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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
七章 刻印都市と金色の迷宮
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第249話 被害者

 


「久しぶりだね……ナトリ!」

「クロウ……!」


 相変わらずの人のいい笑みを浮かべた友人の姿に思わず頬が綻ぶ。


「クロウニー! こんなところで会えるなんて!」


 フウカも側に駆け寄ってくる。


「フウカちゃん……! ナトリ、ちゃんと彼女を見つけたんだね。本当によかった……」


 彼女の姿を見て、クロウニーはしみじみと呟く。クロウニーは優しい奴だから、プリヴェーラを去った後もフウカのことを気にしていたはずだ。


「結局翠樹の迷宮にまで入ることになったけど、なんとかね」

「迷宮に!? 君達も色々あったんだな……」

「クロウこそ、プリヴェーラでフウカを探してくれたんだろ。ありがとな」


 俺たち三人は偶然の再会を喜んだが、場所が場所だけに和んでいるわけにもいかない。


「クロウニー、デリィも元気にしてる?」


 フウカの問いかけにクロウニーが一瞬だけ表情を曇らせる。しかし彼は恋人のディレーヌのことには触れなかった。


「二人とも、改めて落ち着ける場所で話さないか?」

「うん、いいよ」

「そうだな。今は悠長に話してられる状況じゃないし」


 俺たちはクロウニーと明日会う約束し、助けてもらった礼を言って彼等のユニットと別れた。


「ナトリさん達のお知り合いだったんですか?」

「クロウニーは、私とナトリがプリヴェーラに来た時からの知り合いなの」

「俺が初めてユニットを結成した時のメンバーなんだ。迷宮に向かった時、一緒にフウカを探してくれてた」


 ロスメルタに向かった事は手紙で知っていたが、まさか皇都にいたなんて。

 フウカも久しぶりにディレーヌと再会できると思えば嬉しいに違いない。



「ナトリくん、素材をまとめ終わりました」


 俺たちが話している間にリッカ達は素材を運び縮小してくれていた。


「悪いみんな」

「手に入りましたね、マグネフォートの素材」

「うん」


 マグネロックではなく、上位種のマグネフォートが出てきたのには驚いたが、これで無事にアルベールとの約束は果たすことができる。


「みんな、マグネフォートの誘導石なんだけど、俺の報酬分として譲ってもらってもいいか?」


 他に誘導石が欲しいという者はいなかったので、俺が買い取ってアルベールに渡すことにした。


 明日クロウにも助けてくれた礼をしないとな。


「依頼の必要数にはまだ素材が足りんな」

「そうね。引き続きモンスターを倒さないといけないわね」


 剥ぎ取りを終えた俺たちは、次にマグネフォートが出たときの対処について話しながらさらなるモンスターを求めて岩窟を進んでいった。



 §



 無事に素材の納品依頼を終えて報酬を受け取った翌日、俺とフウカは皇都ヴァレリアン区へとやってきていた。


 クロウニー達はこの街を拠点として生活しているようだ。


 ここは学園都市のあるグレナディエ区に近く、久しぶりにフウカに飛んで連れていってもらった。


 約束の店に入るとクロウニーは既に席についていた。

 俺たちは挨拶を交わして席に座り、注文を済ませる。


「こうしてまた君たちと話せるなんて、本当に幸運だ」

「もしかしたらもう会えないかも、ってちょっとだけ思ってた」

「クロウの手紙、読んだよ」

「君達のことはずっと心配していた。あんな形でプリヴェーラを去る事になってしまったから」

「安心したか?」

「もちろん。二人とも元気そうでなによりだよ。特にフウカちゃんが無事で本当によかった」


 俺たちはクロウニー達が街を去った後のことをお互いに語り合った。


 フウカを追って翠樹の迷宮を登ったこと、嫉妬の厄災レヴィアタンとの戦い。ミルレーク諸島へ向かい、今度は時空迷宮マグノリアに飲まれたこと。


 フウカがレイトローズに攫われ、王宮に侵入して王子と戦い、帰ってきた厄災レヴィアタンを討伐したことも。


「王都に現れた怪物の話はロスメルタにも届いていた。王宮神官『煌焔のルクスフェルト』によって厄災は退けられた……と」

「ルクスフェルトも力を貸してくれたけど、本当は私たちが倒したんだよ」


 まあ、彼の力が無ければ倒せなかったのだから異論はない。


 クロウニーは半ば呆けたように俺達を見た。


「どうした?」

「いや……、本当に色々あったんだなって」


 無理もない。あり得ない出来事ばかりで赤の他人に話しても到底信じてはもらえないだろう。


「厄災の討伐、か……。フウカちゃんがエイヴス王国の神官だったことも驚きだけど、すごいね、ナトリは」

「え?」

「僕だったら逃げ出していると思うよ。到底背負いきれない」

「そんな事ないさ。クロウだってディレーヌを守るためならやると思うけどな」

「そういえばデリィはどうしてるの? 元気?」


 婚約者の話題が出るとクロウニーの表情に影が差した。


 昨日も感じた事だが何か嫌な予感がする。

 気になりつつも、話の続きを促すのが恐ろしくて彼が口を開くのを待った。


 クロウニーは絞り出すような声で告げる。


「デリィは……、今()()にいる」

「え……病気なの?」


 彼はディレーヌの現状について苦しげに語り出した。

 彼女は今入院しており、厳重に()()()()されているのだと。



 二ヶ月ほど前、レストランで仕事中だったディレーヌは突如として凶暴化した。


 店の人間に怪我を負わせ、聞くに耐えない言葉を吐きながら暴れ回ったそうだ。


 そして彼女は駆け付けた憲兵に取り押さえられ、今は拘束されている。



「ディレーヌが……、凶暴化」

「うそ……、うそだよ」

「今のデリィはもう以前のように笑ってはくれない。目を合わせ、口を開けば、僕のことを————」


 クロウニーはテーブルに肘を突いて頭を抱える。


 感情に任せて腰を浮かせると彼の両肩を掴む。


「クロウ!! ディレーヌのところへ連れてってくれ! 俺達を!」


 彼は驚きに見開いた瞳をすぐに逸らす。


「君たちは……、会わない方がいい。いや、今のデリィに会わせたくない……」

「それでもだ。俺達ならなんとかできるかもしれないんだ」

「本当……なのか」

「治癒術士でも医者でもできない方法がある。俺達を信じてくれ……!」

「うん。デリィに会わせてクロウニー」

「しかし……」

「私はデリィがどんなに変わっても、嫌いになったりしないよ」


 フウカの言葉に頷き、彼の目を見詰める。


「わかった……。君たちを信じよう。案内する」



 §



 俺とフウカは学生寮へと続く坂道をとぼとぼと歩いていた。


 互いに口数は少ない。何か話したい気分ではなかった。


 あのディレーヌの様子を見れば、フウカがここまで意気消沈するのも当然だ。


「デリィのこと、助けられなかった……」

「…………」



 俺達がクロウニーに案内されたのは病院の地下に作られた隔離施設だった。


 いや、言葉を飾る必要はない。あれはもはや牢獄だ。


 鉄格子で区切られた檻からはいくつもの唸り声や怒声が漏れ出していた。


 その一つにディレーヌは収容されていた。


 細い体格に見合わぬ頑丈な枷を手足に嵌められ、薄汚れた服で冷たい床に転がる彼女の姿は痛ましかった。


 乱れた髪の間から除く表情はとても以前の彼女と同一人物には見えないほどに歪められていた。


 ディレーヌが吐き出す怨嗟の言葉と罵詈雑言を浴びながら、フウカは波導による治癒を、俺はリベリオン・アトラクタブレードによる凶暴化の無効化を試みた。


 だが……、全ては無意味だった。



「どうして、デリィが……」


 フウカが立ち止まり、目元を拭う。


「フウカ……」

「デリィ、頑張ってた。クロウニーも。二人とも幸せになろうって一生懸命だった」


 二人は幸せを掴むためにプリヴェーラへやってきた。


 だが結局は故郷から追手がかかり、街を出ざるをえなくなってしまった。


 遠い異郷の地、ルーナリアで今度こそ落ち着けると思ったら今度はこれだ。


 あんまりだろ。


「おかしいよ、こんなの」

「うん」

「だって、デリィが……!」


 フウカは声を詰まらせ、泣き始めた。


 彼女の背に腕を回して抱き寄せ、その背をさする。


 クロウニーが俺たちにディレーヌを会わせたくなかった理由はよくわかる。

 俺もフウカを連れて行ったことを少し後悔した程に。


「フウカは悪くない。ディレーヌは……病気なんだ。今一番辛いのは彼女だ」

「私、デリィを助けたいよ」

「俺もだ」


 今の二人を見ているのは辛すぎる。


「でも……どうすればいいのか、わかんないよ……っ!」


 胸元に顔を埋めるフウカに声をかける。


「フウカ。俺たちのいるアンフェール大学には様々な知識が集まってる」

「!」

「自分たちだけで解決できなければ、誰かの力を借りるしかないんだ。幸い学園都市は環境がいい。きっと凶暴化について研究してる人だっているはずだ」


 フウカが顔を上げ、涙に濡れた瞳で見上げる。


「治す方法、見つかる?」

「まだわからない。それでも探すんだ。今度アールグレイ公爵と会う。手始めに、彼女に心当たりがないか聞いてみようと思う」

「うん……」


 簡単に諦めてたまるものか。幸せを求め続けたクロウニーとディレーヌが引き裂かれるなんて、そんな運命絶対に間違っている。


 決意を胸に、俺たちは寮へと戻った。



 §



「いるか、アル」


 寮の自室へ戻ると荷物を置き、すぐに隣の部屋の扉に声をかけた。


 軋んだ音を立てて古い扉が開くとアルベールが顔を出した。


「今日は刻印の勉強っすか?」


 いつものように少しクマの浮かぶ眠そうな目をしたアルベールが俺を部屋へと招きいれていくれる。


「いや、これを渡そうと思ってさ」


 両手で抱えていた、古布でくるんだ塊を差し出す。


「なんすか、これ?」


 アルベールはそれを受け取ると、机の上に置いて布を解いていく。


 中に入っているのは黒っぽい金属の塊だ。かなりの重量がある。


「こ、これって……! もしかして誘導石っ!?」

「そうだ。刻印のこと、ちゃんと教えてくれたからな。約束だったろ」

「本当にいいんすかっ?! やっぱりナトリのアニキはすげえや……!」


 誘導石を見たアルベールは飛び上がって喜んだ。


「なかなか手に入んないんすよ、これ」

「だな。マグネロック系のモンスターって全然見かけないし」

「これがあれば刻印回路の伝達速度を大幅に強化できる。オレの刻印兵機をパワーアップできるっす!」


 アルベールは兵機の強化方針について楽しそうに語り出す。


 お互いに思いつく限りのかっこいい武装について熱く語った。


「これでカーライルにも勝てるな」

「い、いや……さすがにそれはちょっと」

「弱気になるなよ。それにまだ対抗戦までは時間があるだろ。もっと強くして見返してやろうぜ」

「そうっすね……、もっとパワーアップできたら、もしかしたらいけるかも」

「その意気だ」

「それにしてもアニキ、ほんとに感謝っす。ずっと欲しかったんすよ。これがないと兵機の強化も頭打ちだったんで……」

「こっちこそお前には感謝してる。刻印についてわかりやすく教えてもらえたおかげで、俺もちょっとずつ理解できてきたしな」

「そっかぁ、オレもアニキの役に立てて光栄っす……へへっ!」


 アルベールと互いに笑い合う。


「試験結果が発表されたらアールグレイ公爵に会いに行くんだけど、お前のことも頼んであるから一緒に行こうぜ」

「それって、前にアニキが言ってたエイヴス王国の一流刻印術師(エメタラー)っすか?」

「ああ」

「是非ともお願いしたいっす!」


 日中感じた苦い思いを払拭するかの如く、俺とアルベールは打倒カーライルについて夜遅くまで語り合った。






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