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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
四章 黄昏の国
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第131話 謎

 


 今リベリオンはなんと言った。


 三回死んだ……? 俺が。


 ああもう、頭が爆発しそうだ。



「ナトリさん、具合悪いんですか? 顔色がよくないです」


 リッカが俺の顔を覗き込むようにして心配そうな表情を向けてくる。


「昨日あれだけ色々あったもの。怪我は治せたけどナトリはもっと休んだ方がいいと思うよ」

「ありがとう。俺は大丈夫だから……」



 実のところ心中穏やかではなかった。


 リベリオンの無機質な宣告が頭の内壁に反響して、ぐわんぐわんと脳内を揺さぶっているようにさえ感じる。


 とりあえず、詳しく聞き出すのは後だ。現実逃避を兼ねてひとまず置いておくことにする。


「フウカ、俺の話を信じてくれてありがとう。でも今日は、俺自身もう少し考えを整理する必要がありそうだから……今日は一旦帰ることにするよ。また、話せるかな」

「うん……。何かわかったことがあったら私にも教えてくれる?」

「そのときは必ず」



 俺たち三人はフウカと別れ会計を済ませて店を出ると、住宅街の方へ向かって歩く。


「俄に信じられないような話だったけどさ、ナトリが普通の人じゃないっていうのは僕もその通りだと思うな」

「え?」

「私もそう思います」

「二人とも何言ってるんだ。俺は普通の勤め人で、しかもドドで……」

「でもナトリは僕たちを守ってあいつと戦ってくれた」


 ダルクが大きな瞳で俺を見上げてくる。


「普通の人にはあんなことできないよ。迷宮に入って厄災と戦ったんだろ? すごいよ。変わった武器も使えるしさ」

「やっぱり俺は記憶をなくしてるのかな」

「……ナトリさん、私に記憶を戻すためのお手伝いをさせてもらえませんか?」

「リッカ?」


 胸の前でこぶしを握り、リッカが威勢良く言う。


「私は術士訓練生なのに昨日なんの役にも立てませんでした……。できたことといったらナトリさんの忠告を聞かずみんなの足を引っ張ることくらいで。悔しいんです、何もできなかった自分が」


 リッカは昨晩のことを気にしていたようだ。


 彼女の表情はどこか暗く、落ち込んでいるように見えていた。


「馬鹿みたいですよね。何にもできないのに飛び出していくなんて」


 リッカの行動は、あの混乱を極めた状況下で彼女が下した決断だ。


 恐怖を抑え、それでも俺たちの身を、街の住民の身を案じてアガニィの前に立った。


 俺にはとてもそれを責めることなんてできない。


「俺たちのことを心配して戻ってきてくれたんだろう? なかなかできることじゃない。あんまり自分を責めない方がいいよ」

「リッカ、でもあんな無茶はもうなしだよ」

「うん……ごめんねダルク。私は半人前。ですけど、せめてナトリさんの力になりたいんです。命を救ってもらいましたから……」

「僕も手伝うよ。例の話まだ完全に信じたわけじゃないけど……。ナトリは嘘を言うようなやつじゃないしね。それに借りは返さないと」

「ありがとう二人とも。……助かる」


 リッカは使命感に燃え、ダルクは得意げに鼻の下をこする。


 昨日の事件はあまりにも衝撃的すぎた。

 今は心を平静に保つためにも、何か別のことを考えていた方がいいだろう。



「記憶の問題でしたら、やはり術士に頼るのが一番だと思います」

「術士に?」

「はい」


 リッカによれば、記憶に関する問題はつまり精神の問題。


 精神といえば白波導。街にいる白波導術士を知っているから、その人に話を聞いてもらったらどうか、という提案だった。


「その人は腕も確かな術士ですから、きっと助けてもらえるはずです」

「なるほどな。よし、じゃあ今度の休みに診てもらうかな。案内頼んでもいい?」

「まかせてください!」

「よかったねリッカ。今度の休みもナトリに会えるじゃんか」


 ダルクがしたり顔でリッカに言う。


「えっ?! べ、別に、私はそういうのじゃなくってっ!」

「さすがに図々しかったよな。ごめん」

「ち、ち、違います、誤解しないでくださいっ! ナトリさんとは会い、会いたい、ですっ!」


 リッカは顔を真っ赤にしてしどろもどろになって弁解する。


 生真面目でとても可愛らしく思えた。


「ははは、それは嬉しいなぁ」

「なんにせよリッカが前向きでいてくれて僕も嬉しいんだ」

「もぅ……、ひどいよダルク」


 次の休みに術士のところへ案内してもらう約束をして、帰り道の途中で二人とは別れた。


 手を振って黄昏の街並みの向こうに溶けて行く二人を見送った。




 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎





『さて、話の続きだ』


 家に戻り、簡単に夕食を済ませて俺は窓際の書き物机に椅子を引いて腰掛けた。


 窓の外は暗い。すでに日は沈んだ。


『俺が死ぬところを三回見たと言ったよな』

『肯定』

『どうしてそうなるんだ。人間は一度死ねば終わりなんだぞ』

『————』


 こいつにもよくわかっていないのか。

 でも待て、リベリオンは基本的に言葉足らずな奴だ。ちゃんと聞かなきゃ答えない。


『お前が見たっていう、俺の死ぬ時の状況を詳しく教えてくれよ』



 リベリオンは記録しているという俺の死について詳細に語り始める。


 夜市に現れ人々を襲ったアガニィ。


 その水の波導に囚われたリッカを助けようと、俺は奴に突撃した。

 丸腰の俺は返り討ちに合い、奴の波導によって命を落とした。


 リベリオンはその時俺の死をしっかりと確認したらしい。これが一度目の死。


 色々と突っ込みたいのを抑え話を続けさせる。



 二度目の死。

 リッカを逃した後、リベリオンを呼び出しアガニィに立ち向かうも敗北。

 意識を失った俺は連れ去られ、あいつに暴行されながら死亡したという。



 そして三度目は崩落した時計塔の残骸にダルクと共に押しつぶされての死。



 確かに全部俺の体験と一致する。


 そこは認められる。けど……、無茶苦茶だ。肝心な部分が何一つ分からない。


『意味が分からないよ……。お前の言う()()()()()っていうやつの後、俺は治安部隊の術士が助けに来てくれた状況に戻った。どうして死んだと分かる』

『マスター死亡時の記録が存在するため』

『でも俺は今生きてるし、仮に時間が巻き戻ったならどうしてお前はそれを覚えてるんだ。なんか変じゃない?』

『————』


 くそ、一体どういうことなんだ。これじゃ堂々巡りで結局なにもわからないじゃないか。


 要領を得ない質問にリベリオンは沈黙するばかりだ。


 俺自身混乱の極みだった。


 こいつは何か俺の知らないことを知っているはずなのに、その言葉をうまく引き出すことができない。



 何かないのか。リベリオンから正確な情報を聞き出し、現状を把握するための方法は————。






※誤字報告ありがたいです。

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