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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
七章 刻印都市と金色の迷宮
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第272話 遭遇

 

「また黒波だわ……」

「進行方向ですか?」


 砂漠を泡の精(ヴォジャノーイ)に乗って移動していると、リィロが再びノーフェイスの反応を検知した。


「リィロさん、迂回できそうか?」

「2キールくらい先、初日に見つけた群れとは比べ物にならない規模ね。まだ気づかれてないから大丈夫だとは思うけど」

「よかった……」


 リッカがほっとしたように胸を撫で下ろす。


「でも、なんていうか……変な動きをしてるみたい」

「変な動きとは?」

「普通の黒波って、獲物を見つけるまでは静かに移動してる感じじゃない」

「そうだね」

「でもこれは、ある程度のノーフェイスがまとまって普段とは違った動きをしてる感じ」

「どういうこと?」

「何かを襲ってるとか……だろうか」

「それだとちょっと変じゃない? 多分獲物を見つけたら一斉に襲い掛かるような気がするし。この感じはなんていうか……」

「もしかしたらゲーティアーがいるのかもしれない」


 奴らはノーフェイスを支配下に置いて操ったりするしな。


「うん……この動き、まるで何かを追いかけてるみたい」

「生存者がいるんじゃないでしょうか?」

「ただのモンスターか砂漠生物かもしれないけど」

「ギリギリまで近づいて確かめないと」


 生存者の可能性がある以上スルーはできない。俺たちは黒波に向かってそのまま移動することにした。


 さらに群れに近づくと、リィロが人の反応を感じ取った。それは黒波に追われる生存者の集団だった。


「どうすんやナトリ」

「もちろん助けるに決まってるだろ!」

「だね!」


 ようやく見つけた生存者だ。絶対に救出してやる。


「向こうの人数によっては泡のスピードを維持できません。彼等を拾ってそのまま逃げるのは難しいと思います……」

「つまり大バトルするっきゃねえっつーことなんだろ?」

「……はい、そうです」

「他に彼等を救う方法がないなら、やるしかないだろうね」

「大丈夫だ、こっちには戦力が揃ってる。俺たちならやれるさ」

「でも、すんごい数よ? 本当に倒せるの……?」


 不安げな表情でリィロが呟く。


「リィロ。俺らは厄災とコト構えに来とんやぞ。こんなとこで尻尾巻いて逃げ帰るようじゃそんなん到底無理やろ」

「クレイルの言う通りだ。まだ生きてる奴が残ってるなら猶更だ」

「これくらい余裕だ。全部ぶっ飛ばしてやるんだぜ」


 互いに頷き合うと、俺たちは黒波に向かってまっすぐ突き進んでいく。

 光や炎、波導の光が遠くにチラつく。逃げながら応戦しているのか。


 奴らが視界に入る距離まで近づくと、向こうもこちらの存在を検知したようだった。

 砂漠を覆い尽くす黒波が、一斉に砂丘を駆け降りてくる。



「そんじゃあ、暴れんぜお前ら。――『蒼炎解放』」


 クレイルの体に蒼炎が灯る。


「堕ちたる灼炎の禍津星、蒼穹を焦がし尽くせ。——『熾槍穹アグネ・アストラ』!」


 杖から放たれた蒼炎の特大火球は、黒波の上空に到達すると盛大に爆散し、地上に炎の流星を降り注がせる。

 翠樹の迷宮でクレイルが使用し、ノーフェイスを殲滅した大技だ。


 クレイルの攻撃に、地を這う黒波はかなりの数が巻き込まれ、燃え盛る蒼炎の餌食となっていく。


「うおお、ド派手な花火だぜぇ!」

「はしゃいでる暇ないよエルマー。僕たちも行こう!


 こちらに向かって駆けてくる生存者の集団の向こう側、黒波の一部がまるで丘のように隆起するのが見えた。


 右方と左方に二つずつ、隆起したノーフェイスの群れは、まるで一つの生き物であるかのようにうねる大蛇となって空中をこちらへと押し寄せてくる。


 巨大な質量となった黒波が空中を泳ぐ様はあまりに異様だ。


「何あれ!?」

「フウカ、俺達で迎え撃つぞっ!」


 叫ぶと同時に走り出し、集団を押しつぶそうと迫る黒蛇の元へ駆け込む。

 こいつらの弱点は響属性。ならば最も有効な攻撃はエレメントブリンガー。


「『ソニックレイジ』!!」


 刀身が青から白へと変化し、キュィィィンという高音を立てて振動を始める。リベリオンを引き絞りながら周囲のフィルを剣に集め、刀身を一気に増大させる。


 イメージするのはレイトローズの使った響波導を剣に纏う術、竜鱗剣(グラム・スケイル)


 刃を振り抜くと同時、周囲に集めたフィルを一気に解放する。

 空間を歪めるかのような衝撃波を伴った斬撃が放たれ、黒蛇の鼻先にクリーンヒットする。


 巨大な黒波の蛇はその鎌首を弾け飛ばされ崩壊し、ノーフェイスの残骸が派手に飛び散る。


「かかってこい! 片っ端からぶっ飛ばしてやる!」



「私だって!」


 左方の黒蛇に向かって飛び込んでいったフウカが宙を舞う。

 その彼女を中心として渦巻く風は、砂を巻き込み猛烈な竜巻と化す。


「巻き起これ、『風刃旋空咲(オル・ミリオーラ)』!」


 フウカが作り出した巨大竜巻は地表にへばりつく影すらも強烈な旋風の中に巻き上げ、黒い竜巻となって黒蛇に衝突する。


 当たった端から黒蛇を切り刻み、消滅させ、さらに後方の大群の中でも蹂躙の限りを尽くす。


「お二人とも、すごいです……!」


 フウカももう一方の黒蛇を撃破してくれたようだ。押し寄せる群れから一瞬目を逸らし、背後を振り向いて叫ぶ。


「リィロさん、グルーミィ、大丈夫か?!」

「二人には私が付いているから大丈夫です! ――星々の加護を得て浮かび上がれ、『空掌(ステア・マイア)』」


 ふわり、とリッカの前方に押し寄せていた黒波が周囲一帯ごと宙に浮き上がる。

 このノーフェイスは足で移動しているために、黒波導で浮かせてしまえば空中でもがくことしかできなくなる。


「私だっていますよ。捕まえて、『泡石(エトピリカ)』!」


 リッカが浮かせたノーフェイスをマリアンヌの泡が搦め捕っていく。周囲一帯全ての影に泡が行き渡る。


「突き破りなさい、『水棘キサルムペ』」


 鋭い刺殺音と共に、泡から鋭い棘が突き出す。絡めとられたノーフィエスは棘に刺し貫かれ消滅を始める。


「ナトリくんは前方の群れに集中を!」


 あの二人、意外といい連携が取れてる。これなら後ろを気にする必要はなさそうだ。


「それなら……行くぜ、リベル!」

『派手に暴れて煉気切らすなよ!』


 暴れ狂う黒波を殲滅すべく、属性を宿したリベリオンを振りかぶった。




 §




 ノーフェイスの群れを刻み続け、気が付けば砂丘を覆い尽くす奴等の姿は疎になっていた。


「見て、敵が引いてくよ!」


 フウカの言葉通り、奴らは波が引くように砂丘の向こうへ引き上げていく。


「危機は去った……のかな」

「さんざっぱら消し飛ばしてやったんだ。そりゃ逃げんだろ」


 武器を収め、砂原に座り込んだ生存者達の元へ向かう。

 どの顔も疲労困憊といった様子だ。黒波を振り切ろうと必死で逃げて来たのだろう。


「や……、やっぱりアニキだ……っ!」


 聞き覚えのある声に振り返れば見知った顔。かなりやつれてしまっているが間違いない。


「……アル!」

「アニキ達……助けに来てくれたんだ」


 アルベールは力が抜けたのか、立ち上がりかけた膝を再び突いた。


「おい、大丈夫か?!」

「オレは、まだ大丈夫っす。それより……」

「ナトリくん、衰弱してる人が多いみたいです」

「栄養不足に、酷い脱水症状ですね……。今すぐ手当てしなくては!」


 留まるのはまだ不安だったが人命優先だ。


「た、頼む……。水を、……皆に水を」

「カーライル……か?」


 どこか覚束無い足取りでこちらに向かってくるのはルーナリア皇太子であるカーライルだった。


 凛々しく気品溢れる容貌は見る影もなく、目元を縁取る濃い隈とこけた頬は彼らの苦労を察するには十分だった。


「我らのことはいい。どうか殿下を……!」


 カーライルのユニットメンバーが蹲りながら呻く。


「安心しろ、水なんていくらでも飲ませてやる。マリア!」

「はい。『泡石(エトピリカ)』」


 俺の呼びかけに応じたマリアンヌがアイン・ソピアルで底の浅い浴槽を作ってくれる。


「エレメントブリンガー、『アクアクリミナル』」


 浴槽に向けて生成した水を勢いよく放出する。器はすぐに水で満たされた。

 生存者達は俺の行動を目を見開きながら見守っていたが、水と見るや器の周囲へ続々と集まってきた。


「こ、これっ! 水かっ……?!」

「ああ、遠慮せず飲んでくれ」


 彼らは我先にと器の縁へ飛び付くと、なりふり構わず顔を突っ込んで水を飲み始めた。


「焦って喉詰まらすなよ。まだまだあるからなァ」

「ゴボッ! ――――ごボボボボボ」

「うわっ、言わんこっちゃない!」

「この人白目剥いてるよっ!」



 そこからはちょっとした混乱だった。

 生死の境を彷徨う生存者達がようやく人心地つくまで、一刻ほどの時を要することとなった。


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