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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
七章 刻印都市と金色の迷宮
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第240話 掃討依頼

 



 講義のない日を選び、学校に用があるマリアンヌを除いた俺、フウカ、リッカ、クレイル、リィロの五人はルーナリアのバベル支部を訪れていた。


「どこへいってもバベルの外観は変わらないな」

「知ってる建物があると、ちょっと安心しますよね」

「ねえナトリ、ホントに大丈夫なの?」


 フウカが不安げに俺の顔を覗き込んでくる。

 あまり態度に出さないようにはしていたが、フウカには気づかれてしまったようだ。


 俺は疲れていた。勉強疲れだ。


 刻印の授業があまりに難解で、講義についていくため連日夜通し血眼になり、資料を読み漁っていた。


 お陰で今日も寝不足だ……。


「問題ないよ。みんなの足は引っ張らないから」


 気を引き締めて足を踏み出す。


 どこか金属感の強いロスメルタ建築の街並に合わせるつもりの一切無い、無骨で頑丈な砦のような存在感があるバベルの建物。


 バベルは全国共通の組織であるため、どこにいっても街の雰囲気から若干浮いている。それだけに実家のような安心感もあるのだが。


 開かれた両開きの大扉を潜り、内部へと歩を進める。


 足を踏み入れてまず驚いたのは、アンフェール大学の制服を着た者が多い点だ。学園都市のバベル支部なのだから当然だけど。


 俺たちはそのまま空いているカウンターに向かう。台の向こうでニンマリと無邪気な笑顔を向けてくる職員が口を開く。


「バベルロスメルタ方面グレナディエ区学園都市支部へようこそー!」


 あまりに朗らかな声かけに若干面食らってしまった。ていうか噛みそうな長さの支部名をよくスラスラ言えるな。


 学園都市にはなんとバベルの支部が存在する。

 波導や刻印は戦力にもなるため、学業の傍ら狩人(ニムロド)をして学費と生活費を稼ごうとする者も多いんだろう。


 ニコニコ笑顔なコッペリアの職員は続けて問う。


「おや、その雰囲気。バベルは初めてではありませんねー。既にユニットを組まれているのでしょうか?」

「はい。イストミルから来たんですが、今日からここにお世話になろうかと」

「いいですねいいですね! どなたもなかなか渋みのある面構え。只者ではないとお見受けしますがユニット名をお聞きしても?」

「『ジェネシス』です」

「お、お、おおーっ! あなたたちが噂の! プリヴェーラの支部から連絡は受けていますよー。まさか東部で英雄とまで言われたユニットを担当できるなんて、あまりに光栄です!」


 俺たちのことを知っていたようで、職員は興奮気味にまくしたてる。

 レベル5のモンスターを倒した狩人なんてそうそういないのだから情報は回っていくか。


 それにしてもこんな気さくなコッペリアもいるんだな。もっと物静かなタイプが多いと勝手に思っていた。


「はは、なんか騒々しい人ね……」

「無駄にテンション高いなぁ」


 彼女はびしっと背筋を伸ばすとこちらを見据える。


「申し遅れました。私本日からジェネシスのみなさんを担当させていただきます、マキアと申します。以後よろしくですー!」

「よ、よろしくお願いします」

「おいねーちゃん、ここは学生が多いな」

「そーなんです、学生にはお金が必要ですからねー。モンスターを狩って学費や生活費を稼ごうと考える方は多いのですよ」


 なるほど。苦労しながら学んでいる学生も多そうだな。

 しかし、そう考えるとこのバベルを拠点に活動する人達は随分他と毛色が違う。


 周りを見回してみても、まるでこれから盛り場に遊びにでも行くかのような男女混合の若者の集団や、いかにもインテリ術士といった風貌の額縁眼鏡の青年など、プリヴェーラ支部とは随分と様相が異なっている。


 見るからに肉体派の荒くれ者風や、ベテラン狩人といった落ち着きを持つ男などの姿は見えない。

 というか、本業で狩人をしている者自体少なそうだな。


「ご覧の通り、このグレナディエ区学園都市支部に出入りする狩人はちょっと変わってましてねー。波導術士(ウィザー)刻印術士(エメタラー)が多いのも特徴の一つです」

「もしかして、前衛職の人は少ないんですか?」

「その通りですっ! 殲滅力のあるユニットもいますが、その分怪我人も多くてですねー」


 若者も多そうだし、学園都市のバベル職員はなかなかに苦労させられているようだ。


「だからジェネシスのみなさんのような確かな実力を持ったユニットがいてくれると、非常に頼もしいのですー!」

「期待に応えられればいいですけど」



 世間話もそこそこに、俺たちはとりあえず今日どうするかを話し合う。


「依頼を受けようかと思ってるんだ」

「依頼、ですか?」

「うん。プリヴェーラにいた頃にはほとんどやらなかったんだけど、あそこの掲示板に張り出された依頼内容を達成して、依頼主から達成報酬をもらうんだ」


 リッカに依頼について説明しているとニコニコしながら聞いていたマキアが解説してくれる。


「実力が確かであれば、自由にモンスターを狩るよりも効率がいいのです。報酬が約束されてますからね! バベルには多くのモンスター絡みの依頼が舞い込みますから、受けていただけるのは大歓迎ですよー」


 プリヴェーラでやっていたころはまだ駆け出しだったし、行ける時に行って狩れるだけ狩るスタイルだったからな。


 今は仲間も多いしそれぞれの実力も高い。ジェネシス内にはスターレベル3程度なら単独で相手取れるような奴が揃っている。


 だから割のいい依頼を受け、さくっと高額報酬を受け取り生活費の足しにするのがいいと考える。



「そこそこ難しくて、尚かつ報酬のいい依頼とかってありませんか?」

「その言葉、お待ちしておりました! 実力の不安なユニットにはお出しできない難度の高い依頼が溜まってましてねー。皆さんに消化していただけると大変助かります!」


 マキアの話では実力派の優秀な学生ユニットが存在するのだが、彼等は今ある依頼にかかりきりで他をこなす余裕がないらしい。


 彼女が奥の棚から引っ張り出してきた依頼書をカウンターの上に並べていく。

 俺たちは依頼書を覗き込みながら何を引き受けるかの検討を始めた。


「達成が楽そうなのはやっぱ討伐系依頼やな」

「この素材納入っていうのも合わせて狙えそうじゃないの」

「モンスターの捕獲依頼……、研究用でしょうか? 報酬はいいみたいですけど、手間取りそうですね」

「私もどっちかと言えば戦う方が楽かなーって」


 皆の意見も参考に、達成予定の依頼を決定する。


 現場で確認されたモンスターの情報を共有し、準備を整える。


 マキアの元気な声援に送られて俺たちは現地へと向かった。




 §




 バベル支部から動く歩道に乗りグレナディエ区のはずれへ移動、そこからは徒歩で郊外へ向かった。


 街の外はフウカに手を貸してもらい、浮遊する陸地を飛び移って目的のエリアに至る。


「この辺りのはずだったよね?」

「うん。あれが目印の大岩だろう。この辺で間違いない」

「貴族の考える事はわからんな。こないな場所に別荘建ててもな」


 俺達が遂行予定の依頼は、都市の外にある貴族の私有地付近に住み着き繁殖しているモンスター達の討伐だ。


 どうやらここに別荘を建てるようなのだが、モンスターが繁殖して生息域を拡大しており危険なので駆除したいとのことだ。


「でも景色はいいよね、ここ」

「ルーナリアの街を良く見渡せるものね。別荘建てたいって気持ち、分からなくもないわ」

「みんな油断するなよ。ここはもうモンスターの縄張りだ」


 俺達は早速討伐を始める事にした。



 手始めにリィロに周囲一帯のモンスターの分布具合を探ってもらう。


「ふむ。この浮遊台地は1キールもないくらいの広さだし、初級術でカバーできるわね。

 ——打ち鳴りて交差するは波の音。打ち寄せ浮かぶは我が心。『響波(ソナート)』」


 リィロが地面へと突き立てた長杖から済んだ音が周囲へと響き渡る。


「……うわ」


 彼女の響波導の行使を皆で見守っていると、リィロは顔を顰めて呻きを漏らした。


「どうしたの、何かあった?」

「バベルで話は聞いてたけど、思った以上の数だね。これは骨が折れるわ……」

「何匹くらいいるんですか?」

「うーん、200はいるよ」

「おいおい、この程度の広さに200体もおるんか」


 北の方にある浅い洞窟内に特にモンスターが密集しているそうだ。

 いくらなんでも繁殖し過ぎだ。よっぽど放置されたのかもしれない。確かに実力が不確かな者には出せない依頼だ。


「洞窟か。キース系っぽいな」

「どんなモンスターなんですか?」

「うん。洞窟とか暗い場所にいることが多い飛行型のモンスターだ。レベルは1だから個別では大した事無いんだけど、大抵群れてるからなかなか厄介なんだよな」

「70匹くらいがくっついてひしめき合ってるわよ」

「想像したら気持ち悪くなってきました……」

「リィロさん、ロックフォートはいるか?」


 レベル3のロックフォートは今回の依頼対象の中で最も強力とされるモンスターだ。


 討伐達成の証として、以前確認されているロックフォート二体分の素材をバベルに示す必要がある。


「多分このデッカい反応かな。ちゃんといるみたいね」

「どのモンスターから倒しましょうか?」

「そうだな……、確認されてるモンスターは動きが速くない奴が多い。強いていえばキースか。群れに飛び回られると厄介だし、キースを先に排除したいな」


 出来れば今日中に終えたい依頼だが数が多い。幸い今は人数が多いので手分けして倒す事にした。


「よし、クレイルとフウカは西にいるロックフォートと周辺のモンスターを。リッカ、リィロ、俺はまず北の洞窟だ。それぞれ片付いたらもう一体のロックフォートへ向かうって事で」

「分かったぜ」

「任せてよナトリ」


 頼もしい二人を見送った後俺たちも北へ向かう。


 道中で鳥人型モンスターのイーガルなどに遭遇した。数が数だけに、歩けば直ぐにモンスターと接敵する。

リッカが動きを止め、俺がトドメを刺す盤石の連携で難なく捌いていく。


 プリヴェーラで二人で狩りをしていた時期もあり、俺たちの戦いの流れは既に確立されている。



 道中かなりの敵を駆除しながら林を抜けた先、広い窪地の奥に洞窟はあった。いかにもモンスターの好みそうな穴蔵だ。


「さて、どうやってキースを引き摺り出したもんかな」

「思いっきり響破(ソニア)を撃ち込んでみようか?

 狭い洞窟内で反響するはずだし驚いて出てくるかも」


 リィロの提案により、俺達は洞窟に近づきながら配置についた。


 洞窟正面に陣取るリィロが前方へ杖を突き出し、詠唱する。


「揺らぎ、そして響き渡れ、『響破(ソニア)』」


 リィロの杖から、キィンと耳を締め付けられるような音が発される。

 波導は音波となって洞窟へ到達し、こっちの体まで震わせるような振動を反響させながら洞窟内から漏れ出してくる。


 やがて大量の羽音と共に、洞窟から夥しい数の影が飛び出してくる。

 キースは人の頭程度の体に黒い翼と牙を備えた一つ目のモンスターだ。


 洞窟中に反響する音波に、たまらず内部から飛び出してきたモンスター達は、すぐに俺たちを捕捉して黒波となって押し寄せてきた。


「頼むリッカ!」

「はいっ! 慈愛の眼差を以って旅人の足を休めよ——、『豊穣の乙女(ヴィルゴ)』」


 俺達三人の周囲に半球状の淡い障壁が生み出される。


 夥しい数のキースの群れは波導障壁へと殺到し、そしてピタリと空中で停止する。

 目の前で身動き一つせず、黄色い瞳を見開くモンスターの大群はなかなかにおぞましい光景だ。


 リッカの結界防御術である豊穣の乙女(ヴィルゴ)は、外から結界に触れたものの動きを止める。


 正確には、空間を捻じ曲げることで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけらしいのだが。


 細かい原理はわからないが、黒波導にはこういう難解な術が多い。

 とにかくこの術に嵌った敵は、結界の内部から攻撃を叩き込むにはこれ以上ないほど無防備な的となる。


『マルチロックオン、コンプリート』

「叛逆の弓、『アンチレイ・フルバースト』」


 構えたリベリオンから無数の光が迸る。


 放射状に広がった光の軌跡は、空中で停止するキースの大群の目玉に容赦なく突き刺さり、その全てを射抜いた。


『討伐対象72体の撃破を確認』

「リッカ、もういいよ」

「はい」


 リッカが豊穣の乙女(ヴィルゴ)を解除すると、モンスター共はもがき苦しみながらボトボトと地面に墜落していく。その全てがやがて動きを止め、死骸となる。


 後にはキースの黒山が残った。


「さすがだね……二人とも。一度で70体近くのモンスターを仕留めちゃうんだもの」

「ナトリくん、この死骸どうします?」

「キースはあんまり素材の旨みのないモンスターだからなぁ、素材剥ぎ取りはいいかな。数も多いし」


 狩人の間では所謂カスモンスターとして忌み嫌われている。邪魔なだけで倒してもさほど旨味がない。


 次なる目標ロックフォートの元へ向かおうと、リィロに再度探知を実行してもらった。


「いた。動いてる。んん……?」

「どうしたんです?」

「この感じ、人かな」

「クレイル達が向こうで既にモンスターを掃討し尽くしてて、先に着いたのかな」

「これはクレイル君ともフウカちゃんとも違うわね。私達以外の誰かよ。逃げ回ってるみたいにも見えるけど……、ロックフォートに襲われてるのかも」


俺たち以外にも誰かがこの土地にいたみたいだな。


「二人とも、助けに行こう」

「はい!」


 こんな危ない場所で何をしているのかわからないが、モンスターに襲われているなら助けないと。

 レベル3のロックフォートであれば、一般人はまず助からない。


 俺達はリィロの示した方角へ走り出した。






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