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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
七章 刻印都市と金色の迷宮
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第273話 忍び寄る影

 

 救助できた生存者は、カーライル皇子のユニットとアルベールを含む15人の学生達だった。


 彼らは皇子を中心にまとまり、彼の指揮の元団結して、遭遇した生存者を加えながら迷宮を彷徨っていたそうだ。

 負傷者の手当と水と食料を供給し、全員ひとまず差し迫った生命の危機は脱することができ、俺たちは彼らから死ぬほど感謝された。



「もう限界近かったんすよ……」


 移動する泡の精(ヴォジャノーイ)の上に座り込み、アルベールはしみじみと呟く。


「モンスターにやられた人もいたし、衰弱して死んだ人もいた」

「そうか……」

「オレ、まだ生きてるんすね……」

「一緒に迷宮から脱出して、絶対生き残るぞ」

「……はい。母ちゃんのことも心配っすから」



 俺達はアルベール達を保護したため、みんなを連れて拠点へ引き返すことにした。


 生存者達とアルベールを発見できたのはとても幸運だった。彼らはカーライルを中心にとてもよくまとまっている印象を受ける。だからこそ生き残れたのかもしれない。


 光輝の迷宮はあまりに広大で、過酷な場所だ。

 それでも俺とリベリオンの力で、先行きの見え無い現状を必ず打破してやる。


「アル、前に言ってただろ。自動でモンスターを索敵する機械を作りたいって」

「うん、できたら一儲けできるかと思って……」

「それを応用して厄災を探せないか」


 刻印機械(エメタル)を製造し、それに迷宮を探査させるのだ。

 人では移動にも限界があるが、機械だったら燃料の続く限り動き続けることも可能だ。

 俺だけじゃ作れないけど、アルベールの力を借りれば可能かもしれない。


「アニキ……。確かにそれなら危険も減らせるし、効率いいっすけど」


 アルベールは渋い顔をする。


「お前とカーライルの『コード:ラジエル』なら、ロクな設備のない迷宮でも出来るんじゃないか?」

「確かにアレなら工具が無くてもパーツの成形と刻印はできるっす。でも大きな問題が一つあって」

「なんだ?」

「……肝心の素材が無いじゃないすか。こんな砂しかないトコで、機械なんか造れっこないよ」

「なんだ、そんなことか」

「そんなことって……」

「要は金属があればいいんだろ?」

「ええ、まあそうっすけど」


 普通金属は鉱石から製錬されるものだ。基本的には地の属性(エモ)を帯びた物質。そして幸いここは地の属性が豊富な迷宮だ。


 だったらエレメントブリンガーで機械の材料は作り出せる。


『いけるよな? リベル』

『各種金属の組成はマスターを通じて記録してる。勉強の賜物だね』

『よしっ』

『純度の高いフィル結晶なんかは煉気が足りなくて作れないだろうけど、少量の鉄ならなんとかなるはずだ』


 新たに覚醒したリベリオンの属性を操る能力について、アルベールに説明した。


「そんな事が……?!」

「驚いたか?」

「そりゃ驚きますって! 属性を自在に操作出来るなんて、控えめに言ってヤバいでしょ。それができればあんなことやこんなことも……。やっぱナトリのアニキはすげーなぁ」


 エレメントブリンガーは俺の煉気を食うので、現状そう大それた事はやれないんだけどな。


「密かに空を飛ぶ練習してるんだ」

「なるほど風属性を操って……。超加速度で敵に接近して、ズバって感じすね!」

「いや、そこから更に剣に火属性を纏わせてだな」

「うおお、カッケェ!」

「盛り上がっている所悪いのだが、その話私にも詳しく聞かせてくれないか」


 振り返ると俺たちの背後にカーライルがいた。


「なんだ、聞いてたのか」

「ナトリ・ランドウォーカー。君達にはいくら礼を尽くしても足りないだろうが……、今は私にできることを一つずつさせてほしい」


 カーライルには現状わかっていることの説明と、迷宮脱出のために俺たちがやらなければならないことを話した。


「厄災……、よもや現実に災禍となり我々に降り掛かることになろうとはな」

「カーライルは厄災のこと知ってたのか?」

「……ああ。皇家に伝えられる伝承には、我等の始祖アル=ジャザリが大いなる厄災と戦い、この地に封印したという記録が遺されている」


 エイヴス王家も厄災の事を知っていた。彼は七英雄の子孫であるという話だし、知っていてもおかしくはないか。


「それで、刻印機械(エメタル)を製造したいという話だったか」


 俺たちは彼に刻印機械を用いた探索を企てていることについて話す。


「ふむ……。確かに君のエレメントブリンガーと、私たちの『コード:ラジエル』があればそれも可能かもしれん」

「やってみる価値、ありそうだろ?」

「アニキも対抗戦で見たと思うけど、カーライルは刻印機械の遠隔操作についてはちょっとしたもんなんすよ」


 確かにアルベールと戦ったカーライルが操る刻印武器、「エレメント・ノア」の操作精度はかなりのものだったな。


「機械の遠隔操作技術は私の研究分野だ。資材不足は気がかりだが、おそらく開発に貢献できるだろう」

「そいつは心強い。よし、機械の力で迷宮攻略だ!」

「なんとかオレらで作り上げてみせましょうよアニキ!」

「取り急ぎ、君達の拠点とやらに到達するまでに設計まで完了させよう」


 俺達三人は僅かに見えた迷宮探索の可能性に奮起した。

 厄災をぶっ倒してこの砂の大地からおさらばする。俺たちの手でそれを成すのだ。




 §




 一気に人数が増えたせいか、拠点への帰還には往路よりも時間を要した。


 少しだけ気がかりなこともある。あの異様な黒波のことだ。

 あのノーフェイス達は他とは違う妙な動きをしていた。上位種か、ゲーティアーが潜んでいるとも限らない。


 なにより奴らは、自分達が劣勢と見るや引いていった。本来ならばあり得ない行動だ。単なるノーフェイスに知性なんかない。あるのは命ある者を殺戮するという衝動だけだ。


 追撃を警戒して時折砂原を見渡したが、うろつく小集団をリィロが発見する程度で、帰りの砂漠は静まり返っていた。



 そして気がかりはもう一つ。仲間たちの雰囲気だ。


 皆疲れが溜まっている。空気が重いのは仕方ないと思うけど……。

 ただ、そういう種類のものとは少し異なる空気感を感じる。拠点を出た時より明らかに強く感じられるようになっていた。


 そしてそれは発見した生存者達も同様で、彼らの中には気力を無くしただ蹲っているだけの者が出始めていた。

 終わりの見えない放浪。それが彼らの意志を削いでしまっているのか……。


 そんな空気のなか、俺たちは四日をかけてついに拠点へと帰り着いた。




 §




 一週間ぶりの拠点に大きな変化は見られず、俺たちはひとまず安堵した。

 拠点にはカーライル達の知り合いも多く、再会と互いの無事を喜び合う光景が見られた。


 拠点の人員が広場に集まっている中、俺はレロイに連れられ広場を離れていた。


「無事でなによりだ。早速だが捜索の結果を報告してくれ」

「カーライル達と遭遇したのは三日目。黒波に追われていたところを発見した」


 捜索の詳細を彼に語っていく。


「残念だけど厄災は見つからなかった」

「そうか」

「でも、アルベール達を見つけた事で新たな希望が見えたよ」

「希望……とは?」

「砂漠の無人探査機を作る。刻印機械の力で探索効率を上げるんだ」

「…………」


 彼の視線が少し虚に見えた気がした。


「おい、……大丈夫かレロイ」

「――私は大丈夫だ」


 拠点を取りまとめることによる苦労と疲れが滲んだ、なんとも言えない表情だった。


「疲れてるんじゃないか?」

「私の心配は無用だ」

「それとも何か問題が起きたのか」

「…………」


 先を促すように彼を見つめていると、重々しい口調で言葉を紡ぐ。


「数日前から、気力を失い行動不能に陥る者が出始めている」




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