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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
三章 翠樹の迷宮
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第99話 緋色の翼

 


「目を覚ませ! フウカーーーーっっ!!!!!」


 暗雲を抜けると、その下には青空が広がる。迷宮の頂点を覆っていた黒雲を抜けたのだ。


 すぐ側に下界へと伸びる翠色の迷宮の外壁がある。それ以外に見えるのは、果てなく広がるスカイフォールの青空と白い雲の群れだけ。目の眩むような高度だ。



 気を失っているらしいフウカに手を伸ばし続ける。次第に空を落ち続ける俺とフウカの距離は縮まっていった。


 今だけは自分の体質に感謝だ。フィルへの抵抗がほとんどなく、重たい自分の体と羽根のように空を漂う軽いフウカの体はその落下速度に差があった。


 ついに伸ばした手がフウカをつかまえた。空中で彼女の体をしっかりと抱きかかえる。


「うっ……」

「フウカ、無事かっ?!」


 フウカが身じろぎし、目を開く。薄紅色の大きな瞳が驚きに見開かれた。


「あ……」

「よかった」

「あ、あ……」


 彼女の瞳に涙が溢れた。細かい傷がつき、少し煤けてしまった白い頬が俺の首元に埋められ、細い腕が体に回される。


「ナトリ……っ!!」

「やっと、追いついた」

「ナトリ……、ごめん。私、どうしても迷宮に行かなきゃって。きっと、ここには私の記憶があって……。でも、もうナトリが怪我をするのは嫌だったの。だから……」



 フウカは俺がアグリィラケルタスに腕を切断されて寝込んでいる間、ずっと側にいてくれた。

 その間、ずっと一人悩んでいたんだ。それでも自分の記憶の在り処を求め、俺を危険に晒したくないと一人で街を出た。俺のためを思うが故の行動。


 全部俺のせいだ。俺は弱くて、フウカの相手もしてやれず、まして力になることすらできなくて。そんな自分に腹が立つ。


「ナトリが、来ちゃったよぉ……。また、ぼろぼろになって」

「いいんだよ俺のことなんて。俺、フウカに謝りたくてこんな場所まで来たんだぞ。……狩人にかまけて、話を聞いてあげられなくてごめん。君の悩みに気づいてあげられなくてごめん。心配かけて、本当にごめん」

「う、ううぅ……、あぁっ……。怖かった、よぉ。苦しかったよ……。でも、それでも私……」


 フウカの大粒の涙が風に吹き飛ばされていく。


「よく一人で頑張ったな、フウカ。でも、もう一人で行こうとするな。一緒にいるって約束忘れたのか?」

「ううん……だけど」


 目の覚めるような蒼穹の中を俺たちは逆さまに落ちていく。でもそんなことはどうだってよかった。


 ようやくフウカを見つけた。涙で滲んだ薄紅色の大きな瞳を覗き込む。


「ねぇナトリは……、どうして私にそんなに優しくしてくれるの。デリィが言ってたよ。恋人でもないのに変だ、って……」


 ディレーヌめ、色々とフウカに吹き込んだな。


「決まってる。フウカのことが好きだからだ」


 恋人だからとか、家族だからとか、もっともらしい理由なんてない。俺はこの子のことが好きだ。だから助けたいんだ。フウカの悲しい顔なんて見たくない。

 こんなことを直接言うのは恥ずかしいけど俺の素直な気持ちだ。


「俺はフウカが好きだ。だから一緒にいる。それだけだよ」

「そっか……、そうなんだ。私も同じ。私も好きだもん、ナトリのこと……!」


 フウカは笑い、回した腕に力を入れて抱きついて来る。俺も彼女の細い体を抱く。

 フウカも俺と同じように想っていてくれることが嬉しい。


 フウカの暖かい体から、直接彼女の気持ちが伝わって来るみたいだ。


「だから、一緒にプリヴェーラに帰ろう。記憶を取り戻して、みんなを助けて!」

「うん。ナトリが一緒にいてくれればできるよね、きっと……!」


 片手でフウカの体を支えながら、もう片方の手で彼女の手をとり、強く握る。フウカもその手を握り返す。


 フウカの瞳が緋色の光を放った。いつもより赤に近い、とても強い輝きだった。


 落下する俺たちの周囲に光が躍る。その光は、フウカの背からまるで翼のように広がって形を成す。

 光はきらきらと割れ砕け、俺たちの落ちる軌跡に散らばっていく。


 粒子を散らしながら剥がれ落ちた光の下から、輝く薄い半透明の板が連なった緋色の翼が現れた。フウカの背に浮かびあがったその翼が大きく羽ばたく。


「フウカ、これは……?!」

「ナトリ……私をしっかり捕まえててね。いくよっ!」


 フウカは俺の手をしっかり掴んだまま、緋色に輝く翼を体に沿わせ落下速度を上げた。


 翼が大きく広がるように展開される。弧を描く軌道で彼女は体を持ち上げ、上を向いた。天地が逆転し、再び元に戻る。



 フウカは矢のような速さで迷宮の頂点を目指して上昇し始めた。

彼女に手を引かれ、落ちる時よりも早い速度で上に向かう。



 緋色に輝く翼。フウカにこんな力が眠っていたなんて。


 どういう原理になっているのかはわからないけど、今のフウカは完全に空を飛んでいた。

 彼女の才能には度々驚かされてきたが、この翼からは今までのものとは桁違いの力を感じる。



 ようやくフウカに追いつくことができた。再び顔を合わせ、謝ることも。

 必ず帰ろう。みんなで一緒に迷宮の外へ。










挿絵(By みてみん)

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