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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
六章 東の英雄
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第223話 水龍玉

 


「いらっしゃい。……ってあんたは!」


 ガンドール武具店の入り口を潜ると、店の奥に居た店員が声を上げる。


「お前さん、あの『ジェネシス』のメンバーだろ! 式典で見たぜ。ウチで装備買ってくれんのか!?」

「防具の補修を頼みたくて」

「おぉ、そうかそうか! こいつは同業者に自慢できるな!」


 声と図体のでかい髭面のおっさんは、がっはっはと一人大笑いしている。


 あの記念式典以降、俺たちはこの街で有名人になってしまっている。特に俺やフウカの容姿はわかりやすく目立つので、街中で見知らぬ人間から声をかけられることもしばしばだ。


「アイラさんいます? 以前彼女に作ってもらった装備なんで」

「おぉ? あんたアイラの客だったのか! あいつもスミにおけねえなぁ。おい、アイラ!!」

「声デケーんだよおやっさん。何? お……、ナトリじゃん!」

「久しぶり」


 以前ラケルタスクローク作製を頼んだ武具職人アイラが店の奥から顔を出す。彼女に続いて奥の工房へと入り、分厚い木製テーブルを挟んで腰を下ろし、向かい合う。


「随分ご活躍じゃないか。魔龍を倒したのがナトリのユニットだって知ったときはびっくりした」

「アイラも式典に来てたんだ」

「もちろん見たさ。三大賢者と協力して街を救った英雄だもんな、ほんとすごいよ」

「あの人達がいなけりゃ無理だったさ」

「こうしてここで武具を作れるのもナトリ達のおかげなんだよな……。ありがとなっ!」


 アイラは気持ちのいい笑みで感謝を伝えてくれる。


「今回はラケルタスクロークの補修を頼みたくてさ」

「アタシの傑作、役に立ってる?」

「かなりね。着てないと心許ない」


 隠密の特殊効果もそうだが、幾度も敵の攻撃から俺を守ってくれた。装備する違和感や動きづらさもなく、普段着とさほど変わらないはずなのだが、モンスターの爪も弾いてくれる強靭さ。既に愛用防具といっていい。

 俺は今も身につけていたベストを脱いでテーブルに載せた。


「なるほど、結構痛んでる箇所もあるなぁ。かなり激しい戦いだったみたいだ」

「まあね」

「これなら預かってる風のフィル結晶を使えばなんとかなると思うよ。二三日かかるけどいい?」

「よろしく頼むよ。あ、そうだ」


 俺は懐から取り出したものをコトリと卓上に置く。


「こいつは……!」


 その玉は水底のような深い青色をしており、時折光が反射するかのように中の水が揺らめいて見える。


「これはラグナ・アケルナルの龍玉らしい」

「魔龍の素材……?!」


 魔龍の死骸はバベルの者達によって解体作業が進められていると聞く。この龍玉はおそらく魔龍素材の中で最も価値あるもので、当然防衛戦一番の功労者であるガルガンティア様に贈られたのだが、バベルで設けられた宴席の終わり際、彼が俺たちに託してくれたものだ。

 自分は厄災の討伐についていくことはできない。その代わり、この水龍玉を旅の助けにしてほしい、と。



「これが伝説のレベル5素材かぁ……。値段なんてつけられないほどの価値がありそうだよ」

「マジか……」


 売るとこに売れば一生遊んで暮らせる金が手に入るかもしれない。


「そんなこと聞いたら、気軽に加工したいなんて言えねえ……」

「とんでもないモンを手に入れたねー」


 頭を抱える俺を尻目に、アイラは水龍玉を手に取ると、表面に触れじっと観察する。


「溢れ出る濃密な水の属性(エモ)。さすがは魔龍の一部だよ。こいつを持ってるだけで感じるだろ?」

「確かに、身につけてるとなんかやたらと涼しいような気が……」

「ほんとすごいよコレ。きっと水術士だったら喉から手が出るほど欲しがるだろうな。水属性の杖の核にこれ以上の素材はないだろうし」

「ガルガンティア様は、そんなものを俺たちに……」


 とんでもないものを譲り受けてしまったものだ。


「正直なとこ、これはアタシの手に余るな。うまく加工する自信がない……」


 アイラは気弱な答えを返す。あの魔龍に埋まっていたものだ。加工も容易でないのかもしれない。


星骸(スターアーク)に加工しても強力だろうけど、こいつは持ってるだけでも星骸並の力を発揮すると思うよ」

「そうなのか?」


 彼女が言うには、身につけているだけで周囲の火属性を緩和し、炎から身を守ってくれるほどの力が秘められているそうだ。確かにラグナ・アケルナルは常時発動の水のオーラを纏っていたしな。


「今は肌身離さず身につけておくことだね。鎖だけ取り付けてネックレスにでもしてみるか」

「じゃあ、とりあえずそれで頼むよ」



「ところで……」


 アイラは水龍玉を受け取ると、期待を込めた瞳で俺を見つめてくる。


「何?」

「あれだよ、あれ」


 その態度に首を捻るが、思い至る。そういえば以前彼女にリベリオンを見せる約束をしていた。


『いいか?』

『マスターが言うなら……仕方が無い』


 前から思っていたが、リベルはどうやら俺以外の人間に触られるのがあまり好きでないらしい。呼び出した杖をアイラに手渡す。


「うおお……、これが英雄の武器かぁ」


 何か感動している。


「前にも思ったけど、本当にすごいよな、これ。材質が全くわかんない。金属には違いないけど精錬密度が高すぎるし。炉に入れても溶かせないだろーな」

『!!!』

「あんまり怖い事いうなよ。リベルがビビってる」

「リベリオンって言ったっけ……武器に愛称つけてるのか? いいね、武器を大事にする奴は大好きだ」

「いや、リベルは実際に喋るんだよ。ちゃんと意思がある」


 その言葉にアイラは目を丸くする。


「金属の塊に意思……? な、なぁ、アタシも喋れたりとか、しない?」

『できそう?』

『直接は無理だろう』

「無理だってさ」

「そっか。……残念。にしても、こんな美しい武器に意思まで込めるなんて。これを作ったのは相当な名匠だろうね。どんくらい昔かわかんないけど、すごいよなぁ」


 リベルのことはエル・シャーデ、この世界の創造主も知っているようだったし、おそらくスカイフォール創世の時代にはもう存在していたんじゃないかと思う。


「リベルにはまだまだ数多くの力が眠っているみたいだしな。全然使いこなせてないんだ」

「話を聞いてるとさ、元からあった力っていうより、二人が望んだ能力が発現していってる感じだよな」

「なるほど……、そういう見方もできるのか」

「にしても、使い手と一緒に成長する武器か。武器の一つの理想形だねぇ。ありがとナトリ。武具作りのいい刺激になった気がする」


 そう言ってアイラはリベリオンをこちらに返す。武器と共に、か。やっぱりお前は俺の相棒だな。

 ラケルタスクロークを彼女に預け、俺達は武具店を後にした。




 §




 今日はフウカとリッカは揃って出かけているので俺一人だ。マリアンヌやリィロと遊ぶ約束をしたと言っていた。気になっていた防具の補修も頼んできたし、午後はどう過そうか。


 クレイルの家にでも行こうかな。でもクラルのフォルステリ工房に水龍玉を見てもらいにいくのもいい。それとも、王都でもやっていた調べ物の続き、図書館に行って迷宮や厄災について調べてみるか。


 迷宮や厄災についてはわかっていないことばかりだし、本当に重要な情報は各国ともに秘匿したがる。フウカやリッカのために情報を集めてはいるが、どうにも最近は行き詰まってる感じがする。


 なんとかしてそういう情報が見られる場所や人物に出会えないものだろうか……。




『マスター』

『どうした?』

『マスターは、何故他人のことばかり考えているのか』


 基本的に俺が頭の中で考えていることはリベルにも筒抜けになる。それにしても……。


『お前が緊急の用件以外で話しかけてくるなんて珍しいな』

『駄目だろうか?』

『そんなことないよ。むしろもっと話したいと思ってるくらいさ』


 俺はそんなに人のことばかり気にしているだろうか。


『気にしている。マスターはいつも女性のことばかり考えている』

『誤解を招くような言い方は止めろ』

『事実では?』


 確かに最近身の回りに女性が多い。字面だけ見れば間違っちゃないんだけどなんか引っかかるんだよなぁ……。


『私は、マスターはもっと自分の身を守ることを考えるべきだと思う』

『…………』


 リベルは以前言っていた。俺の命を守ることが自分の使命だと。そんな彼女からすると、俺の姿勢は些か不安だと苦言を呈しているのだろうか。


『いつも心配かけてごめん、リベル』

『私はただ』

『でも、お前がいるから俺は安心して戦える。俺の弱いところをいつもお前が守ってくれるから。そうだろ?』

『——全くこれだからな。でもいいよ。私が絶対にマスターを守ってやる。私にしかできないからな』

『そうこなくちゃな』



 俺は一人微笑み、水路脇の通りを歩んだ。






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