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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
六章 東の英雄
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第212話 更なる力を

 


 水の都が大暴走の襲来を受けてからニ刻ほどが経過した。三大賢者の奮戦もあり、いまだ最終防衛戦が破られたとの報は届かない。

 俺たちの急造ユニット、ジェネシスもまた絶えること無く襲い来るモンスターとの戦闘を強いられていた。



「リッカ、マリア、煉気はまだ大丈夫か?!」

「まだいけます!」

「リッカさん、辛かったら無理せず煉気水(アニマリエール)を使ってください」

「ありがとう、マリアンヌちゃん。苦しくなってきたら使うね」


 俺はリベルがしっかり煉気を管理してくれるし、マリアンヌの泡石(エトピリカ)は非常に低燃費なため煉気総量が少なくてもまだ余裕がみられる。

 しかし、リッカは度重なる波導の使用によって煉気を消耗し始めているようだった。


「リッカ、少し術の行使を抑えて俺たちに頼ってくれ」

「すみません、ナトリくん……」


 アンチレイで、上空を飛んで街に近づこうとするバッティ供をクレイルと一緒に撃ち落としていく。


「ナトリ君、前方に妙な反応が。何これ……、どんどん増えてる?!」


 後方に控えるリィロが声を上げる。俺達はその正体を確かめるため、氷河の方へ走った。


「フウカ!」


 そこでは持ち前の飛力を活かして縦横無尽に飛び回るフウカが、モンスターに術を放っているところだった。


「ナトリ! このウルルン、全然倒せない!」

「こいつ……?」

「フウカさん、ここは私が!」


 マリアンヌが杖を構え、詠唱する。


「動きを止めて。『泡蛇タンネカムイ』」

「だめだ、マリア!」


 彼女を制止しようとした時には、既に大量の黄色い水流が放出されウルルンの群れを飲み込んでいた。

 泡は泡石(エトピリカ)の性質に従って凝固し、モンスターの動きを停止させるかに思われた。が、信じられないことにそのウルルン共はマリアンヌの術を吸収し、逆に体内に取り込んでいく。


「そ、そんな。泡石が……!」


 さらに、泡石を取り込み膨れ上がったウルルンは何体にも分裂していく。十体程度だったウルルンは、一気に三、四十体もの数に増殖した。


「こいつは、ウルモーアだ。みんな離れろ!」


 俺達はモンスターの群体から距離を取る。


「ウルモーア……っ?」

「知らないのも無理はない。レベル3のレアモンスターなんだ。滅多に会えないけど、絶対に会いたくない奴と狩人の間じゃ有名なんだ」


 なにせウルモーアは一見レベル1のウルルンと変わらない。中途半端に攻撃して切断したり、波導攻撃を吸収すると無限に分裂していく。それぞれがまるで一つの意思を持つように動き、全てを完全に消滅させなければ終わらない。


 出くわしたら戦わず逃げるのがベストだが、今引く訳にはいかない。


「みんな、不用意に攻撃するな。どんどん増えるぞ」

「うん。でも……!」


 波のように押し寄せて来る増殖したウルモーアにどう対処するか。斬撃はよくない、波導も相性が悪い、それなら……俺がなんとかできれば。


『リベル、アンチレイでウルモーアのクリスタルを撃ち抜けるか?』

『できるけど、一体ずつやっても埒が明かないぞ』

『もっと、大量に、同時に撃てれば……。ん、この感覚は』


 アンチレイを同時に複数発射するイメージを思い浮かべたとき、まるでパズルのピースが噛み合うように意識の中に生まれ出るものを感じた。


『マスター、これならいけそうだ』

『やろう、リベル』


 白銀のリベリオンを構え、迫り来るウルモーアに向ける。心の奥から浮かび上がるように新たな詠唱が記憶に刻まれる。


『ウルモーア群体コア。——マルチロックオン、コンプリート』


 リベルが全てのウルモーアの弱点位置を意識下に収めるのが感覚で伝わってくる。


「叛逆の弓——、『アンチレイ・フルバースト』」


 リベリオンから大量の閃光が放射された。それは射出された瞬間個別に全てのウルモーアへと突き刺さり、紫水晶(スタークリスタル)を撃ち抜いた。姿を維持できなくなったモンスターは液体へと還っていく。


「よし……っ! でも、さすがにちょっとキツかったな」


 光線を大量に放つ分、それなりに錬気を消耗したようだ。


「あんなにいたモンスターを、全部一気に……!」

「すごいです……ナトリさん!」


 煉気水の瓶を取り出し、少し呷る。俺達は再びリィロの探知に引っかかるモンスターを手分けして討伐し始めた。




 §




 押し寄せるモンスターの数は一向に減る様子を見せない。かつて大暴走に挑んだ数多の先人達が、ついにそれを退けること叶わなかったシンプルな理由。それは物量だ。


 斬っても斬っても奴らは次から次へと押し寄せる。こちらの体力などお構いなしに、その攻勢は止む気配がなかった。


「煉気水も、無くなってきたな……」


 俺達人間は、煉気や体力が尽きればそれまでだ。このままでは、いずれ遠からず戦えなくなる。その前に、マリアンヌやみんなを連れて撤退することを考えるべきだろうか。その判断を下さなければならないのは俺だ。


 現状を分析しようと、戦いながらジェネシスの面々にあとどれほどの力が残されているか試算する。


 クレイルとフウカは元々多い煉気量もあってか、まだ余裕があるように見受けられる。

 リィロも響波導の探知術を行使するだけなので、二人ほどではないがまだ大丈夫そうだ。

 マリアンヌは、泡石(エトピリカ)で消耗を抑えてはいるようだが呼吸が乱れ疲れが見え始めている。

 もっとも消耗しているのはリッカだった。均衡型術士である彼女だが、黒波導というのは結構多くの煉気を持っていくのだと前に聞いた。彼女は見るからに辛そうにしており、時折ふらふらと頼りなげに揺れる。


『このまま全員で戦っても、持って三刻半。不確定要素を除けば、の話だ』

『交代で休みを取って少しでも耐えるしかないな』


「リッカ、無理はするな。休憩してくれ」

「このくらい……。まだ、戦えます……!」

「だめだ。最低でも撤退するための力は残しておかないと。しばらく波導は使わないでくれ。俺の側から離れないように」

「……すみま、せん。お願いします」

「マリアも。結構疲れてるだろ」

「はい……」


 とはいえ、俺だって人ごとじゃない。リベルの精密な煉気配分によって最低限の消耗でこれてはいるが、これがいつまでもつか。大暴走の終わりは一向に見えない。



 少し離れた場所で轟音と人の悲鳴が上がった。見上げると、水没地区の一角に建つ大きな廃墟が砂埃を巻き上げながら倒壊していくのが見えた。それを見て、リィロが悲鳴に似た叫びを上げる。


「この反応、なんて速さ……! まずいわよ、こっちに来るみたい」


 一ブロック先の通りを曲がり数人のグループが走ってくる。

 揃いのローブを着ているところを見ると付近で戦っていた協会の術士達のようだった。そして、三人組の一人は他の術士の背に担がれていた。そのローブには血が滲み、酷い負傷であることは一目瞭然だ。


「マルコス先輩……?!」

「リィロに、マリアンヌか。……マルコスがやられたんだ。治癒術士の待機場所まで連れて行く」

「そんな、マルコスさんが……」


 おそらく腕の確かな術士なのだろう。担がれた年配の男性は、意識を失っているようだった。


「?!」


 水没地区に建物が倒壊する音が立て続けに鳴り響く。それはこちらに近づきつつあった。


「くそっ、追ってきやがった!」

「マルコスはアレにやられた……。俺があいつを引きつける。そのうちにお前達は——」

「ここで逃げたら防衛線を突破されてしまう。俺達が食い止めます」

「お前達……」

「フウカ!」


 付近のモンスターを掃除して飛び回っていたフウカに声をかける。彼女はすぐに俺達の元へ飛んできて着地した。


「酷い怪我……!」

「フウカ、この人を連れてここから離れた場所で治療してくれるか。モンスターが来てるんだ」

「わかった。でもナトリ、モンスターは大丈夫なの……?」

「君が戻るまで、なんとか食い止めるよ」

「すぐに戻って来るから!」


 フウカはマルコスの腕を掴むと、意識のない彼を連れて建物の向こうへと飛び姿を消した。


「治療は彼女がやってくれます。フウカならあの怪我だってきっと治せる」

「本当か……?! すまない。ならば、俺達もここであいつを迎え撃とう」


 彼らがやってきた角の建物が盛大に吹き飛んだ。砕けた瓦礫が散る。土煙とともに姿を現したのは、地を這う巨大なモンスターだった。


「アリゲートの上位種か……? でも何かが」

「あれはおそらくウルサ・マイヨルだ。決して気を抜くな」

「ウルサ・マイヨル?!」


 バベルの資料で読んだことだけはあった。前にこいつが出たのは数年前のことで、トレト河流域のある島を荒し回り、生態系をむちゃくちゃにしたと記録にはあった。アリゲートの最上位種、レベル4のモンスターだ。


「レベル4……!」


 俺にとってはトラウマ級となるスターレベル4の凶暴なモンスターが、その長い大顎を開いた。








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