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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
五章 セフィロトの翼
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第201話 希望

 


 王宮高高度、レヴィアタンの遥か頭上から奴の眉間を目指して急降下していく。


 激しく明滅し、その機能を失いつつある防衛障壁を横目に見ながら、フウカと俺は暴風を波導で受け流しながら降下するルクスフェルトの後に続く。


 レヴィアタンから吐き出されたブレスに含まれる大岩が、横合いから俺たち目掛けて飛んでくる。


「はあっ!!」


 フウカの翼が発光し、緋色の波導弾が撃ち出される。それは迫り来る大岩に命中し粉々に打ち砕く。


「助かるよ」

「フウカ、今度は後ろ!」

「ふっ!!」


 暗い空を緋色の光が切り裂き、激しく散る。


 俺たち三人はなんとか暴風を突っ切り、厄災の額表面に接近した。


「ルクス、あそこに降りて!」

「なるほど、ここまで来れば僕にもわかる。この感覚、ちょうど眉間の地下だな」


 厄災の外皮表面は、エルヘイム(神の槍)の直撃を受けたせいか焼け焦げたような荒野と化しており、肉の焼けるような匂いが充満していた。


 揺れ動く厄災の大地の表層に巨大なクレーターが見えてくる。


『あれ、もしかして翠樹の迷宮で俺たちがレヴィアタンに向けて撃った攻撃の……?』

『位置からして間違いない。けど……』

『俺たちの全力の攻撃は、あんな、少し表面を凹ませるくらいなものだったのか?』

『いや、以前の攻撃は確実に厄災の表層を貫いた。おそらくこれはレヴィアタンの自己修復によって塞がりつつある傷痕』

『この短期間で、ここまで治ったってのかよ……』

『この傷跡が厄災の中核コアにもっとも近い部位であることは確か。やるしか、ない』

『そうだな……!』



 木々の上を駆け抜け、俺たちはその大きな傷跡の中心に着地した。


 直径五十メイルくらいはありそうなでかい窪地だ。周辺の体表に生えている草木がここだけ一切ない。


「フウカ、どれくらい深いところに厄災の核が埋まってるかわかる?」

「……ちゃんとした距離はわからないけど、多分この窪みの多きさよりも、もっと深いところ」


 距離にして地下五十メイル以上は確実にあるってことか。


『リベル。お前の力でそこまで攻撃を届かせることはできるか』

『無理だよ。核に到達する前にマスターの煉気が尽きる。地道に掘削するにしても時間が掛かりすぎてしまうぞ』


 前回と同じくフウカの力を借り、この場所から核に向けて一か八かジャッジメント・スピアを放つしかないのか?


『あまり勧められない。確実性に乏しいし、その後厄災がどんな行動に出るか予測できないぞ』


 あの時は運が良かったのだろう。目覚めたばかりのレヴィアタンは、核まで届きかねない攻撃を受けて退散していった。


 だが今回も同じようになる保証はない。


 それに撃退するだけでは根本的な問題の解決にはならない。こいつは今ここで倒さなければいけないんだ。


「こいつの体内に埋まる核を直接攻撃しようってわけだな」


 ルクスフェルトは俺たちから少し離れると、しゃがみ込んで両手を地面に当てる。


「汝その形象を砂塵へと還せ、『砂流化(オル・セケル)』」


 彼の詠唱によって地面が沈み込む。


 周囲の地面が渦を巻くように流動し始める。そのまま地面の中へ沈み込んで行ったルクスだが、顔が見えなくなる前にその沈降は止まった。


「どうしたの、ルクス」


 砂化によってできた穴を覗き込むと、ルクスフェルトは手のひらを穴の底へ当てたまま何事か考えていた。


砂化セケルは地の属性を持つ物質に波導を通し砂に還元する術だが、これ以上は砂にできないようだ。おそらくこれが厄災の本当の皮膚。強い風の属性を感じるが、大部分は分解できそうにない未知の成分だ……」


 彼でも核までは簡単にたどり着くことはできないらしい。


「はあっ!」


 フウカの緋色の翼から熱線が放たれる。波導による攻撃がレヴィアタンの外皮に突き刺さり、その皮膚を削る。



 彼女はしばらく攻撃を続けた後、波導の放出を止めた。


「はぁ、はぁ、だめ……。硬くて全然削れない……っ!」


 フウカが波導を浴びせた地点の地面は多少えぐれてはいるが、この調子では到底中核まで穴を空けることなどできそうにない。


「あ、あれっ!!」


 フウカが慌てた声を上げる。急いでそちらを振り向くと、巨大な影が空を横切っていくところだった。

 あれは————。



 一瞬の出来事だった。

 雲を割って現れた長大なレヴィアタンの尾びれは、凄まじい質量と威力を伴いながら加速し王宮へと叩きつけられた。


 ガラスの砕け散るような音が、空気の震えを伴って鼓膜を破壊するほどの大音量で響き渡り、瞬間全ての防衛障壁が消失する。


 王宮オフィーリアを覆う球体状の障壁が一瞬だけ光り輝き、直後細かな燐光となってあっけなく消え去った。


 レヴィアタンの尾は防衛障壁を粉砕しても止まることなく、それは王宮の一角に直撃した。


 建物の崩れる音が遠くから伝播し、次いで小規模な爆発音が続く。王宮上空に浮かぶ雲が俄かに赤く明るく照らし出された。


「……!」



 なんて、あっけないんだろう。


 少し、触れただけで。掠っただけで。


 王宮が炎上し、破壊が撒き散らされた。今ので何人が犠牲になった。何人が空の藻屑と消えた。



 俺たちは呆然とその光景をレヴィアタンの額に突っ立って見ている他なかった。

 喉がからからに乾いて、言葉が出てこない。


 だが、ルクスフェルトの行動は早かった。


「防衛障壁が破られた。最早一刻の猶予もない」


 彼は唖然とする俺たち二人を見下ろし、言った。


「神官長補佐である僕が言うのは情けないことだが、この窮地をなんとかできる可能性は最早君達しか残されていない」

「ルクスは……?」

「僕は少しでも王宮住民の避難の時間を稼ぐため、君達に残された時間を稼ぐため、厄災の注意を引きつける」

「そんな……!」


 ルクスフェルトは俺とフウカの肩に手を置いた。彼の黄金の瞳は、真剣に、切実に、訴えるように俺たちを射抜いている。


「僕は自分にできる限りの役割を果たす。君達が、最後の希望だ……!」




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