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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
四章 黄昏の国
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第149話 最高の友達

 


「ナトリ! リッカ!」


 向こうからフウカの切迫した声が聞こえてくる。 

 リッカを抱え起こし、彼女を支えながらフウカ達の元へ駆けつける。


 先程と同じようにフウカはダルクの治療を継続していた。しかしダルクはまだ苦しそうにしている。


 彼女の驚異的な治癒能力を以ってしても、完全回復には至らないのか……。


「フウカちゃん、ダルクの容体はっ!」

「傷は治ったのに、体からどんどん命が抜けていっちゃうの……!」

「そんな!」


 ダルクが苦しげに半目を開き、戻ってきた俺たちを見る。


「リッカ、ナトリ……。終わったんだね」

「そうだよダルク! ダルクのおかげで厄災を抑えこめたんだよ!」

「そう……か。絶望を乗り越えて、よく頑張ったね、リッカ。君ならきっと厄災を抑えられるって……信じてた」

「ダルク!」

「僕は……人間じゃない。遥か昔、アスモデウスを封印する時に肉体を捨て、波導生命体となっている……。これは、僕に残った力が尽きかけているだけのことだ」


 リッカがダルクの前に膝をつく。彼女の瞳に涙が溢れた。


「私、私……ダルクに守ってもらってばっかりで、まだ全然何も返せてないのに。なんで……なんでいきなりそんなこと言うの……。私を置いてかないでよ……」


 ダルクが彼女の肩に手を置く。


「僕はもうリッカから、お礼を言い切れないくらい大事なものをもらってるんだ。それに……、妹を一方的に助けて去れるなんて、お兄ちゃん冥利に尽きるってもんさ」

「……ううっ」

「妹なんだったら、勝手に置いてくな。これから先も守ってやらないで何が兄だよ……」

「その役目はナトリ……。君に譲る」


 せっかく厄災をなんとかできたっていうのに。ダルクの存在自体が、もう限界にきているというのか。


「せっかくリッカを助けられたのに、お前が消えてどうするんだよ……!!」

「約束、守ってくれてありがとうナトリ……。君はやっぱりすごい奴だ。君にだったらこれから先も安心してリッカを任せられる」

「リッカの側にはお前が、お前がいなきゃ……」

「もう、僕なんかいなくても大丈夫さ。リッカ……君は厄災と共に在ることを選んだんだね。因果なものだな……。もしかしたら僕は、君に盟約の印を渡すために今日まで存在し続けたのかもしれない」


 ダルクは悟ったように続ける。


「これから先、その印が僕に変わってリッカを厄災から守ってくれるはずだ。これでいい、いや……、もしかしたらこうなる運命だったのか……。そうだ、ナトリ」

「なんだ……」


「君の武器、リベリオンのことだ。さっきも言ったけど……、あれは特別なものだ。本来厄災に抗うには神の力が必要だ。僕の時空騎士剣や盟約の印のように……。

 だから君に頼みたい。……どうかリッカの力になって欲しい。彼女の中の厄災が牙を剥いた時、なんとかできるのは君しかいない。僕はその可能性を君に起きた記憶幻視に垣間見た。

 厄災に抗うことのできる力を持った人間……神に選ばれし勇者、ナトリ」


「神の力とか勇者とか、そんなのはよくわからない。けど、この力がリッカの助けになるなら俺はいくらでも手を貸す。……当たり前のことを聞くな」

「ありがとう。……それを聞いて安心した。僕は、君と会えてよかった。リッカのために奮闘してくれたこと、心から感謝するよ……」


 ダルクはフウカの治療を首を振って制止し、よろよろと起き上がる。

 そして俺に向かって背を丸め、恭しく頭を下げた。騎士の敬礼だ。その洗練された所作を真剣に見つめる。


「ダルクよ。盟約の印ちゅうのは一体何なんや」

「そうだ……。説明しておかなきゃ。……盟約の印とは、厄災に対抗するため『エル・シャ(創造主)ーデ』が僕らに授けてくれた彼女の心を分割し刻印として刻んだものだ」

「……!!」

エルヒム(神様)の……心?」

「エルヒムとは格が違う。()()()は唯一無二の存在だから」

「……?」

「とにかく、盟約の印はエル・シャーデの特別な性質をそのまま宿している……。厄災は強大な存在だ、けど神様だって負けちゃいない……。神性、ともいうべき性質をその身に帯びることで厄災に対抗する力を得られる……。僕もその恩恵を受けてたからこそ、アスモデウスと渡り合い奴を封印することができた」



 盟約の印。創世神話スカイリアの伝承は事実だった。

 遥か古代、いや神代の時代に人と厄災との間で想像を絶する戦いが起こった。ダルクはその生き証人だ。


 リッカの受け継いだ盟約の印は、「神の心」であり特別なものだという。



 ぴし、と硬質な音が響いた。ダルクが時空騎士剣キャスパリーグを持ち上げる。その白く細い刀身にひび割れが入っている。


「そろそろ僕の命も限界が近いみたいだな」


 彼の姿が、存在するための力が尽きるように徐々に薄まっていく。もやは彼の消滅を止めることはできない。全員がそれを理解した。してしまった。


「ダルクっ……!」

「もっとお前と、色々なことを話したかった……!」

「そうだね……。僕もさナトリ」

「ダルク、お前さんは英雄としてその役目を全うした。その心意気感服するぜ。俺はお前という偉大な男がおったことを絶対に忘れん」

「……ダルク。私ももっとあなたのこと、知りたかったよ。ありがとう、みんなを守ってくれて。それどころか私たちの世界をずっと守ってくれてたんだね……」

「クレイル、フウカ。一緒に戦ってくれてありがとう。君たちとも、もっと一緒に過ごしたかったなぁ……」


 ぼろぼろと、ダルクの騎士剣が崩れ去っていく。


「……リッカ、君と過ごしたのは僕の数奇な人生の中でほんの一瞬のことだったけど、それでも一番充実した時間だった。僕は今……嬉しいんだ。

 長い時の中で何度も問いかけてきた。……自分の存在意義を。その答えがやっと見つかったんだよ。君のおかげで」


 リッカがダルクの小さな体を抱きしめる。今にも消えてしまいそうな儚い体に、きつく腕を回す。


「……ありがとうダルク。私をいつも守ってくれて。迷宮の中で過ごした日々、絶対忘れない」

「いつでも君の幸せを願ってる。君の歩もうとする道は過酷だ……。でも君にはもうそれを助けてくれる大切な仲間がいる。一緒に、未来に向かって歩んでくれる人たちが」

「うん……。だから安心して」

「ナトリ……、リッカを頼んだよ」

「任せろ。男の約束、だろ」


 ダルクは満足げに笑った後、表情を引き締める。


「これから世界はきっと大変な時代を迎えることになる……」


 各地に散らばる厄災の封印はもう限界を迎えている。ダルクのように。


「解放される厄災は世界を壊そうとする。君たちは確実にそれに巻き込まれていくだろう……。あの方を、『エル・シャーデ』を探し出すんだ。

 どこにいるのかはわからない。でも見つけ出すことができれば、きっと力になってくれるはず。フウカ、君がいればあるいは……。君がその姿をしていることにもきっと意味がある」

「私が……?」


 ダルクはフウカについて何か思い当たることがあるのだろうか……?


「リッカ、そしてみんな……。楽しかった。僕の大切な友達。君たちならきっとできる。エル・シャーデを見つけ出し、『スカイリア』へ至ることが……」

「私も楽しかったよ……。ずっと……ずっとありがとう……、お兄ちゃん」



 リッカの腕の中でダルクは満足そうに笑うと、白い光の粒子となって消えた。


 その光の粒は空へ、ゆっくり天空へと登っていった。


「……ありがとう、ダルク」


 俺たちは決して忘れない。英雄ダルク・トリスタンの気高き勇姿とその記憶を。




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