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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
六章 東の英雄
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第222話 リィロの休日

 


 私の名はリィロ・エンヴィア。ガルガンティア波導術士協会に所属する術士だ。


 エンヴィア家は一応貴族の家系である。父は男爵であり、その関係で私の兄弟も皆プリヴェーラ市政に何かしらの形で関わっている。

 貴族と言っても庶民に毛が生えたようなもので、プリヴェーラ四大貴族やコールヘイゲンのような名家には到底及ばない。父もプリヴェーラ東区役所で部長をやっているしがない役所勤め。


 兄弟の中で唯一私には波導の才があったが、色見の儀を受けたものの、私が受けた加護は”響”である事が判明し、少しだけ落胆した。

 響波導とはいえ家から術士が生まれるのは名誉なこと。父は私の修行に惜しむことなく出資してくれた。その賜物か、私は晴れて術士協会に入会する事が叶ったのだった。


 響は非常に地味で人気のない系統だ。けれど私にはその手の才能があったらしく、協会ではそれなりに重宝された。

 発掘調査の現場や探索任務、鉱山など色々な場所へ派遣されたが、人の役に立つのは悪い気分ではない。それなりにやりがいを感じていた。


 しいて悩みを上げるとするなら、最近父が結婚しろとうるさい事。うかうかしていると婚期を逃すとは分かっているのだが、相手が居なければどうしようもない。


 密かに思いを寄せていたマルコス先輩には、先日彼女がいることが発覚した。

 大暴走で負傷した彼を見舞おうと治療院を訪れた際、ベッド脇でいちゃつく先輩と美人の彼女の姿に私の恋はあえなく打ち砕かれた。やっぱりいるよなぁ……。先輩わりとイケメンだし。



 そんな私は今日、ささやかな傷心を抱えながらも街角、西区の噴水広場に立っていた。先日行われた式典の影響もあってか、街は今大いに浮かれている。収穫祭でもないのにお祭り騒ぎ。大盛り上がりだ。

 私は待ち合わせをしている。先日約束した彼女達と————。



「あ、いたー。おはよーリィロ」

「おはようございます、リィロさん」

「二人とも、おはよう」


 マリアンヌちゃんのお仲間であるフウカちゃんとリッカちゃん。二人とも眩しいばかりの美少女で、女の私でも思わず見とれてしまう可愛らしさだ。


「マリアンヌはまだなんだ」

「そうみたいね」


 若いっていいな。この二人をみていると、どうしてかそんなことを考えてしまう。


「二人は一緒に暮らしてるの?」

「はい。プリヴェーラに戻ってからは家も無いので、ナトリくんに住まわせてもらってるんです」

「ふーん、そうなんだ……って、え?」

「どうしたのリィロ。そんなに驚いて」


 そりゃ驚くでしょう。あの変わった髪色の男の子、ナトリ君がこんな美少女二人と同棲しているだなんて聞かされれば。実直な感じの子だし、正直そんなことするようには見えなかったけど。人は見かけによらないなぁ……。


 ……気になる。とても気になる。どうしてそんな状況になったのか是非とも知りたい。人の恋愛関係の話って、つい根掘り葉堀聞きたくなっちゃうよね。


「ええーっとぉ、その。二人はナトリ君とすごく仲いいのね」


 二人の地雷を踏み抜くのが恐ろしくて、思ったよりも深入りできんかった。


「うん。私のこと好きって言ってくれたし」

「わ、私のことも……」


 フウカちゃんは溌剌とさも嬉しそうに。リッカちゃんは頬を赤らめ恥ずかしげに。二人のうら若き乙女達は少年への好意を偽る事無く認めた。そこまでは聞いてない。

 ちなみには私は可愛らしい女の子も大好きだ。だからこの二人といるだけで既にテンションが上がりまくっている。


 そんなことはどうでもよくて。


 二人ともベタ惚れじゃねーか。——ナトリ君! どうなってんだよ! あの純朴そうな見た目で女たらしなのか?! だからこそなのか?!



「許せねえ……」

「マリアンヌちゃんはまだ身体が小さいですから、きっと私たち以上に疲れてるんです。許してあげてください」

「あっ、ごめんそういうことじゃなくてっ」


 つい本音が漏れだしてしまったか。


「リィロも疲れてそうだよ」

「私は大丈夫。ここ数日ずっと家でごろごろしてたからね」


 式典であろうことか壇上に上がり、街を救った英雄だなんだと持て囃されてしまったせいなのか、私以上に私の両親や親族は盛り上がっていた。そのおかげで父が出世できたり、エンヴィア家の評判が上がるんであれば、まあいいんじゃないかなと思う。



 とにかくだ。きっとこの二人は私の全く知らないナトリ君の魅力をたくさん知っているのだろう。ナトリ・ランドウォーカー。今最も気になる男だ。興味深い。


 雑念が頭を覆っている間に最後の一人、マリアンヌちゃんが通りに姿を現した。


「すみません皆さん! 遅れてしまって」

「いいよいいよ。全然待ってないもん」

「ふふ、今日の服可愛いわね。マリアンヌちゃん」

「おはようございますリィロ先輩。リッカさんとフウカさんもっ」


 ああ……。美少女に囲まれてる。なんという僥倖。それぞれ毛色が違いつつもその魅力が光を放つような女の子たちに癒される。


「先輩?」

「はっ。……うん、みんな揃ったしそろそろ行きましょうか」

「楽しみだねー」


 そう。今日は女子の日。可愛い女の子達と可愛い服を見て、美味しいものを食べる。ああ、なんと尊い。




 §




「服なんて久しぶりに買いました」

「私は前に友達と買い物した時以来だな〜」

「マリアンヌちゃんのスカートすごく似合ってたよ」

「ほ、本当です?」

「うんうん。あれなら気になる男子もイチコロね!」


 マリアンヌちゃんは頬を赤らめ、目の前のダイナミックフルシュガーピーチパフェをつつき始める。

 ふふふ、誰のことを考えてるのかな〜?


 私たち四人は西区の服飾商店街で気になる服を漁った後、足を休めに甘味処へやってきた。


 そりゃあもう楽しかったですわよ。三人の美少女達のコーディネートは。趣味全開にし過ぎてマリアンヌちゃんに若干引かれるくらいにはね。


「リィロさんの家は確か東区でしたよね」

「そう。大通りの近くね」

「フウカさんとリッカさんはどこに住んでるんですか?」

「私たちは南区だよ」

「ナトリさんの家の近くでしょうか?」

「ナトリとは一緒に住んでるよ」

「……え?」


 そう。それが普通の反応。 


「みなさん、一緒に暮らしてたんですね……」


 ……ん? なんか、マリアンヌちゃんの表情にどんどん影が増していくような。


「じゃ、じゃあ……」

「?」

「フウカさんと、リッカさんって、やっぱりその、ナトリさんと、付き合って……」

「……そうなの?」


 これはマリアンヌちゃんに便乗して突っ込む流れ。そこんとこどうなの、フウカちゃん、リッカちゃん。


「違うよ。家族だとは言ってくれたけど……。付き合ってるとかはないもの」

「私も、付き合ってはないです……」

「!」


 私は見逃さなかった。二人がナトリ君との関係を否定した時のマリアンヌちゃんの表情を。

 なんて顔をするんよ……。


 …………



 そして。


 ナトリくん! 君は一体何者なんだ! 

 天真爛漫、お人形さんのような造形美、一目見たら忘れられない綺麗な髪と魅力の詰まったフウカちゃん。  

 優しさ包容力全開、ぱっちりおめめにおまけに巨乳のふわふわ系美少女リッカちゃん。

 そして既にして可憐。いずれはあのエレナ・コールヘイゲンに並ぶ美貌へと成長を遂げるであろう天才少女、マリアンヌちゃん。


 こんな無敵美少女三連星をことごとく惚れさせる君は、一体、なんなんだ?!



「はぁ、はぁ……」


 興奮のあまり、思わず息切れしてしまった。


「リィロ、もしかしてケーキが喉に詰まっちゃった? 治すよ?」

「え? ああ大丈夫よ……。ちょっと胸焼けしちゃったの」


 隣に座るフウカちゃんが心配して私の背中をさすってくれる。


「もしかして、ナトリさんには誰か他に好きな人が……?」

「!」

「!」


 危ない危ない。マリアンヌちゃん、その先は地雷原だよ。戦争になるよ。怖い。幼いって怖い。


 っつうかナトリ君。まさかとは思うけど、この子達はただキープしてるだけで本命は別にいるとか、そんなこと考えてねぇよなぁ〜?!


「ハッ!」


 一瞬脳裏にあの出来過ぎた後輩であるエレナ・コールヘイゲンの顔が過る。いや。さすがに思い過ごしだよね……。


 さすがにこれ以上マリアンヌちゃんを放置すると、取り返しのつかない事態にまで発展しそうだったのでフォローを入れることにした。


「ナトリ君は、確かスカイフォールの神様から大変な役目を仰せつかってるんだっけ。一見なんでもなさそうにしてはいるけど……、それってすごく辛そうだよね。他の事を考えてる余裕なんて、ないのかもしれないわ」

「そう、ですね……」

「ナトリくん、いつもみんなのために一生懸命ですから」

「私たちで助けてあげないと、だね!」


 彼女達は再び心を一つにしたのか、互いに頷き合う。


 一見平凡な少年だが、彼女達をここまで信頼させ、惹き付けるほどの何かが彼にはあるのだろう。そう思うと、少しだけ彼のことを知れたような気がした。そして同時に、さらに彼の人となりに興味が湧いて来たような気がする。









 でも、この子らの気持ちにはちゃんと自分で決着つけるんだよナトリ君。

 下手打てば、地獄みるかもしれないからね。おおこわ……。




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