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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
七章 刻印都市と金色の迷宮
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第235話 入学適性試験

 


 波導学部の適性試験は校内にある第六演習場で行われる。校舎からバルコニーのように外へ突き出した広々としたグラウンドで、半屋外のような場所だ。


 試験内容は実技。最悪波導が使えなくとも波導学を学ぶ事はできるようだが、とりあえず実力を見るためだろう。


 グラウンドの脇に設けられた観覧席に上がって、試験の様子をフラーを抱えたリィロと一緒に見ることにした。



 志望者達の見せる波導は様々だった。

 とりあえず波導障壁を作り出す十歳ちょっとくらいの少年。

 演習場の地面の土から地の波導で石像を生成してみせる女性。

 風の波導で敷地内を飛行してみせる青年。


「波導術の修行って、弟子入りが基本だって聞いたんですけど学校に通う場合もあるんですか?」

「多いのは術師に弟子入りする方だね。私もそうだったわよ。ルーナリアのような大きな街には、術士認定を貰える波導学校もあったりするの」


 師匠が見つからない場合や、より専門性を求める人が入学するんだろうな。


「マリアの番だ」


 名前を呼ばれ、歩み出たマリアンヌは、見守る試験官の前で早速詠唱を始める。


「あの詠唱は、空位形象(ヴォルトゥムナ)をやるのね」


 マリアンヌの目前に水の塊が浮かび上がり、複雑な形状に変化していく。水は形を変え、建物のようなものを表現したようだ。おそらくこのアンフェール大学の校舎の形だ。


 あの術は翠樹の迷宮で使っているのを見た。周囲の地形なんかを波導で再現するものだったはず。


「はー、すごいね。本来空位形象(ヴォルトゥムナ)は地の波導術なんだけど、水属性でやってる。属性置換術式(エクセリアル)っていう高等技術よ。

 それにフィルに対する感知力と、術式構築力、さりげなく二色使い(デュプル)であることもアピールするとはね。あの歳で抜け目ないわぁ」

「やっぱり泡石(エトピリカ)は使わないのか」

「そんなことしたら大騒ぎになっちゃうわよ。あの歳でアイン・ソピアルを使える子なんてスカイフォールでもそういないと思うし。神童としては持て囃されるでしょうけど」


 そうでなくとも他の参加者からは関心するような声が漏れ上がっている。

 マリアンヌ、やはりあの歳にして相当な技量の持ち主か。



「次はクレイルだな」


 出て来たクレイルは、何やら試験官と会話している。すると試験官は広い演習場の半ばに並び立つ鉄柱を指差した。あれは的だろうか?


 クレイルは頷くと早速詠唱を刻む。


「豪炎よ、喰らい滅ぼせ。『劫火炎(オル・ロギアス)』」


 彼が火球を灯した杖を勢い良く振り抜くと、鉄柱に向かって真っすぐ火球が飛んでいく。

 劫火炎(オル・ロギアス)は寸分違わず細めの柱に命中すると、爆煙と轟音を巻き上げ大炎上した。


 観覧席まで届く余波が鳴り止み、土煙が晴れると、焼けこげた地面と真っ黒になって半分溶解した鉄柱が現れる。


「うわぁ」


 クレイル的には威力を押えているつもりだろうが、試験官や他の参加者達は唖然としていた。


「クレイル君の術、ほんとすごい威力と精度だね」


 あの距離から細い鉄棒に当てるのもすごいけど、クレイルの術はいつも見た目より威力が高く見えるな。


「あいつの波導は戦闘に特化してるから」


 クレイルが己の復讐のために磨いた技だ。すごいとは思うが、少し哀しい気もする。



 次はリッカだ。


「——星よ。その指先に触れし者、跪き頭を垂れよ。『黒墜蹄(アステローペ)』」  


 両手で構えた杖から発生したのは暗い球体だ。クレイルの溶かした鉄柱と同じように、術の練習用に置いてある岩石に向かって黒球は飛んでいく。


 リッカの術が岩に触れた瞬間、岩がくしゃりと歪む。幾分かコンパクトになって、地面を転がる。

 三分の一くらいの大きさに縮んでいる。中々衝撃的な光景だ。


「リッカちゃんもすごい。まず黒波導使える人がそうそういないのに、あんなわけのわかんない属性(エモ)、私じゃ絶対使いこなせないわ」


 リィロが関心したように声を漏らす。


「実際どうなってるのかよくわからないですよね」


 俺たちの荷物をまとめて運ぶ際に度々世話になる、星空の乙女(アストラ・イア)の術みたいに空間を圧縮している感じか? あの黒玉はどういう性質のものなんだろう。


 演習場の方からは興奮した声が上がっている。黒波導を初めて見る人も多いのかもしれない。



「最後はフウカちゃんね」


 何をするのだろう、と見ていると、フウカは少し首を捻った末に先ほどクレイルが劫火炎(オル・ロギアス)で溶かした鉄柱に近づいていく。


 フウカは溶けて黒くなった鉄柱の前に立ち両手をかざす。すると、光と共に柱が光り出した。粒子が集まり、それが寄り合い、金属が生成されていく。


 折れた柱が断面から徐々に伸びていく。やがてそれは、黒い焦げ跡もとれて元々の鉄色をした何の変哲もない柱に完全修復された。


「?!」


 リィロがガタンと席を立ち、観覧席の手すりから乗り出すようにしてフウカと柱を凝視する。


「えぇ……?」


 困惑気味に首を傾げるリィロ。他の参加者や試験官も唖然とした表情でフウカと鉄柱を見ている。


「あの鉄の棒を直したのか」

「いやいや……、そんな簡単なことじゃない」

「?」


 いまいち状況が掴めないでいると、リィロは説明してくれた。


「簡単そうに見えるけど、普通に無理よあんなこと。全く別モノとして一から生成するならまだしも、空気中から取り出したフィルを、属性変換して修復に転用するなんて。地の波導ならできなくもなさそうだけど……、フウカちゃんがあの鉄柱の成分を正確に把握してるとは思えないし……」

「知らないと思う」

「恐ろしいのは、フウカちゃんが地の属性に適正を持ってないところよ。何かもっとこう……別の。見ただけ、感覚だけであの柱の成分を再現して修復しちゃってる感じがする」

「フウカは難しいこと何も考えずにやってそうだ」

「現職の王宮神官だものね……。あれが天才ってやつなのね」


 演習場の面々はフウカの波導に絶句していたが、適性試験は滞りなく終了したようだ。


「みんなお疲れ」

「大した事はしとらんがな」

「次はナトリくんとリィロさんの試験ですか?」

「うん。行ってくるよ」



 俺とリィロは職員の案内について、第40講義室という部屋までやってきた。昇降機をいくつか乗り継がねばならず、結構遠かった。


 部屋の中は広く、既に何十人もの参加者達が段状になった席についている。

 俺たちも空いている席に腰を下ろし、教室前方の黒板を見下ろして試験の開始を待った。


 時間になり、試験官が試験の説明を始める。刻印学部の適性試験は筆記試験だった。

 問題用紙が配られ、全員に行き渡ると早速試験が開始された。

 時間内に問題用紙に答えを記入し、刻印に対する基礎知識の程度を見るテストだ。


「…………」


 ざっと問題用紙を見回したが、自信を持って回答できそうな問題は数個しかなかった。


 刻印のことなんてほとんど知らないのだから当然といえば当然だ。基礎記号は何個あるかとか、図の定型回路の名称を答えろとか、正直わけがわからん。

 試験時間のほとんどを問題文を眺めて過ごしたような気がする。



 試験が終了し、回答用紙が回収される。

 俺とリィロは講義室を後にし、みんなと合流すべくエントランスロビーに向かった。


「全然わからなかった」

「私も半分くらいかな。刻印って難しそうよね」


 あれが半分も理解できたのは十分にすごい。


「前途多難だ……」


 再び過ごす事になる学校生活に思いを馳せ、重い溜息を吐きながら天井の高い廊下を歩いた。






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