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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
三章 翠樹の迷宮
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第100話 一万年の呪縛

 


 風を切って上昇を続けるフウカに問いかける。


「ところでフウカ、さっき戦っていたのは何なんだ?」

「確かガリラスって名乗ってた……。私があの大きな結晶の前に着いたら、どこからか出てきて急に攻撃してきたの」

「ガリラス?!」


 ガリラスといえば、厄災を倒した七英雄の一人。オキ族の祖先の名だ。


 どういうことだ。英雄ガリラスの名を騙る何者か、なのか?


 緋色の軌跡を描いて迷宮の上に広がる黒雲へと突っ込み、雷鳴の中を駆け抜けて俺たちは一気に巨大結晶を取り巻く遺跡廃墟の上空に飛び出した。


 こちらを見下ろす厄災には相変わらず動きがない。


 フウカの手にぶら下がって下を見下ろすと、遺跡の上で炎が迸るのが見えた。

 あれはクレイルの波導だ。謎の人物はクレイルとマリアンヌに標的を移したらしい。


「あそこだ!」

「いけないっ!」


 緋色の翼が羽ばたき、遺跡に向かってフウカが急加速する。


 結晶の直上に浮かぶ、黒い襤褸を纏った人物が手を伸ばした。その先には、遺跡の屋上通路に膝をつくマリアンヌと、その前に出て彼女を庇い、黒い人物に杖を向けるクレイルの姿が見える。


 謎の人物を包む邪悪な炎の気配が急激に増大していく。


「みんなを守って! 『重障壁オル・ウィオル』!」


 光のような速さでその間に割って入ったフウカが瞬時に波導の壁を作り出す。暗い炎が俺たちに向けて降り注ぐが、緋色を帯びたフウカの障壁は完全に炎を防ぎきる。


「ナトリさんっ! 無事だったんですか!」

「生きとったか、それにフウカちゃんも!」


 振り返り、二人に声を掛ける。


「心配かけたな、もう大丈夫だ! それよりあいつは……!」

「気をつけろよ二人とも。アイツは普通やない! 無詠唱で凶悪な威力の術をバンバン使いよるぞ!」


 襤褸を靡かせ宙に浮かぶその人物は、フードを目深に被りその表情は窺えない。


「その翼……。やはり貴様は……」


 くぐもった声が発される。そいつの全身からは、紫色のオーラが立ち上っていた。


「お前は何者だ! なんでこんな場所にいる!」


「——我が名は、ガリラス=アグラヴェイン。マグス=オキの戦士にして、神との盟約に従い『嫉妬の厄災レヴィアタン』を封じる者也」


 男はそう名乗った。本当に自分がガリラスだと言うのかこいつは。


 厄災を封じ込めた? 嫉妬の厄災レヴィアタン……それがあの怪物の名前なのか。

 だけど今俺たちを見下ろすこの規格外の化け物は、とても封じ込められているようには見えないんだが。


「ガリラスやとォ……? 何を言うとるんやコイツ」

「みなさん、あれは……人じゃありません! あれは純粋な波導生命体です。実体が存在してない!」


 自らをガリラスだと騙る波導生命体。まさか、本当に肉体を捨てた英雄ガリラスその人だとでも言うのか。



「我を縛り付ける『神』……。永劫の時の中、貴様を葬るこの機会だけを待ち続けた。今こそ消し去ってくれる」


 憎しみを煮詰めたような声で呻くと、亡霊ガリラスは目にも留まらぬ速さで浮かぶフウカの前に飛んで来た。


 フウカは即座に身を翻し突進を躱す。亡霊は進路を変えることなくクレイル達に向かって突っ込んでいく。


「させないっ!!」


 緋色の翼が広く展開し、作り出された緋色の光球が即座に亡霊に向けて放たれた。


 横あいから降り注ぐ赤い光の間を縫って亡霊はそれを避け切る。放たれたフウカの光は、遺跡に命中するとその一角を破壊した。遺跡の崩れる音が辺りに響く。


 リベリオンでガリラスの亡霊を狙い撃つが、動きが早く不規則な軌道を描いて飛ぶため、全く当たらない。


 奴は俺たちを自在に飛行して追いながら、両手に灯した暗い火球を次々に放ち攻撃してくる。


「許さぬ……、決して許さぬ。永劫の歳月我をここに縛り付けた貴様を。その無念、晴らす機会を得たり。まさに千載一遇の好機!」

「わけのわからないことを言うな! フウカは神なんかじゃない!」


 フウカは飛来する火球全てを躱し、緋色の光線を浴びせかける。亡霊とフウカは花畑の丘の上を飛び回りながら攻撃の応酬を続けた。



 クレイルとマリアンヌが俺たちを追いかけてくるのが見える。


彼らのすぐ近くをフウカに引かれて飛ぶ際、二人に目配せをした。


「フウカ、二人と協力してあいつを倒すぞ。クレイルたちが隙を作ってくれる。そしたら一気に突っ込んで、後は俺に任せてくれ」

「わかった! なるべく地面に近い場所を飛ぶよっ!」


 すぐ下を、色とりどりの花が過ぎて行く。追ってくる亡霊ガリラスにアンチレイを放ちながら、高速飛行するフウカと共に飛ぶ。



「タイミング合わせろよ、ちびすけ。――炎熱の枷、空なる層壁。焦がせ、『熱気泡ロクシール』!」


 俺たちが過ぎ去ったすぐの地点に、クレイルが熱気泡ロクシールを放つ。


「……?!」


 俺たちを猛追していた亡霊は、折り畳まれた見えない空気の層塊に突っ込んだ。圧縮された空気に阻まれ急激にその速度が落ちる。


「マヌケが。俺らを無視するからや」

「捕らえて、『泡蛇タンネカムイ』!」


 反対側からマリアンヌが、クレイルの術に合わせて亡霊に向け泡を噴射する。


 大量の泡が亡霊にまとわりつき凝固していく。

奴は思うように身動きがとれず、煩わしそうに身じろぎする。


「小賢しい」


 亡霊の体から炎が噴き出し、周囲を燃え上がらせた。纏わり付く泡石が燃え、消滅していく。


「そんな! だったら水の性質に変化を……!」


 属性相性的に優位であるにもかかわらず、マリアンヌの泡は抗うこと叶わず炎に焼かれていく。


「まだ終わりじゃありませんよ! ——彼の者を捕縛せよ、『ヴィオロス』!」

「テメェ自身の炎で焼け死ねや、『炎障壁(エル・ウィオル)』!」


 マリアンヌの詠唱に従い、地面から幾本もの鉄柱が突き出す。それは泡を焼き切ろうとする亡霊に絡み付くようにしてその行動を制限する。


 だが、亡霊の放つ炎の勢いはさらに増し、ヴィオロスの鉄の檻すらも溶解し始める。奴自身が炎で焼き切れてもおかしくないほどの熱だった。


「オオオオッ……」


 二人が亡霊を足止めする間、フウカは空中で切り返し、高速で亡霊の元へ飛ぶ。花々を巻き上げ、地面すれすれを緋色の軌跡が駆け抜ける。


 一瞬でも動きを止められればいい。それはもう奴にとって致命的な隙となる。



「『ソード・オブ・リベリオン』!!」


 亡霊へと突っ込み、すれ違いざま剣を振り抜いた。



「グ……ヌゥ」


 例えこいつが波導生命体だとしてもリベリオンの前には無力だ。この刃は全てのものを斬る。


 亡霊の被っていた襤褸布がめくれ、青い毛並みを持つストルキオが顔を見せる。その瞳から紫色の怪しい輝きが徐々に薄れていった。



「心が……解ける。感謝、する。ああ……これでようやく、私の役目も……終わ、る」

「……?!」


 リベリオンの光を受けたガリラスの亡霊は、全身から紫の燐光を発しながら光の粒子となり消滅していった。



 なんなんだ、最後の言葉は。あの曇りの取れた澄んだ瞳は。


 脅威を取り除いたはずなのに、胸の中にはどうにも嫌な感覚が残った。


 地面に降りた俺たちは二人と合流する。


「やったな」

「うん。……けど」


 俺たちは空を見上げる。そこに浮かぶ途方も無い大きさの厄災が迷宮全体を揺るがす咆哮を上げた。



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