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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
七章 刻印都市と金色の迷宮
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第254話 予選

 

 前学期の最終日。

 とはいっても期末試験後の講義は少ない。そのほとんどがおまけのようなものだ。


 普通そんな日の構内は閑散としているものだろう。通常は。


 だが、今日はいつも以上に廊下を行き来する学生は多く、あちこちから騒がしい生徒の声が聞こえてくる。


 今日はお祭りだ。半年に一度開催される対抗戦。


 それは試験の終わった開放的な気分と共に執り

 行われる学生達の腕試しの場。



 俺、クレイル、アルベールはそんないつも以上に人で込み合うエントランスホールにて向かい合っていた。


「じゃ、行くか」

「予選ぐらいは軽く突破しようぜ」

「も、もちろんっすよ!」


 互いに顔を見合わせ、俺たちは示し合わせたように不敵な笑みを浮かべる。


 そして同時に背を向け、別々の方向へと歩き出した。




 §




 対抗戦は予選と本戦に分けられる。予選は昼まで、本戦は陽が落ちてから始まる。


 本戦に出場するためには、まず予選であたる数人の対戦相手を倒さねばならない。


 俺は発表された対戦表通り、第17演習場へと向かった。俺の第一試合はそこで行われる。



 目的の場所に辿り着くと鉄柵を押し、演習場へと足を踏み入れた。



「よぉ。運がいいぜ。いきなりテメーと当たるとはよ」

「……」


 演習場の中央で俺を待ち受けていたのは、以前俺に絡んできたデックとかいう金髪オールバックのガタイのいい学生だ。


「逃げずに来たことだけは褒めてやるぜ。ま、これからボコられるんだがな。……どうした、ビビって声もでねぇか」

「俺は負けない。みんなと約束したからな」

「そーかい。まあいい。待ちに待った対抗戦だ。言葉で語る必要なんざねえよな」


 デックと演習場の中央で睨み合う。彼は俺から視線を外すと、壁際に立つコッペリアの学生に目を向けた。


「とっとと始めさしてくれよ」

「はい。ではルールの確認を。対抗戦の勝利条件は単純です。対象者を自動追尾するよう設定された浮遊盤(マーカー)を三つ全て破壊すれば勝利です」


 審判が板状の刻印機械を俺とデックのそれぞれにかざし、機械から発される光でスキャンする。すると審判の脇に並べて置かれていた円形の的のような金属板が浮かび上がり、俺達の背後に吸い付くように浮かんだ。


 頭上、右後方、左後方といった位置だ。


「当然ですが相手を死に至らしめると失格です。ルーナリア刑法に則り加害者を当局に引き渡すことになるのでそのつもりで。執拗かつ度を超した対戦相手への追撃は控えてください」

「本人を攻撃したら失格ってわけじゃないだろ?」

「そうですね。あくまで相手を攻撃し、行動不能にすることは認められます。治療の準備はありますので」


 三つのマーカーに狙いを絞って破壊するのでもいいし、本人を行動不能にした後マーカーを壊すのもありってわけだ。


「では両者、準備はよろしいですか」

「とっとと始めようぜ」

「大丈夫です」


 互いに距離を取りつつデックと向かい合う。


『リベル、頼みがある』

『なんだ?』

『予選では行動予測は切っといてくれ』

『私の助けはいらないのか?』

『そうじゃないんだ。……正直俺はお前に頼りっぱなしだ。でもこれから先、それだけで通用しない場面があるかもしれない。だから俺は自分の力も鍛えなきゃならないと思う。この機会に自分の力を試したいんだ。わかってくれるか?』

『マスターがそう言うなら……わかったよ』


 俺はこいつに頼りきりじゃなくて、リベルに見合う力を身につけたい。


「対抗戦予選第15試合、デック・ノーボウ対ナトリ・ランドウォーカー、開始して下さい!」

「お前如きが、このデック様に勝てるわけねーぜ!」


 開始の合図と共にデックが地面を蹴る。

 弾丸のように距離を詰めてきた。エリアルアーツを習得しているだけあってさすがに速い。


「――勝てるさ。叛逆の鉄槌、『リベリオン・オーバーリミット』」


 リベリオンが右手に纏わり付くと同時に姿勢を低くし、デックの突進を搔い潜る。

 確かに速いが、躱してしまえばすぐに行動を切り替えることはできない。


 突進をやりすごした瞬間に反転し跳躍。デックの左に浮かぶ的目がけて背後から飛びかかり、拳を叩き込む。


 派手な音を立てて的が砕け散った。


「まずは一つ」

「なにぃ?!」


 接近していた俺の顔目がけて回し蹴りが放たれるが、空を蹴り一回転しつつ壁際に退避した。


「こんのクソが!」


 再びデックが突進を仕掛けてくる。イノシシみたいに単純な奴だな。


 一発、二発と放たれる高速の拳が風を切るが、左右に体を揺らして回避する。


 威力はありそうだがあまりにも単調だ。こいつの目を見ていればどこに拳が飛んでくるのか簡単に読めてしまう。行動予測を使うまでもない。


 野生のモンスターと戦いを繰り広げて来たことで培われた勘だったら嬉しいな。


「!」


 だが、気がつくと壁を背負わされている。


「もらったぜェ!」


 俺を捕らえようと広がった奴の腕が迫るが、短く真上に飛んでむさくるしい抱擁を回避する。


 さらに背後の壁を蹴って飛び、奴の頭上に浮かぶ的をすれ違いざまに拳で粉砕する。


「二つ目」

「ッの野郎! チョロチョロしやがって!」


 怒りに顔を赤くしたデックが体を後ろに倒し、サマーソルトキックを繰り出してくる。

 体を捻って間一髪蹴りの軌道から逃れる。耳元を奴の足が空を切る鋭い音が通り過ぎる。


 こいつの攻撃、的じゃなく俺自身を狙ってばっかりだ。そんなに俺のことが嫌いか。


「ウオオオオオ!!」


 的を破壊されキレたらしく、雄叫びを上げながらがむしゃらに暴力を叩き付けてくる。


「――――」


 昔は体格の大きな奴から繰り出される拳が恐ろしかった。

 空の加護のない俺には、抵抗する術が無かったから。でも今の俺にはリベリオンがある。


 振るわれる豪腕を搔い潜り脇の下を通り抜け、デックの背中に体重を込めた肘打ちを見舞う。


 奴は渾身の肘打ちを喰らって吹き飛び、演習場の床を転がって前後不覚に陥ったようだった。


「これで終わりだ。――『アンチレイ』」


 リベリオンを杖に変形させ、倒れたデックの最後の的を撃ち抜いた。


 奴は地面に倒れたまま咳き込んでいる。衝撃は強かったはずだが死ぬほどじゃない。



「しょ、勝負あり。第15試合勝者、ナトリ・ランドウォーカー!」

「よっし」


 エリアルアーツの使い手だと聞いていたからもっと苦戦するかと思ったが、案外すんなりと勝てた。


 以前組み手をしていたチェシィの方が速いし、技のキレも数段上だった。



「あれ、そのままでいいのか?」


 地面に崩れ落ちたままのデックを指差し審判に聞いた。


「はい、治療班が様子を見に来ますのでご心配なく。君はエントランスの受付で勝利報告と、次の予選会場の通達を待ってください」

「わかりました」


 まずは第一予選突破だ。この調子で勝ち上がるぞ。

 鉄柵を押し開き、演習場を後にした。




 §




「三人ともお疲れ様!」

「予選突破おめでとうございます!」


 俺、クレイル、アルベールは互いに目を見合わせ、笑う。


「すごいわ三人とも。めでたく全員本選出場ね」


 俺たちは予選試合を勝ち残り、三人とも本戦への出場権を得る事ができた。


「オレはともかく、アニキたちの実力なら当然っすよ!」


 アルベールが腰に両手を当てて胸を張る。

 その様子をじっと見つめていたマリアンヌが口を開く。


「確かにナトリさんたちは当たり前ですが、アルベールさんが残れたのは意外ですよ」

「まあ……、かなり危なかったのはその通りだし」


 アルベールは予選が終わり戻ってきた後、フウカに治療してもらうまで負った複数の傷の痛みに耐えていたものだ。


「いや、それでもすげーだろアルベール。ロクに戦闘経験のないお前が勝ち残っとるんやしな」

「そうだよ。誇っていい」

「オ、オレって……実は結構やれるんすかね?」


 彼は目を輝かせながら俺とクレイルを見上げる。


「調子に乗らないでください。お二人はこれまで戦闘経験を積んでいるんです。油断しているともっと痛い目みますよ」

「わかってるよ……」


 マリアンヌは何故かアルベールに対して妙に当たりがきつい。歳が一番近いせいだろうか。


「それで本戦は何人で優勝争いするの?」

「八人やな」

「ナトリくんたちは三人ともその中に入ってるってことですよね。すごいなぁ……!」

「予選を勝ち残ったのはいずれも猛者揃いっす。なかなか厳しい戦いになりますね」

「優勝候補のカーライル皇子だろ? 後は……」

「同じく二年の『炎姫』と、アニキらの要注意人物であるフィアーさんあたりっすね」

「よーやくあの女と戦えるとこまできたな。カッカッカ」

「オレはあんましあの人と当たりたくないっすよ……」

「強そうだもんね、フィアー」


 間違いなく強い。アンティカーネン教授の話では彼女はエンゲルスの一員なのだから。


 クレイルがフィアーと当たったら本気で殺しにかかるだろうな……。


 リッカが差し入れてくれたアニマリエールを喉の奥に流し込み、煉気の回復を早めながら俺たちは日没後に始まる本戦について語る。


「フラーも連れてみんなで応援するよ。頑張って」

「キュイー」


 フラーを抱えたリィロが言う。

 対抗戦の本選は、観客席のある第一演習場で行われるのだ。


 とにかく俺達は本戦開始までの時間を、回復に努めて過ごすことにした。






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