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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
七章 刻印都市と金色の迷宮
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第286話 欲望の都

 

 "光輝の迷宮デザイア"が皇都ルーナリアの上空に出現してから、今日で30日。


 迷宮に落とされたのが六の月最終日、つまり大学前期の最後の日だ。迷宮出現期間、一ヶ月のタイムリミットの刻限は今日の真夜中。


「今日で迷宮が消えるかもしれない……」


 砂漠の地平線に明るい陽が顔を出し、俺たちの体を照らし暖めていく。


「ナトリ君、みんな準備できたっぽいわよ」

「うん」


 呼びに来てくれたリィロと共に砂丘を降りて、みんなが集まる焚き火跡へ戻る。


「出発しよう。目標地点までもう少しのはずだ」



 厄災討伐部隊は俺達ジェネシスのみだが、グルーミィだけが拠点から一緒についてきている。

 彼女がいなければ砂漠での現在位置がわからなくなるため、入手した位置情報以上に欠かせない存在だ。


 本人にたいした戦闘能力はなさそうなため、少し不安だが……。


 昨日の午前中、俺たちは拠点を襲う黒波の群れを蹴散らして突破し、目標地点目指して出発した。


 フウカとクレイルが力を合わせた複合術式(フュージョン・スペル)、『ヘリオスフィア』とかいう大技で、辺り一帯の黒波が見る間に蒸発して道ができていく様は圧巻だったな。


 あの二人、意外に連携取るのが上手いんだよな。一緒に戦う機会が多かったせいかな。


 黒波を突破した後はグルーミィの位置記憶能力と、アルベールが解析した位置情報を掛け合わせ、一日かけて砂漠を突き進んだ。

 そして真夜中を過ぎた頃、日の出に合わせて出発するため野営したのだ。


 位置情報の指し示すポイントが、拠点から現実離れしたような距離じゃなかったのは幸運だったと言える。


 そして陽が登る頃、俺たちはついに目標地点と思われる一帯に到着することができた。




「おい……、なんもあらへんぞ?」

「いや、そんなはずは」


 しかし、周囲を見渡してもそれまでの砂漠と何ら変わらない。砂の丘陵が続いているだけだ。


「まさか、オートマターが故障して位置情報がずれているとか……?」

「まだ決めつけるには早いんじゃないの? 少し調べてみないと」

「ちょっと上からこの辺りを見てくるよ」


 そう言うとフウカはふわっと風を受けて高く飛び上がった。


「それじゃ私も……。――共鳴のさざめき、砂塵の波間周く探れ。『貫響波』(オル・ソナートス)


 しばらく二人の様子を黙って見守る。


「うーん……、特に変わりない砂漠だ。この辺りには何もなさそうだけど」

「グルーミィ、この座標の場所、ここで合ってるよな?」


 彼女に簡易端末を見せる。


「……うん」


 色々な可能性を考えているとフウカが降りてきた。


「ねえ、向こうに何か立ってたよ」


 そう言ってある方向を指差す。


「何かって、何?」

「遠くて見辛いからちょっとよくわからなかったけど、岩かな」

「砂漠にぽつんと残ってる岩場は珍しいですけど、ごくたまに見られる風景ではありますよね」


 確かにそういう場所はいままでいくつか見てきている。


「とにかく行ってみようや。他に見るもんもないやろし」


 俺たちはフウカが見たという岩か何かの元へと向かう。


 果たしてそこにあったのは、砂を被った石柱のようなものだった。


「これか」

「風化して砂を被ってるせいでわかりにくいですけど、これ人工物ですよ。それもかなり古い」

「石碑みたいにもみえますね」

「それっ」


 フウカが風を起こし、被っている砂を吹き飛ばした。

 砂を取り除いてみると確かに自然物ではない。質素な装飾が掘られた石柱だ。1.5メイルほどの高さで、表面は磨かれた石材でできているようだ。


 俺たちは石柱を取り囲み、表面に触れながら調べ始めた。


「この風化具合、かなり古いぜ」

「表面は風化してますけど、かなり頑丈な石材ですね。相当な年月が経ってるのは間違いないです」

「でもよ、こんな石ッころ見つけても何をどうすりゃあ……お?」


 クレイルが触れていた正面らしき部分の石盤が光を放った。それに呼応するように、彼の手首に赤い盟約の印が浮かび上がる。


「クレイルさんの盟約の印が反応を……?!」


 そして石盤から柱全体に光の線が走ったかと思うと、背後で突然音がした。

 急いで振り返ると、地面が動いていた。ざあっと砂が流れ、地面が窪んでいく。砂漠の変化はしばらく続き、やがて静寂が訪れると、石柱の前には地下へと続く砂の階段が姿を現していた。


「階段だ……」

「下りられるみたいね」

「行きましょう」


 階段は幅が広く、俺たち全員が余裕をもって降りていける大きさだった。


「まさかこないな大掛かりな仕掛けが隠されとるたァな」

「でも、どうしてクレイル君に反応したの?」

「多分……、この迷宮を創造したのがエル・シャ(創造主)ーデだからでしょう。七英雄に盟約の印を与えた存在。迷宮において印は、『鍵』のような役割を果たすのかもしれませんよ」


 迷宮関係者に与えられる権限みたいな感じか。マリアンヌの考えはいかにもって感じだな。


 もしかするとエル・シャーデ、いやあのリーシャという少女は……、盟約の印を受け継いだ後世の人間が、英雄や厄災をどうにかしてくれることを期待していたのかもしれない。


 以前、俺たちが翠樹の迷宮を登りきることができたのも、もしかしたら印を持ったクレイルが同行していたおかげなのかもしれない。



 階段は地底まで続くかのような長さだった。ただの地下室といった感じじゃない。


 しかしそれもようやく終わりが見えた。階段を一番下まで降りきり上を見上げると、暗闇の中にぽつんと豆粒のようになった出口が見えた。


「随分降りたね」

「この先には何があるんだろう」


 そこからまっすぐな通路が続いている。光が届かないため、クレイルが(エルモス)を出して辺りを照らしてくれる。


 はらはらと天井から砂の滴る洞窟のような通路を進むと、その通路にも終わりが見えてきた。


「向こうはちょっと明るいな」


 通路を歩ききると、急に見晴らしの良い場所に出た。かなり広大な空間が広がっている。砂漠にこんな地下空洞があったなんて。


「こいつァ……」


 俺たちは眼下の光景にしばらく言葉を忘れた。

 そこは広大な空間で、薄暗い洞窟内に見渡す限りの建造物が処狭しと並んでいる。どこまで続くかもわからないほどに広い地底窟の底は、黄金の都市で埋め尽くされていた。


「黄金の、街……?」

「これ、一ヶ月前にも見たな」


 ルーナリア上空に出現した迷宮の外観も、ちょうどこんな感じだった。逆さまの黄金都市だ。


「迷宮の中に街があるなんて、へんな感じ……」

「でも、だれもいないみたいです」


 不思議な光景だった。黄金で造られた街。この世の富を全て注ぎ込んだような場所だが、そこに生ある者は誰一人として存在していない。なんて空虚な光景だろう。


 地底窟直上には岩盤が薄い場所が点在しているらしく、ところどころ流砂と陽の光が落ちてくる部分があるため、明かりがなくても見通しが利いていた。


 再び下へ下りる階段を進み、眼下の大都市を見下ろしながら下っていくと、黄金都市を一望できる祭壇のような場所に辿り着いた。



 そしてその突端に設えられた台座の上に、こちらに背を向けて髪の長い女性が座っているのが目に入った。

 俺たちは思わず立ち止まり、息を飲む。


 静寂の支配する大空洞の中、緊張感が高まっていく。どこからか吹いてくる風が、僅かに女性の長く伸びた茶色い頭髪を揺らす。


 彼女は同じ姿勢で動じることなく、辺りに反響するよく通る声で言葉を発した。



「ようこそ。欲望の黄金都市デザイアへ」










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