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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
七章 刻印都市と金色の迷宮
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第282話 解析

 

「アニキ! フウカさーん!」


 渓谷の入り口に立つ四人の姿を見つけ、彼らの元へ降りていく。


「そちらも無事で何よりだよ」

「ヒノエ先輩達こそ」

「フウカちゃん、ゲーティアーは?」

「ナトリが倒してくれた」


 フウカが笑顔で戦いの様子を話して聞かせる。


「さっすがオレらの最高戦力! フウカさんの波導力とアニキのリベリオンが合わされば敵無しだなぁ」

「アル、調査はできたんだな。割と早いなと思ったけ、ど……?」


 話しながら彼らの背後にある岩塊に目がいった。


「アニキの作戦は大成功っすよ! リッカさんの力を借りて、地面ごと運んできました」

「君たちが暴れてくれたお陰で、会敵したノーフェイスはごく少数だった。安全に運搬できたよ」

「そっか。オートマターごと運んだんだな」


 オートマターを調べたアルベールは、この遺物がかなり本格的に地面に埋没していることを発見した。普通に運ぶことは諦め、周辺の地面ごと抉ってきたというわけだ。


「みんな、疲れてませんか? アルベールくんも調査に時間がかかるみたいですし、谷から離れて野営しましょう」

「賛成。飛び回ってちょっとだけ疲れちゃった」


 じき夜になるし、俺自身煉気を使って消耗していた。

 俺たちは少し移動して休息を取ることにした。




 §



 皆の当たる焚き火から少し離れて、俺とアルはオートマターの解析を試みていた。


 リベリオンを使って岩塊から丁寧にオートマターの躯体を切り離し、地面に横たえている。

 二人で急遽作成した簡易灯の灯りが、腹部の装甲が開かれたオートマターの中身を照らしていた。


「やっべええ……、なんだこれ」

「アルでもよく分かんないか?」


 古のオートマターの構造は非常に精巧なパーツの組み合わせからなっている。しかもただパーツが多いだけでなく、その一つ一つに精緻な刻印が刻まれ、全ての部品が無駄無く、機能のために駆動するようになっているらしい。


「使われてる刻印回路の量、異常っすよ」

「確かに……、装甲の裏側までびっしりだな。ん、この属性式やたら多いけど、密度上昇のやつ、か?」

「うん、装甲の強度を上げるために強化式が編み込まれてるっすね。って……、これ全部内面保護用の結界刻印かよ!」

「おい、じゃあそれだけの数の回路が単に装甲の補強だけに使われてるってことか?」

「ほら、これが機能停止の原因になった破損っす。中見てください。何層にも渡って多重に回路版が組み込まれてるんすよ」

「…………」


 最近刻印術を学び始めた俺でもわかる。これを作った奴は化け物だ。

 これだけの数の部品と回路を組み合わせ、一つの機械として正常に動作させるなんて、考えるだけで頭がおかしくなるな。


「これが、アル=ジャザリのオートマターか……!」

「……むずかしい?」


 二人してオートマターの上に屈み込んで話し込んでいたため、背後から突然グルーミィに声をかけられびくりとする。


「うわ、びっくりした」

「グルーミィさん、下手に触ったらだめっすよ」

「なんかオートマターが気になるみたい。二人とも何かわかった?」


 彼女の後ろからフウカも顔を出す。


「とんでもねーってことがわかったくらいっすね」



 その後も二人して内部の機構について細かく見ていく。


「やっぱ胴体は動力炉とか、駆動系に関係する機構と回路で構成されてるみたいっすね」

「問題の、厄災に関する記録となるとやっぱ頭部か」


 機能停止の原因となった破損も頭部だった。こめかみの辺りが大きく陥没し、内部機構が露になっているのは初見で気づいた。


「頭かぁ……、おいそれとは触れないっすね。装甲剥がして回路が壊れたら取り返しのつかないことにもなりそうだし……」


 記憶情報や思考に関するシステムが頭に搭載されているなら、より強固な結界刻印によって守られているはず。リベリオンで頭を斬り開くことは容易だが、取り返しのつかないことになる可能性だってある。


「アル、このオートマターってまだ動くと思うか?」

「うーん……、どうっすかねぇ」


 これが本当にアル・ジャザリの作った機械なら、廃棄された状態で一万年以上眠っていても不思議じゃない。あまりに現実味の湧かない長さだ。


 アルベールがごそごそと胸の動力系統周辺を弄り始める。


「ここを、こうして……、あ、開いた。これが燃料シリンダーか」

「随分小さいな」

「全く。こんなんでこの精密機械とこれだけの回路が動くと思えねーんすけどね……」


 ポーチから炎のエアリアを取り出し、試しにシリンダーに投入してみた。


「…………あっ?」


 動力系統に橙色の光が灯り、周辺の刻印が起動し始めた。


「マジかよ……、起動した?」

「噓だろ……」


 びっしり書き込まれた保護用の刻印のおかげで、風化するのをぎりぎり免れたってことか。


「刻印が起動したんなら、"コード:ラジエル"が使えるはずだ……。『刻印解析(コードアナライズ)』」


 アルベールは光を放ち始めた刻印回路の文字列に手を翳す。コード:ラジエルの力を使うことで、起動中の刻印の機能を調べることができるそうだ。


「なん……っだこれ。複雑すぎる……」

「何かわかりそうか?」

「すんません、回路の広がりがあまりに巨大で、かなり時間がかかりそうっす。少しオレに任せてもらえません?」

「わかった。頼んだよ」


 俺は立ち上がり、アルベールを残して焚き火を囲む面々に合流し腰を下ろした。


「うまくいきそうか?」

「どうやらまだオートマターの機能は生きてるみたいですね。……信じられないけど。後はアルベール次第です」


 リッカが渡してくれる保存食料を口に放り込む。これは迷宮攻略のために準備しておいて本当によかったな。

 砂狼と砂魚の肉だけじゃ絶対飽きただろうし、拠点の人員の半分は飢えていたかもしれない。腹が満たされないことには探索すらままならないからな。


「……あと二日で迷宮に入ってから一ヶ月ですね」

「そうだね。砂漠も見慣れちゃった」

「一ヶ月か……、迷宮デザイアの出現期間が終わる時、一体私たちはどうなるのだろうな」


 俺たちは一応一ヶ月をタイムリミットとして行動してきた。しかし思うように探索は進まず、まもなく一月を迎えようとしている。


 迷宮が消える時、何が起こるのか。


「私たち、どうなっちゃうんでしょうね」

「拠点の人骨を見る限り、すぐに死ぬようなことはないと思いたいけど」

「でも、どうなるか誰にもわからない……」


 この広大な砂漠迷宮には、無数の生命が息づいているというのは、ずっとここを歩いて来た俺たち全員が知っている。

 砂漠が突然消えてなくなるってことはないだろう。現にオートマターはおそらく当時のまま、あの場所に残っていた。


 いかにもありそうなラインで考えるなら、厄災を倒してもスカイフォールへ帰ることができなくなる……とか?


 もしかしたら大丈夫かも、なんてあやふやな根拠でノンビリしていられない。俺たちの肩には迷宮に巻き込まれた全員の命が乗っている。



「それでもまだ、時間はある……。最後のその時まで、絶対に諦めない」

「その通りだな。こうして厄災に繋がる手がかりかもしれない遺物も発見できた。まだ希望は捨てないでおこう」

「そう……ですよね」

「うん。まだ終わってない。私も諦めないよ!」


 焚き火を見つめながら、俺たちは一層覚悟を固めた。これ以上一刻だって無駄にはできない。



「アニキ! ちょっと来て!」


 アルベールの呼びかけに立ち上がり、彼の元へと向かった。




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