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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
七章 刻印都市と金色の迷宮
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第274話 作成

 

 帰ってきた拠点で起きていた問題、気力喪失症。


 最初は怠さに始まり、次第に無力感を訴えるようになり塞ぎがちに。

 そのまま日数が経つとこちらの呼び掛けにも反応せず、虚な表情で空を見つめるだけとなる。


 そんな状態になる者が増えているらしい。


 聞いたことのない症状だ。しかし、新たに見つけた生存者の中にも思い当たる症状の者がいたのは確か。


 拠点のまとめ役となったレロイは、その気力喪失症にかなり悩まされているらしかった。

 病の兆候を見せる者は着実に増えてきており、このままでは拠点の協力体制が瓦解しかねない。


 本人には言わなかったが、彼自身にもその兆候が現れているようだった。

 だとすれば、いずれレイトローズ自身も……。そうなる前にここを脱出しなくては。



「迷宮の奇病、か……」

『未知の空間だ、正体不明の病原体が蔓延してても不思議じゃないな』


 問題は山積み。それでも手の届くところからやるしか無い。今は俺たちに出来る事を。




 §




 俺、アルベール、カーライルは拠点の廃墟の一つに集まり、床に積み上げられたものを見下ろしていた。


「これでいいか?」

「十分っすよ、さっすがナトリのアニキ!」

「まさかこの砂の大地から、本当に金属を生成できるとはな……」


 廃墟に運び込んだ金属塊は、エレメントブリンガーで拠点の岩から作り出してみたものだ。

 さすがに金属塊を生み出すのは結構な煉気を消耗したが、休んでいる暇などない。今後さらに必要になる可能性に備えて定期的に用意しておこうと思う。


「鉄っぽいものはできたけどさ、今の俺に作れるのはこのくらいだ」

「刻印回路と駆動に必要な強度が確保できればそれで良い。後は加工と組み立てだ」


 探査機械の設計は、拠点に帰る途中でなんとか完成させた。

 刻印学部エース級の二人が揃っているのだ。寝る間を惜しんで考案した。


 まず、探査機は浮遊型でなければならない。


 迷宮の砂漠生物やノーフェイスは地上を支配しているが、飛行型のモンスターは極端に少ない。

 ノーフェイスが命を持たない機械を襲う事はおそらくないだろうが、浮かせておけば事故は防げるし、地形の変化にもある程度対応可能だ。


 そして探査の対象だが、地表の形状を記録することに決めた。


 基本的にはワンパターンに砂丘が連なる環境なので、地上の高低差を波形として記録すれば変化のある場所に気づく事ができる。特殊な地形やオブジェクトなどだ。


 完全に砂中に埋もれていては気づけないが、厄災の眠る場所だ。周囲に何らかの地形的特徴がある可能性はあるかもしれない。



 アルベール達は早速俺が作った金属から「コード:ラジエル」を使用して機械のパーツを錬成していく。


 半日程で必要なパーツが出来上がり、真夜中を過ぎた頃組み上げが完了し試作機が完成した。


「できた……っ!」

「さすがアルだな、組み上げが早いのなんの」

「へへっ、毎日やってるっすから」


 見た目はボール大の金属の球体だ。

 重そうに見えるが、カーライルの得意とする響反技術によって安定した浮力を得られる。


 燃料はカーライルの所持していたエアリアを使う。彼の「エレメント・ノア」は原動力として結構なエネルギーを食うので、普段から結構な量のエアリアを持ち歩いているらしい。


「明日テストに成功して起動できたら、どんどん増やそう」

「ああ。エアリアの数はまだある。厄災の場所を特定するまで飛ばし続けるのみだ」



 作業に区切りがついた俺たちは、廃墟を出て寝起きするのに使っている建物へ向かう。


 闇に沈んだ拠点の廃墟通りをカーライルのエルモスが照らしていたが、光の中に突然人影が現れる。


「うへぇっ!」


 隣を歩くアルベールが体をびくつかせて立ち止まる。

 拠点の男子学生の一人だ。真っ暗闇の中、地面に座り込んでいたらしい。


「おい、……大丈夫か?」


 近寄ってしゃがみ込み、顔を覗き込むように肩に手をかける。

 彼はゆっくりと顔を上げ、少し虚ろな視線を俺に向けると口を開いた。


「あ、ああ……。問題、ない……」

「もう少しちゃんとしたところで休んだ方がいいよ」

「そう、だな……」


 彼は立ち上がると、ふらりと闇の中に消えていった。


「あいつ、大丈夫っすかね……?」

「あの様子、レイトローズ殿の言っていた気力喪失の兆候だろうか」


 カーライルは拠点に加ると、レロイと協力して皆をまとめる役回りを買って出た。


 ルーナリア皇太子であり、元々コッペリアに人望が篤い彼ならレロイ以上に適役だろう。一人で拠点をまとめていたレロイの負担も減ってくれることを期待したい。


「でも、心配だ」


 あの男子学生のことだけじゃない。今、拠点全体を包みつつあるこの嫌な空気感。

 先の見えない不安に、じわりじわりと広がる気力喪失症状に皆怯えている。


 無意識のうちに口に出し話す事を避けている。ただでさえ差し迫った状況の俺たちには、それを受け入れるほどの余裕がなかった。




 §




「うん、飛行は問題ないっすね」

「砂塵の問題はあるが、最大稼働日数を考えても除去機構は正常に働くはずだ」

「これならいける、か」


 俺たちの造り上げた無人探査機は非操作型だ。操作できるように刻印回路を組むと、パーツ重量が増える関係で今度は最大飛行距離と速度が落ちてしまうのだ。


 出来る限り遠くまで行きながら地形情報を記録し、大体の拠点の方角を定めて戻ってくるだけ。

 そんな単純な命令を実行するだけの機構だ。



 設定をテストから本番用に書き換えていたアルベールが立ち上がり、準備が完了したことを伝える。


 彼が刻印回路を機動すると、俺たちが見ている前で探査機は浮遊を始める。一定の高度に達した後、飛行し始めた。

 マリアンヌの泡で移動する倍以上の速度が出る設計だ。これが迷宮攻略の鍵となることを願う。


 俺たちはそれが砂丘の向こう側に見えなくなるまで見送った。



「何を黄昏れている、ランドウォーカー。我々に休む暇などないのだぞ」

「ああ、そうだな」

「作って作って作りまくるっすよ、アニキ!」


 探査機は一つだけじゃない。エアリアの在庫が続く限り作り続け、飛ばし続けるつもりだ。


 さらに探査機を飛ばすべく次の作業のため、拠点の岩門を潜った。




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