番外 迷宮についての覚え書き
今章の番外編は迷宮についてナトリが調べた事柄を書き残したメモです。
現在スカイフォールで広く知られる迷宮は五つ。
これらは『五大迷宮』と呼ばれ、各地で崇められたり腫れ物扱いされたり、世情的にも物質的にも世界に大きな影響を及ぼしている。
各地の迷宮を巡るに辺り、それぞれの情報をまとめておく。
【翠樹の迷宮ベインストルク】
東部地域イストミルが有する巨大な塔の遺物。システィコオラ大陸の第五層エムベリーザに突き立っており、そのまま遥か限界高度の上へと伸びている。
外観は翠色をした風のフィル結晶で覆われ、うねりながら螺旋を描き天へと伸びる樹木のよう。
東部領主連合によって調査隊が組織され、長年による迷宮調査が行われているが行き詰まっており、近年では予算も減って調査結果はあまり芳しくなかった。
近年迷宮の活性化が叫ばれており、ノーフェイスの数が増殖していた。今思うと厄災復活の予兆だったのだろう。
俺、クレイル、マリアンヌ、フウカは翠樹の迷宮初の踏破者となった。
俺たち三人はリベリオンの常識はずれな性能頼みで壁を破壊し強引に登り、地味にフウカは人間離れした身体能力により正攻法で登り切るという偉業を達成していた。食料や戦闘など、どうやったのか疑問は残るがフウカなら、とも思ってしまう。
塔の頂点には蒼天の空の元色とりどりの花が咲き誇っており、イストミル全体の風の流れに影響を与える程の巨大なフィル結晶と、七英雄が一人、ガリラス・アグラヴェインの墓標が存在した。
かつてエル・シャーデの命を受け、一人で<嫉妬の厄災レヴィアタン>と戦い、そして封印したようだ。
俺たちはレヴィアタンに浸食を受け、魔力に汚染されてしまった英霊ガリラスとの戦いを強いられた。なんとか合流したフウカと共にガリラスを打ち倒すが、彼が消えた影響かレヴィアタンが完全に復活してしまう。
リベリオンに備わっていた厄災を殲滅するための力と、フウカの緋色の翼の力を合わせることでどうにか撃退し、生き延びることができたのだった。
マリアンヌによれば、ノーフェイスの脅威がなくなった現在の迷宮は、引き続きオキ族が厳重に管理し一般の立ち入りを拒んでいるという。
東部領主連による内部調査はこれから本格化するのだろう。
【光輝の迷宮デザイア】
西部地域ロスメルタに存在する未だ謎の多い地の迷宮。
黄金に光り輝く巨大都市のような外観らしい。数年に一度ロスメルタの都、刻印都市ルーナリアの上空に突如現れる。出現期間中は街へ砂金が降り注ぐらしく、それで迷宮の直下に街を作ったようだ。
出現間隔はおおよそ三年に一月。
欲望に目がくらみ、迷宮へ駆られた者達は誰一人として戻ることはなかったという。従って内部の情報は伝わっていないようだ。積極的に調査が行われることはなく、迷宮からもたらされる富を享受しているのがルーナリアの現状。
ロスメルタ出身の英雄といえばコッペリアのアル=ジャザリ・ガラハッドだ。神話の中では思慮深く聡明な人物として描かれ、ルーナリア皇家は彼女の一族の末裔であると主張する。
アル=ジャザリといえば、現代刻印術の源流とも言われておりそっち方面でも偉大な人物らしい。確かに人に似せた精巧な僕を巧みに操ったと神話にはある。
神話の中での厄災は、「大いなる厄災」と一括りにされる存在なので、迷宮デザイアに一体どのような厄災が封じられているのかは不明。過去アル=ジャザリがそれと戦い、今も封じているはず。今すぐに目覚めないことを祈るばかりだ。
【災禍の迷宮エンシェントカーネル】
別名「凶星」とも。
スカイフォール南部地域、トッコ=ルルの迷宮。モンスターが生まれた忌むべき地として語り継がれている。
場所はグランディス大陸、火龍山脈の頂にあるカルデラ。”狩人の聖地”とも呼ばれる地で、強力無比なモンスターがうじゃうじゃと巣食っている場所らしい。ここは辿り着くだけでも難儀しそう。
所在地があまりにも危険すぎて、近年まともな調査が行われた記録は見つからなかった。
【虚構の迷宮アルカトラ】
スカイフォール中央部、エイヴス王国領ファエトン空域に存在する迷宮。
接近すると迷宮周辺を漂う正体不明の波導生物による波状攻撃を受けるため、迂闊に近づくことすら許されない禁足地だ。
大昔に精鋭で構成された王国調査団による調査が行われ、かなりの深層まで到達したことがあるという記録はあるものの、その情報は公開されておらず。
【霧の迷宮ミスティルレイン】
北方、アプテノン=デイテス帝国に伝わる水の迷宮。
ユリクセスは多種族との交流が断絶状態にあるため、その情報はほとんどが秘匿されている。
どんな場所にあるのか、どんな見た目をしているのか、何もわからない。
【???】
七英雄が七体の厄災を封じるなら迷宮も七つあると思うのだが、名だたる迷宮は時空迷宮マグノリアを除き五つのみ。
七英雄を当てはめるならドラゴニアの英雄ってことになるんだろうが、その存在は謎に包まれている。ドラゴニアは調べてもとにかくよくわからない種族。ドラゴニア達はどこにいったのか、迷宮と厄災は本当に存在するのか。
迷宮で七英雄に会う機会があったらちゃんと聞いておかないとな。
【時空迷宮マグノリア】
世間にいまだその存在を知られていない黒の迷宮。
スカイフォール北東地域ミルレーク諸島に存在した。
六十年前に存在した亡国、マグノリア公国の城の地下深くに秘密裏に封じられていたが、リッカの願いに共鳴し意識のみ復活。時空迷宮となり国を丸ごと飲み込み、今日まで時空の狭間に存在し続けた。
リッカを取り込み完全復活を果たした<色欲の厄災アスモデウス>だが、七英雄ダルク・トリスタンと彼から盟約の印を継承したリッカの力を借りることで対抗。
印の力と自身の適性で厄災と迷宮を押さえ込んだリッカのおかげで、現状アスモデウスが暴れ出す事はひとまずないようだ。
あの迷宮の存在を知る者は、今では俺たちジェネシスのみとなる。




