手(サジタリウス)』」

「無駄だっての」


 木々の合間から放たれたリッカの波導の矢は、視線をやることもなく腕を上げたマモンの手につかみ取られる。

 パキンッと音を立ててマモンはリッカの馬上の射手(サジタリウス)を握りつぶすと、矢が飛んできた方向に手のひらを突き出し、弾丸のように黒砂の塊を撃ち出す。


「きゃあッ!」

「『イモータル・テンペスト』!!」


 溜めたフィルを一気に解き放ち、急接近した厄災に向け衝撃波を伴う打撃を撃ち込む。


「全く、面白い武器だな。それ、僕にくれよ」


 砂の盾が展開されるが、イモータル・テンペストの威力が上回り、衝撃を受けた厄災は木の幹に体を打ち付ける。


「炎だったら好きなだけくれたるわ」

「……!?」


 幹に背を預けた厄災の胸部から、蒼く燃え盛る剣が突如として突き出す。


「幹の中とはな」


 マモンの全身を覆うように蒼炎が燃え広がり、欠けたような形のコアの輝きが砂の合間に見える。


 クレイルの背後からの奇襲に合わせ、急接近したニムエが超至近距離から波導砲(ブラスター)をぶっ放し、マモンの肉体を消し炭へと変える。



「無駄だってのがわかんないかなァ……」


 波導砲(ブラスター)に続き間髪入れずに放たれる、ニムエの残像を伴った鋭い打撃の連打を、コアの周囲に渦巻く黒い砂の竜巻が防ぐ。俺も反対側から厄災のコアを摑み取ろうと打撃を繰り返す。


「ッ!」


 腕をクロスさせてニムエの攻撃からコアを守ろうとするマモン。だがニムエは正確無比な連打で厄災の再生力を上回る打撃を高速で放つ。


 マモンへと接近戦を挑む俺とニムエに、全方位から黒硫砂と巨木の根が襲いかかるが、砂はリッカが黒波導で無力化、木の根は片端からクレイルが焼き切り、消し炭へと変える。


「過去の大戦時、ニムエは一人でした。けれど今のニムエには、ご主人様の意志を継ぐ味方がいます」

「それが……どうした?! 機械人形如きが、もう一度、ぶっ壊してやるよォ!」


 白銀の小手となったリベリオンで包まれた右腕で厄災の背中を抉る。傷口はすぐに再生するが、かまわずにコアを狙い続ける。



「お前……ビビったろ?」

「あン?」

「ニムエに。俺たちにさ」

「だから思い上がるなと――」

「さっきみたいに巨大化してみろよ、マモン。お前、守りに入ったんだろ? コアを削られるのが怖くて」


 先ほどまでの影の巨人ではなく、マモンは人の形態に戻っている。

 それはおそらくニムエの参戦により、巨大化状態ではコアへの攻撃を防ぎきれないと判断したからではないのか。


 巨大化すれば広範囲への攻撃が可能だろうが、あの体は大きい分耐久力が低く、脆い。

 多分マモンは焦っている。俺達の攻撃が通用していないようにも思えたが、そんなことはない――。


「――天翔ける猛き獣、今ここに顕現し、周く衆人の首を垂らしめよ。『黒角の牡牛(エルナト)』」

「ぬ……ぐぅうおおおぉああ!」


 俺とニムエの猛攻に気が逸れたのか、マモンは合間を縫うように放たれたリッカの波導をまともに受ける。

 本来黒角の牡牛(エルナト)は広範囲に作用する加重波導術だが、リッカは範囲を狭めることで一点集中、想像を絶する超加重がマモンへとかかる。普通の人間ならとうに全身の骨が砕けて地面のシミとなっているだろう。


 ボゴォ! と凄まじい音を立ててマモンの立っている太い枝が重量に耐えられず陥没していく。マモンを完全に捉えた。


「命令を実行します。ご主人様」


 ニムエの背面が青い光を放ち、拳にも光が宿る。そして停止したコアの破片に向けて、目で追えない、さらに速度の上乗せされた鬼のような連撃が、唸りを上げる鋼鉄の両腕から叩き込まれる。

 驚くべきことにその拳は、僅かに欠けたコアをさらに削り取っていく。


「や————、めろ」


 コアから同心円状に繰り出される影の刃を拳で迎撃、叩き割る。が、周囲から大量の流砂と植物が押し寄せ俺たちを襲う。

 流砂の流れを縫うようにして躱し、木の幹に取り付く。


 集合した砂がコアへ取り付き、再び砂で肉体を構成したマモンが現れる。


「……あり得ない。この僕が、恐怖するなど」

「色んな人間をその魔法で奪ってきたんだろ。なら当然恐怖だって感じるに決まってる。お前はもう人間とそう変わりないんだ……」

「この僕が、こんな虫ケラ共と同一の存在だとォ……?」


 ボコン、とそのはだけた上半身が歪に膨れ上がり、異様に鍛え上げられた肉体へと変化する。


「自制も効かず、ただ欲望を貪るだけなんざ、もう俺ら以下やろ」


 上空から風を切って落下してきたクレイルが、マモンの巨大化した上半身に着地と同時に剣を突き入れる。

 鎖骨の隙間から肉体に突き刺さった炎刀が、傷口から強烈な蒼炎を吹き上げる。


「小賢しいッ!」

「フンッ!」


 膨張した上半身、肩の上のクレイルを攻撃しようと体を捻るマモン。

 その挙動に力の流れを合わせるように、半円の軌道を描き鬼断がマモンの太い腕を肩口から斬り飛ばす。


 振り回される腕から逃れたクレイルと入れ替わりにニムエが突っ込んでいく。


「この僕が……、貴様ら下等な存在と同一なハズないだろう。忌々しい人形の分際で、思い上がるなッ! クハッ――見せてやるよ、僕の本気を!」


 クレイルに斬られた腕の切断面がボコンと膨張、一瞬で腕が再生される。さらに下半身も筋肉が膨張するようにして巨大化し、全身が筋肉の鎧に包まれた、筋肉ダルマのようなおぞましい姿へと変わる。


『強欲の両腕』


 マモンの太い両腕が金色に変化していく。その両腕でニムエの打撃を受け止め、反撃に転じる。

 ニムエの高速連打に打ち合わせるようにして繰り出される金色の両腕は、ニムエの拳とかち合って激しい地鳴りのような連打音を森の中に響かせる。


 その幅広の背中に回り込み腕を振り上げるが、木の根が俺を狙って伸び攻撃を妨害する。


「クハハハハハハハハアッ!! 僕こそ最強! 人間共から奪い取った能力で造り上げた、至高の肉体よ!」


 ガキン、と金属のひしゃげる音とともに、ニムエの片腕が豪快に折れ曲がる。


「弱いなァ! こんなもんかよォ!!」


 撃ち込まれる金色の拳がニムエのボディを歪めていく。


「『波導砲(ブラスター)』、発射」

「遅いって」


 空中で二段跳躍したマモンは、至近距離で放たれた極大ビームを飛び越し、頭上からニムエに拳を打ち下ろす。


 彼女はそれを受け、垂直に落下して轟音を立てて地面に激突した。


「ニムエ!!」


 マモンはさらに追撃をしかけるべく空を蹴って急降下。その拳が地面で弾け、衝撃が辺りに伝播する。

 奴を追って駆けつけると、地面に拳を打ち付けたマモンの真下で、体が上下に折れて分かれたニムエが刻印回路の光を散らしながら機能停止していた。


「一丁上がりィ」

「貴様――!!」


 殴り掛かろうと踏み込んだ瞬間、ブゥン、という音と共にマモンの巨体は俺の目前に移動している。


「ニンゲンは面白いこと考えるよなぁ。黒波導を使って瞬間的に移動距離を伸ばすんだ。こんな風にな?」


 黒波導の空間転移術まで使えるのか。


「かっ……は」


 マモンの黄金の拳が腹部にめり込み、強烈な衝撃を伴い振り抜かれる。

 ミシミシ、ゴキンと聞きたくない音が体の奥から鳴り響き、俺の体はその殴打によって吹き飛び、周囲の植物に囲まれた風景がどんどん後方へと流れていった。



 気づけば森を抜け、俺は一人砂原の上に転がっていた。あまりの衝撃に意識が飛び、落ちた時の記憶が定かではない。墜落の衝撃によって目が覚めたらしい。一体どれだけの距離を飛ばされたのか。


「はぁ、はぁ、はぁ……、あがっ」


 腹部の灼けつくような激痛。口から垂れてくる血に溺れ、視界が定まらずぼやける。


 全然体が動かない。ほとんど感覚がなく、自分の体がどうなったのか確認することもできない。煉気も尽きかけ、体も起こせない。


「み、んな……、フ、ウカ――」



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