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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
四章 黄昏の国
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第109話 因縁

 


「この前はナトリのお見舞いにきてくれてありがとね」

「別に。それよかあんたがここにいるってぇことは……色々片付いたのか?」


 クロウニーから大体の事情は聞いてるんだろう。


「ああ、なんとか」

「そうか。ナトリ、俺っちの分はもう受け取ったぜ。おめぇさんも意地張ってねえで素直に貰っちまえよ」

「……良いのか? エルマーはレベル4のモンスターを倒すために街へ来たって言ってたじゃないか。証になる固有素材はお前に渡したほうが」


 エルマーは相変わらずの仏頂面で見上げてくる。


「いいんだっての。おめぇさんにやる。黙って貰っとけ。自分の実力で倒さなきゃ意味はねえ」


 何かこいつなりの拘りがあるようだ。こう言う時のエルマーは決して譲らない。


「話はまとまったみたいですね。それじゃあランドウォーカー様、素材は帰りにお渡しします。工房への案内状も認めておきますから」

「わかりました。ありがとうございます……って、今日は狩りに出るつもりは」

「行かねーのか?」

「行かないの?」

「…………わかったよ」


 今朝街に帰ってきたばかりだし、今日は仕事するつもりはなかった。けど周りは当然行くつもりでいたようで、流れで普通に狩りに出ることになった。

 俺とフウカ、そしてエルマーは、街へ出てバベルの貸し出している舟が係留された船着場に向かって歩いた。


「あれからずっと単独ソロで戦ってるのか」

「おうよ」

「お前ほどの力があれば他のユニットから誘われたりしただろ? クロウも行っちゃったし、俺に遠慮する必要はないよ」


 モンスターと直接やり合う前衛職は何人いても困らない。


「別におめぇさんらに義理立てしてるつもりなんかねぇよ。俺っちは俺っちのしたいようにやるだけだかんな」

「一人でも平気なんて、エルマーくん強いんだね」


 実際エルマーは単独でもかなりやれるだろう。頑丈で力も強い。


「まぁな。スターレベル3のモンスターだってもう一人で倒せるぜ。あー……、ところでいくつだ?」

「え?」

「何歳」


 エルマーの問いにフウカは困ったように笑う。


「実は自分でもわからないの」

「あァ、そういや記憶がねぇんだっけ……」

「見た目通り十五、六くらいじゃないかな。多分エルマーとは同じくらいだろう」

「きっとそう。仲良くしてね、エルマーくん」

「……お、おうよ。フーカでいいの、か?」

「うん!」


 なんか微妙な空気感だな。さてはエルマー、あんまり女子に免疫がないタイプだな。俺も人のこと言えないけど。


「エルマー、別に緊張しなくていいぞ。フウカはいい意味で女の子らしくないからな」

「べ、別に緊張なんてしてねーって!」


 図星なのか少し慌てるエルマーを見て笑みがこぼれる。


「女の子らしくないってどういう意味ー?」


 フウカが頬を膨らませてずいっと顔を近づけてくる。妙な迫力に気圧されて一歩下がる。


「あ……、別にけなしたわけじゃなくてその。親しみやすいって意味だよ」

「ふーん?」


 その様子が可笑しかったのか今度はエルマーがニヤニヤして俺たちを見ていた。


「それよかフーカはちゃんと戦えんのか?」

「それは大丈夫。私結構強いんだから。モンスターの一匹や二匹、簡単に倒しちゃうよ」

「フウカは波導が使える。実際俺より強い。それに治癒の力もすごいから今日は安心して突っ込んでくれ」

「ははっ、そいつぁ頼りになるな!」



 街を離れた二週間ほどの間、エルマーは一人で武者修行していたらしい。こいつはきっと、今後もっと強くなるはずだ。俺もそれについていけるように、強くなりたいと今は思う。


「今日は俺たちと一緒に行ってくれるんだな」

「おう。今日は特別なんだぜ」

「?」


 あまり多くを語ろうとしないエルマーは、何を考えているのか分かりにくいこともある。でもそんなにひねくれた奴でもないし、基本的にはシンプルな性質の男だ。


 とにかく俺たち三人は船着場で舟に乗る。以前三人で出かけたときのようにエルマーが泳いで舟を押し、水路を進んで街を出た。

 そのままトレト運河を少し下って、街にほど近い討伐推奨地域である島に舟をつけて降りた。


「三人で戦うのは初めてだし、ある程度自由にやるか。俺とエルマーは基本的には前と同じ動きでいいだろう。フウカはサポートを頼む」

「わかったよ。頑張るね」


 フウカはぐっと胸の前で両の拳を握った。


「じゃあ行こうぜ」



 運河の岸辺から島の中心に向かって、樹木の少ない多少ひらけた草地が伸びている。視界も確保しやすく、戦うにはもってこいの場所といえる。俺たちはその草地を進んだ。


 草地を進むうち、両脇に広がる森の奥から視線を感じ始めた。早速おでましのようだが、こっちの人数を見て様子見しているのかすぐに飛び出してはこない。


 エルマーが立ち止まり、ぴくぴくと鼻を動かす。


「この匂い、フォレストガルムか」

「フウカ、何か感じるか」

「うん。感じる。モンスターの気配みたいなもの。4、5、6……匹かな」

「すげえな。数までわかるのかよ」


 フウカは感知型の術士並に感覚が鋭い。こういう時は頼りになるな。


 フォレストガルムはレベル1の獣人型モンスターで戦闘力はあまり高くない。しかし群れていれば危険だ。


「気をつけろよ二人とも。もしかしたらドンガルムなんかの上位種が混ざってるかもしれない」

「わかってんぜ。お、奴らまとまってくるぞ。一点突破のつもりか?」


 森の奥からがさがさという音が響き、モンスターの一団が飛び出してくる。


 やっぱりガルムの群れだ。もれなく腕に持った木の枝などの獲物を振り回しながら突っ込んでくる。

 奴らには大した知能もないので、数が揃ったところでそのまま襲いかかってきたような形か。


「リベリオン」


 リベリオンを呼び出して構える。近づかれる前に頭数を減らしてやる。トリガーを引こうとした時、俺とエルマーの前にフウカが飛び上がった。


「えいっ!」


 宙を舞うフウカの手先に翠色の波導の光が灯る。彼女がガルム達に向けて腕をかざすと、無数の強烈な風の刃が放たれてモンスター達を切り刻んだ。


 風の波導に全身を晒されたガルム達は、6体ともその場に倒れ込み絶命した。


「すっげぇ」


 構えたリベリオンをそのまま消し去る。モンスターの群れはフウカの一撃で全滅してしまった。


 さすが、ノーフェイスひしめく迷宮をたった一人で駆け上っただけのことはある。


「フーカ強ぇんだな。見直したぜ」

「えへへ。すごいでしょー」

「っていうかフウカ、いつのまにあんな力を?」

「いつの間にか出せるようになってたんだよね。ほら」


 フウカが目の前に差し出した手のひらの上で、僅かに力の流れのようなものが渦巻いているのが見える。風の波導なのか。


 彼女が今まで使っていた波導には特定の性質エモがなかったような気がする。こんなことができるようになったのも記憶が戻った影響か? 元々フウカの持っていた才能なのかもしれない。


 とにかく頼もしい限りだ。訓練すればオキ族の里のストルキオ、エリト=ラの使ったような風の術が使えるようになるかもしれない。



 俺たちはその後もモンスターを蹴散らし、素材を回収しながら島の中へ進んで行った。フウカの風波導は広範囲をカバーできるので雑魚散らしにはもってこいだった。


 レベル2のモンスターが出てきてもエルマーの一撃で沈んでしまうし、俺は完全にただの荷物持ちになっていた。もうこの二人だけでいいのでは……。



 午後も半ば、俺たちは島の中央辺りまでやってきていた。


「そろそろ引き返そうか。今日の成果は十分だし、この島はモンスターの数は多いけど旨味のある敵は少ないみたいだな」

「みてぇだなぁ。あんまし骨のある奴はいなさそうだぜ」

「暗くなる前に街に戻った方がいいよね」


 数を狩っただけあって三人分の稼ぎはあるし、フウカの力も試すことができた。まあまあの収穫だろう。


 元来た方角へ森の中を引き返し始めてすぐだった。俺たちの前に一人の男が現れた。格好からすると同業者だろうか。前を歩いていたエルマーが立ち止まり、男を睨む。


 体の輪郭に沿った動きやすそうな防具を身につけた細身で上背のあるネコの若い男だ。


「そんな怖い顔するなよ。ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「こんな場所で何の用だ? おめぇさん、南区でバベルを出た時から俺らを尾けてきてたろ。知ってるぜ」


 そうだったのか。確かに、俺たちと同じ方角に進む後続の舟は見えていた。同業者だと思って気に留めてはいなかったがずっと後をついてきてたとは。しかし、何故わざわざこんなところまで。


「こちらにも事情があってね。人を探している。クロウニー・ベリサールという人物なんだが。君たち————知らないか?」


 優男風だが、抜け目のなさそうな鋭い眼光がこちらを射抜く。俺たちに揺さぶりをかけているのか。油断ならない野郎だ。


 どうやらこいつがクロウニ-達のことを街で嗅ぎ回っていた男らしい。この分だと俺たちの関係も既に調べが付いてるだろう。

 わざわざ狩りで疲労した俺たちの前に出てくる時点で強硬手段も辞さないといった姿勢か。


「知ってるけど、最近突然姿を消したんだよ」

「そうなのか……、それは残念だ。では、行き先に心当たりは? 君達はユニット『アルテミス』の仲間なんだろう。何か聞いてるはずだ」

「知らねぇ。俺らにも黙ってバックレやがったんだ。あんな奴のことはもうどうでもいい」

「…………」

「もう行っていいか?」


 ネコの狩人は瞬きなく俺たちの目をじっと覗き込んでくる。嫌な視線だ。心の奥まで見透かされそうな。

 俺たちは森の中を再び歩き出し、男の脇を通り過ぎた。


「エアルのお嬢ちゃん。君はレストラン『シャーロット』の店員だろう。街で君を探す彼の姿を見た者がいるんだが、本当に何も知らないのか?」

「……!」


 男の肩越しの暗く、鋭い探るような視線がフウカの背中を射抜く。フウカのことも知ってやがるのか。


 よくない。彼女は嘘をつくのが下手だ。


「し、知らない……。私がプリヴェーラに帰ってきた時にはもう二人とも街を出てたもの」

「『街を出た』か……。君は彼らのことに詳しそうだ。色々と聞かせて欲しいことがあるんだが——」


 びくりとフウカが震える。ゆっくり振り返った男がふいに勢いよく地面を蹴り付け、彼女の背後に音もなく接近する。


「なっ!?」


 咄嗟に跳ねたエルマーがフウカの背中をかばい、体の前で両腕を合わせ腕に装着したガントレットで盾を作る。


 甲高い音が森に響く。ネコの狩人の抜いた両刃のナイフはエルマーの鎧に防がれ、奴は素早く飛び退った。

 ネコの特性を生かした素早い動き、エリアルアーツの使い手か。リベリオンを構える。


「ありがとうっ、エルマーくん!」

「気にすんな。それより気ぃつけろ。あいつ速えーぞ」

「……仕方がない。話すつもりがないなら力づくで聞き出すまで」


 男は低く構え俺たちに相対した。






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