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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
六章 東の英雄
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第229話 活路

 


 大商人ミセス・カマスによってかけられた疑惑を晴らし、俺たちが事件の犯人でないことは証明する事ができた。

 だが、俺達に残された時間は少ない。予断を許さぬ状況である事に変わりは無い。


「なんとか拷問は免れたものの、この広い船内でどうやってゲーティアーを探したもんか……」


 ちらっとリッカを見る。


「妾をアテにするでない」


 だよな……。

 手当たり次第に探すのは、カマス商会のネコ達が人海戦術でやっている。オープン・セサミは大型の浮遊艇だ。隠れる場所なんて無数にある。

 事実として、彼らでも見つけ出せなかったからアスモデウスが時空迷宮(ルクスリア)で時間を戻す事態になっているのだ。


「奴の居所を直に特定できなきゃ厳しいか……」


『リベル、何かいい手はないか』

『ゲーティアーはフィルではなく、魔力素子(ドミニウム)で構成された肉体を持ってる。それを感知できれば……あるいは』


 なるほど……。けど、この広大な艇上でそんな些細な違和感に気付けるような者がいるだろうか? 既にかなりの者が意識を無くしているというのに。



「キューイ!」

「?」


 突然の鳴き声に振り向くと、そこには小さくなったフラウ・ジャブ様、もといフラーが小さな翼をパタパタと羽ばたかせて浮かんでいた。


「フラー、お前は無事だったか」


 小さな仲間の無事にほっとしていると、白竜の子は船倉の出口に向かって飛んでいく。


「キュ!」

「あ、勝手に動き回ると危ないぞ!」


 廊下に飛び出したフラーを追いかけて走る。竜は艇内をすいすい進み、俺達の部屋がある区画まで来てしまった。


「なんなんだ……」


 フラーは扉の前でしきりに鳴く。何か伝えたい事でもありそうな様子だ。ここはリィロの部屋じゃないか。


 ドアを激しくノックし、もう一度呼びかけてみる。やはり返事がない。だがフラーは鳴き止もうとしない。


「中に入れっていうのか? すみませんリィロさん、開けますよっ」


 リベリオンで鍵を破壊し、扉を蹴破って突入する。思ったより大きな音が周囲に響き渡る。


「きゃあああ!」


 同時にベッドに転がっていたらしいリィロが飛び起きた。


「リィロさん、意識があるのか?!」


 彼女は慌てて毛布で身体を隠す。かなりだらしない格好で就寝していたようだ。


「あ……すいません」

「な、何事ッ? 服着るから……ちょっと待って!」


 すごすごと蹴破った扉を元に戻し、部屋の前で彼女を待った。




 §




「待たせたわね……」


 寝癖のついた長い金髪を撫で付けながらリィロはバツが悪そうに言う。


「いきなり扉を蹴破るんだもの、びっくりしちゃった」

「すみません」

「ナトリ君に、リッカちゃ……ん?」


 リィロはようやくリッカの容姿の変化に気づいたようだ。


「リィロさん、悪いけど今それどころじゃないんだ。緊急事態なんだよ」

「確かに、なんか騒がしいわね……。まだ夜中みたいだけれど」


 彼女に手短にいまの状況を説明する。当然の反応だが、リィロは絶句し口を開けたまま顔を青ざめさせる。


「すぐには受け入れられないかも知れないけど、俺達には時間がない」


 話を聞くと、リィロは魔力入り饅頭を結局食わなかったらしい。部屋に持って帰ったまま忘れていたそうだ。扉を叩いても起きてこなかったのは、単純に眠りが深いから。


「……なんかごめんね。こんな時に暢気に寝ちゃってて」

「気にしないでください。こっちこそ驚かせちゃいましたよね」



 フラーはリィロが無事である事を知らせるために、ここへ俺たちを呼んだのだろうか。


 ……そうだ、リィロは響波導の使い手じゃないか。先日の防衛戦ではモンスターを一匹たりとも漏らさない、強力な感知力を発揮して俺たちのサポートをこなしてくれた。もしかすると彼女なら。


「リィロさん!」

「えっ、何?」

「この艇全体を響波導で調べられない?」

「うーん、頑張ればいける……かも」

「本当に?!」


 やっぱりこの人の波導はすごいな。光明が見えて来た気がする。


「私の術でみんなに魔法をかけたゲーティアーを見つける、ってことよね?」

「うん」


 リィロは腕を組みしばし考え込む。


「ナトリ君、調べることはできるけど、見つけられるかは分からないわ……。私、ゲーティアーの気配に触れた事がないから」

「それなら問題ありません」


 リッカの肩を掴んでリィロの前に差し出す。


「アスモデウス、リィロさんにちょっと魔力の感覚を覚えさせてあげてくれよ。ゲーティアーの感覚と似てるはずだし」

「その程度ならよかろう。手を差し出せ小娘」

「リッカちゃん、まるで別人みたい。本当に厄災なのね……」


 リィロは恐る恐るといった様子でリッカの差し出す手を握った。


「ひぃあああああああああ!!!!」


 その瞬間彼女は飛び退き、耳をつん裂くような悲鳴を上げ通路の先まで逃げていってしまった。


「お、おい、何したんだよ?!」

「くふふふっ、妾の存在を二度と忘れぬよう恐怖をその身に刻んでやったまでよ」


 明らかにやりすぎだろ。

 見た目はほとんどリッカなので忘れがちだが、こいつは人に害為すあの厄災なんだ。加減なんて考えようはずもない。認識が甘かった。


「くそ……っ、アホか俺は」


 リィロを追って駆け出す。


 …………


 リィロは通路に設置された掃除用具入れの陰にうずくまり、ガタガタと震えていた。彼女の側に膝を突いて優しく語りかける。


「……ごめん、リィロさん」

「————っ!」

「怖かったよな。……俺のせいだ。厄災の邪悪さはよくわかってたはずなのに」


 どうすればいいか分からず、彼女の隣にしゃがみ込んで壁に背中を預ける。




「ごめんなさい、ナトリ君……。今は怖がってる場合じゃ、ないんだよね」

「……うん。あと数刻でフウカやマリアの命は失われる。そして俺とリッカも」


 リィロが涙を浮かべた瞳をこちらへ向ける。その瞳はいまだ恐怖に揺れていたが、彼女は目を逸らすことはなかった。


「私、やるわ。怖いけど……、みんなのために絶対にゲーティアーを見つけないと……!」




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