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スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜  作者: カトニア
三章 翠樹の迷宮
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第98話 大いなる厄災

 


 厄災。

 あまりにも巨大な存在を前に、ただ膝を突くことしかできない。神話上、架空の存在だと思っていた。

 だがそれはこうして復活を果たし、目の前にその姿を現している。


 迷宮の頂点を取り囲むように浮かぶ、巨大な蛇や龍を思わせる途方もない巨体をくねらせる怪物は、モンスターとか、ゲーティアーだとか、そんなものとは異なる次元のものだった。


 大地そのもの、自然そのものと言ってもいい。見ているだけで人間の根源的恐怖を喚起させるに足る圧倒的存在。それこそが、厄災と呼ばれるもの。


 だが、強烈な威圧感を放つ厄災は周囲に浮かんだままいつまで経っても動こうとはしない。



「おい、あれ……」


 俺も気がついた。暗い空を背景に輝く翠の巨大結晶の上空、遺跡の残骸の上で小さな光が瞬いている。波導の光か。誰かが戦っている……? まさか。


「フウカだ!」

「待って!」


 俺は駆け出していた。俺たちの他に、迷宮内に誰かいるとしたらそれはフウカしかいない。ようやく……ようやく見つけた……! 結晶に向かって夢中で丘を駆ける。


「フウカーっ!」


 上空で光が瞬く。遠すぎて声は届かない。全力で広大な花畑の丘を駆けて、ところどころが崩れた遺跡までようやく到達した。


 遺跡の階段を駆け上がる。引き続き声を上げて呼びかけるが、こちらに気づく様子はない。


 遠目に見えるあの橙色の髪は間違いない。フウカだ。あの子が上空で誰かと戦っている。その人物は……、紫色の光を体にまとっているように見えるが、ノーフェイスなのだろうか。


「ナトリさんっ!」


 二人がすぐに俺に追いつき遺跡を駆け上がって来た。巨大結晶を取り巻き、壁のように作られた残骸遺跡を屋上まで駆け登った。


 フウカは結晶の向こう側で戦っている。そちら側に向かうため、結晶の周囲を回り込むように遺跡の屋上に造られた通路を走る。


「厄災、動こうとしませんね……」

「不気味やな。いつ襲って来てもおかしないが」

「マリア、クレイル、やっぱり戦っているのはフウカだ!」

「あれが、ナトリさん達の追っていた人……」

「フウカちゃん……。しかし、誰とやりあっとるんや? 人間に見えるぞ」


 遺跡屋上の通路を走って回り込み、登って来た地点と反対側まで来た。ところどころ崩れた手すりから身を乗り出す。その先はもう迷宮頂上の端だ。断崖になっており、眼下には下界を覆う暗雲が広がっている。


 見上げれば暗天を覆い尽くすような厄災の巨体がある。こちらに倒れこんで来そうな首。この世の終わりみたいな光景だ。鼻から息吹を吐き出すだけで俺たちは吹き飛んで塵になるだろう。



 断崖の先で、点々と浮かぶ陸地や遺跡の残骸を飛び回りながらフウカは戦っていた。


 戦いの様子が見える。フウカは戦っているというよりは、逃げまわっているようにも見えた。波導で牽制するような攻撃もしているが、積極的に攻めるというより波導障壁を展開して相手の攻撃を防いでいる。


「ああっ!」


 相手の放った暗い炎のような範囲攻撃の爆発にフウカが弾き飛ばされる。なんとか残骸に着地したものの、遠目にも劣勢なのは明らかだ。


 対する相手は、異常に早い動きで宙を舞いながら紫光の波導でフウカを追い詰める。敵は完全に空を飛んでいた。


「なんなんや、あれは。術士なんか? 使っとるのは炎の波導やと思うが、何かおかしいぞ」

「あの人からはこの迷宮を取り巻く厄災と同種の力を感じます。とても強大な……、一体、何者なんでしょう」

「フウカを助けないと……」


 俺は手すりを乗り越え、遺跡の屋上から伸びる足場を伝ってフウカ達の方へ走る。


「そっちは危険です、ナトリさんっ!」

「はぁ、はぁ、フウカーーっ!」


 呼びかけはまだ届かない。すぐに俺も加勢する。一人で戦わないでくれ、フウカ。


 崩れた遺跡を駆けて、足場の突端まで走りきる。上空では激しい光の応酬がなされていた。

 一際強い、紫色を帯びた暗い炎が一直線に放たれる。クレイルの使う術、灼熱の光線紅炎(プロメテウス)に似ている。


 フウカはそれを回避しきれず、障壁を張って真正面から受け止めた。


 しかし、あまりにも苛烈な攻撃は、彼女を巻き込み爆炎を上げた。


「フウカっ!!」


 上から何かが落ちてくる。激しく風になびく橙色の髪。フウカだった。さっきの炎に巻き込まれ、意識を失い力尽きたのだ。


 フウカは俺の立っている遺跡の足場のすぐ先を通り過ぎ、真っ暗な雲に向かって真っ逆さまに落ちて行く。


「ああっ!!」


 フウカを助けるためにここまで来たのに。このまま彼女を諦めてたまるかよ。

 地面を蹴ってフウカの後を追うように断崖へ身を投げた。


「ナトリ!!!」

「行かないで! ナトリさんっ!!」


 背後から制止しようとする二人の声がする。まっすぐ暗雲の中へ落ちて行くフウカだけを見て、彼女に向って手を伸ばす。


 雲の中に入るとフウカを見失い、耳元で風と雷鳴が鳴り響く。落下しながら彼女の声を叫び、呼びかけた。



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