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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
七章 刻印都市と金色の迷宮
275/352

第267話 合流

 

 モンスターの群れに近づくにつれ、その全容が見えてくる。


 大部分は昨晩俺達を襲ってきた砂狼の群れ。だが、その中に巨大な影、漆黒の化け物が混じっている。


 それは砂を巻き上げながら砂中を移動し、襲い掛かる時のみ地上に鎌首を擡げる巨大な蛇のようだ。全長2メイルを超えた巨体を持つ砂魚が小さく見える。


 それらの集まる中心で散発的に炎が上がった。



「グルーミィ、砂丘の影に隠れててくれ。多分ここまでは襲ってこない」

「……わかった」


 グルーミィを隠すと砂の魔物達へ向かって走る。


『——マルチロックオン、コンプリート』

「初撃で数を減らしてやる。叛逆の弓、『アンチレイ・フルバースト』!」


 杖から放たれた光の束が一気に拡散し、砂狼の群れに突き刺さる。多くの光が獣の頭部に命中し、その生命活動を停止させる。


 一気に群れ全体の三分の一を刈り取ったようだ。



「……ナトリ? もしかしてナトリかぁ?」


 飛び掛かる砂オオカミの横っ面を殴り飛ばしながら声を上げたのは、顔馴染みの青い毛並みのラクーンだった。


 名前を呼ばれ群れの中心に目を凝らすと、見覚えのある二人の人物が狼に取り囲まれていた。


「エルマー?! それにクロウニー! 二人とも迷宮に取り込まれてたのか?!」

「ナトリ! 悪いけど、掃除を手伝ってくれるかい?」

「ああ、もちろんだ!」



 狼をソード・オブリ・ベリオンで斬り捨てながら二人の元へ駆け付ける。

 捌き切れない個体がクロウニーの強弓に頭を撃ち抜かれ、骸へと変わる。


「何の因果か、アルテミスが揃っちまったんだぜ……!」

「……悪く、ないね!」


 クロウニーの的確な援護射撃を受けながら、俺とエルマーは次々に飛び掛かってくる群れの数を減らしていった。



「下だクロウッ!」

「ああ!」


 二人が飛び退いた場所から地面を突き破るようにして黒く長い巨体が飛び出す。


 陽の光を吸い込むかのような漆黒の体躯は明らかに異質なものだ。


「ノーフェイス!」

「気ぃつけろよ! 全身ノコギリみてーな鱗を纏ってやがる。掠っただけで持ってかれちまうんだぜ!」


 地上へ飛び出した鎌首がこちらへ向かってしなるように降ってくる。


 全力で地面を蹴り、砂原に身を投げ出すように回避した。


 豪快な音を立ててすぐ側の地面が破裂し、漆黒の体躯が地中へと潜り込んでいく。


「ぐわっ!」


 俺の元に走り込んできたエルマーが転がった隙をカバーしてくれる。


「ナトリ、連携だ! いけるかい?!」

「もちろんだっ!」


 プリヴェーラにいた頃幾度となくやってきた三人での戦い。詳細な説明などなくてもクロウニーの考えは理解できた。


 体を起こすとすぐにその場を離れようと疾走する。

 背後から砂埃が巻き上がり、地面が隆起する感覚が伝わって来る。


 全力疾走する俺とすれ違うように矢が放たれ、背後で鼓膜を振るわす強烈な音と振動が発生した。クロウニーの放つ響矢だ。


 その衝撃に誘発されたのか、背後の地面が弾ける。


 衝撃で一瞬方向感覚を失い、砂中のノーフェイスが動きを止めた。


 その隙を狙ってダイブしていたエルマーが、落下しながら気功を纏った拳を地面に叩き付ける。


「『地衝烈波』ァ!」


 衝撃が地面を駆け抜け、エルマーの周囲の地面が炸裂する。

 地面ごと砂蛇を削り飛ばし、砂中に埋もれていた体が露出する。


「叛逆の剣、『ソード・オブ・リベリオン』」


 そこをリベリオンで斬りつけ、極太の胴体を一刀の元両断する。

 切り裂かれた頭部の傷口から黒い靄が勢い良く噴き出し、半分は動きを止め消滅が始まるが片側はまだ不気味に蠢いている。


「ウゲッ! こいつ頭だけで動いてんぞぉ!」


 ノーフェイスは中核(コア)を破壊しないと止まらない。


「エレメントブリンガー、——『ソニックレイジ』!」


 リベリオンを響属性に変更し、刀身に集めた力を使って振動波を立て続けに放つ。

 どうやら三発目で核を砕いたのか、砂蛇はようやく動きを止めた。



「っしゃあ!」

「二人とも、残りのモンスターを片付けよう!」

「おおっ!」




 §




「まさかこんなところでエルマーに会うなんて想像もしなかったぞ」

「クロウからナトリの話は聞いちゃいたが、揃って迷宮に取っ捕まるたぁな」


 残ったモンスターを掃討した俺たちは、ようやく一息つきながら腰を下ろしていた。


 あの日、グレナディエ区に迷宮が出現した瞬間、クロウニーとエルマーは偶然ルーナリアで出会い学園都市周辺を歩いていたそうだ。


 エルマーは武者修行でスカイフォール各地を巡っており、つい先日ルーナリアへ着いたばかりだったらしい。


「こんな時であれだけど、久しぶりだね。この三人で戦うのは」


 クロウニーがどこかしみじみと言う。


「あァ、だな」

「やっぱり戦いやすいな、二人とだとさ」

「ナトリ、さっきは助かった。あの数にノーフェイスだ、君が来てくれなければ二人とも無事だったかどうか」


 懐かしさと親しみを感じながら二人の顔を交互に見る。


「クロウ、エルマー。また、二人と一緒に戦ってもいいのかな……」

「ったりめえだろ。何で許可がいるんだぜ」

「そうだ。むしろ僕たちの方から頼むよ。ナトリがいればこれ以上ないくらいに心強い」


 依然として絶望的な状況だが、俺たちは互いに笑みを浮かべていた。


 かつて背中を預け合ったユニットメンバー。これほどまでに心強い味方が存在するだろうか。アルテミスの復活だ。



「ところでよ、このねーちゃんは誰だ?」


 エルマーが俺の隣に腰を下ろすグルーミィを見て言う。


「アンフェール大学の同級生。グルーミィ・アルストロメリア」


 彼女がエンゲルスの構成員であることはひとまず黙っておく。絶対に面倒なことになるからな。


「なるほど、ナトリと同じ制服を着てるしね。よろしく、グルーミィさん」

「…………」

「こいつは口数が少ないというか、人見知りっていうか」


 微妙なフォローをしていると、エルマーがグルーミィをじろじろと眺めながらクロウニーに耳打ちする。


「なぁ、なんか距離近くねえか?」

「確かに。ナトリ、その子まさか……」

「違う違う。成り行きで一緒にいるだけだって」

「おめぇさんはなんつーか、相変わらずだなぁ」


 エルマー、お前俺に対してどんなイメージ持ってるんだよ。



 二人と色々情報を交換したが、彼等もやはり俺たちと同じように砂漠を彷徨っていたそうだ。


「僕らが歩いていたのは学園都市の外縁部だった。おそらく相当な数の人々がここに落とされているんだろうね」

「そうか……」

「落とされてからもう6日なんだぜ。かなりの犠牲が出てんだろうよ。実際死体らしきもんを見かけたしよ」


 あまり考えないようにしていたが、そのことを思うと気が重くなる。


 今回の事件は、モンスターの大暴走に匹敵する被害を出している可能性だってある。


「心配だよな。みんな……無事でいるのか」

「デリィのいる病院はグレナディエ区からは外れてる。影響を受けてないといいんだけどね……」


 俺たちは四人揃ってなんとなく黙り込んでしまった。

 すると、エルマーの腹がぐぅと盛大に鳴った。


「なんとか砂漠の動物と携帯食料で凌いでいるけど、そろそろ厳しいね」

「水がねぇからな」

「それなら心配ない」


 砂を掘って穴を作り、そこに手拭いを張る。この作業も手慣れたものだ。


「エレメントブリンガー、『アクアクリミナル』」


 手に現したリベリオンで水を生成し、穴を水で満たす。


「お、お……。水、水だ……、おおおおおおおーッ!」


 二人は信じられないものを見たというような顔で穴を覗き込む。


「水はいつでも作り出せる。欲しくなったら言ってくれよ」

「ナトリ、おめぇさんの力すっげーな。また力が強くなってんのか?」

「さすがナトリだ。一度迷宮を踏破しただけのことはあるね。頼りになる」



 めちゃくちゃ美味そうに喉を潤し、人心地ついた二人と改めてこれからの方針について話し合う。


「できるだけ生存者を保護したいところだけど」

「そうだな。術士でもなけりゃ水を作る事もできねぇし、俺らみたいに死にかけてるだろうぜ」

「二人とも、今まで生存者には遭遇しなかったんだよな?」


 エルマーとクロウニーは首を振る。


 かなりの人がここへ落とされたはずだが、それだけ迷宮が広大だということなのか……。


「生存者の救出も大事だけど、一番優先すべきは厄災の討伐だ」

「厄災……」

「この迷宮は、そいつがフシギな力で創り出してるって話だったか?」

「ああ、多分な。以前巻き込まれた色欲の厄災も亜空間を創り出す力を持ってた。奴らの操る魔法はとにかく強力なんだ」

「要するに……。できるだけ多くの生存者を救出したければ、一刻も早く厄災を倒してこの空間を脱出するべきだと」

「確証はないけど、多分厄災を倒せば俺たちはルーナリアへ戻れる」


 逆に倒せなければ一生この砂漠を彷徨うことになるだろう。



「でもよ、倒すったって……これだぜ」


 エルマーが呆然と周囲を見回す。


 この広大な砂漠迷宮のどこかに存在する厄災。まずその居場所を突き止めなければ話にならない。


 大抵の人間は、厄災に出会う前にこの過酷な環境でくたばってしまうだろう。

 昼は灼熱、夜は冷え込む、人が長期化過ごすには向かない環境だ。


「なかなかに厳しい状況だね」

「ああ……。幸いグルーミィは方角と環境情報を正確に覚えられるから、同じところをぐるぐる回る心配はないんだけど」

「今はとにかく進むしかねぇってことかぁ……」



 休憩を終え、俺たちは揃って歩き出した。




 §




 炎天下の砂原を歩く事半日。そろそろ陽が沈むかと思われた頃、グルーミィが立ち止まった。


「どうした?」

「ひ……」

「ひ?」

「もえてる……とおく」

「火……、だれかいるってことかな?」

「グルーミィ、どっちの方角だ?」


 俺たちは彼女が指差す方角へと歩を進めた。


 暫くすると、砂丘越しに立ち上る煙が見えてきた。


「誰か火を焚いてるぜ」

「行ってみよう」


 砂丘を超えると、遠くに座り込み火を焚く人影を認めた。


 近づいていくと向こうも俺たちに気づいたのか、立ち上がり歩み寄ってくる。



「ヒノエ先輩?!」

「おや、ランドウォーカー君……か」


 少しやつれ、髪は解れ若干目の下に隈ができ、制服が血に汚れているが、間違いなく対抗戦の準決勝で戦った女傑、ヒノエ・ヴァーミリオンだった。



「そうか……、やはり私以外にも巻き込まれた者がいたんだな」

「先輩も校内で根っこに巻かれたんですか」

「ああ、そうだ」



 彼女も迷宮へ落とされた後、砂漠の生物を倒しなんとか生き延びていたようだ。


 脱水症状の兆候が見て取れたので、急遽リベリオンで水を生成し彼女に飲ませた。



「……ありがとう。君は命の恩人だよ」

「当たり前のことしただけです」

「ヒノエさんは強いですね」

「そうか?」

「たった一人で生き抜いていたのに、なんだか平然として見えるので」

「実際はそうでもないのだが……、この顔じゃ仕方ないか」


 ヒノエは凛々しくとても芯の強そうなイメージがある。見た目からして頼り甲斐のありそうなオーラが出てるし。

 実際には八方塞がりな状況に流石の彼女も参っていたようだ。


 一行にヒノエを加え、俺たちは更に砂漠を進むこととなった。










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