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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
五章 セフィロトの翼
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第197話 Dance in the sky

 



 フウカの翼の周囲に無数の光球が浮かび上がり、一斉に放たれる。

 俺たちの前に飛び込むようにレイトローズが飛び出し、波導を行使する。


「『乱奏刃カノン』ッ!」


 剣を高速で捌きその残像を飛ばす。放たれた破壊光を撃ち落とし、狙いを逸らさせた。


 俺もリベリオンを出し飛来する緋色の光を打ち払う。


「フウカ様っ! もう我らが戦う必要などありませんっ!!」

「いい加減正気に戻ってくれやフウカちゃん! このまま王宮滅ぼす気かいな!」


「捕えて、『泡蛇タンネカムイ』!」


 隣に掲げられたマリアの杖から黄色い水流が吹き出し、フウカに向けて放たれる。


 フウカはそれを避けようと身を翻したが、撒き散らすように放出された水が降りかかる。


 次第にフウカの動きが鈍くなっていく。マリアンヌのアイン・ソピアルの力は属性の性質変化だ。

 粘性の水でフウカの動きを封じ込めるつもりらしい。


 だが、緋色の翼の輝きが増すと彼女の体に付着した泡水は蒸発するように散っていき、フウカが叫びにも似た声を上げる。


「ああああッ!!」

「そんな、泡石エトピリカでも止まらないなんてっ!」


 今のフウカを大人しくさせるには、普通の手段じゃ不可能なのか。


『いくぞリベル』

『いつでも、マスター』


 リベリオンを握りしめる。


「叛逆の鉄槌――、『リベリオン・オーバーリミット』」


 リベリオンが解けるようにして右腕を覆うように貼り付いていく。


 体の表面に感じるフィルの感覚、重みからの解放。

 フウカに向かって駆け出す。



 彼女の手に光が灯り、波導が放たれる。

 地面を薙ぐように放たれるそれを左右にステップで回避しながらフウカに接近する。


 飛び出してきた俺を迎え撃つように、彼女も俺に向けて飛びかかってきた。


「おおおおっ!!」


 ガツン、とフウカに伸ばした手が素早く展開された波導障壁によって遮られる。


 彼女の後ろに回り込むように移動してするが、フウカはその場に飛び上がり、周囲に波導球をバラ撒く。


「フウカ! 頼むから元に戻ってくれよ……! 俺達の声を聞いてくれ!」

「うぅああっ!」

「!」


 フウカが悲痛な叫び声をあげる。今彼女は苦しんでいる。


 さっき、彼女に屋根の上から弾き飛ばされた瞬間。俺は彼女の表情の中に一瞬だけ何か懇願するような切なさを見た気がした。


 ……気のせいかもしれない。だが、もしフウカが助けを求めているとすれば。


 自分じゃどうしようもない力の暴走を、止めて欲しがっているんだ。



「もう、やめてくださいフウカさん、みんなを傷つけるのは! ——降り注げ、『泡石エトピリカ』っ!」


 黄色い泡がフウカの周囲に押し寄せる。

 しかし彼女は両手に作り出した波導の剣を一回転して振り回し、泡を消し去る。


「地より出でし炎、押し潰せ『熱気層オル・ロクシーラ』!」

「!」


 浮かび上がろうとするフウカの行動を阻害するかのように、見えない空気の塊が彼女の行く手を阻む。


「行け、ナトリ!!」


 地面へと降りてきたフウカの元へ駆け込む。

 彼女が両手で展開した強固な二重障壁オル・ウィオルを前に、拳を引き絞る。


 拳の周囲でフィルを加速させ、叩き込む。さっきと同じ要領だ。


 こいつで、この邪魔な障壁を。俺達とフウカを隔てる壁をぶっ壊す。



「『イモータル・テンペスト』ッ!」


 周囲のフィルの塊を、青き雷を纏った拳でフウカの障壁に叩き込む。


 耳をつんざくような甲高い音を響かせて波導障壁が粉々に砕け散った。


「ッッ!!!」

「フウカ!」


 彼女の瞳が光を増すと共に、背中の翼も発光を始める。


 障壁を打ち破った勢いのまま、フウカが更なる攻撃のモーションに移る前に彼女をとらえる。


 手が届く。そのまま背中へ両手を回し、その細い体をがっしりと抱きしめた。


「あっ、が、あううううぅ!」


 俺にがっちりとホールドされたままフウカは暴れ始め、振り払おうと無茶苦茶に飛び始める。


 建物の壁を掠めながら、ぐんぐん高度を上げていく。



「もういい。いいんだ、もう止めてくれフウカっ!」

「あぐううぅ!」

「君がこんな風になったのは俺のせいだ。ごめん……。今度はもう、放さない。腕が飛ぼうが、足が千切れようが……。一人にしないって約束、今度はちゃんと守るから!」


 ひゅうひゅうと風が鳴り、上下の感覚もない。感じるのは細いフウカの体とその体温だけだ。


「フウカに会えたら、これだけは言っておかなきゃって思ってた。俺は長いこと自分の気持ちにすら正直になれなくて……。でもようやくわかったんだ」

「ああっ! ううう!」

「好きだ、フウカ」


 こんな死にかけの状況で言うことじゃない。それでも、俺にできることはもう素直に彼女に自分の心を伝えることだけだった。


「フウカのことが大好きだ。それを言うために会いにきたんだ。もうフウカのいない日常なんて、俺は嫌なんだよ……!」

「あくっ、あううう……!」

「俺は二人のおかげでスカイフォールに戻ってこれた。生き返ったんだよ。だからどうか俺に、君の側にいさせてくれ……っ」

「あ、ああっ……」


 いつしか風の音は止んでいた。振り回される感覚もない。


 閉じていた目をそっと開き、しがみ付いているフウカに語りかける。



「フウカ……?」

「——ナト、リ」

「気が、ついたのか」

「……うん」

「よかった……」

「ごめん、ね……。私、大変なこと、しちゃった」

「いいんだよ、こうして元に戻ってくれれば、それで……」


 フウカの瞳の色は既に普段通り。薄紅色のいつもの瞳がそこにあった。


「……聞こえた。ナトリの声。必死で私を止めようとしてくれた声」


 届いていたんだ。


「そうか……」

「ありがとう、ね。我を失って、どうすることもできなくなっちゃった私を……助けてくれて。ナトリは、いつも私を助けてくれるね」

「お互い様だよ」


 至近距離でじっとフウカと見つめ合う。きれいな瞳の端に、涙の粒が溜まっているのを見つけた。


「私も……好き」

「大好き。ナトリのこと。私が困ってるとキミはいつも私の手をとって、暗くて冷たい場所から私を連れ出してくれるもん……!」

「あ……」


 フウカの目が閉じられ、彼女の顔が迫る。フウカの柔らかい唇が、俺の唇にそっと重ねられた。








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