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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
七章 刻印都市と金色の迷宮
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第258話 アルベールとカーライル

 


 何事もなかったかのように修復された、四つの「エレメント・ノア」を周囲に浮かべるカーライルを注視する。


「それにしても、対抗戦本選でお前とこうして相対することになろうとはな」

「……正直なとこ、オレも驚いてる」


 ここまで勝ち残ってこれたのはナトリのアニキのおかげだ。


 貴重なモンスター素材を提供してくれて、決戦兵機『黒鉄のブラッドレイン』の制作も手伝ってくれた。


 ただ手伝うだけでなく、アニキはロマンに溢れた画期的な発想による数々の武装のアイデアも示してくれた。


 そうしてようやく完成したこのブラッドレインは、レベル3のモンスターにだって引けをとらないはずだ。

 脚部ブースターとパイル・グレネードの使用によって、回路に干渉しかねないほど高温になっているから、絶賛冷却中と頼りない状況だけど。



「お前には刻印の才がある」


 カーライルがこっちを見ながら言った。


「な、なんだよ、いきなりそんなこと」

「だが、お前はその才能と情熱をくだらないことへ向け、自らを殺し続けている。……私はそれが許せない」


 奴の表情には僅かに怒りが滲んでいるように見える。


「オレが、自分を殺してるだって……? それでオレのことが嫌いなのかよ」

「ああ、そうだな」

「!」

「私などでは到底辿りつくことの敵わぬ刻印の神髄へ、お前は至る可能性を秘めている。……だというのに」

「……なんだよ、それ」



 カーライルと久しぶりに再会したのは、去年アンフェール大学へ入学した時だった。


 二年になって同じ特級クラスに入ってからは顔を合わせる機会が増えた。

 思えばその頃からだ、あいつがオレにいちいち小言を吐くようになったのは。


「オートマターなどという昔話にうつつを抜かし、刻印士(エメタラー)としての生涯を棒に振るつもりなのか」


 オレの研究が気に入らない。そんなことが理由だった?


「ふざけんな! オートマターは存在するんだ。いつか、絶対にオレが……っ!」

「家をないがしろにしても、か?」

「っ! お前には関係ない……ッ!」

「…………」


 カーライルのどこまでも冷ややかな視線がオレを見下ろすかのように向けられる。



「お前に勝って、オレの研究の正しさを証明する。オレとアニキの魂が籠ったこのマシン、『黒鉄のブラッドレイン』で……っ!」

「ならば私はこれでカタをつけよう。コード:ラジエル、『術式変換(オーバーライト)』」


 カーライルは周囲を浮遊するエレメントにコード:ラジエルを発動させる。


 術式変換(オーバーライト)は既存の回路を自在に書き換え、元々の性能を無視しても強引に刻印の力を引き出せるようにするコードだったはず。


「"サラム"、"ディーネ"、"シルフィ"、"ノルン"、『属性刃』」


 術式変換(オーバーライト)によって、よりオレとの戦いが有利になるよう性能を変化させられた四つのエレメントが動き出す。


 今まで盾のようにカーライルの周囲を浮遊していた兵装が、水平になり高速回転を始める。

 そしてエレメントの縁からは、各属性に対応するエネルギーで形成されたブレードが突き出す。あれは本来の「エレメント・ノア」になかった機能だろう。


 カーライルは全てのエレメントを攻撃に転用するつもりだ。


 飛来する四つもの刃から最後のマーカーを守りきれる自信はない。

 直接エレメントを叩き落とすにしても自爆覚悟のダメージは免れないし、同時攻撃を装甲で防ぐのはかなり厳しい。


 あいつが取るのは、もっとも確実な勝利の手段。


 カーライルはオレがエレメント・ノアの全力の攻撃を凌ぎきることはできないと考えている。四つすべての兵装を同時にぶつけることで確実に終わらせる気だ。


「まずいな……」


 ブラッドレインの操縦桿を握る手に汗が滲む。それを手前に引こうとして、違和感を感じた。

 脚部のパーツがギギギ、と嫌な軋みを鳴らす。動作が鈍い。


 多分、脚部ブースターの排熱処理が上手く行かずに、部品の酷使により間接が溶解し始めている。このままでは移動もままならない。


「くそっ、こんなところで……! オレは負けたくない。アニキや、みんながオレに力を貸してくれたのに。ずっと一人だったこのオレなんかに……」


 カーライルを倒すなんて、最初は絶対に無理だと思っていた。

 だけど、アニキたちと交流するうちに思ったんだ。


 いつまでもそんな風に諦めていていいのか、って。


 対抗戦であいつを倒すこと自体に大きな意味があるわけじゃない。でもここで引き下がったら、オレはずっと弱いままだ。


 そんなんでいいのか。本当に。



「よく……、ないよな。絶対」


 変わるきっかけをくれたアニキ達に報いるためにも、オレはカーライルに勝ちたい。アニキと造り上げた、この「黒鉄のブラッドレイン」で。


 その時右腕の手首が突然熱を持ち、黄土色の文様が浮かび上がってきた。


「これって、もしかして……?!」

「これで最後だ、ライオット」


 カーライルの合図によって四つのエレメントが唸りを上げて高速回転を始め、四方へ放たれた。


「頼むブラッドレイン! ――こいつでッ!」


 四方八方から迫るエレメントが干渉し合い、小爆発が起きる。周囲は濃い白煙に包まれた。


「なに……?」



 白煙が晴れた時、オレは空中からカーライルを見下ろしていた。


「今の光、コード:ラジエル……か?」

「そうだよ」


 何故かはわからないが、今の俺はコード:ラジエルの力を使う事ができるようだ。

 咄嗟の判断でブラッドレインの足を造り変え、ブースターの出力を上げて浮遊可能にした。



「お前も、目覚めたか」


 周囲を見渡すと、演習場に詰めかけた生徒達がどよめいている。

 多分、カーライルの専売特許であるコード:ラジエルをオレが使ったせいだろう。


 実際これまで使う事はできなかった。でも、オレの中にも一応ルーナリア皇家の血が流れてるらしいからな。


「これがブラッドレイン飛行形態だ」


 急場しのぎに過ぎないけど、とりあえず偉そうに宣言してみた。でも実際はかなり焦ってる。


 ブラッドレインに元々飛行なんて想定してない。

 コード:ラジエル『高度錬成陣アルケミシア・エングレイヴ』によって無理矢理ブースターを増設し、機体内に残されたエアリアを消費しまくって強引に宙に浮かべているにすぎない。


 構造を弄ってブースターを四つも増設したせいで、内部燃料を示すメーターが目視できるレベルで急激に減少しはじめていた。


 早々に決着をつけないと、あと数十秒で停止する。


「……もう少しだけ、保ってくれよ。いくぞ、カーライルッ!」

「ならばもう一度、仕掛けるのみ!」


 四つのエレメントが再びこっちを目がけて飛んでくる。


 ブースター増設によって確保された機動性により、空中で急加速する。


 襲い来る属成刃を搔い潜り、アームを切り刻まれながらマーカーから軌道を逸らし、カーライルの背後へ一気に回り込む。

 ブラッドレインから振り落とされないようしがみつくのに必死だ。


「そこだぁ!」


 レバーを操作し、的の一つに鉄拳を叩き込む。

 的は吹き飛び、舞台の端を転がって行った。お互い残ったマーカーは一つ。


「させるものか!」


 マグネティックレイによって最後の的を破壊しようと、胸部装甲を開放した刹那、凌ぎきれなかった地のエレメントの属性刃がブラッドレイン開口部に突き刺さる。


「ぐがっ!!」


 機体がその衝撃で倒れ、転倒する。後を追って他のエレメントも飛来する。


 横倒しになったまま操縦桿を動かすが反応がない。燃料自体はまだあるのに。


 今の衝撃で刻印回路がイカれたか。


「く、くそッ、動けよッ!」


 ガチャガチャと操縦桿を弄るがほとんど反応がない。


 コックピットに取り付けた計器類から火花が散った。回路がショートしてるのか。



 でも、まだだ。まだ、負けてない。


 迫り来るエレメントの向こう、カーライルを睨む。

 かろうじて動作するブラッドレインの右腕を操作し、手を伸ばすように奴へと向ける。


「コード:ラジエル『修復刻印(リペア)』――」

「遅い! 止めだ、ライオット!」



 ――コンセプトは、全てを破壊し粉砕する一撃必殺の拳。


 アニキの必殺技、「イモータル・テンペスト」から着想を得たブラッドレインの奥義。


「直すのはショートした回路だけで事足りる。燃料全部吐き出せ、……喰らえよ、カーライル! 『テンペスト・ブレイザー』ッ!!」


 横倒しになったまま、コックピットの端に設置したボタンに拳を叩きつける。


 突き出されたブラッドレインの右腕、その上腕と前腕の継ぎ目から炎が噴き出す。

 次の瞬間、腕が分離し爆発的な速度で発射された。


 火と風の内部燃料エアリアをまるごと一つ消費するブラッドレインの必殺技だ。

 オレのバイト代一ヶ月分が一発で吹き飛ぶ最強の拳。


 豪風を纏う炎の拳は一直線にカーライルへ向かって突き進み、斜線上に迫っていた火と風のエレメントを巻き込んで破壊する。


 さらに止まることなく、拳は無防備なカーライルの頭上に浮かぶ的を打ち砕いた。

 だが、同時にテンペスト・ブレイザーから逃れた水のブレードがオレの最後の的を切り刻む。


 二人の最後の的が砕け散ったのはほぼ同時に思えた。




「私の負け、か」


 カーライルがこっちに向けた手を下ろし、水のエレメントを引き戻す。


「第四試合の勝者はなんと……ッ、アルベール・ライオットだぁ!!」


 横倒しになって煙を上げるブラッドレインから這い出し、身を起こす。


 周囲全てから巻き起こる歓声に包まれ、オレは呆然と立ち尽くした。


「勝った……のかよ。オレ」



 優勝候補のカーライルが負けたにも関わらず、会場は湧いているようだった。


 今までに味わったことのない不思議な気分だ……。


「やった、勝った……。勝ったんだ……、カーライルに勝ったッ!」


 明るく照らし出される闘技台の上で、オレは持ち上げた両の拳を強く握りしめた。






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